女子寮……それは遠方から来たアイドル達の宿舎でありもちろん女性しかいない。ここで俺はこれから生活していくのだ。
「さて、ここがうちのアイドル事務所の女子寮だ」
そんな女子寮にやって来た俺となー姉とプロデューサー。事務所もでかいが寮もでかい。都会のスケールに俺は驚かされた。
「俺はこの1階のホールまでしか入れないからここまで。後の寮の説明はまた別の人に頼んでいるから」
プロデューサーでも1階までしか入れないほど男子禁制は徹底されているのか。
「プロデューサーさん! 早いですね」
すると奥から髪をサイドでまとめた女の子がやってきた。
「響子、今日は頼むな。それと自己紹介を頼む」
「はい、五十嵐響子15歳です。鳥取県から来ました!」
「女子寮の案内は彼女に任せたから。俺は事務所に戻るから、何かあれば連絡してくれ」
「わかった!」
「本日は誠にありがとうございました。明日の凪も期待しててください」
「明日も着いたらプロデュースルームに来てくれ。じゃあ響子あとはよろしくな」
「はい、任せてください!」
*****
さっそく響子さんに連れられてプロデューサーでも入れない2階へ足を進めた。
「ここ2階は共用スペースです。向こうには洗濯機があってそっちにはキッチンがあります。冷蔵庫もありますけどおやつは大抵食べられちゃうんで自分の部屋のものを使うといいですよ。夜になれば誰かはいて雑談だったりご飯を食べたりしてます」
「ご飯はお弁当が配られるんでしたっけ」
「はい、平日の朝と夜には業者さんからお弁当が届きます。バリエーション豊かで健康にも気を使われているんですよ!」
「へー楽しみ!」
「土日は各自で食事をとるけど、偶にみんなで材料を買って私が料理するんです」
「響子さんが?」
「はい、お料理得意なんです!」
腕を曲げガッツポーズをする響子さん。なんていうかアイドルだ。
「今日土曜日ですけど2人は夜ご飯どうするんですか?」
「まだなにも決めてないですね」
「適当にコンビニでいいかなって」
「でしたら夜に歓迎会をしたいんですけどどうですか」
「本当! 歓迎会やるやるー!」
「わかりました、じゃあみんなに連絡しますね!」
*****
次にやってきたのは大浴場の脱衣所。もちろん男湯なんてものは存在しない。いや女湯とも書かれていないので俺が入っても問題ない……わけないですね、はい。
「ここが大浴場です。14時から23時まで入ることができますよ」
「あのー……。人が少ない時間帯っていうのは……」
「えーと……16時前とか22時以降とかに入る子はほとんどいないかな?」
なるほど、じゃあ入るとしたらその時間帯ってことか……
「颯ちゃん、もしかしてお風呂苦手?」
「え、まあ……」
「だったら安心してください。部屋にはユニットバスもありますから」
なら安心だ。俺が大浴場に入ることは絶対にないだろう。
ガララララ……
「え?」
そんな安心しているとき、脱衣所のお風呂側のドアが開いて……
「あ、響子ちゃん」
「穂乃香さん、お邪魔してます。こんな時間に入ってるなんて珍しいですね」
「はい、自主練で汗を流してしまい。部屋のシャワーでよかったんですがせっかくだしお風呂に入ろうかと」
「わかります! つい浴場に足を運んじゃいますよね」
「それでそちらは確か……颯ちゃんと凪ちゃんですよね」
「午前ぶりです穂乃香さん」
「お、おひ、、おひさ……」
大浴場から出てきたのは穂乃香さんだった。俺はというと湯上りの穂乃香さんを直視することができなかった。タオルで体を隠しているけど足とか肩とかいろいろ見えるし濡れた髪もすごく……
「目潰しっ」
「ぐおおおん!!?! 目がぁ、目がぁああああ!?」
「ど、どうしたんですか!?」
「喧嘩は良くないですよ!?」
目潰しされうずくまる俺に駆け寄る響子さんと穂乃香さん。ごめんなさいごめんなさい……男に生まれてごめんなさい……
*****
「各部屋はワンルームタイプでトイレとユニットバス、小さなキッチンスペースがあります」
最後に俺たちの部屋を紹介してもらった。1人1部屋なのでもちろんなー姉とは別。俺だけの部屋。まさかこんな風に憧れの一人暮らしを実現出来るなんて思わなかったな……寮生活を一人暮らしと呼ぶのかはわからないけど。
*****
「それでは、颯ちゃんと凪ちゃんの健康と活躍を祈念して……乾杯!」
部屋で荷物を整理した後、寮の共用スペースで俺たちの歓迎会が行われた。テーブルにピザやお菓子やジュースを並べた立食形式で、自己紹介や質問タイムが行われた。
寮のアイドルはみんないい人たちだった。一人暮らしのコツ、あったら便利なアイテム、深夜に抜け出す方法などいろいろなことを教えてくれた。
「では颯ちゃんたちにさいきっくぱわーを見せてあげましょう! ムムム、ムーン!!」
「きゃっ! もぉ~ユッコちゃん!」
……本当にいいところだなぁ。
*****
歓迎会が終わった後、部屋でシャワーを浴びた俺はベッドに横になった。明日は初めてのレッスンだから早めに寝るか……正直不安だ。
コンコン
電気を消そうと思ったと同時に部屋をノックされた。この時間に誰だろう? おそらくなー姉だろうがもしものことがあるため俺はウィッグを装着してドアを開けた。
「やっ。じー君」
案の定なー姉だった。なー姉を部屋に入れた後俺はウィッグを外しベッドに腰掛ける。
「何の用? もう寝ようとしてたんだから手短にな」
「凪ももう寝ようとしたところです。だから……」
そういうとなー姉は後ろに隠してた枕を見せて……
「一緒に寝ようと思いまして」
「は?」
そんなことを言ってきた。
「おいおい、初日からホームシックかよ」
「はい」
冗談で言ったつもりだったが真剣に返されてしまった。凪はそのまま俺のベッドに勝手に侵入してくる。
「はーちゃんがあんな目にあって、本当は24時間365日はーちゃんのそばにいたいのに、はーちゃんの夢のために家を離れて。寂しいに決まってるじゃないですか。弟のじー君に甘えても仕方ないじゃないですか」
「なー姉……」
そうだ。はー姉のことが心配なのは俺だけじゃない。本当ははー姉と一緒にこれからのアイドル生活に胸をときめかせていたはずなのにこんなことになって……。なー姉だって不安で仕方ないんだ。
「ったく、今日だけだぞ」
「やさしいじー君。そんなところ大好きですよ」
俺は電気を消した後凪のいるベッドにもぐりこむ。3月のこの時期はまだ夜は肌寒くなー姉のぬくもりが心地よかった。
「せまいなぁ」
「素直にお姉ちゃん温かいって言ってもいいんですよ」
「追い出すぞ」
心の声を読むんじゃない。本当こういうとき三つ子というのは困ってしまう。
「今日は疲れましたね」
「そうだな」
「いきなり半日も慣れない女装をして、その上たくさんの人と話して。じー君は自分が思っているよりも疲れていると思います」
「そうかな」
「そうです。だから無理をしないでください。凪ははーちゃんだけじゃなく、じー君も心配なんです」
ぎゅっと手を握ってくるなー姉。もしかしたらなー姉は俺を気遣って一緒に寝ようなんて言い出したのかもしれない。
「ありがとう、なー姉」
「はい、では今度こそ寝ますか。おやすみなさい」
「おやすみ」
明日はいよいよレッスン。だが大丈夫だ。だって俺の隣にはなー姉がいるんだからな。俺は瞼を閉じ、深い眠りの中へと意識を沈み込ませた。
とあるアイドルのサイキックで何が起きたんですかねぇ……
後半の凪の口調が普通なのは颯のことが心配で余裕がないから。私の凪への理解が不足しているというのもあります。