護刀アメノハバキリ   作:F.I.S.生化学班

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最初からロングイントロのオープニングを流すといい具合のタイミングでオープニングに移行できます。タブンネ。


第二話 帰る場所、守る場所

「あ、う、ああ、あああああああああああああああああああああ!!!」

 

 立花響の悲鳴が天を衝く。

 

「力とは、振るう以上責務が伴う。力持つものは、正しい事のために、己が信ずる道を貫く為に、力を振るうのだ」

 

 束と呼ばれた少女の右腕に、ヒビが入り、ひしゃげていく。

 

「覚悟なき拳を振るうな。迷えば、敗れるぞ」

 

 そして、肩から先を食いちぎられた。

 

「あ、あああ、た、束、ちゃん! う、腕が!」

 

「……なんてことない。気にするな」

 

 腕の断面を左手で覆い隠しながら、鎧の装者が返す。

 

「で、ででででも、う、うで、わた、わたしのせいで」

 

「あーもー束ちゃぁん。なぁんで君が食べさせちゃうのかなあ」

 

「……別に。なにも、腕を失う必要はない。そう思っただけだ」

 

「はぁ〜。やめやめ、なんかモチベーション下がっちゃったよ。てっしゅーだよてっしゅー」

 

 手をひらひらと振り、やる気なさげな気の抜けた声を上げるドクターウェル。

 

「ウェル貴様! 仲間の腕を奪っておいて、なんという態度なんだ! 貴様だけは許せん!」

 

 赤の装者を抱えながら、身動きが取れぬのに気迫だけで吠え立てる青の装者。

 

「えぇ〜? 腕の一本や二本、英雄からすれば安いもんでしょ。むしろ、英雄ならそれくらい普通だと思うけどなー」

 

 腕を頭の後ろで組み、ぴーひょろろーと妙に上手い口笛を吹きながら返すドクターウェル。

 

「英雄なら、腕の一本や二本、安い……?」

 

「そうそう。なんてったって、束は生まれながらのヒーローなんだから。これからもそうだし、結果的に英雄(ヒーロー)になるとも。むしろ腕がなくなってハッピー? ラッキー?」

 

「……そんな、理由で」

 

「おん?」

 

「……そんな、理由で、束ちゃんの腕が無くなったのに、喜ぶの?」

 

 声を震わせながら、立花響が問う。

 

「奪ったのは僕じゃなくてネフィリムだし、なんなら、覚悟のない君を守るために束ちゃんが間に入ったんだから、君が悪いんだと思うんだよねえ」

 

「でも、そんなの、おかしいよ。腕が無くなったら、もう、今までみたいな生活は、できないんですよ?」

 

 ──好きなことだって、できなくなるんですよ。

 喉まで迫り上がってきたその言葉は、出せなかった。

 

「なんの代償も払う事なく、英雄になれる訳無いじゃないか。君だってそうだろう、融合症例第一号」

 

「……へ?」

 

 指を差して、もう一つの名称でウェルが呼んだ。

 

「融合症例第二号の最期は知っているだろう?」

 

「……了子さん」

 

 つい昨日のことの様に思い返されるあの戦い。この地で、互いの思いをぶつけ合ったあの日。

 

「聖遺物は人の身に余る力だ。偉大なる力だ。シンフォギアですら、その身に纏えば負荷がかかる。なら、ペンダントを介してではなく、直接シンフォギアになったらどうなる?」

 

「たち、ばな……」

 

 何かに気がついてしまったのか、青の装者が縋るように名を零す。手が震え、世界がが震え、歪む。

 

「代償無くして力は手に入らない。それはこの世の真理だ。だからこそ、人は英雄に焦がれ、渇望する!」

 

「そんな、嘘だ。まさか、そんな筈が」

 

 片翼を失った翼が、今、幻視する。

 

「融合症例第一号。なぜ君が、人ならざる力を発揮できるのか! なぜ三人の絶唱を束ねたにも関わらず、負荷が無いに等しいのか! なぜ暴走状態に陥るのか!」

 

「それ以上言うな!」

 

 叫ぶ翼。

 

「その答えは、ただ一つ」

 

「アハァー……」

 

「やめろーーーーー!!!」

 

 聞きたくない。これはきっと、たちの悪い嘘だ。ハッタリだ。根拠なんてないじゃないか。そう、自分に言い聞かせても、心の何処かで理解出来ている自分がいる。もう、どうしようもないくらいに、理解っているのだ。

 

「融合症例第一号、立花響! それは、君が、シンフォギアを身に纏う度に、融合ではなく、聖遺物そのモノへと近づいて(変化して)いるからだ! ハハハハハ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♪ 

 

 

 

 

 

 

偽・戦姫絶唱シンフォギアG

第二話 帰る場所、守る場所

 

 

 

 

 

 

 ♪ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そっか」

 

「ハーハハハハハ! ヒャーハハハハハハ!」

 

「……私、死んじゃうんだ」

 

「ヒィーヒヒヒヒヒヒヒ、へ?」

 

 立花響の反応が思っていたのと違うからか、ウェルの高笑いが止まる。

 

「だとしても、今、この世界で、ノイズに対抗できるのは、私たちだけなんだ! だから、人を助けるために力を振るうこと、それだけは止められない!」

 

 涙を拭い去りながら、声高らかに吠える。

 

「ん〜。ま、今回はこんなもんにしておくか。ネフィリム。帰るよー」

 

 バリボリと腕を齧ってしゃぶっていたネフィリムが指示に従い、ウェルの近くにあるケージへと入った。

 

「それじゃ、いい夢を〜アヒャハハハハ!!!」

 

「煙幕とは古典的な!」

 

 煙幕が撒き散らされた一瞬で、ウェルと鎧の装者の姿が消えた。

 

「翼さん! 今解放します!」

 

 粘性の液を吐き出し、二人の装者を完全に封じているノイズが一瞬で炭となり消え去った。

 

「……立花、お前」

 

「大丈夫ですよ、翼さん。へいき、へっちゃらです」

 

「……今はとにかく、二課へ戻ろう。これより帰投します」

 

『……いや、今日は休め。そして、明日聞こう』

 

 

 ▼

 

 

 学生としての時間が過ぎ去り、装者としての時間が始まった放課後の特異災害対策機動部二課仮設本部に、三人は集まっていた。重力が十倍になったのではないかという程に、肉体にまで影響させるような、異様な重さの中、風鳴弦十郎が口を開く。

 

「これから話すことは、三つ。武装集団フィーネについて、月について、そして」

 

 一呼吸だけ間を置いて、絞り出す様に「響くんのことだ」と続けた。

 

「あー……意識が飛んじまってたから、あたしはなんも知らないん……だけど」

 

 居心地悪そうに述べる雪音クリス。

 

「……そうだな。クリス君が意識を失ってからの事を、昨日のことを確認していこう」

 

 カ・ディンギル跡地でノイズを殲滅し、月の落下について語られたこと。ウェル博士が生きており、ソロモンの杖を所持していたこと。ネフィリムと呼ばれる、ノイズとは異なった何かの攻撃を受け、気絶したこと。雪音クリスが立花響を確保しようとしたときの様に、粘性の液を吐き出すノイズによって二人が拘束されたこと。

 

「だぁーっ! なんであの時のことをたとえ話で使うんだよ!」

 

「いや、す、すまん」

 

 そして、融合症例である立花響について。

 

「クリスくんは、了子くんの最期を覚えているな」

 

「……ああ」

 

「聖遺物は、人の身に余る力だ。だから、戦う度に融合が進み、いずれ人として死ぬ、らしい」

 

「……な、は、はぁっ!? そ、んなバカな話!」

 

 弦十郎と、立花響とを何度も何度も交互に見る。否定したい。だが、フィーネの最期を見てしまった以上、否定が出来ない。あり得ないと、突き放すことができない。

 

「あー、えーと、えへへ。大丈夫ですよ。大丈夫。私は今もこうして生きています。へいき、へっちゃらですよ」

 

 状況を理解出来ていないような、間の抜けたえへへという笑い声に我慢ならず、翼が掴みかかった。

 

「立花! おまえ、ほんとうに、分かっているのか!」

 

「おい待て! そうやってややこしくしたら話が進まねぇだろ!」

 

「……クッ!」

 

 制服の襟元から手を離し、翼が下を向く。

 

「だが、奴の話が本当だと言う根拠はどこだ?」

 

 突如、不敵に笑った弦十郎が語り出す。

 

「……はぇ?」

 

「アームドギアの延長線上に絶唱の特性がある。了子君が言っていただろう?」

 

「え、あ、はい」

 

「響くんのアームドギアは、繋ぐその手。傷つけない為に、手を取り合う為に伸ばすその手が誰かを傷つけるなんて、おかしいだろう? だから、そう。奴が、絶唱の負荷が無いに等しいのはおかしいと断じたが、それも、そのアームドギアの特性の延長線上に絶唱の特性があるからだ」

 

「じゃあ、師匠、もしかして……っ!」

 

「ああ。そんなの、ハッタリだろうよ!」

 

「え? は、ハッタリ、ですか?」

 

「ああ。勝負ってのは、殴る蹴るだけじゃない。ハッタリも使うもんだ」

 

「あ、ああああ、わ、私はまた勝手に鞘走ってしまったのか……」

 

 顔を真っ赤にする翼。

 

「えへへへ。翼さん。心配してくれてありがとうございます」

 

 翼に抱きつく立花。

 

「そういうのは家でやれってんだよ」

 

 その後も報告が行われたが、もう、暗く重い空気は吹き飛ばされていた。

 

「だが、それはそれ、これはこれ。念の為メディカルチェックは受けてもらうし、暫くは休んでもらう。これは、奴の言ったことがハッタリだと断定するために必要なことだ」

 

 

 

 ▼

 

 

 

「でも良かったですね、ハッタリで」

 

「ええ、本当ですよ」

 

「……お前たち、ほんとうにそうだと思っているのか?」

 

 装者が帰り、ほっとした様に吐露する二人に対し、弦十郎が問いを投げかけた。

 

「「……え?」」

 

「人の身に余る力。ドクターウェルはそう言った。デュランダルや、響くんの暴走状態を思い返せ。事実、そうだっただろう」

 

「ということは司令、まさか」

 

「……否定するには、まだ、難しい」

 

 ──奴らは一体、どこまで知っている? 

 

 手に持った立花響のレントゲン図。

 今まで目を逸らし続けていた事に、向かい合わなければならない。

 

 

 

 ▼

 

 

 

 シャワールームにて三人の少女が裸となり、一人は泡塗れに、一人は隻腕の少女を甲斐甲斐しく世話していた。

 

「どこが気持ちいいですか」

 

「うん。どこも気持ちいいよ」

 

 雲の様にふかふかな泡が頭を包み込み、パーマの様になっている。

 

「それじゃあ、目を瞑ってくださーい」

 

「……うん」

 

 促される以前から目は閉じられていた。シャワーで泡が流されて、焦げ茶色の髪が姿を表す。

 しっかりとシャンプーを落とす為にワシャワシャと頭を洗われ、気持ち良さそうに声を漏らす。

 

「調ぇ! 次はあたしの番デース!」

 

 我慢の限界といった様子で、身体を洗っている途中だったと言うのに横から声を上げた。

 隻腕の少女が椅子から立ち上がり、金髪の少女へと譲る。

 

「切ちゃんも?」

 

「調が頭を洗ってくれた方が、気持ちいいのデース!」

 

「そう。じゃ、目を瞑ってて」

 

 身体にまとわりついた泡を落とすことも兼ねて、頭からシャワーを浴びせ、しっかりと髪を濡らす。そして、洗髪が始まる。

 

「んふふー。調、気持ちいいデスね」

 

 調はこの中で最年少故、指も細く短い。だからこそ、こしょばゆい。

 

「……私の頭を洗ってくれるのは、誰もいないのね」

 

「うぐ。わ、私の役目は、調を守ることであって、髪を洗うことじゃないデスデス……」

 

「ほら、ちゃんと目を瞑って」

 

「うわぁ!? なんか犬みたいに扱われてるデース」

 

 隻腕の少女の手と、調の手。ワシャワシャと撫で回される切歌。

 

「首が外れちゃうデスゥゥゥ!?」

 

 グリングリンと首が回る。そして楽しみ終えたのか、用済みとばかりに離席する事を促される。

 

「うう、酷いデス。もうお嫁に行けないデス」

 

「……大丈夫。もしもの時は、私が貰ってあげるから」

 

「夢のヒモ生活デス!?」

 

「じゃあ切ちゃんは、ATMね」

 

「さいデスか……」

 

 哀愁漂わせながら席を離れる。

 

「それじゃあ束、座って」

 

「うん」

 

 一歩踏み出す。だが、忘れては行けない。風呂場は滑りやすいと言う事を。

 

「うわぁっ!?」

 

「「束!?」」

 

 地面がドンドン近くなる。このままだと調を巻き込む様に倒れてしまう。シンフォギアの戦士として戦ってきた結果培われた思考の速さが、事態の解決へと向けて最適解を導き出そうとする。

 

 このままだとぶつかるならば、身体を捻ることで調には当たらない様にすればいい。

 

 そうして身体を捻り始めた瞬間、遺された左腕を掴まれる感触。

 

「……束。足元は気をつけなさい」

 

「「マリア!」」

 

「……その、ありがとう」

 

 不安定な体勢から、マリアがグッと腕をグッと引く事ですっぽりとマリアの腕の内に入ってしまう。身長差から上を見上げる事でしか視線は噛み合わない。だからボクは、最初から目線を合わせない様にしていた。

 

「マリア。その、もう、離してもらって、構わない、から」

 

 火照った身体の熱が、ひんやりとしたマリアに吸われていく。離してくれと頼んだにも関わらず、マリアは沈黙を続けている。反応がない。マリアは一体なにを考えているんだ。誰か助けてくれ。

 

「マリア! 私が髪を洗うデース!」

 

「そう。なら、頼むわ」

 

「了解デース!」

 

「調。介護するならするで、ちゃんとしなさい」

 

「ごめんなさい」

 

「謝る対象は、私ではないでしょう」

 

「束、ごめんなさい」

 

「ああ、いや、うん。いいんだ。ボクは気にしていない。寧ろ感謝しているから」

 

 マリアが抱き締めるのを止め、切歌と一緒に離れていく。

 

「マリア……」

 

 

 

 こぼれた声は、誰のものだったか。

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

「ネフィリムは順調に成長しています。この調子だと、餌の方が先に無くなりそうですね。まあ、餌が足りなくなるってのは前々から伝えていたので、予定調和ですけれど」

 

 今は大人しくしているが、また暫くすれば暴れだし、再び隔壁を降ろす事となるだろう。成長していけば、いずれ、隔壁も破壊される。そうなれば、このアジトも放棄する事になる。

 

「ドクターウェル。では、どうすると言うのですか」

 

「ネフィリムは聖遺物を食べられるなら、なんでもいいんですよねえ」

 

 ウェルの視線が、装者達の胸元へと移る。

 

「たとえば、シンフォギアとか」

 

「だ、ダメに決まっているでしょう!?」

 

 コアペンダントを強く握りしめるマリア。

 

「別に、胸のお飾りを食べさせる、とは言ってませんよ? それに、餌は実質無限ですから」

 

「……何が言いたい訳」

 

「なぁ、フィーネ。あんた、本当に分からないのか?」

 

 ウェルの懐疑の視線がマリアの瞳の奥底を覗き込む。

 

「……っ!」

 

 呼吸が詰まるマリア。目を逸らしたい。だが、逸らせない。逸らしてはいけない。冷や汗がツーと背中を伝い、態勢を崩すことを許さない。

 

「ドクターウェル。マリアはフィーネの器になったとはいえ、まだ殆ど覚醒してはいません。記憶もあまり戻ってはいないのです」

 

 間にナスターシャ教授が割り込み、物理的に視線を遮られたお陰でマリアの緊張が解ける。

 

「ちぇっ」

 

「ドクターウェル。あなたは何を考えているのですか?」

 

 わざとらしく手で顎の辺りに触れ、思案する様な表情に変えてから語り始めた。

 

「ふーむ。そうですね。相手のシンフォギア装者のコアペンダント」

 

 アニメだったら、天へと伸ばした人差し指の先に電球が光り輝いているであろう程にコミカルに、演者のように。

 

「あれ、掻っ攫ってみませんか?」

 

「「は?」」

 

「デース?」

 

「真の英雄なら、戦う力がなくても立ち上がると思うんですよね。ルナアタックの英雄は、果たして、真の意味での英雄なのか、知りたくはありませんか?」

 

 それは、悪魔よりも質の悪い誘惑だった。

 

 

 

 ▼

 

 

 

 秋桜祭。それは、私立リディアン音楽院にて開催される、学園祭である。それは一般にも広く開放されており、保護者だけでなく、地域の住人もやって来る場所である。ルナアタックに関する一連の流れでボロボロとなった街から離れたこの新校舎での催しは、地域の方々の心を癒すという意味合いも込められていた。

 歌で、音楽で、人を癒すのだと。その為に、音楽はあるのだと。

 

 吹奏楽部、合唱部、フォークソング部、様々な部活が、あらゆる場所で音を奏でる。

 

 そして、とある会場では、学生らしい催しが開かれていた。

 

「次の挑戦者の登場です!」

 

 歌自慢勝ち抜きステージ。

 これより歌われる曲は、電光刑事バンという、アニメの主題歌。

 

 メッセージ性の強い歌詞に、重いストーリー。

 

 残念ながら一番を歌っている途中で失格となってしまったが、会場は笑いに包まれた。

 

「なんで、ヒーローはいて欲しい時にいないんだろうな」

 

 二番の歌詞が泣けるのに〜、と舞台の少女が叫ぶ。

 ああ、知っているとも。その二番の歌詞を。

 そして、これからの展開も。

 

 雪音クリスが歌うことも。

 

 月読調と暁切歌が乱入することも。

 

 知っているのだ。

 

「……クッ」

 

 右肩を強く握る。

 

「何故、ボクでないといけないんだ」

 

 答えは、カミのみぞ知る。

 

 

 

 ▼

 

 

 

「生徒会権限で、勝てばなんでも望みが叶えられる、デスね?」

 

「ええ、そうですよ」

 

 切歌の問いに対し、司会がそう返す。

 

「で、す、が! 雪音さんの言うとおり、得点ではお二人の勝ちですが、流石に二人がかりは卑怯かと思いましてね。という訳で、誰か雪音クリスちゃんとデュエットしたい方ー! いらっしゃいますかー! 飛び入り参加も大歓迎でーす! 我こそは! という方をお待ちしておりまーす!」

 

「なっ、話が違うデース」

 

「そうは言われてもですねえ、対等な条件ではない戦いですし、それに、こうした方が盛り上がりますし」

 

 事実、客席に目を移せば大いに盛り上がっていた。

 

「盛り上がる? 勝ったのに変わりはないのに?」

 

「うーんとですね。勝ったとは言え、当人や観客の方々が納得のいくものじゃないと、結局、誰も得をしないんですよねえ。あの勝負はあっちの勝ちだ! いやいや、本当ならあっちが勝ってた! そもそも対等な条件じゃなかった! ってね。だからこそ、勝負は対等な条件で、当人と周りが納得のいく終わりじゃないといけないんですよ」

 

「当人と、周りが納得……」

 

「そ、そんなのズルデース!」

 

「でもぉ、ここで今一番権利を持ってるのは私ですしぃ? むしろ、胸張って勝ったと言えるように気配りしてあげてるんですから、感謝されるべきだと思うんですよねえ」

 

「……うん。それでいいよ」

 

「調ぇ!?」

 

「私たちは、誰が相手でも勝つ。そうでしょう、切ちゃん?」

 

 月が太陽に微笑みかける。

 

「ハイデス!」

 

「おっと、どうやら参加者が決まった様ですね。って、あら?」

 

「フッ。そちらが二人ならば、こちらは三人だ」

 

「ふっふっふ。二人の企み、この立花響が全部まるっとお見通しだ!」

 

 指を差し、高らかに宣言する。

 

「……ねぇ、さっきの、対等な条件がどうこうって話はどうしたの?」

 

「あ、あははぁ。いや、ほら、勝てばよかろうなのダァー! って言う名言もあるし、あ、あはは。では、三人組でどうぞー」

 

「ちょ、有耶無耶にするなデース!」

 

 残念。会場のライトが落ち、三人だけが照らし出される。

 

 そして流れ出すのは、誰も知らない、初めての恋の歌。

 

 誰も彼もが呼吸を忘れ、言葉よりも強く届くソレに呑み込まれる。ただ、美しいと。理由も分からずに、ただただ、心を揺さぶられ、感情の制御が出来ない、したくない。

 天を貫く程に溢れ出した彼女達の胸の内、生まれたままの感情すべてを受け止めて、ただただ感涙に咽ぶ。

 

 曲が終わり、誰も拍手することも出来ず、ただただ涙を流し続ける。

 

「では、これからはボクの出番だ」

 

 マイクを握り、語り出す、深くフードを被ったパーカーの少女。

 

「束、歌うんだ」

 

「……うん。せっかくだからね。それに」

 

 再びマイクに口元を近づけ、語り出す。

 

「これは、みんなが知っている曲だ。出来れば、みんなで一緒に歌えると嬉しい」

 

 そうして流れ出すのは、日本語に訳せば『信じる』という名前のタイトルの曲。合唱曲として編曲され、小中学校でよく歌われる曲。

 たとえば、あなたの隣にいる人が傷ついて、挫けそうになった時は、側に居て支えてあげなさい。

 もしも誰かがあなたの側で泣き出しそうになった時は、黙って腕を取りながら一緒に歩いて行きなさい。

 

 人は、一人では生きていけない。誰かと、手と手を取り合うことが大事なのだと、そういった意味が込められた曲。

 

 誰もが知る曲だった。懐かしさを覚えながら、口ずさむ者。来年はこんな学校に行きたいな、と大きな声で歌う者。大切な者は失ってしまったが、こうして、周りに助けられているのだと、ようやく気づいた者。

 

 この日、この時、この場所で、人々は確かに、一つに繋がったのだ。

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 逆光のシャワーが注がれる中、校門を出て堂々と帰っていく三人組を、少女たちは何もせず、ただただ見送っていた。

 

「結局、声をかけられなかったな」

 

「……あんなのを見せられちまったら、かけられねぇだろ」

 

 戦場では見せなかった、無邪気な笑顔。

 美味しい物を食べれば美味しいと言い、出し物で遊べば楽しいと言い、美しい音色を聞けば綺麗だと感嘆の声を上げる。

 

「怪しい動きをしないか尾行した我々が、間違いだった訳だ」

 

 清々しい顔で、翼が述べる。

 

「……みてえだな」

 

「でも、良かったよね、あの曲!」

 

「そうだね。私たちの場合は歌わなかったけれども、多くの小中学校で歌われてるらしいから」

 

「ほえ? でも私、あの曲知ってるよ?」

 

「テレビで見たんじゃないの?」

 

「そっかあ! たしかに学校で歌った覚えはないや!」

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 目一杯学園祭を楽しんだ三人。調を真ん中に、手を繋ぐ姿が影となり、茜色に染まった大地に映し出される。

 

 

「結局、有耶無耶になっちゃったデス」

 

「まあ、仕方ないさ。無くてもなんとかなる」

 

「でも、それだと束が」

 

「大丈夫。大丈夫。だってボクは──」

 

 

 

 

 ──英雄(ヒーロー)だから。

 

 

 

 

 

 逆光に、フードに隠されたその表情は、窺えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ホウジョウエムゥ! ウェルならやると思った。
believeって名曲ですよね。月の落下という未曾有の危機に陥った今、人は手と手を取り合うべきなんだ、と。コロナの今はソーシャルディスタンスだけどな!!! 元はウィーアーザワールドの予定だったけど、英語だから学園祭を見にきてる中学生とかには難しいよなあと考えて変更。
20年も後の世界で、blieveがまだ教科書とかに載ってるのかは知らん。でもまあ、いい曲だし、載ってるかもね。

First_Love_Songの歌詞から、FIS組はルナアタックの時の歌だと察したはずです。完全に死を覚悟した曲ですもの。

そして、人と人は繋がれると信じる曲を歌った束。それを聞いた周りはどう思ったのか。

色々書きたいことはあるけれども、これ以上書いたらこれからの事とかが簡単にバレちゃうので書きません。まあ、割と簡単に答えには辿り着くでしょうが。

次回は『核心』

逆光のシャワーが照らすのは、明るい未来か、それとも……
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