知っている人は記憶を消してください。
恥ずかしいので。
二〇十六年、七月。
私は今、丸亀城にて、勇者である一人の少女をじっと見ていた。
その少女は、いつも通りどこか悩んでいるような顔で窓の向こうの青空を見つめている。
彼女の名前は
香川県出身の中学二年生。四国を防衛する勇者の一人である。
好物はうどんで趣味は鍛錬、得意なことは居合。
性格は少し頑固だが、芯が強くて情に厚い。とても優しい子だ。
そんな性格からか、バーテックスには一層強い憎しみを抱いている。
外見についても触れておこう。
美しい金髪に整った顔、身長は他の勇者と比べて高く、スタイルも良し。
私は特にあの鍛え上げられた太ももが好きで、常日頃から触りたいと考えている。
しかし、そのためにはあの若葉大好きお化けの目を逃れなければならないのでこの小さな夢が叶うことはないだろう。
「薊ちゃん、若葉大好きお化けって、誰のことですか?」
若葉大好きお化けが誰のことかって?ここに住んでてひなたを知らないを知らない人なんてこの丸亀城には一人もいないよ?
「そうなんですか?」
そうなんですよ。
「若葉大好きお化け」、その名も
香川県出身の中学二年生。好物はうどんと骨付き肉。趣味は本人曰く家事らしい。
胸が平均より大きく、とある勇者仲間は「あれはメガロポリスだ」と言っていた。
勇者付きの巫女で、みんなからは「勇者を懸命に支える素晴らしい人間だ」なんて言われてる。確かにそれは間違ってない。しかし、私や他の勇者のように彼女の近くにいるともっと別のことに目が行く。
「ふふっ、悩んでる若葉ちゃんの横顔も素敵ですね!」
彼女は幼なじみの若葉が大好き過ぎて、常日頃から若葉の生活の中に入り面倒を見ることで若葉が生きる上で彼女に依存するように仕向けているのだ。
それに彼女は若葉ちゃんの横顔コレクションとかいう謎の写真集を所持していたり、若葉の弱点はすべて把握済みだったりと、知れば知るほど若葉オタクで変態だということがよくわかる。
「薊ちゃんは私のこと、変態だと思ってたんですねー」
ほら、今だってこうやって私と一緒に若葉を見て――
「私、薊ちゃんと一年間仲良くしてきたのにずっと変態扱いされたなんて……シクシク」
……これは予想外だった。まさか気づいたら隣に彼女が居るなんて。
それにこの子、気づいたら居るなんて隠密性能が高すぎるのではないだろうか。
「……いつからここに?」
「えっと、『彼女の名前は乃木若葉。』ってところからですね」
「は⁉最初からじゃん!声かけてよ!」
「私は最初の方に声かけましたよ。そもそも、あれって私に喋りかけていたんですよね?」
「いや全然そんなつもりは……待って、さっきの全部声に出てた?」
「はい!しっかり声に出ていましたよ!」
まさか声に出ていたなんて、全く気付かなかった。
いや、今はいい。とにかく、ひなたに聞かれた以上そんなことを気にしている場合ではない。
彼女の顔を伺ってみると心なしか額に青筋が浮かんでいるように見える。少し言い過ぎたみたいだ。
「……ごめんなさい!」
若葉が「ひなたが怒っている時は素直に謝るのが一番だ」と言っていたのを思い出してすぐに実行。謝罪の角度はしっかり九十度、そこら辺の政治家よりも綺麗なフォームだ。
「別にそんなに怒っているわけではありませんよ。でも……」
どうやら予想よりは怒っていないらしい。そう思って安心したのも束の間、彼女は小さなため息をついた後、私の耳に顔を近づけて一言囁いた。
「でも……もし若葉ちゃんの太ももに触ったりしたら、本当に怒っちゃいますよ?」
訂正、めちゃくちゃ怒ってた。
もしかして、素直に謝ってすぐに許してくれるのは若葉でなのでは?
ゴゴゴゴ、といった感じで後ろに鬼が見えるひなたの前で私が出来ることは、黙って頷くことだけだった。そして再び思う。
ああ、やっぱり彼女は変態だ――
「薊ちゃん?」
「いえ、別に何も考えてませんよ。えぇ、ひなたは変態だ、なんてことは一切、全く、これっぽっちも、はい。」
「ひなたも薊も、何の話をしているんだ?」
「ナイスタイミングだよ若葉」
「何のことだ?」
ここで救世主が助けてくれた。流石は勇者である。
実際は助けようとしたのではなく会話が気になっただけだろうけど。
「何でもないですよ。それより、また考え事ですか?」
ひなたは若葉ファーストなので目の前に若葉と一緒にいる時は若葉を優先するため、私を見逃してくれるのだ。
普段は周りのことに対して鈍い鈍感若葉ちゃんだが、今日はそれに感謝。
あと胸について言ったの何も突っ込まれなくて助かった。
「あー、まあ、少しな……」
「もう……若葉ちゃんは最近悩み過ぎですよ。ほら、若葉ちゃんのひなたが何でも聞きますから、話してください。今日は特別、めんどくさがり屋の薊ちゃんも聞いてくれますよ。」
まさかの巻き込みである。しかし若葉ちゃんのお悩みに関してはいつもひなたが一人で聞いているのに急に巻き込むなんて珍しい。
まあでも、先ほどのことを考えるとここで協力することで反省の意を示せるのなら手伝うのが得策だろう。
「しょうがないなぁ。若葉、薊お姉さんも君の悩みを聞いてあげるよ」
私がニヤニヤしながらそう言うと、若葉は苦笑いをしながらありがとう、と私とひなたに一言入れてから話し始めた。
「実は……白鳥さんを蕎麦派からうどん派に変えたいのだが……中々難しくてな……」
「「……」」
「最近はずっと説得材料を探しているのだが、見つからないんだ……ん?どうした?二人とも」
「いえ……なんでもないですよ。ですよね?薊ちゃん」
「……そうだね、なんでもないよ。若葉ちゃん、続けてどうぞ」
……まあ、こういう時もあるだろう。
平和な時間というのは、常にこんな感じで過ぎていくものだ。
あれから一年、今日も四国は平和である。
◇
とある夏の日。私は今、丸亀城に来ている。
普通の学生なら今は夏休み期間中、本来ならば学校には人が居ないはずである。しかし此処、丸亀城は違う。
それもそのはず、通っているのは勇者六人に巫女一人。
彼女たちはいつか来るバーテックス襲来に備えて、夏休み中も丸亀城で鍛錬を行わなければならない。
巫女であるひなたは例外だが、彼女は勇者付きの巫女であるため、勇者の鍛錬をサポートするという形で毎回来てくれている。
そんなわけで今日は、勇者が全員集まっているのだ。
「今日も鍛錬お疲れ様です。若葉ちゃん、これタオルです。それに皆さんもどうぞ」
ひなたが労いの言葉とともに、全員にタオルを持って来てくれた。
「ありがとう、ひなた。いつも私たちのためにまない」
「いえ、これが私の御役目ですから。それに、私がやりたくてやってるんですよ」
「そうか……なら、これからもよろしく頼む」
「……はい!もちろんです、若葉ちゃん!」
「それよりひなた、後でお願いがあるんだが――」
若葉が申し訳なさそうにひなたにお礼を言い、笑顔で返事を返すひなた。
そこから繋がっていく自然な会話。知らない人から見たら熟年の夫婦に見えるのではないだろうか。
「――いや、熟年の夫婦かよっ!」
「うわっ!土居、行きなり大声を出してどうしたんだ?」
どうやら知ってる人からもそう見えたらしい。もちろん、私からもそう見える。
「自覚なしかよっ!」
「タマっち、いきなり大きい声出さないでよ~」
大きな声でツッコミを入れた球子は鈍感な若葉に更にツッコミを重ねる。
すると、それにビックリした杏が迷惑そうに球子に苦情を入れた。
「あ~ん~ず~!また『タマっち』って言ったな⁉タマは年上なんだからタマっち先輩と呼べっ!」
「タマっちは付けてもいいの……?」
「あだ名で呼ぶのは仲良しってことだからなっ!」
怒った球子に対して杏は困惑の表情を浮かべる。
外野から見ればこの二人の仲の良さも相当なのだが。
そんな彼女たちの名前は
当たり前だが、二人とも勇者である。
まずは土居球子。
愛媛県出身の中学二年生。
好物はうどんで趣味はアウトドア。キャンプとかが好きらしい。
性格は男子小学生のような、目立ちたがり屋でわんぱくな少女である。また、バーテックスに対して立ち向かっていく勇敢さがある。
そして、杏を妹のように大切にしているが、赤の他人から見れば球子が妹に見えることもしばしば。
一応、外見にも触れると、胸がぺったんこで――
「あざみ~、今なんか失礼なこと考えなかったか~?」
「……いや、そんなことはないよ」
……危なかった。
次は伊予島杏。
こちらも愛媛県出身の中学二年生。
出身は球子と同じだが、若葉とひなたのような幼なじみという関係ではなく、バーテックス襲来の日に出会って仲良くなったらしい。
好物はうどんで趣味は読書。「恋愛小説が大好きなんです」と本人は語っていた。
性格は球子とは対照的で控えめで女の子っぽさが強い少女である。また、自信をあまり持てないため、バーテックスにも恐怖を感じているようなので襲来時には変身できない可能性がある。
そして、球子が杏を大切に想っているのと同等に球子のことを想っている。
外見は球子より背が高く、アレも大きいのでやはりこちらが姉なのでは――
「おいっ!今絶対失礼なこと考えただろ!」
「タマっち先輩!薊さんは何もしてないのに、失礼だよ!」
「だって!あざみはタマとあんずの方見た後に変な顔して頷いてたぞ!絶対変なこと考えてるだろ!」
「え?そうなんですか?薊さん」
どうやら考えていたことが顔に出ていたらしい。
それにしても、球子は察しが良いみたいだ。野生の勘というやつだろうか。
「いや、そんなことは考えてないよ。ただ、二人は仲良しだな~と思ってね」
「……!まあ、タマたちは姉妹みたいなもんだからな!な?あんず!」
「もう、タマっち先輩ったら……」
二人の仲を褒められて笑顔になる球子、彼女はとても単純である。
ひなたとは違って誤魔化しが効くので扱いが楽だ。
その証拠に、杏は呆れたように笑っている。
「でも仲良しっていったら……あのお二人もそうですよね」
「誰のことだ……?あー、友奈と千景か。確かにあの二人もすっげー仲良いよなー」
「……確かに、あの二人も仲良しだね」
三人が視線を向けた先には、二人の少女の姿があった。
「ぐんちゃん!鍛錬お疲れ様!今日もかっこよかったね!」
奈良県出身の中学二年生。
好物はうどんで趣味は武道。
勇者として戦う時は他の勇者のように武器を持つのではなく、得意な武道を生かし拳で戦っている。
性格はいつも明るくて元気いっぱいで、彼女がいると勇者たちの雰囲気も良くなる。
それに人の気持ちに敏感で、誰に対しても優しい。
それ故に、今もこうして人付き合いが苦手な人とも仲良く話せている。
「そんなこと……高嶋さんの方こそ、かっこよかったわ……」
高知県出身の中学三年生。
好物はうどんで趣味はゲーム。ガンシューティングとかが得意らしい。
私を入れると二番目になるが、四国の勇者の中では一応最年長。
綺麗な黒髪ロングが清楚な雰囲気を感じさせる。これが大和撫子というやつだろう。
性格は少し暗く、人付き合いが苦手。
そのため友奈以外の勇者は距離を測りかねて、中々打ち解けられていない。
そして、勇者の中では一番心が脆い。
これはこの子の過去を考えれば仕方がない。しかし、大社はその辺りをあまりフォローする気がなく私に一任してしまっているので、これからバーテックスと戦う上で一番の懸念点となっている。
だが、勇者たちを見てるとそれも大丈夫な気がする。
球子は千景が脆いのに気付き心配しているし、杏もなんとなく気付いている。
それに、友奈がいるうちは問題も起きないはずだ。
問題があるとしたら、若葉の心が強すぎて千景と衝突しないかということだが、そこはひなたがどうにかしてくれるだろう。
まあ、それは置いといて――
「千景ももう少し、他の勇者と仲良くしてくれるといいんだけど……」
今みたいに、高嶋さんと話す時は笑っているがそれ以外の時は中々笑顔を見せてくれない。
「千景さん、近寄りがたい雰囲気してますからね……」
「そうなんだよなー……あれ?でも、あざみは結構話せてるよな?」
「あー……まあ私は千景より年上だし、君たちと少し立場が違うからね」
今言ったように、私は勇者の中で最年長のため勇者の監督役、悪く言えば監視の任務を与えられている。
そのために大社からは、勇者たち全員分の経歴、過去を教えられている。
もちろん、他の勇者には内緒である。知っているのは大社の人間とひなただけだ。
それにしても、外部の勇者に大事な任務を押し付けるなんて、大社も勝手な組織である。
まあその任務を受けているからこそ、大社を無視した行動を起こしても多少は許されているわけなので放棄はしないが。
そう、私は他の勇者と少し立場が違う。
「薊さんと友奈さんは凄いですよね。誰とでも仲良く出来ますし」
「確かになぁ、友奈はともかくあざみは別に明るくないのになんで話せるんだ?」
「タマっち先輩、それは失礼……」
「でも、あんずも気になるだろ?教えてくれよあざみー。やっぱりあれか?『パリピ』ってやつだからか?」
「まあ、気になりますけど……」
「だろー?教えてくれよあざみぃ!東京出身はみんなパリピなのか⁉」
杏は優しいが球子は容赦がないな。だがそれも気を許してくれている証拠だろう。
「いや、パリピじゃないけど……まあ、あれだよ。元『東京』の勇者の実力ってやつだよ」
「やっぱりそうなのか⁉いいな!タマも東京行ってみたいぞっ!」
東京、一年前まで日本の中心だった場所。
「もう行けないけどね~」
「うっ、ごめん……なら、どんな感じだったか教えてくれよ!」
「タマっち先輩ったら……でも、私も気になります。どんな場所だったんですか?」
そっか、気になるのか、困ったな……
「ん~……実は私東京のことあまり――」
「タマちゃん!アンちゃん!あざみん!それに若葉ちゃんにひなちゃんも!みんなでうどん食べに行こーよ!」
おっと、ナイスタイミング友奈に千景。
偶然とはいえやっぱり友奈は空気が読めるなぁ。
「あっ……確かに、もうお昼ご飯の時間ですね」
「おっ!いいなうどん!タマも食べるぞ!若葉たちも行くよな?」
「私も行かせてもらうぞ!鍛錬の後のうどんは美味いからな!」
「私も行きますよ。薊ちゃんも行きますよね?」
……やっぱりみんな仲良しだなぁ。うどん好きだし。
「……薊ちゃん?」
「ん?ひなた……どうしたの?」
「何か考え事ですか……?」
「いや……みんな仲良しだなぁって。私だけ蕎麦派だし、何だか仲間外れにされてる気分だよ」
「何を言っているんですか……ほら、行きましょうっ!
「わわっ!ちょっと、引っ張らないでよ!」
最後に、私の自己紹介をしておこう。
私の名前は
東京出身の高校一年生。
身長は若葉と千景の間ぐらい。髪は灰色で先端が少し紫色になっている。
好物は蕎麦で趣味は特になし。強いて言えば人間観察。
そして、一番大事なことはこれ。
私は、『東京』の勇者である。
書くのが下手なので陳謝します。