この果てしなき修羅場に終焉を!   作:ルイ提督

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真・女神転生、都市伝説ネタが複数含まれます。
この文字化けルート自体読み飛ばしても問題ないので
ダクネス目当ての方は観覧注意を……


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就職をして金を稼ぐ。

 

 

 

 

 

 そんな事を宣言した俺が最初に行ったのは、アクアのお金でスーツを購入し携帯の契約をする事だった。本末転倒な自分に対し、火が出るほど恥ずかしい思いをしたが、彼女は笑顔で応援してくれた。そして、連日のようにハローワークに訪れる俺を、職員さんも真剣に受け入れて職業の斡旋を行ってくれた。

 

 

ただ、約5年にもなる空白期間は痛かった。

 

 

 この部分を面接で質問されると、どうにも弱ってしまう。まさか異世界に行っていたなんて馬鹿正直に答えるわけにはいかない。結果として、様々な言い訳をしてみたのだが逆にそこを突かれてしどろもどろになる。そんな俺を面接官達は白い目で見ていた。

 

 

 同じような面接を日に数度受けた後、夕方には色んな意味でボロボロになりながら帰宅する。家で俺を待っているアクアはいつものように笑顔で出迎えてくれた。スーツを脱ぎ、何も考えずにテレビの前に座り込む俺に、彼女は簡単な手料理を振舞ってくれる。それがアクアに対しての申し訳なさをより感じさせることになった。

 

「面接の手応えについては聞かないのか?」

 

「なによ、聞いて欲しいの?」

 

「いいや、勘弁してくれ……」

 

「ふふっ、結構参ってるみたいね。でも、私はそんなカズマを応援してあげるし、諦めたとしても喜んで受け入れるわ」

 

「どっちなんだよ……」

 

「どっちもよ。私はカズマが傍にいてくれるだけで安心出来るから」

 

 恥ずかしげもなく、笑顔でそう言い切ってしまうアクアにはもう歯向かえない。こちらの現実世界に戻ってきて、俺は彼女との立場が逆転してしまったようだ。アクアの慈愛の表情を直視できなくなった俺は、テレビに顔を向ける。そこにはバラエティ番組に映る生意気な顔が見えた。この頃よくテレビでみかけるようになったコイツは、ゆーちゅーばーという事をやっているらしい。異世界に行っている間に、変な素人が市民権を得ている事に驚きと言うよりは嫉妬していた。俺だって好きな事をやって楽に稼ぎたいものだ。

 

 

「よし、ゆーちゅーばーになるか!」

 

「はあ? なってどうするのよ? カズマさんってば何か再生数を稼げる特技でもあるの?」

 

「そこは安心して欲しい……”ティンダー”」

 

 そう唱えた俺の指には、赤い魔法の炎が灯っていた。それをさっと吹き消し、頭の中で考えたゆーちゅーばーへの道筋をアクアに披露する。それを聞いたアクアは苦い顔をしていた。

 

「カズマ、そうやって異能を使って知名度を上げると、ハンターに目をつけられる事になるわよ。ろくな結果にならないからやめときなさい」

 

「なんだよハンターって……」

 

「そうね、ものすごく簡単に言うと”一般人の味方”って奴ね。悪さをする神や悪魔、異能を使って一般人を害する人間をどこからともなく現れては狩っていく人間達の事よ。大抵は身内を超常現象に害された人間なんかがハンターになる事が多いから、結果的に無慈悲な復讐者な事が多いわ。カズマも下手したらさっくり殺されるわよ」

 

「怖い事言うな……」

 

「残念ながら、私も少しが経験があるのよ」

 

 少し悲しそうに笑うアクアの表情を俺は忘れられなかった。アクアによると、この地球では無名の神として過ごしていた彼女だが、他の世界でアクシズ教徒となった人間を日本に転生させるうちにこちらでもアクシズ教が自然発生してしまったらしい。ただ、彼らは前世の気質を受け継ぎ、中には魔法を扱う異能者も出てきた。そんなアクシズ教徒達は結果的に悪質なカルト宗教になった。アクアも何度か”お告げ”を行ったが、彼らに神が実在する事を信じさせてしまい逆効果となったようだ。

 そんなこんなのうちに、悪事が市井に紛れるハンター達に露見してしまい一人、また一人と悪質なアクシズ教徒は殺されてしまったらしい。今ではカルトは解散となり、善良なアクシズ教徒の一部が静かに活動を続けているそうだ。

 

「あの子達には悪い事をしたわ。来世での安寧を約束しておきながら、こんな事になるなんてね……」

 

「別にお前が気にする事はないだろ」

 

「気にするわよ……本当に不甲斐ない神様だわ……」

 

 泣き笑いのような表情を浮かべるアクアを尻目に、俺は彼女が作ってくれたグラタンをつつく。異世界ではアクアが女神としての力をふるう無茶苦茶な姿を見てきたが、同様に無茶苦茶なポンコツな姿を見てきた。全知全能とは程遠い姿は神というものに対する認識を考えさせるものだが、一方でそんな彼女がどうしようもなく愛らしかった。

 

「それよりも、アンタがこうして真面目に就職活動をしてるのが不思議だわ。そのうちギャンブルで稼ぐとか言い出さないか心配だったくらいなんですけど」

 

「人間万事塞翁が馬って奴だ。金銭だけを目的とすると俺の運も鈍る。具体的に言うとロト6で50万当てると父親の車が大破したりする揺り戻しが起こるんだよ」

 

「なんだか嫌なくらい生々しい話ね……」

 

「ギャンブルで食っていけるならニートなんてやってねえよ。むしろ、それで少しでも収入があったからニートが出来てたのかもしれない。まあ、異世界に行く前と同じく、金を手に入れたいなら堅実に働くしかねえんだよ」

 

 思い出すのは異世界に行く前の日々だ。本当に欲しいものがある時は短期バイトで金を稼いでいた。RMTなどにも手を出したが、結果は長年使ってたメインアカウントがみつかってのアカBANである。俺の幸運も絶対の物ではないのだ。

 

「まあ、カズマさんが幸運な事には変わりないわね。なんたって、私っていう超絶素晴らしい女神様と出会えたんだからね!」

 

「…………」

 

「なによ、文句あるわけ!?」」

 

「いいや、そう考えると俺があの時死んだのは幸運だったて事だな」

 

「えっ……!?」

 

 驚いた顔を真っ赤に染めて口をぱくぱくさせる彼女を眺めつつ、俺は気を引き締める。この安定した状況がいつまでも続けられるかは未知数であるし、アクアの話を聞いていてこっちの世界も一筋縄では行かない事も理解した。だからこそ、もっと”力”が欲しかった。もちろん、アクアを守るための武力も欲しているが、今はお金が欲しかった。財力はこの世界での普遍的かつ万能な分かりやすい力だった

 

 

 

 翌日、俺が簡単に作った朝食を二人でもそもそと食べ、家に残るアクアに行ってきますの挨拶をする。彼女は応援の言葉を一言告げて俺の背をバシバシ叩いてきた。そんな彼女に若干のイラつきと、まるでお節介な母親のような姿を重ねて俺の羞恥は限界突破していた。

 

 

 だが、結局この日もダメであった。面接に手ごたえが全くない。夕暮れ時の公園でブランコに揺られながら、思わずため息をつく。明日からはもう自身の余計な要望は捨てよう。余計な選り好みをしなければ正社員に簡単になれる。それが今の日本という社会だった。そして、決意を新たにして帰ろうと顔を上げた時、目の前に見知らぬ男性がいた。白髪混じりの短髪と、顔に刻まれたしわが彼を年配者だと教えてくれる。だが、着古したスーツでは隠せないほどの鍛え抜かれた体と身に纏う存在感が俺の警戒感を引き上げる。

 

 

 

 

「青年よ……君は神の存在を信じているかな?」

 

 

 

 やはり、ヤバイ奴であった。男性の表情は柔和な微笑みを携えていたが、その目はこちらを値踏みするようにギラついている。とりあえず、俺は逃走を選択する事にした。今の日本社会において、ヤバイ奴に出会った時の一番の対処法だ。

 

「あの、俺は宗教とか興味ないんで……」

 

「まあまあ、少し話を聞くだけでもいいんだ」

 

「お断りします」

 

「君はとてもいい目をしている。昔は私も君のように力を欲したものだ」

 

「…………なんだこのオッサン」

 

 進路を塞いでくる明らかにヤバイおっさんから逃げるため、俺は逃走スキルを発動する事にした。そうして、おっさんの横を素早く駆け抜けた時、俺の顔面には彼の高そうな革靴の裏が見えていた。蹴りを入れられたと理解した時には、俺の自動回避スキルが発動し身体をぐにゃりと曲げて蹴りを回避する。今の幸運には感謝したいが、そもそもこのおっさんに遭遇すること自体が不運だった。

 

「いきなりなにしやがるクソジジイ!」

 

「ふむ、今のをかわすとはやはり常人ではないな」

 

「ふざけんな! これ以上は警察呼ぶぞ!」

 

 薄く微笑むおっさんに流石の俺も我慢の限界だった。だが、おっさんが何かをぶつぶつと唱えた後、その両手に紫電に光る雷撃を貯め込み始めた時点で彼が精神だけじゃなく存在的にもヤバイ奴であると悟る。頭の中に浮かぶのは、昨日のアクアとの話で話題となった存在だった。

 

「お前、まさかハンターって奴か!?」

 

「おっと、こちら側の存在を知ってるなら話が早いですね。ですが、私達はそのような後始末しかできない連中とは違うのです。本当に申し訳ない」

 

 おっさんは笑顔を浮かべながら両手の紫電を掻き消す。それから、両手をシュバっと広げて俺の前で頭を垂れた。

 

「申し遅れました! 私はアクシズ教で大司教を務めていた……というのも昔の事ですね。今はアクシズ財団の理事の一人である五島と申します。以後お見知りおきを」

 

「アクシズ教……!?」

 

「おやおや、その名に聞き覚えがあるようですね! 時に、君は前世の記憶というものに興味はないかな? ほら、詳しい話はそこのカフェでしようじゃないか! ほら、行きましょう行きましょう!」

 

「ちょっ……おまっ……!?」

 

 笑顔で手を引いてくるおっさんに俺は抗えなかった。彼の力がかなり強かったのもあるが、真相が知りたいという知的好奇心と、アクアへの害となるなら”処理”する事も頭の中で考えていた。そうして、少し緊張しながら近くの喫茶店に入ったのだが、聞かされたのはおっさんの信仰への目覚めの話であった。昔は自衛隊にいたとか、クーデターを計画していたが超常の力を行使していたため同胞はハンターにボコられ、自分は部下に裏切られて銃器の不法所持で逮捕されたとか嘘くさい話を聞かされた。

 

「そんな私も獄中で真理に至りました! 不当に独房に閉じ込められ、食事にすら満足にありつけなかった中で私は前世からの使命を思い出したのです! それからは日々の恵みをもたらす水と大地に感謝を捧げ、この豊かな日本社会を守るために活動しているのです! 君も是非アクシズ教……じゃなくてアクシズ財団の一員として働きませんか!?」

 

「ああ……うーん……」

 

「今すぐ私達の仲間となれば、この洗剤セットをお付けしますよ! さらに、司祭たちが丹精込めて作ったアクシズ聖水もセットにして……!」

 

 喫茶店で声を張り上げ、懐から洗剤や水の入ったビンを取り出す彼の姿は実に異質だった。現に、周囲の人達はこちらを不審な目で見ている。俺としてはかなり複雑な思いであった。この信仰に狂った部分は異世界で遭遇したアクシズ教徒達と同じであったが、話を聞くと彼らには定まった戒律もなく、今のアクシズ財団の前身であるアクシズ教の崩壊間際において神から授かったという言葉を教義として活動しているようだ。

 

それによると、神いわく……

 

 

『真面目に働いてお金は自分や家族のために使いなさい。私はもういらないから! このお布施は騙した人に全部返してきなさい! え……半分くらい足りない? それは貴方達への罰金よ! 真っ当に働いて得たお金で返しなさい!』

 

 

 

『なになに……世界平和のために悪を倒そうと思ったら、ル〇ファーもア〇リマユも魔王を名乗ってた連中はすでにハンターに殺されて存在しない? あら、そうなの……まあ最近イキってた四文字も悪魔に堕とされて死んじゃったしね……とにかく、悪魔はまだまだいるみたいだからそういう連中から人々を守って上げなさい。アンタ達もやれば出来るのだから……たぶん……』

 

 

『私はホモだろうとレズだろうとロリコンだとしても別に許容するけど、犯罪はダメよ。神を言い訳に使ってやりたい放題やれば私の信用も四文字みたいに堕ちちゃうわ。それに、そんな事は私が許さない。貴方達の来世を保障したりもしないし、天国行きへの融通もしない。大人しく警察や社会の裁きを受けなさい」

 

 

 とかなんとか言っていたらしい。頭を抱えながらそんな事を言うアクアの姿が目に浮かぶが、彼らは自分達が信仰している神が女神である事も分からないらしい。ただ漠然と前世からの因縁で水をご神体として活動しているようだ。その部分に俺はいくらかの諦めと、優越感を覚えた。

 

「とにかく、俺は前世のからの因縁だとかアクシズ教徒の使命とか知らないんで帰っていいですか?」

 

「ご無体な! 貴方の力は我が財団にとって大きな力になるのです! 私が出来る範囲の事であれば、貴方の望みを叶える事も可能ですよ! おっと、そういえば金銭の話も重要ですよね! 我が財団にはいくつかのフロント企業を所有してまして、この地方ではウォーターサーバーや宅配水の営業、販売を行う会社の正社員として雇用し、必要時に……」

 

「正社員……?」

 

 俺の口から出た言葉はまさに失言だった。おっさんの口角はにいっと吊り上がり、雇用方面での話が大半になる。そうなると俺も弱い。ウォータサーバーの営業なんてものはまったくの未経験だが、目の前に正社員への雇用をチラつかされると俺の姿勢も前のめりとなる。

 給与は基本給+歩合給と少し怪しいが、基本給だけでも思ったより貰えるようだ。おまけに年に2回の賞与も約束されている。連日の面接に疲れていた俺は気づけばその話を受けてしまっていた。おっさんからは即採用の言葉を伝えられ、明日から来てほしいと会社のパンフレットを渡されてしまった。

 

「よろしく頼むよカズマ君! よっ、期待のニューフェイス!」

 

「は、はあ……よろしくお願いします」

 

「じゃあ私はこれでも忙しい身なのでこれにて失礼させて頂くよ」

 

 そそくさと喫茶店を出て行ったおっさんを俺は半ば呆然としながら見送る。結果として、俺はアクシズ教もどきの構成員となってしまったようだ。色々と思う所はあるが、最悪バックレればいいかと少し楽観的に考えていた。

 

 

「まあ、なるようになるさ~っと……」

 

 

 

 なんだかんだで、就職が決まった俺は若干テンションが上がっていた。家に帰り、出迎えてくれたアクアにドヤ顔をしながらその事を告げた。

 

「という事で、明日から仕事に行くよ」

 

「え゛……!? 本当なのそれ……」

 

「おいおい、そこまで驚かれると少しヘコむぞ?」

 

「いや、そういうわけじゃないけどね……うん……」

 

 なんだか歯切れの悪いアクアは口をもにょもにょとさせていた。その後、軽く酒杯を交わしいつものようにテレビを見つつイチャついた。彼女とこんな関係になる事は以前はあまり考えないようにしていたが、いざそういう関係になってみるとこれが当たり前となった。アクアを膝の上に乗せ、後ろから抱きしめながらそんな事をぼんやりと考えてる俺は、もう色々とダメなのかもしれないと諦めた。

 

「そういえばカズマ、アンタが就職した会社ってなんでか知らないけど聞き覚えがある気がするのよね……」

 

「まあ当たり障りのない会社名だしな」

 

「うん……でもやっぱりどこかで聞いた覚えが……うひゃっ!? ちょっとやめなさいよカズマ! まだご飯食べたばっかで……んっ……」

 

 とりあえず口を塞いで黙らせる。それから、アクアの全身を愛撫しながらも、俺は冷や汗をかいていた。アクシズ教と関係のある会社に教団幹部の紹介でコネ入社した事は少しだけ後ろめたかったし、彼女にそれがバレる事が気恥ずかしかった。

 翌日、目覚まし時計でたたき起こされた俺は、いつも以上に身なりを整えスーツを着込み昨日の夕飯の残りを口に放り込む。そして玄関先ではき慣れない革靴と格闘していると、俺の背中に暖かな重みを感じる。どうやら、先ほどまで眠りこけていたアクアが布団から這い出て抱き着いて来たようだった。

 

「アクアーそろそろ出発だから放してくれー」

 

「いやよ……」

 

「流石に初日から遅刻は出来ないっての」

 

「…………」

 

 少し強引にアクアの抱き着きを振りほどく。振り返ると、パジャマ姿で浮かない表情をしたアクアが目に入る。そんな彼女の様子に思わず苦笑した。

 

「カズマさん、辛い思いや苦しい思いをしたら無理して仕事なんてしなくていいからね」

 

「あのな、そういう悪魔の誘惑はやまてくれよ……」

 

「だって、本当に心配なんだもん。カズマさんってば肉体だけじゃなくて精神もくそざこのよわよわなんだもん……」

 

「ひでーな! これでも、色々と経験して心身ともに鍛えられたつもりだったんだが……まあいいや。とにかく、いってきます!」

 

「いってらっしゃい……」

 

 寂しそうな顔をしながら手を振るアクアの頭を俺は思わず撫でてしまう。それから、少し後ろ髪を引かれる思いをしながらも、俺は新生活へ向けての一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 電車に二駅ほど揺られ、その後にバスを使ってたどり着いたのは小さな平屋建てのオフィス。地方都市とはいってもこの県自体はかなりの田舎の部類、中心部から離れればそこはもう農村地帯であった。若干緊張しながらもオフィスに入った俺を出迎えたのはやたらとテンションの高いおばちゃんであった。彼女に歓迎の言葉をかけられ、必要な事務手続きを済まして行く。そうして、一時間ほどで口座やら通勤経路やら色々と申請した俺は、おばちゃんに駐車場に行って欲しいと言われる。どうやら、そこに俺の面倒をしばらく見てくれる”先輩”がいるとの事だった。

 

 そうして、事務所の裏手に向かった俺を出迎えたのはライトバンに背中を預けて煙草を吹かす女性であった。年齢は二十代後半、もしくは三十代であろうか。もとは長いであろう黒髪はシニヨンにまとめられ、切れ長の鋭い目をした彼女はスーツがよく似合う女性であったが、初対面の印象としては少し威圧的な雰囲気を感じた。

 

「君が佐藤君か……これからよろしく頼むよ」

 

「よろしくお願いします! えっと……」

 

「まあ、先輩と呼んでくれたまえ。中途採用だと新人研修はないんだ。しばらくは私の下で働いてもらうからな」

 

「分かりました! よろしくお願いします先輩!」

 

「おおっ……元気がいいな……」

 

 なんだか少しニヤニヤした表情を浮かべていた先輩は颯爽とライトバンに乗り込み手招きをしてくる。慌てて助手席に乗り込んだ俺を彼女は苦笑しながら見守り、車を発進させる。先輩の少し荒い運転に揺られながら、俺は本格的な”仕事”へと向かった。

 

 

 

 

「はあ……はあ……結構キツイっすね……」

 

「そうだろうそうだろう。私も最近腰が……ってなんでもないぞ! 私の分まで頑張ってくれ!」

 

「分かりました……」

 

 

 

 事前に水の販売などを行っている事は聞いていたが、やっている事はウォーターサーバーに使う巨大な水ボトルの配達であった。何度か事務所を往復しながら、ライトバンにボトルを積んで客の家まで持って行く。一軒家などはいいのだが、エレベーターがない団地や金持ちが住んでいる玄関まで距離がある庭園付きの家は地獄であった。こうして単純な肉体労働をするのはやはり辛いが、不思議と苦には感じなかった。

 

 

「流石は男の子だな。午前中に配送の仕事が終わったのは初めてだよ」

 

「ありがとうございます。それで、次の仕事は……」

 

「ふふっ、次の仕事は……ここだよ」

 

そう言って連れて来られたのは自動車教習所だった。意図を理解できずに固まる俺に彼女は茶封筒を渡してきた。

 

「という事で配達が終わったら定時まで教習を受けてくれ。なんだかんだで車が運転できないと仕事にならないからな」

 

「あの、本当にいいんですか?」

 

「先行投資という奴だな。まあ、上層部がわざわざ私の下に君をつけたんだ。期待はしてるさ。とにかく、佐藤君はこの1ヶ月で免許を取りなさい」

 

「うっす……分かりました」

 

「定時になったら事務所に連絡するんだよ。それじゃあまた明日」

 

そう言って、先輩はライトバンに乗って颯爽と去ってしまった。なんだか、少し解放的な気分になったが、気を引き締めて茶封筒を開ける。そこにはそこそこの大金が入っていた。バカな考えが思考の隅によぎるが、素直に自動車教習への申し込みに使った。

 

その後、早速学科教習を入れるだけ入れる。帰りの電車に揺られる頃には20時を過ぎていた。ふと、マナーモードにしていたスマホを開くと、アクアからの着信とラインの通知が大量に入っていた。それを見なかった事にして、俺は流行りのソシャゲーを無表情でポチポチする作業に時間を費やした。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「うん、運転は問題ないね。よし、それじゃあ今日から営業車の運転は佐藤君に交代だ」

 

「ええっ、まだ俺初心者なんですけど……」

 

「初心者だからこそだよ。車の運転なんて慣れだよ慣れ」

 

「うっす……」

 

 あれから約一か月、水配って教習して帰って最近はなんだか不貞腐れてるアクアに構って朝までぐっすりと眠るルーチンワークは免許の取得によって終わった。本日はまだ慣れない営業車の運転を行い、水の配達を終えた所である。いつもなら、ここで先輩とはお別れであったが今日からは違う。

 

「それじゃあ先輩、営業について教えて貰いたいんですけど……」

 

「えっ? 営業なんて私はしないぞ?」

 

「えっと……それはどういう意味で……」

 

「別にノルマもないし、基本給で十分な額が貰えるじゃないか」

 

「ええっ……」

 

 真顔でそんな事を言いながら、助手席をリクライニングにしてリラックスした表情を浮かべる先輩に正直言って引いてしまった。この一か月、先輩に対して寡黙でストイックなイメージを勝手に持っていたが、思ったよりダメっぽい人だった。

 

「それじゃあこれからどうするんですか?」

 

「んー昼寝をしたら定時までスタバで時間を潰そうかな」

 

「いやいや、本当にそれでいいんですか? というか、こんな事でお金を貰えるのはやっぱり怪しくて……」

 

「すかー……」

 

「マジで寝たよコイツ!?」

 

 冗談抜きで助手席で眠り始めた先輩を前に俺は途方にくれる。先輩はかなり美人な部類ではあるが、自分の中での比較対象がアクアになるので相対的に”食指が動かない女性”に分類される。それに、流石に現代日本でセクハラはまずい。結局、俺は無防備に眠る先輩を乗せながら車で当てもなく彷徨う事になった。

 

「ふぁーよく寝た……佐藤君、今何時?」

 

「もう15時半ですよ……」

 

「そうか、それじゃあスタバ行こうか。ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメルソースモカソースランバチップチョコレートクリームフラペチーノでもご馳走するよ」

 

「えっ……?」

 

「だから、ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメルソースモカソースランバチップチョコレートクリームフラペチーノだって……もしかしてスタバが何かも分からない田舎者か?」

 

「…………」

 

 

一瞬、ぶん殴ってやろうかと思ったが流石にやめた。

 

 

もう、どうにでもなーれ!

 

 

という思いで俺はスタバに車を走らせた。

 

 

 

 

 

 そして、先輩は約束通りゲロ甘いコーヒーっぽいドリンクを奢ってくれた。ただ、向かいの席でマッ〇ブックをドヤ顔で開き始めたのを見て一刻でも早くここを去りたい気分だった。しかし、先輩は宣言通り定時まで居座る気であった。

 

「ふむ、そういえば佐藤君の”前世”はどのようなものだったかを教えてくれないか?」

 

「いきなり意味不明な事を言わないでくださいよ……」

 

「とぼけなくていい。わざわざ上層部がスカウトした人間だ。神や悪魔なんてものが実在している事もとっくに知っているだろう? 私達の会社のバックには昔壊滅したカルト宗教の残党がついている事も知っているはずだ」

 

「…………」

 

「別に怯えなくていい。ちなみに、私は前世をほんの少しだけ記憶しているんだ。そこでは私は偉大な魔法使いだったようだ。おかげで今でも”異能”が使える。ふふっ、カッコイイだろう?」

 

 相変わらずのドヤ顔を浮かべる先輩にはイラっとくるが彼女も俺を勧誘したおっさんと同じく日常とはズレた世界を生きる人間のようだ。俺としては、正直言って困ってしまった。あのおっさんが俺を勧誘した理由も何となく分かったし、普通に働いて金を稼ごうとしたら何やら非日常に踏み込んでしまったようで気が滅入った。

 

 

 押し黙る俺に、先輩はマッ〇ブックの画面を見せてくる。そこにはこの地方都市の地図があり、そこには大小さまざまな記号や注意書きが書き込まれていた。

 

 

「神や悪魔はこの世界では過去の遺物だ。だが、そんな遺物を掘り出したり、新たに創造する連中がいる。基本的に存在自体が神殺しなハンター達は超常現象による人的被害が出て初めて動く連中が多い。アイツらは悲劇の後始末しか出来ないんだ。だからこそ、そんな悲劇を事前に潰す。それが生まれ変わったアクシズ教がするべきことなんだ。悪魔は残らず殺すべしってな」

 

「はあ……」

 

「ちなみにこの地図に表示された記号はそういう悲劇を起こす可能性のある団体だ。これは”まっぴかー”、これは”証人”、こっちは”学会”で、これは”ハッピーをサイエンスしてる連中”だ。どれも、どうしようもないクズ共だけどこいつらのやり方は私達はよく知ってる。だって、私達も昔はコイツらの仲間だったんだからな」

 

「うわ、それじゃあ俺は今後はこの関わりたくない連中とドンパチするんですか?」

 

「情報収集は他の社員がやってくれている。私達が出るのは普通じゃどうしようもならない事が起きた時に力を使う事だ。だから、普段は今日のようにゆっくり気を休めればいいさ。ただ、必要とされた時は死ぬ気で戦え」

 

 

 スタバでそんな事を言われても、俺は生返事を返す事しか出来ない。平和に過ごせると思った日本でこんな事になるとは驚くしかない。ただ、正直言って悪い話ではなかった。危険かもしれないが、それは俺が欲している財力以外の”力”を磨くのにちょうどよかった。

 

 

 

「佐藤君、もう定時だし続きは明日にしようか」

 

「はい……」

 

「ふふっ、支給している業務携帯にはいつでも出れるようにしておくんだよ。奴らに定時はないんだ」

 

「…………」

 

「それじゃあ、また明日。明日も平和だといいな」

 

 

 ドヤ顔で去って行く先輩に俺は閉口する。それから、少し混乱した頭を甘いコーヒーで落ち着かせて帰路へとつく。今日が給料日だったため、帰りにATMを覗くと、この俺の一か月の仕事に見合わない額が入っていた。とはいっても、異世界では中難度のクエストを一回クリアするだけでこれと同程度の収入があった。そう考えてしまうと、なんだか少なく見えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 そんな週末の夜、俺はアクアと個室居酒屋に来ていた。最近、少し不機嫌なアクアは相変わらずツンとした態度を取っている。だが、運ばれてきた生ビールを見てそれも瓦解した。こういう時は単純で助かる思いだ。乾杯の合図とともに俺もアクアも一気にジョッキを空にする。それからは、もう酔っ払いの会話だった。

 

「ふふーん、初のお給料で私にお酒をご馳走するなんて、やるじゃないカズマ。お母さんが褒めてあげる!」

 

「勘弁してくれ……そういうのは思っても口に出すな!」

 

「いいのいいの。はい、お仕事お疲れ様カズマさん、頑張ったわね」

 

「おい……」

 

 上半身を席から乗り出し、俺の頭を撫でてくるアクアに俺は仏頂面を返す。ただ、内心でまあこれも悪くないと思っているあたり俺もいよいよダメであった。

 

「カズマ、仕事は順調なの?」

 

「それなりにな。結構肉体労働がメインみたいだな」

 

「辛くない? 上司や先輩にいじめられてない?」

 

「そんな事されてねえよ。つーか心配しすぎだ」

 

「心配するわよ……私は……カズマさんが傍にいてくれるだけでいいのに……」

 

 何やら陰気臭い雰囲気を出し始めたアクアには少し呆れる。俺が働くようになってから彼女はこんな調子になり始めた。帰宅した俺に対して風呂場や布団では気がすまず、トイレ中にも甘えてくる一方で、口癖のように”最近カズマさんが冷たい……もっと私にかまって!”と言ってくるようになった。だが、アクアのそんな様子は正直言って可愛いのでそのままにしていた。

 

「ねえ、カズマさん。その仕事なんだけど……やっぱりやめ……」

 

「そういえば、アクアに渡したいものがあったんだ」

 

「え?」

 

「ほらよ」

 

 俺は懐からラッピングされた箱を取り出してアクアに手渡した。彼女はしばらく戸惑っていたが、俺から受け取った箱をまじまじと見つめながら首を傾げた。

 

「え、なに? びっくり箱?」

 

「ちげーよバカ。どうみてもプレゼントだろ。ほら、初給料も入った事だしな」

 

「あの……カズマさん……私は貴方の本当のママじゃないのよ?」

 

「そのネタを引きずるなっての! ほら、これは家族にじゃなくてその……恋人へのプレゼントって奴だ!」

 

「恋人……!?」

 

 驚いた表情を浮かべたアクアに俺は少なからずショックを受けたが、その顔がみるみるうちに紅くなったのを見て安堵する。どうやら、彼女には少し自覚が足りなかったらしい。

 

「やることヤって同棲してるんだ。恋人じゃなかったら、俺とお前の関係は何なんだよ」

 

「それは……」

 

「俺じゃアクア様のお眼鏡には叶わないか?」

 

「そんなことはないわよ! ただ……その……嬉しくて……カズマさんってば私の事が好きなの?」

 

「おい、それを言わせんなまったく……はいはい好きですーもうアクアなしの生活なんて考えられないですー」

 

「ふふっ、茶化してる割にはカズマさんも顔真っ赤よ」

 

「うるせーよ!」

 

 この場はお互いに引き分けだった。滅茶苦茶恥ずかしい思いをしたが、一方ではなんとも言えない満足感を得られた。これが幸せという奴なのかと実感するが、それにまた新たな恥ずかしさを感じた。そして、アクアの了承を求める目線に俺はコクリと頷く。意気揚々とラッピングを剥がしたアクアは、俺の贈り物を見て目を丸くしている。とりあえず、落胆はしていないようだったので少し安心した。

 

「これって……」

 

「新しい財布だよ。一応、そこそこのブランドだからお前が持ってても違和感ないだろ?」

 

「…………」

 

「大事に使ってくれるのはありがたいが、あのオンボロ財布は正直言ってアクアには似合わないからな」

 

 押し黙ってしまったアクアを前に俺はこのプレゼントは失敗したかと思ったが、次の瞬間にはアクアが対面の席に座る俺に飛び込むように抱き着いてきた。ビンやお通しの枝豆が散らばってしまったが、とりあえずは一安心だ。

 

「ありがと……ありがとねカズマ……」

 

「デザインはそれで大丈夫だったか? 不満なら買い替えるぞ?」

 

「そんなことないわ。私の好みよ……大切にする……ずっと大切にするからね……」

 

「そうかい……まあ喜んでくれたなら御の字だ。さあ、今日は飲もうぜ。色々と積もる話もあるんだ」

 

「うん……私もいっぱい話したいことがあるの……」

 

 結局、その日は夕方からラストオーダー間際まで居酒屋に居座った。正直言って、仕事も含めて将来への不安もある。だが、こうしてアクアと過ごす毎日は俺にとってはもうかけがえのないものとなっていた。

 

 

 

 

 居酒屋からの帰り道、俺は酔い潰れて寝てしまったアクアをおんぶしながら歩いていた。時折、寝言を言いながら全身を俺の背に擦り付けてくる彼女には苦笑するしかなかった。そして、我がボロアパートまで500mといった所で、見知った顔が俺達に立ちふさがった。

 

 

 

「エリス様……」

 

「ええ、お久しぶりですカズマさん」

 

 

 夜闇の中でも、エリス様の人智を超えた美貌は薄く輝いていた。歩く俺の横に彼女はしばしの間、無言で横に付き添った。だが、ボロアパートの前までついた時、彼女は俺の袖をそっと引いてきた。

 

「カズマさん、私は貴方の事を愛しています」

 

「またその話ですか……」

 

「当然です。こんな事、納得行きません。何故アクア先輩なんですか……私じゃダメなんですか……?」

 

「勘弁してくださいよ」

 

 涙目で俺を引き留めるエリス様には正直言ってクるものがある。だが、彼女の想いに応える事は出来ない。アクアを裏切る事になるし、何より自分の想いを裏切る事になってしまうからだ。

 

「アクア先輩なんておっちょこちょいで肝心な時にドジを踏みますし……その不幸体質はもう不変のものですし、いっぱいカズマさんに迷惑をかけると思うのです。そんな女神を貴方は選ぶのですか?」

 

「まあ、そうなるな」

 

「私なら……貴方に一生尽くします! 資産だってアクアせんぱいより持ってます! 貴方が望むなら私は喜んで貴方の欲望を叶えて見せます! 私なら絶対貴方を失望させずに……!」

 

「エリス様、少しは自分の事を大切にしてください。それと、貴方の想いは受け止められないです。俺は背中のコイツだけで手いっぱいなんですよ」

 

 なぜエリス様がここまで俺に執着するかは分からない。今の俺は異世界にいる時よりどうしようもない男だ。それでも、アクアと一緒に日々を過ごしたいという思いは向こうでもこっちでも変わりなかった。

 

 

 

 

 

「カズマさん、貴方はアクア先輩を本当に……本当に愛してしまったのですか……?」

 

「あんまり軽い言葉は言いたくないんだが……そうだな。俺はアクアを愛してる。まあ、気づいたらベタ惚れだ。昔は考えられなかった事だけどな!」

 

「っ………!?」

 

 

エリス様は顔を下に向けて身体をプルプルと震わせていた。だが、彼女の耳は真っ赤になっていた。

 

 

 

「きょ、今日はこのくらいにしておいてあげます! わ、わたしは諦めませんから!」

 

 

 

 そう言って、文字通り飛び去ってしまったエリス様を追って俺は夜空を見上げる。そのまましばらく空を眺めた俺は、何とも言えない狐に包まれたかのような不思議な違和感を感じた。

 

 

 

 

 

 

一言でいえば、エリス様らしくなかった。

 

 

 

 

 

 

「ふぁ~カズマ……ねむ……ふとん……」

 

「はいはい、今日はさっさと寝るとするか……」

 

 

 

 その後、帰宅した俺はアクアを布団に寝かせる。そして、サッとシャワーを浴びた俺はアクアと同じ布団に入った。酒の匂いが残る彼女の身体は実に抱きしめ甲斐のあるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな時、会社から支給された業務携帯の着信音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

嫌な予感を覚えながら携帯を手に取ると、やはり先輩からの電話であった。

 

 

『もしもし、急で悪いが仕事が入った。今から迎えに行く』

 

「えっ、今からですか!? ちょっと酒が入ってるんですけど!」

 

『私が来るまでに死ぬ気で酔いを醒ませ!』

 

「うっ、うっす!」

 

 

 

 それを最後に電話は切れてしまった。とりあえず、俺は酔い覚ましの薬をガブガブと飲み干す。それから、ある程度の身だしなみを整えた。布団には平和そうな顔でアクアが寝息を立てている。俺はそんな彼女をしばらく眺めていた。

 

 

 ボロアパートから出ると、黒塗りの高級車が止まっていた。俺が出るやいなや、助手席のドアが開く。中にはやっぱり先輩の姿があった。急いでそこに乗り込むと、彼女はすぐさま車を発進させた。

 

 

「それで、急な仕事ってなんですか?」

 

「単純な話だ。ここから15分ほど来るまで行った場所にある寂れた神社が異界化した」

 

「えっと……」

 

「つまりは楽しくて美味しい”悪魔狩り”の時間だ”」

 

 

 普段なら電波が何か言い出したと呆れる所だが、おっさんや彼女と話し合い、なおかつ彼らから感じる威圧感を経験している俺はそれが真実なのだと理解する。だが、こうなったらもう渡りに船だった。

 

「佐藤君、得意武器はあるかい?」

 

「えっと……刀と弓……?」

 

「ほう、なかなか歴史のある家の出身かな? だが、あいにく今はこれしかない。使ってくれ」

 

「ありがとうございます……ってこれ……」

 

「使い方は分かるだろう? ちなみに私の師匠はジョン・ウ〇ックだ」

 

 放り投げて渡されたのは自動式拳銃と数個のマガジンだった。もう今更驚いてられなくなった俺は、素直にそれを懐に入れた。そして、目的の神社前に車を止めた先輩はトランクから日本刀とショットガンを取り出していた。なんだか、もうどうでもよくなって来た俺は彼女の後ろをひょこひょことついていった。

 それから、鳥居を抜けた所で周囲の光景が一面の赤黒い妙な空間に切り替わる。どうやら、これが異界というらつらしい。

 

「この空間は悪魔が作ったものだ。最深部の異界化の元凶を倒さなければ私達が死ぬどころか周囲に被害が出てしまう。いくぞ、佐藤君!」

 

「了解ッス……って、早速なんか出てきましたよ」

 

 

 

 

『ホホホ……ホホホ……ホホホ……』

 

 

 

 

 それはおかっぱ頭の笑顔を浮かべた日本人形だった。ただ、首は不自然に長く、目や口には穴が空いたように空洞になっている。そして、先ほどからずっと不気味な笑い声を上げていて……

 

 

 

『ホホホ……ホホホ……ヒーホー!?』

 

 

 次の瞬間には、変な人形は先輩が撃ったショットガンによってバラバラにされていた。そして、残骸を踏みにじりながら先輩は良い笑顔を浮かべていた。

 

「ああ、悪魔を殺すのって最高に気持ちいいな」

 

「あっ、はい。それじゃ先に行きましょうか」

 

「ちょっと、反応薄くないか佐藤君?」

 

 もういちいちツッコでいたら終わりが見えない。さっさと、足を進める俺に先輩はぶーぶーと文句を言いながらついてきた。そして、代わり映えのしない赤黒い肉壁のような道を進むこと十分。俺達は敵に囲まれていた。相手は三匹の血濡れた日本猿、手にはチェーンソーやナイフ、先割れスプーンを持ち、頭には何故か駅員がかぶっているような車掌帽をつけていた。

 

「先輩、こいつら本当に悪魔なんですか……?」

 

「立派な悪魔だよ。ただ、この異界はどうやら”怪異”がよく出るみたいだ。それより、右の猿を頼んだ!」

 

「分かってます……”狙撃”!」

 

 もしかして無理かとも思ったが、俺の狙撃スキルは拳銃でも発動してくれたようだ。脳天を貫かれた猿は霧のように消え、残る猿も先輩が刀で切り捨てる。だが、先割れスプーンを持った猿が彼女に飛びつこうと跳躍する。それを、俺は咄嗟に魔法で撃ち落とした。中級魔法、”ライトニング”によって消し炭になった猿を見て、先輩は目を丸くした。

 

「異能も使えるのか……それなら私も本気を出さなくてはな……」

 

「先輩、新手が来ましたよアレは……おおう!?」

 

 

 それはこの場には不自然なほど綺麗な女性であった。純白ワンピースを身に纏い、純白のドレスハットからは黒く艶やかな長い髪が垂れている。ただ、身長だけは俺の二倍以上あった。

 

 

『ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ……』

 

 

 おまけに意味不明な言葉を呟いていた。だが、コイツだけは明らかに今までの雑魚と格が違う。正に、レベルが違う悪魔であった。というか、エリス様に紹介してもらった仕事をやる過程でアレについてはよく知っていた。

 どうしたものかとたじろぐ俺の横で、先輩は懐から回転式拳銃のようなものを取り出した。だが、銃の先がパカリと二つに開いて何やらモニターとキーボードが出現した。

 

「先輩、その実用性の全くない銃はなんですか?」

 

「こ、こら! バカにするな……これはお父様から貰った……大切な……こほん!」

 

 急にしどろもどろになった先輩だが、彼女は変な銃を弄り始める。そうすると、彼女の両サイドに六芒星の召喚陣が刻まれる。そこから、新たな二体の”悪魔が”出現した。一体はなんだか雪だるまを悪魔っぽくデフォルメしたような奴、もう一体は目と局部だけを黒い革紐で隠した金髪の女性であった。そして、先輩は敵の悪魔……”怪異 八尺様”に日本刀を突き付けババんとポーズをとっていた。

 

 

「我が名は”卜部麗子”! 偉大なる魔法使いを前世に持つデビルサモナーにしてこの地を守護し悪魔から人々を守りしもの! 行きなさい、エンジェルちゃん、ジャックちゃん! おまけに喰らいなさい! ”アギラオ”!」

 

 

 

 

彼女の名乗りを聞いて、俺は内心ため息をついた。

 

先輩の前世はなにかと俺と縁のある頭のおかしい種族のようであった。

 

 

 

 

 

 先輩の手から放たれた結構な威力の火炎魔法によって、八尺様は炎に包まれる。そこに、追撃するように彼女の悪魔が氷魔法や雷魔法を放っていた。

 

 

 

 

そうして、決着は一瞬でついた。

 

 

 

 

 魔法で傷一つ付かなかった八尺様の華麗な回し蹴りで、先輩は召喚した悪魔もろとも赤黒い壁に叩きつけられていた。

 先輩の悪魔は霧となって消失し、後には血反吐を吐く先輩だけが残る。慌てて駆け寄った俺に彼女は申し訳なさそうに笑った。

 

「すまない。かっこつけた割にダメだった……ごふっ……」

 

「喋らないでください……ヒールヒールっと……」

 

「助かる……でも私じゃアレを倒せないらしい……そうだ……君の業務携帯には悪魔召喚プログラムが入っている……私を囮にして今は逃げろ……仲魔を十分に集めたらアレを……いやアレは無理かな」

 

『ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ……』

 

 八尺様は表情を怒りに変えながら左右に体を揺らしていた。俺はさてどうしたものかと考える。先輩は戦闘不能、逃走も不可能となれば選択肢は一つしかない。

 

 

 

 

「ま、待ってくれ八尺様! 貴方のためになんでもしますから! 命だけは見逃して……!」

 

「佐藤君……?」

 

 

 

それは全力の命乞いだった。

 

 

 

『ぽぽぽぽぽぽぽ……?』

 

 

 八尺様は何やら俺に質問を飛ばしたようだ。はっきり言って意味は分からないが、とりあえず当たり障りのない返事をしておいた。

 

 

「えっと……うーん……滅茶苦茶可愛いですね!」

 

 

『ぽぽぽぽぽぽぽ……!』

 

 

 

 

 ぽぽぽぽ言いながら俺の顔を覗き込んできた八尺様は俺の適当な返事に笑顔を見せた後、霧となって消失してしまった。どうやら、俺の想いが伝わったのだろう。

 

 

 

 

「なんだかよく分からないけどヨシ!」

 

「ヨシじゃない、一体何が起こってるんだ!?」

 

「うるせーよ役立たず先輩」

 

「ひ、ひどい!?」

 

 

 もうなにがなんだか分からない俺と、涙目になっていじける先輩の間に業務携帯の通知音が鳴り響く。画面を見ると通知欄に妙な記載があった。

 

 

「先輩、”怪異 八尺様”が仲魔になりました……ってどいうこと?」

 

「これは……うーん……佐藤君って運が良いって言われないか?」

 

「ええ、よく言われますね……」

 

「つまりはそういう事だよ……っていうかこれほど高レベルな悪魔を制御できるって佐藤君……貴方は……」

 

 もうお互い喋る気力を無くした俺達はそのまま真っすぐに歩き続けた。空間が変になっているとは言え、元は神社。最深部までは一本道であった。道中、言葉が少ないながらも先輩から説明を受ける。先輩の変な銃は悪魔を使役する悪魔召喚プログラムが入った召喚機らしい。そして、俺の業務携帯にも同様のプログラムが入っているそうだ。

 

 そうこうしているうちに、異界の最深部とやらにたどり着く。赤黒い肉壁にそびえ立つ小さな社の前に、またもイロモノな悪魔がいた。それは妖艶な巫女服の女性、ただし腕は左右合わせて六本もあり、下半身は大きな蛇であった。その姿は俺のトラウマを呼び起こすラミアタイプの悪魔だった。

 

『ほう、わらわの前に姿を見せるとは度胸のある人間達よ……その勇気に免じて見逃してやろうかの……』

 

「おっ、見逃してくれるらしいっすよ先輩」

 

「ダメだ。あれがこの異界の主、ボスモンスターって奴だ。倒す以外に道はない」

 

『ふうむ……ならしょうがない。まあここの主を喰らってわらわもやっと”神”になれた。お主らで力を試すのも一興じゃ』

 

 こちらを睨む巫女ラミアからは確かに”神気”を感じた。だが、アクアと比べるまでもなく貧弱である。だからこそ、俺は業務携帯を取り出して悪魔召喚プログラムを起動した。召喚できる悪魔の一番目は文字化けとエラー表示が出ている。

 試しに一番目の文字化けをタップするが、召喚エラーが表示されるだけだった。おそらく、この文字化けはアクアだろうと不思議と察せられたが、彼女は召喚出来ないらしい。肝心な所で役に立たないのは相変わらずであった。

 だからこそ、俺は二番目の八尺様をタップする。すると、俺の目の前に六芒星の召喚陣が開き、長身の怪異が姿を現す。それを見て、巫女服ラミアはだらだらと汗をかいていた。

 

「よし、バケモンにはバケモンをぶつけるに限る!」

 

『ちょっとタンマじゃ! その……ちょっとレベル差がある気がせんかの?』

 

「ああ、その気持ちはよく分かるな。私もカッコイイ所を見せるはずが、裏ボスクラスのこいつに軽くひねられてしまった……そのご愁傷様!」

 

『まて……よさぬか……わらわはやっと……なんでもするから見逃しておくれ……!』

 

 泣き始めた巫女服ラミアに先輩は何やら同情的に話かけていた。俺はというと、相変わらずぽぽぽぽ言っている八尺様に目を向ける。彼女はニコニコと笑っていた。何となく理解出来るようになった彼女の言葉を訳すと、”あの女の子達、ちっちゃくてちょーかわいいよー!”だった。

 とりあえず俺は塞ぎこんでいる巫女服ラミアの肩を叩く。彼女はびくりと身体を震わせる。そんな彼女に俺はお決まりのセリフを叩き込んだ。

 

 

 

 

「今、なんでもするっていったよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝

 

 

 

 

 

 

 ボロアパートにて、まぶしい朝日と共に俺はたたき起こされる。起きると、アクアが泣きながら俺の身体を揺さぶっていた。

 

 

 

 

 

「うああああああっ! ふわああああっ! カズマさんが……カズマさんが浮気しだああああああっ!」

 

「朝からうるせーよ! つーか浮気ってなんだよ!?」

 

「しらばっくれるの!? この……泥棒猫……! アンタ達からも何か言いなさいよ……!」

 

『ぽぽぽぽっ!?』

 

『イダっ!? なんでわらわがこんな目に……!』

 

 

 

 

 泣きながら八尺様と巫女服ラミア……”邪神 姦姦蛇螺”をスリッパではたくアクアを横目に見ながら、俺は眠りに落ちる。もう、今は何も考えたくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




気が付いたら一話伸びた。
次回、このルートの最終回。
やっと脱線から戻れますね

元ネタ
悪魔召喚プログラム など: 真・女神転生シリーズ

今回出た都市伝説系怪異についてはすべて洒落怖のもの
(2chのオカルト板)


渦人形
ショトガンで先輩に倒された奴。元ネタでも物理破壊されてる。日本ホラー安定の呪殺系。

猿夢
物騒な日本猿の姿をした怪異。元ネタを見ると夜寝るのが不安になるトラウマ都市伝説。

八尺様
洒落怖のシンデレラガール。数年前まで本気で怖がられ、知名度もかなりのものだったが、気づけばオネショタジャンルに取り込まれある意味ソープ堕ち。怪異にしては、見た目が清楚系

姦姦蛇螺
元ネタでも逸話は怖いが登場人物にした事は立ち入り禁止の場所に入った若者をおどかしただけ。怪異の割には慈悲深い。
巫女服ラミアという和風モンスター娘みたいな見た目のせいで案の定ソープ堕ち。


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