乙女アイドル ~久川家の三つ子の弟~   作:アンセンブル

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第9話 恋は乙女を成長させるらしい

「みんな昨日は本当にゴメン!」

 

オフで柚さんに会った翌日、プロジェクトルームで柚さんはフリスクのみんなに頭を下げていた。

 

「アタシもゴメン。柚ちゃんの気持ちを考えずにキツいこと言って」

 

「良かったー! これで仲直りだね」

 

仲直りの印として握手をする柚さんと忍さん。柚さんは俺となー姉のところにも来て頭を下げた。

 

「颯チャンも凪チャンもゴメン。レッスン真面目にやんなくて出て行っちゃって」

 

「気にしないでください」

 

「終わり良ければ全て良しです」

 

「ありがとう、こんなアタシだけどイベント一緒に頑張ろ!」

 

「はい!」

 

こうして無事騒動は収まり、俺たちはそれぞれのことを頑張ることとなった。

 

「それでね、プロデューサーに勧められたんだけど、柚映画のオーディション受けることにしたの」

 

「映画って穂乃香ちゃんが受けるやつ?」

 

「そう、ドラマが一次審査で落ちたからギリギリだけど映画の方にも応募できたんだ」

 

「それまた悲しい理由だね……」

 

「なら今回は柚ちゃんと穂乃香ちゃんがライバルだね」

 

「負けませんよ、柚ちゃん」

 

「うん! それで、颯チャン」

 

柚さんは俺の方を向き気まずそうに聞いてきた。

 

「また、演技の練習に付き合ってもらってもいいかな?」

 

「もちろん、喜んで!」

 

柚さんはめげずに演技の練習も頑張るみたいだ。俺にそれを断る理由なんてなかった。

 

*****

 

オーディション組の演技レッスン。俺となー姉は勉強のため様子を見学していた。

 

「ーーー!」

 

「喜多見、いい感じだ! 先週からだいぶ表現の幅が広がったな!」

 

久しぶりの柚さんの演技は見違えるものになっていた。まるで別の人みたいに主人公に恋するヒロインの子になりきっている。

 

そんな柚さんのところに忍さんとあずきさんが駆けつけてきた。

 

「柚ちゃんどうしたの? なんかすっごく上手くなってるじゃん」

 

「そ、そうかな……。なんか今までと違ってヒロインの子の気持ちがすんなり理解できるからかな」

 

「へー、恋愛なんてよく分からないとか言ってたのに?」

 

「柚ちゃんもしかして……恋してるの!?」

 

あずきさんの言葉に柚さんは大きく反応を示した。

 

「え!? そ、そんなわけないじゃん!」

 

「え〜怪しい〜」

 

「工藤、桃井! 邪魔するならこのあとみっちりしごいてやるからな」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「ご勘弁を……」

 

トレーナーさんに叱られ忍さんとあずきさんはすごすごと引き下がり、柚さんは追及から解放される。でも本当に何があったんだろう?

 

*****

 

柚さんの変化はこれだけではなかった。

 

「はぁ……」

 

ダンスレッスンのときのこと。レッスン中は普段通り見事に踊る柚さんであったが、休憩中は今のように虚空を見つめ物思いにふけっていた。

 

「柚さんどうしたんだろう?」

 

「あれは『視てる』のですよ」

 

「見てる?」

 

「寮で小梅さんから来ましたが……このレッスン場、出るらしいですよ」

 

「そんなベタな……嘘だよね?」

 

「どうでしょう? 聞いたところによりますと嫌々アイドルをやらされている女の子がここに逃げて『むーりぃ……むーりぃ……』と」

 

「わー! もうやめて、レッスン出来なくなるー!」

 

「信じるか信じないかはあなた次第」

 

そんなことをなー姉と言ってても仕方がないので、思い切って柚さんに聞くことにした。

 

「柚さん柚さん」

 

「ん、なーに?」

 

「最近よくボーッとしてますけど何かあったんですか」

 

「え、アタシそんなボーッとしてた?」

 

「してましたね」

 

「そうだったんだ、なんか恥ずかしいな……」

 

「何か悩み事があるなら相談にのりますよ」

 

そういうと柚さんは少し考えるそぶりを見せた。俺たちに話すかどうか悩んでいるようだ。

 

「うーん……いや、颯チャン達にならいいかな……」

 

「ぜひ話してください!」

 

「相談料はいりません、プライスレスです。こんなチャンス二度とありませんよ」

 

「じゃあ……2人には相談しようかな」

 

俺となー姉の説得もあり、柚さんの相談にのることとなった。

 

*****

 

レッスンが終わったあと、俺となー姉と柚さんは事務所のカフェへ移動した。

 

「それで悩みってなんですか?」

 

「いや悩みって言うほどのことじゃないんだけどね」

 

柚さんはふーっと息を吐き、少し照れながら打ち明けてくれた。

 

「ある人のことを考えてたの」

 

「ある人?」

 

「どんな人ですか?」

 

「えっと……オーディション落ちてすぐの時ね、忍チャンと喧嘩してアタシ事務所飛び出しちゃったんだけど雨に降られちゃったの」

 

「凪達がオフの日だったときのことですね」

 

「うん。それで雨宿りしてたときに一緒にいた男の子がジャージとタオル貸してくれたんだけど……返しそびれちゃって」

 

「それで返す機会がなくて困っていたと」

 

「う、うん……」

 

恥ずかしそうに話す柚さんを見て俺は冷や汗を流していた。その男の子というのはもしかしなくとも俺のことだ。話している途中、俺を見て同一人物であるとバレるのではないかと気が気でなかった。

 

「その子のおかげで立ち直れたし、忍チャン達とも仲直りできたからお礼もしたいっていうかなんていうか……」

 

先程から柚さんは落ち着きがない。視線は泳いでいるし無駄にスマートフォンを手でタプタプしている。そんな様子をなー姉はじっと見ていた。

 

「つまり柚さんはその男の子に恋しているのですね」

 

「なっ!?」

 

「こ、恋!?」

 

なー姉の爆弾発言に俺と柚さんは固まってしまう。柚さんが俺に……恋?

 

「こ、恋だなんてそんなことないよ! ただ純粋にお礼がしたいだけだから!」

 

「弱っていた心を立ち直らせ、雨で冷えた身体にタオルとジャージを貸すだなんて、まるで恋愛漫画のワンシーンのようではありませんか」

 

なー姉はまるで名探偵がトリックを解説するかのように言葉を並べる。こいつ柚さんの反応を見て楽しんでるな。

 

「恋の悩みならこの地元では恋愛マスターと呼ばれている凪に任せてください。これでも恋愛漫画は嫌というほど読みました」

 

「それって全部はーのでしょ。なーギャグ漫画しか持ってないじゃん。誰に恋愛マスターなんて呼ばれてるの」

 

「恋愛は情報戦です。その男の子とは初対面ですか」

 

「無視しないでよ」

 

「会ったのは2回目かな?」

 

「なるほど、となるとまだあまり情報は持ってなさそうですね。名前も知らない感じですか?」

 

完全に恋愛マスターになりきっているなー姉は優美な仕草でコーヒーを口に運ぶ。

 

「あ、名前はジャージに書いてあった! 確か……久川迅クン!」

 

「ブフォッ!!!」

 

「ぎゃあああ! なー姉汚い!」

 

久川迅の名前が出た途端恋愛マスターはコーヒーを俺に向かって吹き出した。先程までの威厳が台無しである。

 

「え? すみませんがもう一度言ってくれませんか?」

 

「久川迅クン、多分年下で柚と同じバドミントンをやってるの」

 

「そ、そうですか……」

 

なー姉はまだ状況を整理できていないのか手を震わせながらカップをテーブルに置く。ここまで動揺したなー姉はなかなか見たことない。

 

「あれ? 久川ってことはもしかして凪チャン達と……」

 

「関係ないです」

 

「ないです」

 

「そ、そうだよね……顔もなんか似てる気がしたけど……」

 

「久川の名を冠するものは徳島以外にいません」

 

「その通りです」

 

間髪入れず否定され柚さんはあっさり引き下がる。それ以上は本当にバレちゃうからマズい。

 

「と、とにかくもう一回会ってみないことには何も始まりませんね」

 

「やっぱりそうだよね……」

 

急に投げやりな意見を投げなー姉は会話を終わらせる。いい時間になったのでそのまま俺たちはカフェを出ることにした。

 

*****

 

「2人とも今日はありがとう、話したらスッキリしたよ!」

 

「またいつでも相談してください」

 

「じゃあまた明日ね〜」

 

「さようならー」

 

カフェを出た俺たちは柚さんと別れ女子寮へと歩く。

 

「なぁ恋愛マスター」

 

「なんですかミスタープレイボーイ」

 

「俺はどうすればいいと思う?」

 

「どうとは?」

 

「柚さんのこと。会わないと柚さんは悩んだままだし、会ったら正体がバレるかもしれないだろ」

 

あとジャージが俺のところに帰ってこない。まさかジャージから名前がバレちゃうなんてなあ。

 

「じー君の好きなようにすればいいと思いますよ」

 

「でも俺ははー姉のためにここに来たんだ。もしバレたら……」

 

「バレなければいいんです。最悪バレてもちゃんと説明すれば柚さんなら分かってくれると思います」

 

バレなければいいってなんか不倫してる男の言いそうな言葉だな。

 

「だから好きなようにしてください。凪は、じー君はもっと自由に伸び伸びと生きて欲しいと思ってますよ」

 

もしものときはちゃんとフォローしますからとなー姉は言う。俺の好きなようにか……。次のオフの日までにどうするか決めないといけないな。

 




評価欄に色がついて感動しております。誤字報告もいただきました。読んでくださる皆さん本当にありがとうございます。
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