お気に入り(127→129)
あれからちょうど六人全員が目的の場所に到着すると、その入口には二人の黒服に身を包んだ巨漢が待ち構えていた。
ハジメたちは、また騒ぎを起こしてミュウが移送されては堪らないと思い、裏路地に移動するとハジメが錬成を使って地下へと侵入した。
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やがて、地下深くに無数の牢獄を見つけた。
入口に監視が一人おり居眠りをしている。
その監視を気がつかれない内に気絶させて行くと、中には、人間の子供達が十人ほどいて、冷たい石畳の上で身を寄せ合って蹲っていた。
今日のオークションで売りに出される子供達だろう。
そもそも、正規の手続きで奴隷にされる人間は表のオークションに出されるのだ。
ここにいる時点で、違法に捕らえられ、売り物にされていることは確定だ。
ハジメは、突然入ってきた人影達に怯える子供達と鉄格子越しに屈んで視線を合わせると、静かな声音で尋ねた。
「ここに、海人族の女の子はこなかったか?」
てっきり、自分達の順番だと怯えていた子供達は、予想外の質問に戸惑ったように顔を見合わせる。
牢屋の中にはミュウの姿はなかった。
そのため、ハジメたち六人は、他にも牢屋があるのか、それとも既に連れ出された後なのか、子供達全員に手分けして尋ねてみたのだ。
しばらく沈黙していた子供達だが、カービィがしゃがみ込み純粋無垢な笑顔で「大丈夫だよ。ボクたちが君たちのことも助けるから!」と言うと、少し安心したのか、一人の七、八歳くらいの少年がおずおずとようやく質問に答えた。
「えっと、海人族の子なら少し前に連れて行かれたよ……君達は誰なの?」
やはり、既に連れて行かれたあとかと内心舌打ちしたハジメたちは、不安そうな少年に向かって簡潔に返した。
「助けに来たんだよ」
「えっ!?助けてくれるの!」
「うん!ボクたちに任せて!」
ハジメは地下牢から錬成で上階への通路を作ると子供達をレムユエとシアとティオに任せてオークション会場へ急ごうとした。と、その時、先ほどの少年がハジメを呼び止める。
「兄ちゃんに姉ちゃん、助けてくれてありがとう!あの子も絶対助けてやってくれよ!すっげー怯えてたんだ。俺、なんも出来なくて……」
どうやら、この少年、亜人族とか関係なく、ミュウを励まそうとしていたらしい。
自分も捕まっていたというのに中々根性のある少年だ。
自分の無力に悔しそうに俯く少年の頭を、ハジメはわしゃわしゃと撫で回した。
「わっ、な、なに?」
「ま、悔しいなら強くなればいい。つか、それしかないしな。今回は、俺たちがやっとくさ。次、何かあればお前がやればいい」
それだけ言うと、ハジメとカービィとルティはさっさと踵を返して地下牢を出て行った。
呆然と両手で撫でられた頭を抑えていた少年は、次の瞬間には目をキラキラさせて少し男らしい顔つきでグッと握り拳を握ったのだった。
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オークション会場は、一種異様な雰囲気に包まれていた。
会場の客はおよそ百人ほど。その誰もが奇妙な仮面をつけており、物音一つ立てずに、ただ目当ての商品が出てくるたびに番号札を静かに上げるのだ。
素性をバラしたくないがために、声を出すことも躊躇われるのだろう。
そんな細心の注意を払っているはずの彼等ですら、その商品が出てきた瞬間、思わず驚愕の声を漏らした。
出てきたのは二メートル四方の水槽に入れられた海人族の幼女ミュウだ。
衣服は剥ぎ取られ裸で入れられており、水槽の隅で膝を抱えて縮こまっている。
海人族は水中でも呼吸出来るので、本物の海人族であると証明するために入れられているのだろう。
一度逃げ出したせいか、今度は手足に金属製の枷をはめられている。
小さな手足には酷く痛々しい光景だ。
多くの視線に晒され怯えるミュウを尻目に競りは進んでいく。
ものすごい勢いで値段が上がっていくようだ。
一度は人目に付いたというのに、彼等は海人族を買って隠し通せると思っているのだろうか。
もしかすると、昼間の騒ぎをまだ知らないのかもしれない。
ざわつく会場に、ますます縮こまるミュウは、その手に持っていたペロペロキャンディー飴をギュッと握り締めた。
それは、カービィから貰った星が一つ付いた丸い飴だった。
ミュウのご機嫌とりにカービィはミュウにあげた『無敵キャンディ』である。
ミュウはすぐに食べたくなったがカービィに『もしものことがあったらこれを舐めて。それまで我慢してね。』と言われたのである。
そのキャンディが今ではミュウの小さな拠り所だった。
母親と引き離され、辛く長い旅を強いられ、暗く澱んだ牢屋に入れられて、汚水に身を浸し、必死に逃げて、もうダメだと思ったその時、温かいものに包まれた。
何だかいい匂いがすると目を覚ますと、目の前には白髪の少年とピンクの髪の子供がいる。
その後は聞かれるままに名前を答え、次に綺麗な紅い光が迸ったかと思うと、温かいお湯に入れられ、少年に似た、しかし、少し青みがかった白髪のウサミミお姉さんや金髪のお姉ちゃんに体を丸洗いされた、温かなお風呂も優しく洗ってくれる感触もとても気持ちよくて気がつけばシアと名乗るお姉さんをシアお姉ちゃんとレムユエと名乗るお姉さんをレムユエお姉ちゃんと呼び完全に気を許していた。
そのあとピンクの髪の子供、カービィお姉ちゃんと遊んだ。
膝の上に抱っこされ、食べさせてもらった串焼きの美味しさを、ミュウはきっと、一生忘れないだろう。
夢中になってあ~んされるままに食べていると、いつの間にかいなくなっていたティオと名乗る少女が帰ってきた。
ルティと言う大人しい少年も少し話しかけてきた。
少し警戒心が湧き上がったが、可愛らしい服を取り出すと丁寧にハジメと名乗る白髪の少年が着せてくれて、温かい風を吹かせながら何度も髪を梳かれているうちに気持ちよくなってすっかり警戒心も消えてしまった。
だから、家に帰ってお別れしなければならないと聞かされた時には、とてもとても悲しかった。
母親と引き離され、ずっと孤独と恐怖に耐えてきたミュウにとって、遠く離れた場所で出会った優しいお兄ちゃんやお姉ちゃんたちと離れ、再び一人になることは耐え難かったのだ。
故に、ミュウは全力で抗議した。
ハジメお兄ちゃんやルティお兄ちゃんの髪を引っ張ってやったし、カービィお姉ちゃんやレムユエお姉ちゃんの頬を何度も叩いたし、シアお姉ちゃんの耳を引っ張ったり、ティオお姉ちゃんの着物を解いて取ったりしてやったのだ。
この着物を返して欲しければ一緒に来て!と。
しかし結果は変わらなかったのだ。
ミュウは、身を縮こまらせながら考えた。
やっぱり、酷いことしたから知らない所に置いていかれたのだろうか?あの優しいお兄ちゃんやお姉ちゃんを怒らせてしまったのだろうか?
自分は、お兄ちゃんやお姉ちゃんたちに嫌われてしまったのだろうか?
そう思うと、悲しくて悲しくて、ホロリと涙が出てくる。
もう一度会えたら、痛くしたことをゴメンなさいするから、そうしたら今度こそ……どうか一緒にいて欲しい。
「ハジメお兄ちゃん……カービィお姉ちゃん……」
ミュウがそう呟いたとき、不意に大きな音と共に水槽に衝撃が走った。「ひぅ!」と怯えたように眉を八の字にして周囲を見渡すミュウ。
すると、すぐ近くにタキシードを着て仮面をつけた男が、しきりに何か怒鳴りつけながら水槽を蹴っているようだと気が付く。
どうやら更に値段を釣り上げるために泳ぐ姿でも客に見せたかったらしく、一向に動かないミュウに痺れを切らして水槽を蹴り飛ばしているらしい。
しかし、ますます怯えるミュウは、むしろ更に縮こまり動かなくなる。無敵キャンディを握り締めたままギュウと体を縮めて、襲い来る衝撃音と水槽の揺れにひたすら耐える。
フリートホーフの構成員の一人で裏オークションの司会をしているこの男は、余りに動かないミュウに、もしや病気なのではと疑われて値段を下げられるのを恐れて、係りの人間に棒を持ってこさせた。
それで直接突いて動かそうというのだろう。
ざわつく客に焦りを浮かべて思わず悪態をつく。
「全く、辛気臭いガキですね。人間様の手を煩わせているんじゃありませんよ。半端者の能無しごときが!」
そう言って、司会の男が脚立に登り上から棒をミュウ目掛けて突き降ろそうとした。
ミュウは死を覚悟した。
その時、カービィの言葉を思い出した。
『もしものことがあったらこれを舐めて。』
その光景にミュウはギュウと目を瞑り、キャンディを舐めた。
すると……
「ふぇっ!?」
ミュウの身体から力が湧き上がり虹色に身体が輝き始めたのだ。
そして手足に嵌められていた金属製の枷が壊れミュウが水槽にちょこんと触れると水槽は破壊されてしまった。
「はぁ、ここは俺たちがカッコよく助けるシーンだと思ったんだがな。とにかくそのセリフ、そっくりそのまま返すぞクソ野郎?」
「ハジメお兄ちゃん!」
「よぉ、ミュウ。お前、会うたびにびしょ濡れだな?」
ハジメの首元にギュッウ~と抱きついてひっぐひっぐと嗚咽を漏らし始めた。
ハジメは困った表情でミュウの背中をポンポンと叩く。
そして、手早く毛布でくるんでやった。
と、再会した二人に水を差すように、ドタドタと黒服を着た男達がハジメとミュウを取り囲んだ。
しかしミュウに触れた瞬間男達は次々と気絶しあっという間に残り数人となった。
客席は、どうせ逃げられるはずがないとでも思っているのか、ざわついてはいるものの、未だ逃げ出す様子はない。
「お、おいクソガキ!フリートホーフに手を出すとは相当頭が悪いようだな。そ、その商品を置いていくなら、苦しまずに殺してやるぞ?」
二十人近くの屈強そうな男に数人掛で囲まれて、ミュウは、首元から顔を離し不安そうにハジメを見上げた。
それと同時にミュウの身体から虹色の輝きが失われた。
ハジメは、ミュウの耳元に顔を近づけると、煩くなるから耳を塞いで、目を閉じていろと囁き、小さなぷくぷくしたミュウの手を取って自分の耳に当てさせる。
ミュウは不思議そうにしながらも、焦燥感も不安感もまるで感じさせない余裕の態度をとるハジメに安心したように頷くと、素直に両手で耳を塞いで目を瞑り、ハジメの胸元にギュッと顔を埋めた。
完全に無視された形の黒服は額に青筋を浮かべて、商品に傷をつけるな! ガキは殺せ! と大声で命じた。
その瞬間、
ドパンッ!!
そんな乾いた破裂音と共に、リーダー格と思われる黒服の頭部が爆ぜた。
誰もが「えっ?」と事態を理解できないように目を丸くして後頭部から脳髄を撒き散らして崩れ落ちる黒服を見つめる。
その隙に、カービィとルティとレムユエが現れドラゴストームで次々と燃やしていく。
そしてシアはドリュッケンで叩き潰していく。
誰もが何をされているのかわからず硬直している間に黒服はほとんどいなくなっていた。
その時になってようやく、目の前の少年少女たちを尋常ならざる相手だと悟ったのか、黒服たちは後退り、客達は悲鳴を上げて我先にと出口に殺到し始めた。
「お、お前たちは何者なんだ!何が、何で……こんなっ!」
「何で? 見りゃわかるだろ? 奪われたもんを奪い返しに来ただけだ。あとは……唯の見せしめだな。俺の連れや家族に手を出すとこうなるっていう。だから、終わりは派手にいかせてもらうぞ?」
ハジメはそう言うと、〝空力〟を使ってホールの天井まで上がって行き、いつの間にか空いていた穴に飛び込んでそのまま建物の外まで空いた穴を通って地上へと出た。
そしてカービィとルティがドラゴストームを、レムユエが蒼天
ハジメは、〝空力〟で更に上空に駆け上がりながら、ミュウに話しかけた。
律儀にハジメの言いつけを守り耳を塞いでハジメの胸元に顔を埋めていたミュウは、ハジメの「もういいぞ、ミュウ」という言葉に目をパチクリさせながら周囲を見渡し……「ふわっ!?」という驚きの声を上げた。
それはそうだろう。目を開けてみれば、周囲は町を一望できるほどの上空なのである。
地平の彼方には、まさに沈もうとしている夕日が真っ赤に燃え上がりながら空を赤く染め上げており、地上には人工の光が点々と輝きだし、美しいイルミネーションを作り上げていた。
その初めて見る雄大な光景にミュウは瞳を輝かせてワーキャー言いながらハジメの胸元を掴んではしゃいでいる。
「ハジメお兄ちゃん凄いの!お空飛んでるの!」
「飛んでるんじゃなくて跳んでるだけなんだが……まぁいいか。」
と、地上に降りたハジメの下へ捕まっていた子供達を保安員に引き渡したティオたちがやって来た。
結局その後、ハジメたち六人は冒険者ギルドの支部長のもとへ向かうのだった。
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「倒壊した建物、半壊した建物、消滅した建物、合計1000件。死亡が確認されたフリートホーフの構成員500名、再起不能100名、重傷50名、行方不明者10000名……で?何か言い訳はあるかい?」
「カッとなったので計画的にやった。反省も後悔もない」
「まぁ仕方がないよ!子供を売るなんて許せないもん!」
「はぁ~~~~~~~~~」
冒険者ギルドの応接室で、報告書片手にジト目でハジメを睨むイルワだったが、出された茶菓子を膝に載せた海人族の幼女と分け合いながらモリモリ食べている姿と反省の欠片もない言葉に激しく脱力する。
「まぁ、やりすぎ感は否めないけど、私達も裏組織に関しては手を焼いていたからね……今回の件は正直助かったといえば助かったとも言える。彼等は明確な証拠を残さず、表向きはまっとうな商売をしているし、仮に違法な現場を検挙してもトカゲの尻尾切りでね……はっきりいって彼等の根絶なんて夢物語というのが現状だった……ただ、これで裏世界の均衡が大きく崩れたからね……はぁ、保安局と連携して冒険者も色々大変になりそうだよ」
「まぁ、元々、其の辺はフューレンの行政が何とかするところだろ。今回は、たまたま身内にまで手を出されそうだったから、反撃したまでだし……」
「唯の反撃で、フューレンにおける裏世界三大組織の一つを半日で殲滅かい?ホント、洒落にならないね」
苦笑いするイルワは、何だか十年くらい一気に年をとったようだ。
流石に、ちょっと可哀想なので、ハジメはイルワに提案してみる。
「一応、そういう犯罪者集団が二度と俺達に手を出さないように、見せしめを兼ねて盛大にやったんだ。支部長も、俺らの名前使ってくれていいんだぞ?何なら、支部長お抱えの〝金〟だってことにすれば……相当抑止力になるんじゃないか?」
「おや、いいのかい? それは凄く助かるのだけど……そういう利用されるようなのは嫌うタイプだろう?」
ハジメの言葉に、意外そうな表情を見せるイルワ。
だが、その瞳は「えっ? マジで? 是非!」と雄弁に物語っている。
ハジメは苦笑いしながら、肩を竦めた。
「まぁ、持ちつ持たれつってな。世話になるんだし、それくらいは構わねぇよ。支部長なら、そのへんの匙加減もわかるだろうし。俺らのせいで、フューレンで裏組織の戦争が起きました、一般人が巻き込まれましたってのは気分悪いしな」
「……ふむ。ハジメ君、少し変わったかい?初めて会ったときの君は、仲間の事以外どうでもいいと考えているように見えたのだけど……ウルでいい事でもあったのかな?」
「……まぁ、俺的には悪いことばかりじゃなかったよ」
「それで、そのミュウ君についてだけど……」
「こちらで預かって、正規の手続きでエリセンに送還するか、君達に預けて依頼という形で送還してもらうか……二つの方法がある。君達はどっちがいいかな?」
「いや、俺たちが直接親御さんまで送り届けるさ。」
こうして一件は片付いたのだった。
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