お気に入り(129→130)
今回は原作の流れとは違い先に再会させます。
今回は長めです。
見渡す限りの青。
空は地平の彼方まで晴れ渡り、太陽の光は燦々と降り注ぐ。
しかし、決して暑すぎるということはなく、気候は穏やかで過ごしやすい。時折、優しく吹くそよ風は何とも心地いい。
何一つ物がない場所で少し寂しい場所だ。
もっとも、それも仕方のないことで、大海原のど真ん中なのである。
そんな大海のド真ん中をぷかぷか、ゆらゆらと波間に漂うのは一隻の船だ。
いや、それを船と表現していいものか。
少なくとも、この世界の人には船だと認識は出来ないだろう。
それは船というより新種の魔物と言われた方がこの世界の人々は納得するだろう。
この船の正体は潜水艇だ。
カービィとハジメがミュウの故郷へ行く為だけに二人が徹夜して作成したアーティファクトである。
その耐久性能はなんとカービィのドラゴストームに耐えれる耐熱性、耐久性、ついでにコピー能力ポイズンでも溶けない素材で更に潜水艇の役割を果たすトンデモアイテムである。
そんな潜水艇の上でハジメたちは現在釣った魚を食べていた。
とその時だった。
見たこともない魚の丸焼きに舌鼓を打っていたシアのウサミミが、突如、ピコンッ! と跳ねたかと思うと、忙しなく動き始めた。
次いで、カービィやハジメも「ん?」と何かの気配を感じたようで、全長六十センチ近くある魚を頬張りながら、視線を動かした。
直後、潜水艇を囲むようにして、先が三股になっている槍を突き出した複数の人が、ザバッ! と音を立てて海の中から一斉に現れた。
数は、二十人ほど。
その誰もが、エメラルドグリーンの髪と扇状のヒレのような耳を付けていた。
どう見ても、海人族の集団だ。
彼らの目はいずれも、警戒心に溢れ剣呑に細められている。
そのうちの一人、ハジメの正面に位置する海人族の男が槍を突き出しながら、ハジメたちに問い掛けた。
「お前達は何者だ?なぜ、ここにいる?その乗っているものは何だ?」
ハジメは、頬を膨らませながら目一杯詰め込んだ魚肉を咀嚼し飲み込むので忙しい。
敵対するつもりはないので、早く返答しようと思うのだが、如何せん、今食べている魚は弾力があってずっしりとボリュームのある強敵。
今しばらく飲み込むのに時間がかかる。
そんなハジメを見てカービィは一瞬で魚を食べ終わりハジメに代わって答えた。
「ボクたちは海人族の子供を送り届けにきたんだよ〜。それでこの乗り物はえーっと……新しい種類の船だよ。」
と、カービィがなんとか説明する。
「我らはお前のような子供に意見を求めてない。求めているのはそこの白髪の男だ。」
「……………(ハジメ食事中)」
ハジメやカービィとしては、至って真面目な態度を取っているつもりなのだが、ハジメを『槍を突きつけられ、包囲までされているのに余裕の態度で食事を優先しているふてぶてしい奴』としか見ていないようだった。
尋問した男の額に青筋が浮かぶ。
どうにも、ただ海にいる人間を見つけたにしては殺気立ち過ぎているようで、そのことに疑問を抱きつつも、一触即発の状況を打開しようと、カービィがダメではレムユエもダメだと思ったシアがハジメの代わりに答えようとした。
「あ、あの、落ち着いて下さい。私達はですね……」
「黙れ! 兎人族如きが勝手に口を開くな!」
やはり兎人族の地位は、樹海の外の亜人族の中でも低いようだ。
妙に殺気立っていることもあり、舐めた態度をとるハジメ(海人族にはそう見える)に答えさせたいという意地のようなものもあるのだろう。槍の矛先がシアの方を向き、勢いよく突き出された。
身体強化したシアに、海人族の攻撃が通るわけがないのだが、突き出された槍はシアが躱さなければ、浅く頬に当たっている位置だ。
おそらく、少し傷を付けてハジメに警告しようとしたのだろう。
やはり、少々やりすぎ感がある。
海人族はこれほど苛烈な種族ではなかったはずだ。
だが、例えどんな事情があろうと、それはハジメたちには完全に悪手。
絶対にしてはならない行為だった。
カービィとハジメが、例え警告でも家族を傷つけようとした相手に穏便であるはずがないのだ。
一瞬にして、巨大な殺気と大瀑布の如きハジメのプレッシャーが降り注ぎ、海面が波紋を広げたように波立つ。
目を見開いて、豹変したハジメを凝視する海人族の男は、次の瞬間、
ズバァアアアン!!
そんな衝撃音と共に放たれたカービィのウルトラソードによって海に叩き落とされた。
「なっ、なっ」
狼狽する海人族達。
食いかけの魚を肩に担いだハジメは、ジロリと吹き飛んだ男の隣にいた男を睨みつけた。
ただでさえ、今まで感じたことのないプレッシャーに押し潰されそうになっていた海人族の男は、ハジメの眼光に恐慌を来たしたのか雄叫びを上げながら槍を突き出す。
「ゼェアア!!」
しかしそれは罠である。
「コピー能力ボム!」
クラッカーの様な帽子をかぶったカービィが海人族の男を爆破したのである。
「え? え? な、なんで……」
と、一人の海人族の男がそう呟いた。
「モグモグ……ゴクンッ……さて、俺としては海人族とは極力争いたくないんだ。だから、ここは落ち着いて話し合いといかないか?流石に、本気で仲間に手を出されたら黙っている訳にはいかないしな。」
「うん。あとボクが攻撃した人は手加減したから死んでないと思うよ〜。」
紅色の輝きを失い、くた~となった魚を片手に〝威圧〟を解いて、ハジメは、そう提案した。
ハジメやカービィたちとしても、ミュウと同じ海人族とは、あまり争いたくなかった。
さっくり殺してしまった相手が、実は近所のおじさんですとか言われたら目も当てられないからである。
しかし、海人族の方は、提案を呑むつもりがないらしい。
死んでいないとはいえ仲間を爆破されたり沈められた挙句、海の上という人間にとって圧倒的に不利な状況で『お前達など相手にならない』という態度をとる(海人族にはそう見える)ハジメに自尊心を傷つけられたらしい。
更に、人間族に対する警戒が異常に高いようで、ハジメたちの言葉を全く信用していないようだ。
油断させようとしてもそうはいかない!
と、ハジメ達から距離を取りながら背中に括りつけた短いモリを、投擲するように構えだした。
「そうやって、あの子も攫ったのか?また、我らの子を攫いに来たのか!」
「もう魔法を使う隙など与えんぞ!海は我らの領域。無事に帰れると思うな!」
「手足を切り落としてでも、あの子の居場所を吐かせてやる!」
「安心しろ。王国に引き渡すまで生かしてやる。状態は保障しないがな」
「コピー能力バブル。ビッグバブル!」
シャボン玉がたくさん付いたような帽子をかぶったカービィが海人族をシャボン玉に入れて海まで戻して解放する。
海人族には警戒心というより、その目には強烈な恨みが含まれているように見える。
『我らの子を攫う』という言葉から、彼等が殺気立っている原因を何となく察するハジメ。
もしかするとミュウ誘拐の犯人と勘違いされているのかもしれない。
だがさっきカービィがそれは説明した筈なのだ。
たしかに見たことのない乗り物に乗り、兎人族の奴隷を連れ、海人族の警戒範囲をうろつく人間は誤解されてもおかしくないかもしれないが……。
ハウリア族もそうだが、亜人族は種族における結束や情が非常に強い。
特に同種族において、その傾向は顕著だ。
シアのために一族総出で樹海を飛び出したハウリア族など、海人族も例に漏れず、例え他人の子であっても自分の子と変わらないくらい大切なのだろう。
苦笑いしたハジメは、ミュウの名前を出して誤解を解こうとした。
「あ~、あのな、そのさらわれ…」
「やれぇ!!」
しかし、それより早く、海人族はモリを次々と投擲し始めてしまった。下半身を海に付けて立ち泳ぎしながらだというのに、相当な速さで飛来するモリは、なるほど、確かに殺すつもりはないようで肩や足を狙ったものばかりだ。
しかもご丁寧に、水中から船を突き上げているらしく、船体が激しく揺れている。
普通の人間なら、バランスを崩して回避行動が間に合わずモリに射抜かれるか、海に落ちて海人族に制圧されるかが関の山だろう。
あくまで、普通の人間なら。
「コピー能力ウォーター!」
カービィが波を模した冠を被ると海水をカービィが操り、圧縮されながら盛り上がり全方位から飛んで来たモリを尽く阻んだ。
そして、レムユエとルティが現れ、無詠唱で発動した魔法に海人族達が驚愕している間に、レムユエは雷球を二十個ほど周囲に浮かべ、ルティは水中でアナザーディメンションを発動させる。
文字通り城壁と化していた海水がザバッと音を立てて元に戻ると同時に、海人族達は、レムユエの周りに漂うバチバチと放電する雷球と水中から次々と生えてくる謎の刺に悲鳴じみた号令が響く。
「っ!?た、退避ぃいい!!」
サッと青ざめさせた彼等は急いで逃げようと踵を返した。
が、時すでに遅し。
ルティの攻撃は誰も当たらないようにしている囮で本命はレムユエの雷球である。
雷球は、それぞれ別方向に飛び、海人族達を一人も逃さず……ほどよく感電させた。
そこかしこで「アバババババババッ」という悲鳴が聞こえ、しばらくすると、プカーと二十一人の海人族が浮かび上がった。
「レムユエ、ルティ、お疲れさん」
「ん……ハジメ、この人達が言っていたのって」
「まぁ、ミュウのことだろうな」
「やっぱりミュウさんを表に出した方が良かったですかね……?」
ミュウの安全を考えティオにこの戦闘の間、面倒を見てもらっていたのだ。
ハジメは、頭を抱えながら溜息を吐き、取り敢えず、土左衛門になっている海人族達の回収に動き出した。
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潜水艇を即席で改造し作った荷台に、白目を剥いてアフロになっている海人族達を乗せ海原を進む。
レムユエが気をきかせて、一人だけ雷撃を弱くしておいたので直ぐに目を覚まさせ事情を説明し港に案内させた。
ハジメが、当初、ミュウの名と特徴を知っていたことに、『やはり貴様が犯人か!』と暴れた海人族の男だったが、ハジメが、ついイラっとして大人しくなるまで無表情で往復ビンタを繰り返すと、改心してきちんと話を聞いてくれるようになった。
そして、ミュウが潜水艇の中から出てきてハジメやカービィたちを『お兄ちゃん』『お姉ちゃん』と呼んで懐いていることから少しだけ警戒を解いて海人族へ説明しに行った。
なんだかんだて海の上を走ること数時間、
「あっ、ハジメさん!見えてきましたよ!町ですぅ!やっと人のいる場所ですよぉ!」
「ん? おぉ、ほんとに海のド真ん中にあるんだなぁ」
「どんな美味しい食べ物があるかな!」
「ん、カービィは新しい街に来たらいつも言ってる。」
「薄々思ってましたがカービィさんって食いしん坊ですね。」
「今更だろ?」
「ん、今更。」
「今更ですぅ。」
「今更じゃな。」
「今更なの。」
ルティより後に出会ったミュウですらカービィが食いしん坊であることは分かっていたがその事にルティは驚いたのだった。
そしてすぐ傍に来たことで、潜水艇の荷台に白目をむいて倒れる数十人の海人族達を目撃した海人族達が、大声で騒ぎ出した。
ハジメは、事情説明をしてくれる人達がいるので、大丈夫だろうと考え、取り敢えず、青年と協力して桟橋に気絶中の彼等を降ろしていく。
そうこうしているうちに、完全武装した海人族と人間の兵士が詰めかけてきた。
数人の海人族が、事情を説明するため前に進み出て、何やらお偉いさんらしき人と話し始める。
しかし、穏便にいってくれというハジメだたちの思いは、やはりそう簡単に叶いはしないらしい。
何やら慌てている数人の海人族を押しのけ、兵士達が押し寄せてきた。
狭い桟橋の上なので逃げ場などなく、あっという間に包囲されるハジメ達。
「大人しくしろ。事の真偽がはっきりするまで、お前達を拘束させてもらう」
「おいおい、話はちゃんと聞いたのか?」
「もちろんだ。確認には我々の人員を行かせればいい。お前達が行く必要はない」
ハジメはイラっとしつつも、ミュウの故郷だと自分に言い聞かせて自制する。
「あのな。俺達だって目的があるんだ。直ぐにでも次の目的地に向かいたいところを、わざわざ勘違いで襲って来た奴らを送り届けに来てやったんだぞ?」
「果たして勘違いかどうか……攫われた子がいなければ、エリセンの管轄内で正体不明の船に乗ってうろついていた不審者ということになる。道中で逃げ出さないとも限らないだろう?」
「どんなタイミングだよ。逃げ出すなら、こいつらを全滅させた時点で逃げ出しているっつうの」
「その件もだ。お前達が無断で管轄内に入ったことに変わりはない。それを発見した自警団の団員を襲ったのだから、そう簡単に自由にさせるわけには行かないな」
「殺気立って話も聞かず、襲ってきたのはコイツ等だろ?それとも、おとなしく手足を落とされていれば良かったってか?……いい加減にしとけよ?」
ハジメは剣呑に目を細めた。
目の前の兵士達のリーダーらしき人間族の男は、ハジメから溢れ出る重い空気に眉をしかめる。
彼の胸元のワッペンにはハイリヒ王国の紋章が入っており、国が保護の名目で送り込んでいる駐在部隊の隊長格であると推測できる。
海人族側の、おそらく自警団と呼ばれた者達も、ハジメの雰囲気に及び腰になりながらも引かない様子だ。
ハジメとしては、ミュウの故郷であるし、ついでに行こうと思っている大迷宮の一つ『メルジーネ海底遺跡』の正確な場所を知らないので、しばらく探索に時間がかかる可能性を考えると拠点となるエリセンで問題を起こしたくはなかった。
と、その時だった。
「喧嘩は辞めてなの!ハジメお兄ちゃんたちはいい人なの!」
とミュウはステテテテー!と走って来てハジメの前に立って両手を広げた。
「子供がでしゃばるな!」
「ひっぐ、ぐすっ、ひぅ」
ついにミュウは泣き出してしまった。
ボロボロになった桟橋の近くで、幼い少女のすすり泣く音が響く。
野次馬やら兵士達やらで人がごった返しているのだが、喧騒など微塵もなく、妙に静まり返っていた。
それは、攫われたはずの海人族の女の子が人間であるはずの少年を庇った事、更に現在、一番の理由は、その少年が盛大に海人族の少女を叱り付けたことだろう。
いや、正確には、叱りつけた少年に対する先程から何度か聞こえる幼女の呼び名が原因かもしれない。
「ぐすっ、ハジメお兄ちゃんごめんなしゃい……」
「もうあんな危ない事しないって約束できるか?」
「うん、しゅる」
「よし、ならいい。ほら、来な」
「ハジメお兄ちゃーん!」
片膝立ちで幼子にしっかり言い聞かせるハジメの姿と、叱られて泣きながらも素直に反省し、許されてハジメの胸元に飛び込むミュウの姿は……普通に家族だった。
ミュウが連呼する〝お兄ちゃん〟の呼び名の通りに。
攫われたはずの海人族の幼子が、単なる〝慕う〟を通り越して人間の少年を家族扱いしている事態に、そしてそれを受け入れてミュウを妹扱いしているハジメに、皆、意味が分からず唖然としている。
内心は皆一緒だろう。
すなわち、「これ、どうなってんの?」と。
「貴様等……一度ならず、二度までも……王国兵士に対する公務妨害で捕縛してやろうか!」
ハジメたちは無言でマジックバックの中から全員分のステータスプレートとイルワからの依頼書を取り出し、隊長に提示した。
「……なになに……全員〝金〟ランクだとっ!?しかも、フューレン支部長の指名依頼!?」
イルワの依頼書の他、事の経緯が書かれた手紙も提出した。
これはエリセンの町長と目の前の駐在兵士のトップに宛てられたものだ。
それを食い入るように読み進めた隊長は盛大に溜息を吐くと、少し逡巡したようだが、やがて諦めたように肩を落として敬礼をした。
「……依頼の完了を承認する。南雲殿」
「疑いが晴れたようで何よりだ。他にも色々聞きたいことはあるんだろうが、こっちはこっちで忙しい。というわけで何も聞かないでくれ……一先ず、この子と母親を会わせたい。いいよな?」
「もちろんだ……が、あの船らしきもの……王国兵士としては看過できない」
「それなら、時間が出来たら話すってことでいいだろ? どっちにしろしばらくエリセンに滞在する予定だしな。もっとも、本国に報告しても無駄だと思うぞ。もう、ほとんど知ってるだろうし……」
「むっ、そうか。とにかく、話す機会があるならいい。その子を母親の元へ……その子は母親の状態を?」
「いや、まだ知らないが、問題ない。こっちには最高の薬もあるし、薬剤師もいるからな」
「そうか、わかった。では、落ち着いたらまた、尋ねるとしよう」
隊長の男、最後にサルゼと名乗った彼は、そう言うと野次馬を散らして騒ぎの収拾に入った。
中々、職務に忠実な人物である。
ミュウを知る者達が、声を掛けたそうにしていたが、そうすれば何時までたっても母親のところへたどり着けそうになかったので、ハジメは視線で制止した。
「ハジメお兄ちゃん、カービィお姉ちゃん。お家に帰るの。ママが待ってるの!ママに会いたいの」
「そうだな……早く、会いに行こう」
ハジメの手を懸命に引っ張り、早く早く!と急かすミュウ。
彼女にとっては、約一ヶ月ぶりの我が家と母親なのだ。
無理もない。
道中も、ハジメ達が構うので普段は笑っていたが、夜、寝る時などに、やはり母親が恋しくなるようで、そういう時は特に甘えん坊になっていた。
しばらく歩くと通りの先で騒ぎが聞こえだした。若い女の声と、数人の男女の声だ。
「レミア、落ち着くんだ!その足じゃ無理だ!」
「そうだよ、レミアちゃん。ミュウちゃんならちゃんと連れてくるから!」
「いやよ! ミュウが帰ってきたのでしょう!? なら、私が行かないと! 迎えに行ってあげないと!」
そのレミアと呼ばれた女性の必死な声が響くと、ミュウが顔をパァア!と輝かせた。
そして、玄関口で倒れ込んでいる二十代半ば程の女性に向かって、精一杯大きな声で呼びかけながら駆け出した。
「ママーー!!」
「ッ!?ミュウ!?ミュウ!」
ミュウは、ステテテテー!と勢いよく走り、玄関先で両足を揃えて投げ出し崩れ落ちている女性――母親であるレミアの胸元へ満面の笑顔で飛び込んだ。
もう二度と離れないというように固く抱きしめ合う母娘の姿に、周囲の人々が温かな眼差しを向けている。
レミアは、何度も何度もミュウに「ごめんなさい」と繰り返していた。
娘が無事だった事に対する安堵と守れなかった事に対する不甲斐なさにポロポロと涙をこぼすレミアに、ミュウは心配そうな眼差しを向けながら、その頭を優しく撫でた。
「大丈夫なの。ママ、ミュウはここにいるの。だから、大丈夫なの」
「ミュウ……」
まさか、まだ四歳の娘に慰められるとは思わず、レミアは涙で滲む瞳をまん丸に見開いて、ミュウを見つめた。
「ママ!あし!どうしたの!けがしたの!?いたいの!?」
どうやら、肩越しにレミアの足の状態に気がついたらしい。
彼女のロングスカートから覗いている両足は、包帯でぐるぐる巻きにされており、痛々しい有様だった。
これが、サルゼが言っていたことであり、エリセンに来る道中でハジメが青年から聞いていたことだ。
ミュウを攫ったこともだが、母親であるレミアに歩けなくなる程の重傷を負わせたことも、海人族達があれ程殺気立っていた理由の一つだったのだ。
レミアは、はぐれたミュウを探している時に、海岸の近くで怪しげな男達を発見した。
取り敢えず娘を知らないか尋ねようと近付いたところ……男は「しまった」という表情をして、いきなり詠唱を始めたらしい。
レミアは、ミュウがいなくなったことに彼等が関与していると確信し、何とかミュウを取り返そうと、足跡の続いている方向へ走り出そうとした。
しかし、もう一人の男に殴りつけられ転倒し、そこへ追い打ちを掛けるように炎弾が放たれた。
直撃は避けたものの足に被弾し、そのまま衝撃で吹き飛ばされ海へと落ちた。
レミアは、痛みと衝撃で気を失い、気が付けば帰りの遅いレミア達を捜索しに来た自警団の人達に助けられていたのだ。
当然、娘を探しに行こうとしたレミアだが、そんな足では捜索など出来るはずもなく、結局、自警団と王国に任せるしかなかった。
そんな事情があり、レミアは現在、立っていることもままならない状態なのである。
レミアは、これ以上、娘に心配ばかりかけられないと笑顔を見せて、ミュウと同じように「大丈夫」と伝えようとした。
しかし、それより早く、ミュウは、この世でもっとも頼りにしている『お兄ちゃんとお姉ちゃん』に助けを求めた。
「お兄ちゃん!お姉ちゃん!ママを助けて!ママの足が痛いの!」
「えっ!?ミ、ミュウ?いま、なんて……!」
「お兄ちゃん!お姉ちゃん!はやくぅ!」
「あら?あらら?やっぱり、『お義兄ちゃん、お義姉ちゃん』って言ったの?ミュウ?」
混乱し頭上に大量の〝?〟を浮かべるレミア。
周囲の人々もザワザワと騒ぎ出した。
あちこちから
「レミアに新たな子供が……再婚?そんな……バカナ」
「レミアちゃんにも、ようやく次の春が来たのね!おめでたいわ!」
「ウソだろ? 誰か、嘘だと言ってくれ……俺のレミアさんが……」「お義兄…だと!?俺のことか!?」
「きっと芸名とかそんな感じのやつだよ、うん、そうに違いない」
「おい、緊急集会だ!レミアさんとミュウちゃんを温かく見守る会のメンバー全員に通達しろ!こりゃあ、荒れるぞ!」
など、色々危ない発言が飛び交っている。
どうやら、レミアとミュウは、かなり人気のある母娘のようだ。
レミアは、まだ、二十代半ばと若く、今は、かなりやつれてしまっているが、ミュウによく似た整った顔立ちをしている。
復調すれば、おっとり系の美人として人目を惹くだろうことは容易く想像できるので、人気があるのも頷ける。
刻一刻と大きくなる喧騒に、「行きたくねぇなぁ」と表情を引き攣らせるハジメ。
どうやら、誤解が物凄い勢いで加速しているようだ。
だが、ある意味僥倖かもしれないとハジメは考えた。
ミュウは母親の元に残して、ハジメ達は旅を続けなければならない。
『メルジーネ海底遺跡』を攻略すれば、ミュウとはお別れなのだ。
故郷から遠く離れた地で、母親から無理やり引き離されたミュウの寄る辺がハジメ達だったわけだが、母親の元に戻れば、最初は悲しむかもしれないが時間がハジメ達への思いを薄れさせるだろうと考えていた。
周囲の人々の、レミア達母娘への関心の強さは、きっと、その助けとなるはずだ。
「お兄ちゃん!お姉ちゃん!はやくぅ!ママをたすけて!」
「うん!コピー能力ドクター!」
カービィは回復薬をコピー能力ドクターで作成しレミアに飲ませた。
次の瞬間傷が全て消えたのだった。
「そんなバカな!?」
と海人族がいっていた。
「あらあら、まあまあ。もう、歩けないと思っていましたのに……何とお礼を言えばいいか……」
「ふふ、いいんですよ。ミュウちゃんのお母さんなんですから」
「えっと、そういえば、皆さんは、ミュウとはどのような……それに、その……どうして、ミュウは、貴方のことを〝お義兄ちゃん〟と……」
「なんか発音が違う気がするが……」
ハジメ達は、事の経緯を説明することにした。
フューレンでのミュウとの出会いと騒動、そしてお兄ちゃんと呼ぶようになった経緯など。
全てを聞いたレミアは、その場で深々と頭を下げ、涙ながらに何度も何度もお礼を繰り返した。
「本当に、何とお礼を言えばいいか……娘とこうして再会できたのは、全て皆さんのおかげです。このご恩は一生かけてもお返しします。私に出来ることでしたら、どんなことでも……」
「どうかせめて、これくらいはさせて下さい。幸い、家はゆとりがありますから、皆さんの分の部屋も空いています。エリセンに滞在中は、どうか遠慮なく。それに、その方がミュウも喜びます。ね?ミュウ?ハジメさん達が家にいてくれた方が嬉しいわよね?」
「?ハジメお兄ちゃん、カービィお姉ちゃん、どこかに行くの?」
レミアの言葉に、レミアの膝枕でうとうとしていたミュウは目をぱちくりさせて目を覚まし、次いでキョトンとした。
どうやら、ミュウの中でハジメたちが自分の家に滞在することは物理法則より当たり前のことらしい。
なぜ、レミアがそんな事を聞くのかわからないと言った表情だ。
「母親の元に送り届けたら、少しずつ距離を取ろうかと思っていたんだが……」
「あらあら、うふふ。兄妹が、妹から距離を取るなんていけませんよ?」
「いや、それは説明しただろ?俺達は……」
「いずれ、旅立たれることは承知しています。ですが、だからこそ、お別れの日まで〝家族〟でいてあげて下さい。距離を取られた挙句、さようならでは……ね?」
「……まぁ、それもそうか……」
「うふふ、別に、お別れの日までと言わず、ずっと〝家族〟でもいいのですよ?先程〝一生かけて〟と言ってしまいましたし……」
そんな事を言って、少し赤く染まった頬に片手を当てながら「うふふ♡」と笑みをこぼすレミア。
おっとりした微笑みは、普通なら和むものなのだろうが……ハジメたちの周囲にはブリザードが発生している。
「そういう冗談はよしてくれ……空気が冷たいだろうが……」
「あらあら、おモテになるのですね。あぁそう言えば私も夫を亡くしてそろそろ五年ですし、ミュウもパパ欲しいわよね?」
「ふぇ?パパ?ハジメお兄ちゃんがパパになってくれるの!?」
「うふふ、だそうですよ、パパ?」
ブリザードが激しさを増す。
「いいや、遠慮しておくよ。」とハジメは即答した。
危うくハジメはレミアの婚約相手になってしまうところだったたのだ。
冷たい空気に気が付いているのかいないのか分からないが、おっとりした雰囲気で、冗談とも本気とも付かない事をいうレミア。
結局、レミア宅に世話になることになった。
明日からは、ついでの大迷宮攻略に向けて、しばらくの間、損壊、喪失した装備品の修繕・作成や、新たな神代魔法に対する試行錯誤を行わなければならない。
しかし、残り少ないミュウとの時間も、蔑ろにはできないと考えながら、ベッドに入ったハジメたちの意識は微睡んでいったのだった。
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