「それでーどうするのー? 協力って言っても、ダクネスの方針がぶれぶれだと良い結果は得られないよー」
「…………」
「どしたのさ。そんなしかめっ面をして。そりゃあダクネスの境遇を考えれば思い悩むのは仕方ないけどさ」
「少し黙れ」
「ひ、ひどくない!?」
昨夜のエリス様との話を終えた私は、早朝から自室に客人を迎え入れていた。抗議の声を上げながら涙目になっている客人は少しぼさっとした銀髪をショートカットにまとめ、シーフだと言われれば一瞬納得するが、見ればみるほど流石に布面積が少なくないかと心配になる盗賊衣装に身をつつんだ私の親友……クリスであった。
「いや、お前の正体が私の敬愛するエリス様だって事を理解したくないだけだ。たいした事じゃない」
「たいしたことあるよ!? 確かに女神の時と違って思考が人間寄りになるからちょっと開放的になっちゃうけど、あたしもエリス様である事はかわりないんだよ!」
「エリス様は酒に悪酔いするし、人の物を盗む泥棒でおまけに痴女だったのか。私の信仰も揺らいできたな」
「お、お酒は神様も嗜む程度には飲むものなの! ほら、ネクタルとかソーマとかお神酒だとか言うでしょ! あと、泥棒じゃなくて盗賊! そこには大きな違いがあるからね! それに痴女は流石にひどくないかな!?」
涙目で私の胸をぽかぽかと叩きながらそんな事を言うクリスに私は心からの苦笑いをするしかない。こうしてクリスを前にしても昨夜私の前に姿を現したエリス様と同一人物とは思えない。というより、思いたくはなかった。
「と、とにかくダクネスが女神に助けを求めたのは事実でしょう? そこまで追い詰められてるダクネスをあたしは友達としても放っておけないよ。あたしの正体はさておいて、友達として気軽に頼ってくれるかな」
「ああ、そうだな。今はもうなりふり構っている暇はない。私も頼らせてもらおう」
「そうそう、その意気だよ! それはそれとして話は最初に戻るんだけど、今後の活動方針はどんなものなの?」
「ふむ、活動方針と言われると少しよわるが、当面は”情報収集”に重きを置きたい。カズマ、めぐみん、アクアとあれだけの時間を共に過ごしてきたのに私はまだまだ彼らの思いを知らなさすぎる。それを知ることが出来たら私の道を切り開ける気がするんだ」
一周目、私はめぐみんがすでにカズマへの告白を済ませている事を知らずに呑気に過ごしていた。二周目、アクアとめぐみんの持つ闇も、親友が敬愛しているエリス様だった事も知らずに悲劇に酔って怠惰に過ごしていた。これら二回の周回によって私は何も知らないんだという自分の無知蒙昧さを実感した。それがあの終わった世界で得られた唯一の教訓であった。
「流石ダクネス、猪突猛進な所もあるけど君は決してバカじゃない。情報を制する者は戦いを制する……戦争においてそれはとても重要だよ。もちろん、恋する乙女にとってもね」
歯を剥き出しにして威圧的な笑顔を見せたクリスは、屋敷の外へと続く扉へ歩き出す。その後を私は無言で追った。
「来な、あたしがとっておきの情報を教えてあげる!」
という事で、私はクリスと一緒に路地裏に置かれた樽の中に詰め込まれていた。わけは分からないが、そんな状況に陥っていた。樽の中身は私とクリス、新鮮な唐辛子で満たされている。おかげで胸元やらなんやらに唐辛子が入り込んでぶるぶると振動している。私とクリスの声も自然と震えていた。
「んっ……ひっ……クリス……これは新手の拷問か……?」
「そんなんじゃないの。一応特別な浄化魔法と消臭剤をかけたけど、万が一に備えて原始的な匂い消しも使ってるんだ。これくらいしないと、女神の嗅覚は騙せない……んぁっ!? なんでそんなとこばっかっり……ひゃうっ!?」
樽に開けられた小さな穴からは路地裏の様子がかろうじて見える。クリスいわく、ここでアクアの面白い姿を見れるそうだ。それまでひたすら待機する事になった私は、こそばゆい振動に耐えつつ右手の甲に刻まれた魔法陣……もしくは文字か記号のような何かを撫でた。
「なあクリス、右手のこれは認識阻害の魔法陣か?」
「よく知ってるねぇ……確かにそれは神魔除けの結界を発動させる魔法陣みたいなものだよ。アクア先輩に感づかれたくない時はそれを使うのが手っ取り早いね。神や悪魔ってものはあたし含めて自分の力を絶対に思って只人を前にして傲慢になる。こういう搦め手は思った以上に神に有効だから覚えておくといいよ」
「ああ、記憶しておこう」
「使う時は今みたいに時と場合を考慮してね。認識できない事が違和感に繋がる事だってあるんだから……んひっ!? おとなしくしなさいもう!」
クリスが生きの良い唐辛子をぷちぷちと潰す横で私は記憶に刻み込むように魔法陣を眺める。前回の周回で私はアクア……女神に挑む無謀さを学んだ。この魔法陣はそんなアクアに一矢報いれる可能性を秘めたある種の希望であった。
「それで、この路地裏で樽に詰まる事に何の意味がある。いい加減教えてくれ」
「だから、アクア先輩に関する興味深い情報を得られるのがこの場なのさ。まあ大人しく待っててよ。それと、アクア先輩が現れたら会話は禁止。物音も立てちゃダメだからね」
クリスは手のひらを私の口に押し当てて強制的に黙らせる。私はそれにコクコクと頷き、樽に空いた小さな穴から路地裏の薄汚れた景色を見つめ続けた。変化が現れたのは樽に詰め込まれて2時間が経過した時であった。路地裏には不釣り合いなほど見目麗しく、布面積が不自然に少ない黒髪ロングと金髪ショートの女性が二人、涙を流し肩を震わせながら現れた。お互いに慰めるような会話を交わす姿は見ていて少し痛々しい。そういえば、ここはカズマがよく利用していた女性店員が美女ばかりの喫茶店の路地裏である。あの二人はそのお店の店員なのであろう。
「薄汚い悪魔め……泣いてもその性悪な魂は誤魔化せないくせに……」
「やけに辛辣だな」
「だって、あの二人は本当の悪魔……サキュバスだからねえ」
「なっ……!? じゃあ、あの喫茶店の正体は淫魔の売春斡旋所か何かなのか!?」
「ご明察、肉体的接触はしないけどサキュバスは利用客の男性に夜な夜な望みの淫夢を見せて対価に精気を貰ってる。カズマ君がふらっと屋敷を抜け出して外泊してる時はこのお店のお世話になってるみたいだね」
少しショックな事実であった。ただ、カズマがえっちな夢を見ることくらいは許容出来る。私を差し置いてサキュバスと肉体関係を持っていたのなら多少どころではないほどへこんだが、夢だけならセーフだ。むしろ男として健全な性欲を持っているのは私にとって安心材料の一つだ。
「しっ、ダクネス。これ以降は会話は原則禁止。神気が……アクア先輩が近づいてくる」
「了解した」
クリスに樽の中の暗闇で頷きを返し、私達は樽に空けられた小さな穴の先の光景に目をこらす。そして、彼女の言う通り、見慣れた青髪が路地裏に現れた。いつもの羽衣をまとったアクアは、路地裏で縮こまって泣いている二人の淫魔を見てため息をつく。落胆したような表情からは微かな憤怒が感じられた。
「使えない悪魔ね」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! ただ、貴方が探してる夢を見せたのは喫茶店に在籍してるサキュバスじゃない事だけはわかったんです。多分、小遣い稼ぎに来たOBかお忍びで来てると噂のサキュバスクイーンが……!」
「私は言い訳を聞きに来たんじゃないの。さっさとそのOBやらサキュバスクイーンを探しなさいな」
「ひぃっ!? 分かりました! だからお仕置きだけは勘弁を……精気を地道に集めて作ったばかりで……!」
「それとこれとは話が別でしょう? はい、使えない悪魔には残機マイナス1ね」
「あっ……ああっ……あ―――」
アクアが冷めた表情を指をパチンと打ち鳴らす。
その瞬間、二人のサキュバスが文字通り木端微塵に破裂した。
一瞬にして赤黒い鮮血と粉砕された肉片によって路地裏は凄惨な光景となっていた。その中心で何故か返り血一つ浴びていないアクアは再び大きな溜息をついていた。
「まったく、めぐみんが動いたっていうのに私はこんな……」
アクアは意気消沈した様子で路地裏を去っていった。それを見送ってから数分後、路地裏に黒い靄で出来た門が現れた。そこから、先ほど木端微塵になったはずのサキュバス二人組が五体満足の状態で現れた。これが噂に聞く悪魔の残機と呼ばれるものなのだろう。彼女達悪魔は命を複数持つ事だって出来るのだ。
「もう勘弁してよ……先輩にはアクセルの街なら簡単に残機増やせるって聞いたのに……」
「泣き言は言わないの! これでもマシになった方だと思いなさい。アクア様じゃなくて女神エリスが仕切ってた頃は毎日のように”残機ごと”同胞が殺されて消滅してたじゃないか」
「うん……でも私には今の状況もたいして変わらないと思うのだけど」
サキュバス達の話を盗み聞きしていた私は樽の中でクリスをこずく。彼女は苛立たし気にぽつりと呟いた。
「余計な事を」
クリスは樽の蓋を開けて路地裏へと出て行った。それに続き私も樽から出る。そして、サキュバス達は私達の登場に心底驚いたのだろう。尻もちをつき、這いずるように私達から逃げ出そうとする彼女達をクリスは足で踏んづけて押しとどめ、大振りのナイフをすらりと抜いた。
「ひいぃ!? 許してください……私達は貴方に不利な情報は出してないですぅ……!」
「悪魔に許すも許さないもないんだよ」
「待って……本当に……私達はもう残機がつきて……あぎゃああああっ! あっ
……ああ――」
クリスは少し顔をニヤつかせながら這いずるサキュバスの長い黒髪を引っ掴み、まるで肉や魚をさばくようにためらいなく首を斬り始めた。ごりごりとナイフを動かすたびに溢れる大量の鮮血はどこか現実味のない光景であった。結局、身体から切り離されてしまった生首を、クリスは必死に逃げようとしている金髪サキュバスに投げつける。仲間を失ったサキュバスは子供のようにわんわんと泣いていた。畜生以下の存在である悪魔を滅するのはエリス教徒として妥当だと思うのだが、それはそれとして少し可哀想であった。
「なんで……なんでこんな……絶対に許さない……バニル様に言いつけてやる……!」
「あの悪魔はよっぽどの事がなければ動かないよ。君みたいな糞虫が消えてもどうとも思わない」
「そんな事は……ぎぅっ!?」
「おっと、死人に口なしってのも追加だね」
何かが破裂したような乾いた音が響き渡る。気づいた時には、泣きわめいていた金髪のサキュバスは地面の血だまりに倒れ伏してビクビクと痙攣していた。そして、彼女達の亡骸は色を失い、灰となって風に飛ばされて行く。クリスはその光景を満足そうに見つめながら、前の周回でも目にした拳銃をくるくると手で弄んでいた。
「さて、それじゃあ次のスポットに行こうか」
ふんふんと鼻歌を歌いながら機嫌よさそうに歩くクリスに私は無言で付き従った。
行き着いたのはカズマの屋敷から少し離れた別の民家であった。私とクリスはその民家の二階の窓から、望遠鏡を突き出してカズマの屋敷を観察していた。やっている事は完全にストーカーのようなものであるが、今更な話であった。
「ん~やっぱ不便だねえ……以前だったら私の所有してる神器で屋敷の隅々まで観察出来たんだけどね。アクア先輩の警戒が強くなってからはこのざまだよ。ん、襲撃者への無差別攻撃を実行する術式が自動じゃなくて任意に切り替わってるからアクア先輩は屋敷に帰ってるみたいだねぇ」
「私には屋敷の外観と一部の部屋が見えるだけで変わった様子は見られないが……」
「まあ普通の人間じゃ認識出来ないのはしょうがないね。あたしもダクネスみたいに気楽に出入りしたいよ……今じゃ侵入したら肉片一つ残らないほどのぐちゃぐちゃになるからね」
クリスはどこか覇気のない様子で望遠鏡から顔を離し、壁に背を預けて座り込んでしまった。そして、懐から取り出したスキットルに口をつけてグビリグビリと飲み干して行く。私はそんな彼女の横に腰を降ろし、大きな溜息をついた。
「それで、私としてはそろそろ説明をして欲しいんだが」
「説明って、今まで見てきた事が全てだよ」
「あれで理解出来るわけないだろう。様子のおかしいアクアに、怯えたサキュバス、カズマの屋敷の近くにわざわざ家を買って、やってる事が単なるストーカーなクリスの事が聞きたい」
「別にたいした話じゃないよ。でも……そうだね……どこから話そうか……」
天井を見上げながら、ぐでんと体制を崩すクリスの横っ腹を私は肘で小突く。そうして、彼女は観念したようにポツポツと喋りだした。
「言っただろう? あたしも助手君が……カズマ君の事が好きだったんだ。でも、敵わない恋だって理解してた。でも、彼への好意が抑えられなくてね。結果として彼の事を徹底的にストーキングして、彼にまつわる品物を集めだしたのはその時さ。使用済みコップから髪の毛まで、際限なく収集してたよ」
「気持ちは分かってしまうのが悲しいが行動に移すのは気持ち悪いな」
「言ってくれるねえ……ともかくそんな”情報収集”の際にサキュバスの事について知ったんだ。望みの淫夢を見せるあの店には彼が夢を見る時の注文書、つまりは自慰に使用した女の子の名前とか、シチュエーションを書いたアンケート用紙を顧客情報として残してたんだ。あれはあたしにとってある意味貴重な資料だったね」
カズマの性事情については自分から探ろうとも思わなかったが、非常に興味深い点である。酒に酔ったアクアが『馬小屋時代は私の寝顔を見ながら一人で醜くシてたわよ』と爆笑しながら話していた事もあるが、情報源が彼女なので非常に怪しい所であった。
「でも、紙媒体での情報じゃちょっと物足りないでしょう? だから、あたしはサキュバス達から見せた夢の記憶を抜き取って集めてたんだよ。まあ少し荒業だったから記憶障害を起こして廃人になっちゃう子もいたし、もう利用価値がない子だから情けで浄化もしてあげてたの」
「悪魔は滅するべきだが少し可哀想だと思うんだが……」
「人間の姿に似てるからそう思っちゃうけど、女神は相手を”中身”で見るからそんな感情はないね。貼り付けた皮は綺麗だけど、中身はどうしようもなく醜悪な化け物さ。しかも、この街で精気を稼いだサキュバスは他の所で悪さをしてるの。おおぴっらに滅ぼすと彼に嫌われちゃうから、ちょっとずつ間引いてたんだよね」
スキットルの飲み口を名残惜しそうにペロペロと舐めるクリスを私はじっと見つめる。こんななりではあるが、彼女の本体は女神エリス。さっきも記憶を抜いたとか言っていたが、彼女はそれを出来る力があるのだろう。じわじわと彼女やアクアを敵にまわす恐怖が再燃してきた。
「ここで問題になったのが彼がサキュバスに頼んだ夢の内容なの。凝り性な彼は様々なシチュエーションとか要望とか自慰の対象にする人物をアンケート用紙に毎回細かく記載してるんだけど、過去に三回だけ全部の記入欄を”おまかせ”にした事があるの。そんな時はスタッフ記入欄にサキュバスが見せた夢の内容について簡単に書いてあるんだけど……そのおまかせの三回に出たの女の子はアクア先輩だけみたいなんだよね」
「それが何の問題になるんだ? まあ、カズマがアクアをそういう対象として意識してるのは意外……いやそんな事はないか」
「問題なのは”おまかせ”ってところなの。サキュバスの記憶を弄ってて理解出来たんだけど、そういうお客の要望に対してはお客の深層意識……”無意識”から真の欲望を抽出して夢に見せてたみたい。それで、おまかせ1回目はカズマ君が酔って寝てるアクア先輩に悪戯するって可愛いものだったんだけど……」
複雑そうな顔をするクリスに私もコクリと頷く。カズマが無意識ではアクアを求めていたという事実は受け入れ難いが、二周目を経験した今となっては受け入れるべき情報である。なんだかんだ言いながら、カズマはアクアに対して強い執着を持っているのだ。
「おまかせの二回目の内容は『もしアクアが彼女だったら』っていう少し異色なものでね。ちょっと甘すぎて吐きそうな内容だったし、実際に彼も嘔吐してたみたい。サキュバスから抜き取った記憶にも宿屋の裏手で吐いてるカズマ君を確認しているよ」
「なあ、その……私やめぐみんはカズマの夢に出てないのか?」
「もちろん、彼が要望を記入した夢では君たちはかなりの頻度で彼の餌食になっていたよ。100回じゃすまないくらい、ダクネスは彼の夢で犯されてる。でも、彼が無意識で求めた夢にはアクア先輩しか登場してないし、この三回以外はアクア先輩は登場していないの。それで重要なおまかせ三回目なんだけど……これがまだ内容が分からないんだ。スタッフ記入欄には見せた夢の内容について『女神アクアと過ごす理想的な未来』と一言しか書かれていなかったんだよ」
クリスは肩をすくめて残念そうにため息をついていた。私も一緒に呆れるしかない。カズマがアクアに執着している事はよく理解出来た。だが、それを自分にすら隠している彼には女として少し思う所も出来てしまった。
「それで、私がその三回目の夢を見せたサキュバスの行方を追ってる時に、アクア先輩にあたしがしていたストーキング行為とか何やらがバレちゃってね。その時にあたしの記憶をアクア先輩が見ちゃって……結果としてそれ以降の彼女は少し”バグ”っちゃったのさ」
「バグ……?」
「あーなんというか……あたしの”人間的な感情”とか”合理的な考え”をラーニングしちゃったみたいでね。君とめぐみんに対しては今まで通りだけど、それ以外についてはすこーし辛辣になってるよ」
「なるほど、つまりお前が諸悪の根源か」
「あははっ……どうしよう、何にも言い返せないよ……」
乾いた笑いを見せるクリスを前に私は思わず頭を抱えてしまう。思えば、二周目でも以前よりかは理知的な部分を見せていたのはアクアがこのストーカーに影響された事も関係していそうだ。また、さっきのサキュバスへの仕打ちもアクアにしてはなかなか苛烈であった。それも、クリスから学んだ部分なのであろう。
「とにかく、アクア先輩は失われた三回目の夢について今も捜索中。多分、あれが見つかったら終戦になちゃうからあまり時間的な余裕はないと思うよ。だから、頑張りなダクネス」
「随分と他人事だな。お前のせいで私は苦境に立たされてるんだぞ……」
「あたしなんかアクア先輩に悪事も何もかも握られちゃってるから苦境どころか詰みだよ。だからせめて、あたしはダクネスに勝ってほしいんだ。自分じゃ無理なら、推しを応援するって感じかな」
「信用できんな」
「それでいいんだよ。自分以外は全員敵。それくらいの覚悟を持たないとアクア先輩やめぐみんに出し抜かれちゃうからね……っと屋敷に動きありだよ。術式が自動に切り替わってる」
再び望遠鏡を覗き始めたクリスの声を聞き、私は急いで立ち上がる。とにもかくにも今は情報収集に徹する。悩むことは後からでも出来るからだ。私達はクリスの購入した家から脱出し駆け足でカズマの屋敷へと向かう。そんな時、屋敷の正門からあくびをしながら外出するカズマの姿を見つけた。そして、それを物陰から観察していた私達はカズマの後方からアクアがこちらと同じように物陰から彼の後をつける様子が見て取れた。そのままゆっくりと歩くカズマ、それをストーキングするアクア、さらにそれをストーキングする私達と言う奇妙な光景がしばらく続いた。
「おい、隠れてないで出てこい。後をつけてるのは分かってるぞ」
振り返りもせずに突然そんな事を言うカズマに私達は身体をビクリと震わせて物陰に身体を更に小さくして隠れる。だが、アクアの方は観念したように物陰から姿を現した。
「お前なあ、俺と一緒に外出したいなら素直に連れてけって言えよ」
「別に私はアンタとなんか外出したくないわよ。ただ、ちょっと外の様子が気になったっていうか……」
「苦しい言い訳はやめろアホ。で……どこに行く? この前の秘湯巡りの続きでもするか? それとも……今は昼時だし王都グルメツアーの続きの方をするか」
満面の笑みで話すカズマと、頬を紅く染めながら話すアクアの様子は私の嫉妬心を激しく擽るものであった。何よりカズマがどことなく嬉しそうに笑っている姿が非常に苛立たしかった。
「そうね……私はカズマが行きたい方がいい」
「まったく、そういうのが一番困る答えだからな。まあいい、掴まれアクア。テレポートすっぞ」
「んっ……手繋いで……アンタも男なんだし、ちゃんと私をエスコートしなさいな」
「へいへい」
差し出したアクアの手をしっかりと握り返したカズマが魔法発動による魔力光によって姿を消す。残された私は横でふてくされた顔をしているクリスを小突いた。
「カズマ達の行き先は?」
「あたしも知らないよ。私達と同じように認識阻害を使ってるみたい。こうなったらもうお手上げだね。さあ、それじゃあ拠点に帰ろうか」
それから、私達は二人でとぼとぼと屋敷の観察をしていた民家へと引き上げる。お互いに口数は少なかったが私とクリスの思いは一致している気がした。
「ねえ、これからどうするダクネス?」
「やる事は変わらない。引き続き情報収集だ」
「カズマ君に攻勢をかけなくていいの? 君の話が確かだとするとこのまま放置すると6日目の夜にめぐみんと……」
「それでいい。アクアの事についてはある程度は理解した。それならば、めぐみんについても知っておかなければならない。それが”今回”の私の役目だ」
「へえ……」
不機嫌そうに顔をしかめるクリスに私は無表情で返す。これは私が今回の情報収集を決意した時点で決めていた事だ。今回、私は何もしない。何もしなければどうなるかを改めて見届けるつもりであった。
「クリス、最後に教えて欲しい。アクアを対策する上で何が重要なのだろうか」
「ふーむ、まあこのまま放置してもアクア先輩は滅多な事はしないと思うよ。でも、”気づかせちゃいけない”。だから、基本的にはアクア先輩とは関わらず、余計な事を言わないのが一番だよ」
「そうか、助言感謝する」
そんな会話をしていた時、ふと一つの疑問が湧き出る。足を止めてしまった私を、クリスは足を止めてじっと見つめてきた。その瞳に私は真っすぐとした視線を返した。
「なあ、どうしてお前もアクアも、カズマから直接記憶を引き抜かないんだ?」
「ええ、それ言っちゃうの……」
呆れたように肩をすくめたクリスは私の瞳にまなざしを返しながら頬を薄く染めて照れたような微笑みを浮かべた。
「それはあたしもアクア先輩も女の子って事だよ。色々とおかしくなって吹っ切れたあたし達だけど、乙女心はあるのさ。彼を振り向かせるより、自分を振り向かせて欲しい。そんな日が来ることを夢見ているのさ」
照れ臭そうに微笑むクリスの姿は間違いなく恋する乙女の姿であった。
私は民家に上がり込みながら今後の方針を再度固める。私はもう一つ確かめたい事がある。
だから、私はこの世界を捨てる決意をしたのだ。
「お前は嘘つきじゃないよな、めぐみん」
戦翼のシルグドリーヴァでリゼロ二期の間を埋めてます
とりあえず、みやこって女の子が話が進むたびにハイタッチする相手が減っていって
顔が曇っていく気がするな!