乙女アイドル ~久川家の三つ子の弟~   作:アンセンブル

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第5話 乙女の休日

初レッスンの翌日、今日は何もないいわゆるオフの日である。

 

「おはようございまーす……」

 

「おはよう、颯ちゃん」

 

「もうお昼過ぎですよ」

 

部屋を出て共用スペースに来ると、なー姉と穂乃香さんがおしゃべりしていた。凪が呆れたように言ってくるが俺はちゃんと朝には起きていた。女装が面倒くさいから部屋を出なかっただけだ。まあやることなくて二度寝して今起きたんだけど。

 

「なー朝ごはん〜」

 

「はいはい、ちゃんとはーちゃんの分も取っといてありますよ」

 

なー姉にキープしてもらった朝ごはんを食べながら俺はぼんやりと考える。東京に来て初めての何もない日だけど何しよう。

 

「はーちゃんはーちゃん。今日は予定ありますか?」

 

「予定? ないけど……」

 

「では買い物に出かけましょう」

 

「買い物?」

 

「はい、本を買い足そうと思いまして。どこで買い物したらいいか穂乃香さんに聞いたら案内してくれるとのこと」

 

なるほど。確かにここらはビルばっかでどこに何があるのか分からない。特に買いたいものはないけど、せっかくだし都会の街を見て回りたい。

 

「うん行く、よろしくね穂乃香ちゃん!」

 

「はい、誠心誠意案内させていただきます」

 

「ではちゃっちゃと食べて着替えて来てください……あむっ」

 

「あぁー!? デザート最後に食べようと思ったのに!」

 

*****

 

女子寮を出てから事務所と反対方向へ歩いて十数分、街の風景が少し変わり人々が賑わう繁華街となっていた。

 

「やっほー」

 

「あれ、柚さん」

 

「子供のつかない柚さん、やっほです」

 

大きな交差点で信号を待っていると、俺たちと同じでオフの日なはずの柚さんが声を掛けてきた。

 

「穂乃香チャンが凪チャン達と遊ぶっていうから来ちゃった」

 

「遊びじゃくてお買い物ですけど……柚ちゃんも誘ったのですがいいですか?」

 

「もちろん! 全然おっけー!」

 

「人数の多い方がリア充度が上がります。目指せリア王」

 

「ありがとうー」

 

「では行きましょう。この先に目的地はあります」

 

こうして柚さんと合流した俺たちは交差点を渡り、大きな百貨店の前まで来た。

 

「買い物といえばここですね。何でもあります」

 

「本屋は6階にあったかな?」

 

エレベーターで6階に上がると本屋特有のインクの香りやゆったりとした空気が漂っていた。

 

「凪ちゃんはどんな本を読むんですか?」

 

「凪はポエムや新書を好みます」

 

「新書ですか……でしたら向こうにあるはずです」

 

「颯チャンは何読むの?」

 

「はーは……ふぁっしょん雑誌とか?」

 

「……何で疑問形?」

 

だって下手に答えてボロが出たら困るし。確かはー姉は少女漫画やファッション誌を読んでたはずだけど具体的な名前は分からない。

 

「まぁじゃあアタシ達は雑誌コーナー行こっか」

 

「はい!」

 

こうして俺と柚さん、なー姉と穂乃香さんの二手に分かれて本屋を巡ることになった。

 

雑誌コーナーはいたって普通の作りでスポーツやファッション、なんか難しそうなやつまで幅広く揃っている。俺は適当に女の子向けの表紙の本を手に取りペラペラめくる。えーと……「新学期!ウサミン流制服の着こなし方」「新しい出会いがあるかも!? カリスマJKの恋愛テクニック」……ふむふむ、いろいろなコーナーがあるんだな。

 

「あ、あずきさんだ」

 

「どれどれ……わあ本当だ」

 

ファッションのコーナーでは事務所案内で出会った桃井あずきさんが雑誌に載っていた。あずきさんは撮影見学のときとは違い洋服を着こなしていた。着物も似合ってたけど洋服もかわいいなぁ……あ、こっちのページには響子さんだ。

 

「柚はねー確か来週発売の雑誌に載るよ」

 

「へー、どの雑誌ですか?」

 

「それはねーこの雑誌!」

 

デデンという感じで柚さんが見せて来たのはあるスポーツの雑誌だった。

 

「え? バドミントン王国?」

 

「あれ、颯チャン知ってるの?」

 

知ってるも何もバドミントン王国は俺が毎月購入しているバドミントン選手向けのスポーツ雑誌だ。

 

「あ、いえ、てっきり女性誌だと思ってたからびっくりしちゃって……。バドミントンやってるんですか?」

 

「そうだよ。ふふふ……なんと女子バドミントン部の副部長なのだ!」

 

「へー、それでバドミントンの雑誌のお仕事が来たんですか」

 

「そうなの! それでね、かわいいユニフォームとシューズを着てバドしてる写真撮ってもらったんだ〜」

 

撮影の時のことを思い出しているのだろうか。柚さんはすごく嬉しそうに説明する。その様子を見て俺は思わず笑ってしまった。

 

「……てごめんね、なんか興奮しちゃって」

 

「ううん、柚さん本当に楽しそうなんだもん。こっちまで楽しくなっちゃう」

 

「颯チャン……良い子すぎる!」

 

柚さんは感動したのか目をウルウルさせて俺のことを見て提案してきた。

 

「よし! ここはお姉さんが好きな雑誌を買ってあげよう」

 

「ええ! そんな悪いですよ」

 

「いいっていいって。親愛の印として、ね」

 

「じゃあ……この雑誌を」

 

勢いに押され俺は手に持っていた女性誌を差し出してしまった。はー姉この雑誌読むかな?

 

*****

 

その後俺たちは同じく本を買っていたなー姉と穂乃香さんと合流し、上の階のカフェでお茶をすることにしました。

 

「どれにしようかな」

 

「パフェにケーキにパンケーキ。メニューの多さに凪歓喜です」

 

「私はレアチーズケーキにしようかな」

 

「むむむ……」

 

「柚ちゃん? どうしたんですか?」

 

「穂乃香チャン、これ見て」

 

「えっと、期間限定メニュー唐揚げパフェ!? え、柚ちゃんもしかして……」

 

「うん、柚は今好奇心と自制心がせめぎ合っているのだよ」

 

「いやでもパフェに唐揚げですよ。美味しいものと美味しいものを混ぜても美味しくなるとは限りませんよ! イチゴパスタを思い出してください!」

 

「イチゴパスタ……? つまりこれも食べなきゃいけない運命……!」

 

「柚ちゃん! 目を醒ましてください!」

 

穂乃香さんの説得も虚しく柚さんは唐揚げパフェを注文した。ちなみに俺はイチゴのショートケーキでなー姉はパンケーキだ。

 

*****

 

「これは……」

 

「映えますね……」

 

やってきた唐揚げパフェは想像通りの見た目をしていた。生クリームに唐揚げが突き刺さっている様子はなー姉の言う通りある意味『映えて』いるのかもしれない。

 

「柚ちゃん大丈夫ですか」

 

「へ、平気平気……柚ちゃんは好き嫌いをしないよ」

 

柚さんは恐る恐るとクリームのいった唐揚げとアイスを口に運ぶ。

 

「あれ……普通においしい!」

 

「うそっ」

 

「本当ですか?」

 

「うん、生クリームのふわふわと唐揚げのサクサクがいい感じにマッチしてる」

 

へー意外だ。ちょっと気になるなー。そんなことを思っていたのがバレてしまったのだろうか。

 

「颯チャン食べてみる?」

 

「え、いいの?」

 

「もちろん、はい、あーん」

 

そう言って柚さんはパフェの唐揚げを刺したフォークを刺しだしてくる。お、女の子って距離近いよな……男って分かったらどうなっちゃうんだろう……

 

「あむ……あ、本当だ。おいしい」

 

「でしょ! 凪チャンもほら」

 

「あむ……むむむ、凪の舌を唸らせるとはゆーこちゃんにライバル出現」

 

「はい、穂乃香チャン」

 

「柚ちゃん私にもあげると唐揚げほとんど無くなっちゃいますよ」

 

「あはは……。実はお昼も揚げ物だったからちょっと重くて……美味しいんだけどね」

 

「そんなことだろうと思いました……あむ。うん、本当に美味しいですね」

 

「颯チャンもう1個食べる?」

 

「いいの? 食べる食べるー!」

 

「颯ちゃんそんなに食べて大丈夫ですか? カロリーすごそうですが」

 

「大丈夫、私太らない体質だから」

 

「この子は代謝が高いのか本当に太りません。同じものを食べていたはずなのに一時期凪だけ太ネギになってました」

 

ちなみにはー姉も太ネギになっていて悲鳴を上げていた。

 

「颯チャンずるい! アタシなんてすぐお肉が出ちゃうのに……」

 

「柚ちゃんは食べた分いっぱいレッスンしましょうね」

 

「そんなー理不尽だー!」

 

*****

 

その後カフェを出た俺たちは柚さんの提案でゲームセンターで遊んだ。リズムゲームやレースゲームにエアホッケー。男子禁制のプリントシールを撮ったときは色々ドキドキしたが楽しかった。いっぱい遊んだ俺たちは柚さんと別れ女子寮に戻ったのだった。

 

「今日は楽しかったな……」

 

夜ご飯とシャワーを済ませた俺は柚さんに買ってもらった女性誌を見ていた。制服の着崩し方とかは参考にならないが、男の子にやられるとドキっとすることランキングとかは見ていて面白い。寒いときにコートを貸すとか少女漫画の見過ぎだろうと思わずツッコミを入れてしまう。

 

プルル……プルル……。そのとき電話の着信音が鳴った。はー姉からだ。俺はすぐに通話ボタンをタップする。

 

「もしもし」

 

『じー君? ごめんねこんな遅い時間に』

 

「まだ寝てないから大丈夫だよ。それよりどうしたの? 足の具合はどう?」

 

『足はもう大丈夫。来週には退院できるはず』

 

「それはよかった」

 

『じー君は今合宿に行ってるんだよね。バド部の』

 

「う、うん……そうだけど……」

 

はー姉には、俺がバドミントン部の合宿で家を離れていると伝えてある。機を見て本当のことは伝えるつもりだ。

 

「ごめんね。はー姉が大変な時期なのに」

 

『いいよいいよ。じー君バドミントン頑張ってるもん。はーのせいで邪魔したらかえって気にしちゃうよ』

 

「はー姉……ありがとう」

 

『それでも寂しいからさ、じー君ちょっとお話でもしよ?』

 

「もちろん喜んで」

 

その後日が変わりはー姉が寝落ちするまでおしゃべりをした。友達がお見舞いに来てくれたこと、雑誌の恋愛相談が面白かったこと、徳島の唯一の百貨店が閉館すること、久々に喋ったこともあり話題に欠くことはなかった。

 

でもアイドルの話は出てこなかった。先週までは兎にも角にもアイドルの話題で盛り上がっていたのに。はー姉は明るく振る舞っているけどやっぱりアイドルのことは辛いのだろう。俺がはー姉に成り済ましてアイドルやってるから大丈夫、デビューも決まったよと言って安心させたい。……いや、安心するかなんて分からない。勝手なことしないでって怒られちゃうかもな。

 

ただ。俺は今日のことを振り返る。女装がバレないことに気を使わなければならなかったが東京の街は楽しかった。柚さんや穂乃香さん、寮の人たちはみんな優しくてはー姉も気に入ってくれるはずだ。

 

「おやすみ、はー姉」

 

はー姉の居場所を守る。そのためにも頑張らないとな。俺はそう改めて決心し通話の終了ボタンをタップした。

 




柚の一人称って何なんでしょう?劇場の1033話だと「アタシ」と「柚」になっているからその時の気分なんですかね?
唐揚げパフェは実際に存在して、そのお店では他にもエビフライパフェがありました。また京都に行ったとき食べてみたい
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