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ウルの町。
北に山脈地帯、西にウルディア湖を持つ資源豊富なこの町は、現在、つい昨夜までは存在しなかった『外壁』に囲まれて、異様な雰囲気に包まれていた。
この『外壁』はハジメとカービィが力を合わせてが即行で作ったものだ。
整地ではなく〝外壁〟をティンクルスターアライズに乗って錬成しながら町の外周を走行して作成したのである。
もっとも、壁の高さは、ハジメの錬成範囲が半径四メートル位で限界なので。
大型の魔物なら、よじ登ることは容易だろう。
一応、万一に備えてないよりはマシだろう程度の気持ちで作成したので問題はない。
そもそも、壁に取り付かせるつもりなどハジメたちには一切ないのだから。
町の住人達には、既に数万単位の魔物の大群が迫っている事が伝えられている。
魔物の移動速度を考えると、夕方になる前くらいには先陣が到着するだろうと。
住人たちはパニックになった。
町長を始めとする町の顔役たちに罵詈雑言を浴びせる者、泣いて崩れ落ちる者、隣にいる者と抱きしめ合う者、我先にと逃げ出そうとした者同士でぶつかり、罵り合って喧嘩を始める者。
明日には、故郷が滅び、留まれば自分達の命も奪われると知って冷静でいられるものなどそうはいない。
彼等の行動も仕方のないことだ。
だが、そんな彼等に心を取り戻させた者がいた。
愛子先生だ。
ようやく町に戻り、事情説明を受けた護衛騎士達を従えて、高台から声を張り上げる神の使徒『豊穣の女神』。
恐れるものなどないと言わんばかりの凛とした姿と、元から高かった知名度により、人々は一先ずの冷静さを取り戻した。
畑山愛子、ある意味、勇者より勇者をしているのは間違いないだろう。
「南雲君、カービィちゃん、準備はどうですか?何か、必要なものはありますか?」
「いや、問題ねぇよ、先生」
「大丈夫だよ〜」
「おい、貴様。愛子が…自分の恩師が声をかけているというのに何だその態度は。本来なら、貴様の持つアーティファクト類の事や、大群を撃退する方法についても詳細を聞かねばならんところを見逃してやっているのは、愛子が頼み込んできたからだぞ? 少しは……」
「デビッドさん。少し静かにしていてもらえますか?今、少なくともこの二人に見捨てられればこの街は終わりです。」
「うっ……承知した……」
その様子にハジメがウンザリし始めたとき、遂にそれは来た。
「!……来たか」
ハジメが突然、北の山脈地帯の方角へ視線を向ける。
眼を細めて遠くを見る素振りを見せた。
肉眼で捉えられる位置にはまだ来ていないが、ハジメの〝魔眼石〟には無人偵察機からの映像がはっきりと見えていた。
それは、大地を埋め尽くす魔物の群れだ。
カービィの歌でほとんど魔物は消えた筈なのに一体何処からやってきたのだろうと思うハジメ。
ブルタールのような人型の魔物の他に、体長三、四メートルはありそうな黒い狼型の魔物、足が六本生えているトカゲ型の魔物、背中に剣山を生やしたパイソン型の魔物、四本の鎌をもったカマキリ型の魔物、体のいたるところから無数の触手を生やした巨大な蜘蛛型の魔物、二本角を生やした真っ白な大蛇など実にバリエーション豊かな魔物が、大地を鳴動させ土埃を巻き上げながら猛烈な勢いで進軍している。
その数は、山で確認した時よりも更に増えているようだ。五万あるいは六万に届こうかという大群である。
更に、大群の上空には飛行型の魔物もいる。
敢えて例えるならプテラノドンだろうか。
何十体というプテラノドンモドキの中に一際大きな個体がいる、その個体の上には薄らと人影のようなものも見えた。
おそらく、黒ローブの男。
愛子は信じたくないという風だったが、十中八九、清水幸利だ。
ハジメの雰囲気の変化から来るべき時が来たと悟るカービィとレムユエとシアが、ハジメに呼びかける。
ハジメは視線を三人に戻すと一つ頷き、そして後ろで緊張に顔を強ばらせている愛子達に視線を向けた。
「来たぞ。予定よりかなり早いが、到達まで三十分ってところだ。数は五万強。複数の魔物の混成だ」
魔物の数を聞き、更に増加していることに顔を青ざめさせる愛子達。
不安そうに顔を見合わせる彼女達に、ハジメは壁の上に飛び上がりながら肩越しに不敵な笑みを見せた。
「そんな顔するなよ、先生。たかだか数万増えたくらい何の問題もない。予定通り、万一に備えて戦える者は〝壁際〟で待機させてくれ。まぁ、出番はないと思うけどな」
何の気負いもなく、任せてくれというハジメに、愛子は少し眩しいものを見るように目を細めた。
「わかりました……君をここに立たせた先生が言う事ではないかもしれませんが……どうか無事で……」
愛子はそう言うと、護衛騎士達が「ハジメに任せていいのか」「今からでもやはり避難すべきだ」という言葉に応対しながら、町中に知らせを運ぶべく駆け戻っていった。
生徒達も、一度ハジメを複雑そうな目で見ると愛子を追いかけて走っていく。残ったのは、ハジメ、レムユエ、シア、カービィ、ティオ。
遂に、肉眼でも魔物の大群を捉えることができるようになった。
〝壁際〟に続々と弓や魔法陣を携えた者達が集まってくる。大地が地響きを伝え始め、遠くに砂埃と魔物の咆哮が聞こえ始めると、そこかしこで神に祈りを捧げる者や、今にも死にそうな顔で生唾を飲み込む者が増え始めた。
ハジメは前に出る。
錬成で、地面を盛り上げながら即席の演説台を作成する。
人々の不安を和らげようと思ったわけではなく、単純にパニックになってフレンドリーファイアなんてされたら堪ったものではないからだ。
突然、壁の外で土台の上に登り、迫り来る魔物に背を向けて自分達を睥睨する白髪眼帯の少年に困惑したような視線が集まる。
ハジメたちは、全員の視線が自分に集またことを確認すると、すぅと息を吸い天まで届けと言わんばかりに声を張り上げた。
「聞け!ウルの町の勇敢なる者達よ!私達の勝利は既に確定している!」
いきなり何を言い出すのだと、隣り合う者同士で顔を見合わせる住人達。
ハジメは、彼等の混乱を尻目に言葉を続ける。
「なぜなら、私達には女神が付いているからだ!そう、皆も知っている〝豊穣の女神〟愛子様だ!」
その言葉に、皆が口々に
愛子様?
豊穣の女神様?
とざわつき始めた。
護衛騎士達を従えて後方で人々の誘導を手伝っていた愛子がギョッとしたようにハジメたちを見た。
「我らの傍に愛子様がいる限り、敗北はありえない!愛子様こそ!我ら人類の味方にして〝豊穣〟と〝勝利〟をもたらす、天が遣わした現人神である!私たちは、愛子様の剣にして盾、彼女の皆を守りたいという思いに応えやって来た『女神の騎士団』である!見よ!これが、愛子様により教え導かれた私の力である!」
ハジメはそう言うと、虚空にシュラーゲンを取り出し、銃身からアンカーを地面に打ち込んで固定した。
そして膝立ちになって構えると、町の人々が注目する中、些か先行しているプテラノドンモドキの魔物に照準を合わせ……引き金を引いた。
カービィはコピー能力ウィングを発動すると背中に緑色の羽が生え、翼を飛ばして攻撃した。
そして空の魔物を駆逐し終わったハジメたちは、悠然と振り返った。
そこには、唖然として口を開きっぱなしにしている人々の姿があった。
「愛子様、万歳!」
ハジメが、最後の締めに愛子を讃える言葉を張り上げた。
すると、次の瞬間……
「「「「「「愛子様、万歳!愛子様、万歳!愛子様、万歳!愛子様、万歳!」」」」」」
「「「「「「女神様、万歳!女神様、万歳!女神様、万歳!女神様、万歳!」」」」」」
ウルの町に、今までの様な二つ名としてではない、本当の女神が誕生した。
どうやら、不安や恐怖も吹き飛んだようで、町の人々は皆一様に、希望に目を輝かせ愛子を女神として讃える雄叫びを上げた。
遠くで、愛子が顔を真っ赤にしてぷるぷると震えている。その瞳は真っ直ぐにハジメたちに向けられており、小さな口が「ど・う・い・う・こ・と・で・す・か!」と動いている。
ハジメは、視線を大群に戻すと笑みを浮かべながら、何の気負いもなく言った。
「じゃあ、やるか」
「うん!」
「はいっ!」
「ん!」
「任せろなのじゃ!」
一体一体倒すと時間がかかると思ったカービィはある能力を使う。
「コピー能力クラッシュ!」
するとカービィの頭に銀色の王冠が現れた。
これこそがコピー能力クラッシュ。
破壊力のあまり禁断の兵器とも呼ばれるコピー能力である。
「カービィ、何する気だ?」
嫌な予感がするハジメはカービィに聞くが既にカービィは全力でまだ街からかなり遠くにある魔物の大群に突っ込んでいた。
そしてあの技発動した。
「はぁぁぁぁぁぁっ!じこくのごうか!」
するとカービィ中心に爆発が起こり街の10メートル前程まで広がって地形ごと大半の魔物を滅ぼした。
だがこれでもまだ魔物は倒し切れていない。
だが、数は一気に9割程減っていた。
清水は大型の魔物を盾にして何とか致命傷は免れた。
だが、カービィは今のクラッシュで魔力全てを使い切ってしまっている。
魔力が枯渇すると肉体的にも疲労してしまうためカービィはかなり疲れながらもコピーのもとを使ってコピー能力ソードを選び魔物に向かうのだった。
突然の爆発に気づいて駆けつけたハジメたちは魔力が枯渇してあまりの疲労でか気絶しているカービィをティオに乗せて休ませた。
そしてその場をシアに任せ、ハジメとレムユエは先へ進んだのだった。
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