乙女アイドル ~久川家の三つ子の弟~   作:アンセンブル

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第10話 乙女デート

「うぅ……お腹痛くなってきた」

 

「大丈夫です、今回は受かりますよ!」

 

穂乃香さんと柚さんのオーディションの結果が送られてきた。2人の結果を見ようと俺となー姉、忍さんとあずきさんが集まる。

 

「じゃあ開けるよ、せーのっ」

 

2人が同時に封から1枚の紙を取り出す。

 

「合格です」

 

「やった、さすが穂乃香ちゃん!」

 

「柚さんは……?」

 

「……合格」

 

柚さんは信じられないというような顔で俺たちに一次審査通過と書かれた紙を見せてきた。

 

「やりましたね柚さん! おめでとうございます!」

 

「ありがとう……えへへ」

 

柚さんも穂乃香さんも一次審査通過、考えられる最高の結果だった。みんながオーディション通過の喜びを分かち合う。そしてあずきさんがある提案をした。

 

「ねえねえ、明日はみんなオフでしょ? みんなでどこか遊びに行かない? お祝いと最終審査合格の願掛け大作戦!」

 

「いいね、やろうよ」

 

「ぜひ、柚ちゃんは?」

 

「柚は……今回はパスかな」

 

柚さんはもちろん参加すると思ったが、帰ってきたのは予想外の返答だった。

 

「えー、なんで?」

 

「ちょっと用事があって……」

 

「なら仕方ないか……。凪ちゃん達は?」

 

あずきさんはあっさりと引き下がり俺となー姉にも聞いてくる。

 

「え、私たちもいいの?」

 

「もちろんだよ!」

 

「でしたら凪は参加を表明します。先輩の誘いは断ってはいけない。祖父の口癖です」

 

「初めて聞いたよ」

 

「颯ちゃんは?」

 

「うーん、私も用事があるからパスで。ごめんね」

 

俺は行かないことにした。柚さんの用事というのは俺にジャージを返すことかもしれない。違ったら違ったで1人バドミントンをしてればいいので、明日は河原に行こう。

 

*****

 

そして翌日、オフの日

 

「じー君、おはようございます。昨日聞きそびれましたが用事とは一体何ですか?」

 

「おはよう。いつもの河原でバドミントンだよ。柚さんと会えるかもしれないから」

 

寮での朝の時間、部屋に入ってきたなー姉に今日のことを聞かれた。正直に話すとなー姉は何か納得したかのようにうなずいた。

 

「なるほど、そういうことでしたか」

 

「そういうこと。上手く会えるといいけど」

 

「きっと会えますよ。凪はあと少しで出るので、じー君は時間をずらして出発してください」

 

「おーけー」

 

こうして凪と穂乃香さんが寮を出たあと、俺は軽めの女装をして河原に出発した。

 

*****

 

バスを降り、途中で女装を解除して俺は河原へ到着した。辺りを見渡すが柚さんはまだいないようだ。俺は鞄を下ろしラケットを取り出そうとする。

 

「あ!」

 

その時、後ろから聞き覚えのある声がした。後ろを振り返ると、案の定そこには柚さんがいた。

 

「柚さん、おはようございます」

 

「おはよう、やっと会えた! ずっとキミのこと探してたんだよー」

 

会って早々、柚さんは鞄を開け、中から俺のジャージを取り出した。

 

「この間はごめんね、ジャージ返すの忘れちゃって、はいこれ」

 

そう言って柚さんは俺にジャージを手渡す。思ったよりも早く目的を達成できてしまった。

 

「そんな、気にしないでください。それよりあの後仲直りは出来ましたか?」

 

「うん、無事にね。これもキミが相談したおかげだよ。ありがとう!」

 

柚さんは少し顔が赤くして照れながら言う。なー姉に恋と言われたことで俺のことを意識してしまっているのだろうか。何にしてもあまり顔を見られたくないので今日はここでお別れさせてもらおう。

 

「じゃあ、俺はこれで」

 

「ま、待って!」

 

立ち去ろうとする俺を柚さんが呼び止める。

 

「え、えっと……その、このあとって時間あったりする?」

 

声が少しだけ震えている。普段のお調子者の柚さんからはあまり想像できない姿だ。

 

「ありますけど……」

 

「だったら、その……このあと遊びにいかない?」

 

「え……」

 

「その……あ、そう! お礼! アタシ、キミに励まされたから忍チャンたちとも仲直りできたし、演技の調子も上がってこの間オーディションを突破できたの! だ、だからお礼がしたいの!」

 

柚さんは必死に言葉を続けてくる。普段とは違うその姿はとても可愛いと思った。……じゃなくて、必死な姿を見ると断ることなんて出来なかった

 

「じゃあ、お言葉に甘えますね」

 

「っ! 本当、ありがとう!」

 

嬉しそうに笑う柚さん。やっぱりその姿は可愛かった。

 

「でも俺引っ越したばかりでここらへんの遊ぶところ全然知らないので場所は任せてもいいですか?」

 

「もちろん、生まれも育ちもここのアタシに任せて!」

 

「よろしくお願いします」

 

「そうだ、改めて自己紹介するね。アタシは喜多見柚、キミは?」

 

ジャージでお互いの名前を知ってるはずだが、まだ自分から名乗ったことはなかったなと今更思い出す。

 

「久川迅です。よろしくお願いします」

 

*****

 

それから2人でバスに乗り十数分、俺たちはあるところで降車した。

 

「あの……」

 

「ん?」

 

「ここ東京ですよね。なんでここに?」

 

降りたところは事務所近くの繁華街だった。初めてのオフの日に柚さんと穂乃香さんと一緒に買い物やパフェを食べたところである。

 

「だってウチの地元はちょっと大きな自然公園があるくらいで他は何もないからね。それに近くにこんな都会があるから友達と遊ぶときは大体ここになるよ」

 

「なるほど……」

 

どうやらその公園では遊ばないらしい。俺としてはその自然公園とやらに興味があるが……新たなバドミントン練習場所の候補として。

 

「うん……」

 

「……」

 

会話が途切れる。困った。はー姉になってるときはダンスのことやレッスンのことで話題が豊富なのに、迅だと何を話せばいいかわからない。柚さんも緊張してるのか口数が少ない。俺と柚さんの共通の話題といえば……

 

「そういえばバドミントンの道具を売ってる店ってありますか?」

 

「ん、あるよー。何か買うものでもあるの?」

 

「シャトルがハゲて来ちゃったから新しいの買いたくて」

 

「あー壁打ちやってるとそうなるよね。そっか、引っ越したばっかで練習相手がいないんだよね」

 

「はい」

 

「そういうことならちょうど近くにスポーツ店があるから案内するね」

 

柚さんが歩みを進める。道中もバドミントンの話をして俺たちはスポーツ用品店に向かった。

 

*****

 

やってきたスポーツ用品店はとても大きく、バドミントンのエリアだけでも十分広かった。

 

「うわー、すごい品揃えですね」

 

「でしょー。ウチの部活でもみんな大体ここを利用してるんだ」

 

お目当のシャトルはすぐに見つかったが、せっかくなのでお店の中を探索する。

 

「あ、バドミントン天国だ」

 

するとバドミントンに関するスポーツ雑誌「バドミントン天国」が目に入った。そういえば最新刊買ってなかったなと思い出しパラパラとめくる。

 

「あ、柚さんだ」

 

新発売のシューズの宣伝として、柚さんがモデルをしているページがあった。確かに今月のバドミントン天国に載るとかなんとか柚さんが言ってた気がする。黄色と緑のシューズは柚さんによく似合っており、商品の魅力が存分に伝わってきた。

 

「ちょーとちょっと! 迅クン何見てるの!?」

 

じっくりと見ていたら、柚さんがやってきて慌てて聞いてきた。

 

「何ってバドミントン天国ですよ」

 

「そうじゃなくてページ!」

 

「これ柚さんですよね」

 

「そうだけど! もぉ恥ずかしいよ〜」

 

柚さんは体をもぞもぞさせる。自分の写真が見られているのを見るのはそんなに恥ずかしいのだろうか。

 

「いい写真じゃないですか。かわいいですよ」

 

「か、かわいい? そ、そうなあ……」

 

頭をかいてはにかむ柚さん。今日の柚さんは表情がころころ変わって本当に面白い。

 

「じゃあ俺買ってきますね」

 

照れる柚さんを尻目に俺はシャトルと雑誌を購入したのだった。

 

*****

 

スポーツ店を出た俺たちはカフェで休憩することにした。柚さんがおすすめといってやって来たのは、初めてのオフで訪れた唐揚げパフェがあるカフェだった。

 

「じゃあ俺は唐揚げパフェで」

 

「迅クン迷いなくいったねー」

 

「チャレンジャーなので」

 

前回柚さんに分けてもらったが美味しかったため今度来たら注文しようと思っていたのだ。そんなことを柚さんに言えるわけないが。

 

「アタシはミニモンブランにしようかな」

 

「それで足りるんですか?」

 

「まあ時期に分かるよ」

 

そんな意味深なことを呟く柚さん。引っかかるものがあったが俺たちは注文を取った。

 

*****

 

「重い……」

 

パフェが運ばれ、俺はパクパクと食べていたが段々とペースは落ち、しまいには手が止まってしまった。この唐揚げパフェ、美味しいのだが唐揚げの油とクリームの油でとにかく重い。味も変化しないため後半になると飽きてしまう。前回は柚さんのを少しもらっただけなので気がつかなかった。

 

「まあそうなるよねー」

 

「知ってたなら教えてくださいよ……」

 

「いやまあ美味しいのは事実だし。ほら、アタシも食べるの手伝ってあげるから」

 

柚さんはこうなることを見越して控えめな注文をしたのだろう。流石は経験者である。

 

「じゃあお願いします、あーん」

 

「え!?」

 

「あ……」

 

しまった。完全にはー姉のノリであーんしてしまった。柚さんも固まってしまった。

 

「ご、ごめんなさい、冗談です……」

 

「あ、そ、そうだよね! 冗談か……冗談……」

 

せっかく打ち解けてきたのに再び妙な空気になってしまった。俺と柚さんは黙々と唐揚げパフェを完食したのだった。

 

*****

 

「よし、やっぱ遊ぶっていったらゲーセンだよね!」

 

カフェを出たあとはゲームセンターに立ち寄った。ダンス型のリズムゲームやエアホッケーなど体を動かすものを中心にやった結果、2人してお腹を痛めた。前回と違い男子禁制のプリントシールは撮らなかった。そして今はUFOキャッチャーの前で悪戦苦闘している。

 

「ぬわー! ブサイクのくせに手こずらせてー!」

 

柚さんは筐体の中のぴにゃこら太というキャラのキーホルダーに執着していた。なんでも穂乃香さんがぴにゃこら太好きでプレゼントしたいらしい。

 

「俺が縦の位置を見ますから今度こそ取りましょう!」

 

俺は筐体の横に回りアームの位置を柚さんに伝える。結果アームはなんと2つのキーホルダーを掴み、見事手に入れることができた。

 

「やった!」

 

「すごい! 2つも取りましたよ!」

 

いえーい、とハイタッチをして喜びを分かち合う俺と柚さん。

 

「あ、やっぱり柚ちゃんだー!」

 

するとそこに、後ろから声がかけてきた人がいた。振り返るとそこには目を丸くしたあずきさんがいた。

 

「あ、あずきチャン!? どうしてここに?」

 

あずきさんだけじゃない。穂乃香さんに忍さん、そしてなー姉までもが一緒にいた。

 

「どうしてってアタシたちはここで遊んでただけだけど……」

 

なるほど、大作戦はここで行われてたらしい。

 

「あ、もしや手に持ってるのはゲームセンター限定のぴにゃキーホルダーですか!?」

 

「そんなことより! 隣の男の子ってもしかして柚ちゃんの……」

 

「じゃあねみんな! また明日ね!」

 

「あ、柚さん待ってくださいー」

 

あずきさんたちから逃げる柚さんを俺は慌てて追いかける。男の姿を柚さん以外にも見られてしまった。バレてなかったみたいだけどすごく心臓に悪い……

 

*****

 

「ごめんね、つい逃げ出しちゃって」

 

ゲームセンターから逃げたあと、俺たちは最初の河原まで戻って来た。

 

「あーあ、明日絶対にからかわれるなー」

 

「まあキーホルダーも取れたしいいじゃないですか」

 

「むー……」

 

柚さんは獲得した2つのキーホルダーを見て何やら考えている。そしてキーホルダーの1つを俺に渡してきた。

 

「迅クンにこれあげる!」

 

「え?」

 

「もう一個はアタシの鞄にっと」

 

そう言って柚さんは自分の鞄にブサイクと言っていたぴにゃこら太を付ける。なんだかんだぴにゃこら太のことが好きなのかもしれない。

 

「あれ、穂乃香さんにプレゼントするんじゃ……」

 

「せっかくアタシたちが協力して取ったんだからなんかもったいなくて……。あ! そういえば穂乃香チャンのファンだったよね? もしかして穂乃香チャンにプレゼントする方が嬉しかった!?」

 

そういえば柚さんの中で俺はフリスクの中の穂乃香さん推しだった。

 

「そんなことないですよ。柚さんからプレゼントを貰えるなんてすごく嬉しいです」

 

「そう……えへへ、良かった!」

 

俺が鞄にキーホルダーを付けると柚さんは嬉しそうに笑う。お揃いのキーホルダーを付けるなんてなんだかすごく恥ずかしい。

 

「それでさ……またこうして会えるかな?」

 

「え?」

 

「ほ、ほら! 迅クンバドミントンの練習相手いないって言ってたじゃん? アタシでよかったら付き合うよ!」

 

「でも……」

 

「ダメ……かな?」

 

不安そうに柚さんは見つめてくる。あんまり男の姿で仲良くすると正体がバレてしまう恐れがある。今日だって本当はジャージを受け取って帰る予定だった。

 

「ダメなわけないじゃないですか」

 

「本当?」

 

「次の水曜日またここに来ます」

 

「水曜……うん、アタシも空いてる!」

 

でも結局、遊びの誘いも今も断ることが出来なかった。いや、断りたくなかったのかもしれない。それほど俺の中で柚さんと過ごす時間は特別なものになっているのか。

 

「ではまた。今日は楽しかったです、ありがとうございました」

 

「うん、アタシも楽しかった! また水曜ね!」

 

柚さんと別れる。寮への帰り道、俺は今日のことを思い返していた。お転婆な柚さん、笑顔の柚さん、弱気な柚さん……。今日一日でいろいろな柚さんが見られた気がする。寮でなー姉に問い詰められるまで、柚さんは俺の頭の中をぐるぐると回り続けていたのだった。

 

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