正義を背負いし者   作:corin7121

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第九話

「あれが『オハラ』………か」

 

 海軍本部を出港して数日後、俺たちは西の海に浮かぶ島の一つ、オハラ沖に進軍していた。

 

「少佐、准将から電伝虫が」

 

「わかった」

 

 現在訳あって俺は数名の海兵と共にイナリのいる本隊とは別行動を取っている。任務の内容は万が一バスターコールが発動した時のために島の住民たちを脱出させること。ただし救助船は軍艦ではないため凪の帯(カーム・ベルト)を航行できない。そのため近隣の支部へと出向いて船を手配する必要があった。

 

 救助船の調達はまあ問題なかった。なにせ本部からの直々の命令書付き。従う以外の選択肢なんて始めっから存在していなかったわけだが。

 

 それでどういう訳か俺が救助部隊の隊長に指名されてしまったわけだ。

 

『凶悪犯といっても所詮は学者さんだ。抵抗されるおそれはあるが白兵戦にはならないだろう』

 

 相手は戦闘が本職じゃない普通の学者だ。戦闘に兵数を割くよりも避難・誘導に人員を割いた方がいいだろうとのことだ。そんでそれを決めたのがイナリだったわけだが。

 

「何を企んでいるのやら……」

 

 詳しい説明もなく、クザン中将を含めた作戦会議の場で『あ、それじゃあこいつ使いますか?』なんていきなり言い出しやがった。

 

 別に不服があるわけじゃない。元々そのつもりでいたのだから。しかし、だ。あの時のイナリのやつ何を考えて俺を指名なんかしたのかその意図を図りかねていた。

 

 しかしまあ「やれ」と言われたら「やる」しかないだろう。俺は本隊から交信があったみたいなので船内にある通信室へと急いだ。

 

「もしもし、こちら救助船」

 

 支部から応援に来てもらった海兵から受話器を受け取ると電伝虫の向こうから最悪の知らせが飛び込んできた。

 

 

 

 

『少佐、バスターコル発動を確認した。猶予は五分間だ』

 

「…了解した!」

 

 ついに一番恐れていた事態が起きてしまった。通信を切った俺は急ぎ部隊に指示を出していく。

 

「バスターコールが発動された!猶予は五分!それまでに全島民の避難を完了させる!急ぎ住民の避難誘導を行うぞ!」

 

「はっ!!」

 

「第一班は俺と共に島内で避難の補助を!第二班は避難路の誘導を頼む!第三班は乗船の手助けだ!それと三班の班長に伝えておくことがある」

 

「何でしょうか!」

 

「島への攻撃が始まり避難船が危険だと判断すれば、たとえ俺たちが戻っていなくても迷わず離岸しろ」

 

「それは……」

 

 仲間を切り捨てる。それを一介の兵士に委ねるのは荷が重いかもしれない。しかし、それでもやらねばならないことがある。

 

「味方を見捨てるよりも島民の保護が優先だ。それに避難船に乗れずとも別の軍艦に乗船するだけのこと。いいか!命に代えても罪なき市民は我々が無事に脱出させる!行くぞ!!」

 

「「はいっ!!」」

 

 オハラに降り立った俺たちは急いで島内唯一の町へと向かった。ここに来る前に地図を頭の中に叩き込んでいたからそう迷わずに着くかと思われた。が、町へと向かう途中で思わぬ人物たちと遭遇した。

 

「CP9!?なんでこんなところに…!」

 

 つい先日海軍本部で鉢合わせてしまった暗殺集団と遭遇してしまった。

 

「しょ、少佐!あの男が持っているものって!」

 

「!!」

 

 俺のすぐ横にいた海兵が何かに気づいた。そうだ。なぜあの男が持ち出せているのかは疑問だがバスターコールが発動したということはこの島の何処かで『ゴールデン電伝虫』が押されたということであり、それをこいつが持っているということは!

 

「お前たちは先に町へ向かえ」

 

「ですが、少佐!」

 

「時間が無いんだ!こんなことをしていて犠牲者を増やすつもりか!!」

 

 俺たちの任務は島民の脱出だ。こんな所で油を売っているわけにはいかない。だが、こいつらには問い質さなくちゃいけないことがある。

 

「行け!!」

 

「…い、行くぞみんな!!」

 

 俺たちの脇を海兵たちが通り過ぎていく。その間俺も、奴らも、視線は真っ直ぐに敵を捉えていた。

 

「人払いは済んだようだね、少佐」

 

「そんなつもりはない。先日センゴク大将の部屋にいたのは()()のためか」

 

「ああ、そうだ。もっとも彼らが協力的であったならばこんなことにはならなかっただろうが」

 

「……俺はそんなに勉強をしてきたわけじゃないから詳しくは知らない。だが、ここまでする理由があるのか?たかが歴史の空白を埋めるだけでこれだけの仕打ちをする意味があるのか!?」

 

「さあな。それを判断したのは俺たちじゃない。もっと上の連中だ」

 

「世界貴族。天竜人か」

 

 一度任務で護衛を担当したことがあるが、あんな人間の屑で護る価値があるのか疑問しかわかない連中の都合か。やってらんねえよ。

 

「それはご想像にお任せするよ。行くぞお前ら。ぼーっとしていたら味方に殺されちまう」

 

「そうだ。殺されるんだよ。無関係な市民も巻き込んで!これが貴様らの掲げる『()()』か!!?」

 

「無関係ではない。この島の島民は学者たちを匿った。立派な共犯者だ!」

 

「何が共犯だ!島と共に証拠も!命も!まとめて吹き飛ばすつもりか!?」

 

 そんなことを絶対に許すわけにはいかない!

 

「一介の海兵の言葉とは思えんな。正義は我々にある。我らに歯向かうものが『()』だ!!」

 

「その()とやらに対して何をしても許されるわけじゃないだろう!!正義の名は免罪符じゃない!!!」

 

「少佐は若いな。いずれ知ることになる。我らの判断が正しかったことに!」

 

 口で言ってもダメか。こんなやつらのせいで島を追われるのか。

 

 何が!

 

 何が正義だ!!

 

 こんな暴力が正義であっていいはずがない!

 

「世間話もここまでだ。もう間もなく攻撃が開始される頃合いだろう。お互い仲間の攻撃で死にたくはないだろう?」

 

『少佐!三班より連絡!海軍籍の軍艦を視認!まもなく島を射程に捉えます!』

 

 懐に忍ばせておいた小電伝虫から報告が入った。ついに始まってしまうのだ。島の。オハラの終わりが。

 

「もう時間はない。我らはもう行くぞ」

 

 もう止めようがない。己の非力に心底腹が立つ!だが、後悔するには。立ち止まるのはまだ未来(さき)だ。一刻も早く住民の退去を完了させないと!

 

 海岸へと向かうCP9を尻目に俺は島の中心にある街へと急いだ。

 

 

 

 

 街へと辿り着いたはいいが、まだいっこうに避難は完了していなかった。一人二人なら守り切れる自信はあるが対象は島の住民数百人だ。

 

「急げ!砲撃が始まるぞ!もう手荷物は持たせるな!」

 

 大切なものはたくさんあるだろう。肌身離さず持っていたいものもあるだろう。それでも命には代えられない。

 

「海岸へと走れ!救助船が待機している!海岸へ!!」

 

 砲撃はまだ始まってはいないがそれも時間の問題だろう。

 

ドン!!

 

 南から腹の底を震わすような悪魔の咆哮が聞こえた。

 

 ……ついに。

 

 始まってしまったのだ。バスターコールが!

 

 初撃は街とは違う方に飛んで行ったがこの攻撃は無差別攻撃。島の中に誰かが取り残されていようが関係なく総てを破壊し尽くすまで攻撃は止まらない。

 

 いつ街のど真ん中に砲弾が落ちてくるか誰にもわからない。

 

「足を止めるな!おい!動けない者がいたら担いでいくぞ!」

 

「はっ!さあ、こっちです!急いで!」

 

 攻撃が始まっても避難はまだ完了していない。まだ数名残っていた。

 

「少佐!我々も退避しましょう!」

 

「彼らで最後です!行きましょう!」

 

 まだ島に残っている者もいるだろう。だが、これ以上時間をかければ逃げる暇すら残らない。

 

「わかった。撤収するぞ!避難船へ急げ!」

 

 最後の一団が街を出たのを確認して俺たちも避難船へと急いだ。

 

 攻撃が開始された以上いつ自分たちの上に砲弾が降ってくるか。その恐怖は計り知れないだろう。

 

 「…!あれはヤバい!!」

 

 上空を警戒していると砲弾がこちらに向かって飛んでくるのが見えた。このままだと避難中の島民のど真ん中に落下する。そうなれば死者が出るだけでは済まない。確実に生き残った者はパニックに陥る。そうなるともはや手詰まりになる。

 

 目の前で誰かが死ぬということはそれだけショックが大きい。被害は堰を超えた荒れ狂う川のようにあっという間に拡がっていく。それだけはなんとしても阻止しないといけない!

 

「月歩!からの鉄塊『硬』!!」

 

 月歩で空中に飛び出した俺は真正面から砲弾を受け止めた。

 

「ぐうっ!!?」

 

 想像していた以上の衝撃ではあったが、なんとか耐えることができた。受け止めた砲弾を遠くにぶん投げてなんとか島民への直撃は避けられたが、一度に何発も来られると捌ききれないだろう。

 

「少佐!!」

 

「俺のことは気にするな!頑張れ!海岸までもう少しだ!!」

 

 砲撃が始まってはいるが避難船はまだ出港していない。まだ避難民を乗船させている途中だった。まだ間に合う。まだ助けられる。こんなくだらないことで死なせてなるものか!

 

「少佐!避難民は!?」

 

「俺たちが最後だ!!急ぎ離岸準備を!!」

 

 島への砲撃が一層激しくなってきている。もう島内に誰か残っていたとしても助かる見込みは0に近いだろう。

 

「……」

 

 島民を船内に収容しながら、俺は一度島へ振り返った。たった数分で島のあちこちから黒煙が上がっていた。今もなお砲撃は容赦なくオハラに降り注いでいる。この程度の破壊ではまだまだ足りないといわんばかりに砲弾の豪雨は収まらない。

 

「これより、皆様を安全な場所まで移送させていただきます。帆を張れ!島から離れ---」

 

「ま、待った!少佐!!あれを!」

 

 海兵の一人が何かに気づいた。彼が指す方を見ると黒髪の少女が必死に走ってくるのが見えた。こんな状況下でありながらまだ生存者がいたとは。

 

「ハシゴを下ろせ!まだ生存者がいる!」

 

 もたもたしている暇はない。この海岸もまだ完全に安全地帯ではない。いつ流れ弾が付近に着弾するかわからないからだ。

 

「だいじょうぶ。一人でのぼれるから!」

 

 ハシゴを下ろそうとしたが少女は()()()()()()()()船の縁を掴もうとしていた。あんな幼い子だがまさか悪魔の実の能力者だったのか。

 

 しかしこの西の海(サウスブルー)では珍しいのだろう。彼女を妖怪呼びするものがいた。彼女と同年代と思わしき子たちならわからなくもないが、大の大人でさえあの狼狽えよう。まったく時間が無いというのに!

 

「俺の手を握れ!引っ張り上げる!」

 

「何をしているの海兵さん!?あの子は悪魔なのよ!」

 

「何が悪魔だ!どこが悪魔だ!彼女は人間だぞ!!!」

 

 強引に船に上げようと身を乗り出そうとしたが、すでに船に乗り込んでいた生存者たちに妨害された。悪魔の実の能力者全員が悪魔だとすれば、海軍本部は悪魔の巣窟だ。本当にあの子が悪魔なのだとしたら、あんなに顔を涙でぐちゃぐちゃにしたりするものか!

 

『おい救助船!そいつは考古学者だ!乗せるんじゃねー!』

 

 学者!?こんな子供が!?だが今聞こえた電伝虫からの声はあのスパンダインだ。だが、そんなことは関係ない。命を救うのが俺たちの仕事だろうが!!

 

「気にするな!早く掴まれ!」

 

「やめてください少佐!彼女を乗船させてはこの船が攻撃対象にされてしまいます!!」

 

「ここにいる島民を救うために彼女は見捨てないと!!」

 

「!!!」

 

「おい!!キミ!!?待つんだ!!」

 

 なんとかして少女を乗せようとしたが、彼女は泣きながら船から離れて行ってしまった。

 

「クソッ!!」

 

 船内では彼女を乗船させたくない意見で溢れ返っていた。なかには乗せれば味方に沈められると勘違いを起こした者さえいた。

 

 相手は犯罪者といえどただの学者だ。武装した海兵が後れを取るとも考えられない。それに相手が悪魔の実の能力者であろうと、周りにいる軍艦にも能力者の将兵はゴマンといる。この船が制圧されようと制圧し返すことなど容易いはずなのに。

 

 俺は彼女を助けられないのか……。

 

 いや。まだだ!まだ手はある!

 

「クザン中将に繋いでくれ!急げ!!」

 

「は、はい!」

 

 逡巡していた時に偶然目に入った電伝虫を見て、一つの案が浮かんだ。賭けではあるが、もはや迷っている暇はなかった。

 

『どーしたー?』

 

「その声、イナリ准将か!?」

 

 クザン中将の電伝虫に繋ぐつもりだったがなんであいつの方の船に繋がったんだ!?いや、いまはそんなことよりもだ!

 

「島内にまだ要救助者がいる!至急救援を送っていただきたい!!」

 

『はあ!?もう攻撃は始まっているぞ!!?それよりも大変なことになった!!行方不明になっていたはずのサウロ中将がいたんだ!』

 

「中将が!!?」

 

 作戦が始まる直前に行方不明になったはずだが、こんなところにいたのか。

 

『問題はサウロ中将によって既に数隻の軍艦が沈められている。今、クザン中将が制圧に向かったところだ!!』

 

 そんな…!それじゃああの子を救う手立てはもう……。

 

『とにかくあんたは今自分がやれる任務を完遂させなさい!クザン中将にはこっちから連絡を取ってあげるから!!』

 

「よろしく頼む!!それでは!!」

 

 彼女が助かる見込みは薄いだろう。しかし、目の前で幼い命が無残に散るのを黙ってみているわけにもいかない。今自分ができるのは彼女が無事に保護されるのを祈ることだけだ。

 

 さて、それじゃあ上司からの命令を遂行するとしよう!避難してきた人たちのうち数名はケガを負っているものもいた。幸い医者も数人乗せているから治療もできるだろう。

 

 改めてデッキに戻ると今なお続く島への砲撃に泣いている人たちがいた。彼らにはなんの落ち度もない。それなのに島を追われるその心境は如何許りか…。

 

「ねえ、ママ。あの船、なんでこっちに大砲を向けているの?」

 

「え……?」

 

 デッキを見回っていた時に一人の少年が沖合に浮かぶ一隻の軍艦を指さしていた。見ると確かに砲口はこちらを向けている!あの船には確か----

 

ドドン!!

 

 クソッ!!やっぱり撃ってくるか!!

 

「嵐脚『一文字』!!!」

 

 嫌な予感が的中した!あの船に乗っている中将なら、サカズキ中将なら一片の容赦なくこの救助船を沈めにかかるだろう!そんなことをさせてたまるか!

 

 空中に飛び出した俺は範囲の広い嵐脚で砲弾をブッタ斬った!

 

「サカズキ中将!!こちらは避難船だ!!攻撃対象じゃない!!!」

 

 あらん限りの声で攻撃を止めるように叫んだが、砲撃は止まらない。

 

「な、なんで味方から攻撃されているんだ!?」

 

「やめてくれー!!」

 

 どうする!?あの人は『やめて』と言って止まるような御人好しじゃない。そもそも軍艦からの砲撃を俺一人で処理するには限界がある!

 

「反対側の舷にボートを下ろせ!この船は沈む!!」

 

「ぼ、ボートですか!?」

 

「そうだ!俺が時間を稼ぐ!!一人でも多くの命を助けろ!!」

 

 もはやこれしか方法はない。どれだけ時間が稼げるかはわからないが、黙ってやられるほど軟な訓練は受けてきてない!

 

 

 

 

 

 それから避難船は地獄へと様変わりをした。思いもよらぬ味方からの砲撃に避難民も海兵も皆パニックに陥ってしまった。そして俺の抵抗に業を煮やした中将が悪魔の実の能力で一瞬にして救助船を丸焼きにされた。

 

 中将からの攻撃をかわすこともできない俺は全身を焼かれながら海へと落下した。

 

 海面に向かって無意識に手を伸ばすも、もう指先を動かすこともできないほどに疲弊していた。視界に映る黒い人影は逆光によるものか。それとも俺と同じように黒焦げにされたからなのか。漠然とした意識が光も届かない暗闇に落ちていく。

 

(…死ぬのか、おれ)

 

 全身を焼かれて助かる見込みもない。たとえ助かったところで海軍に籍を置き続けることはきっとできないだろう。こんな暴力を是とする()()()()()に身を置くことを俺自身が一番許せないだろう。

 

 せめて最後に---

 

 

 

 ()()()に一言---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死を覚悟し命が燃え尽きる最後の瞬間、海中を漂っていた俺の手を誰かが握ってくれた。

 

「……………」

 

 何かを喋ったような気がしたがそれを理解できる余裕もなく。そこで俺の命は終わる。

 筈だった。




次回予告

「アルコールは乙女の燃料なんだぞ!?」

「いいからさっさと哨戒に行ってこい!!」
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