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現在、領主のランズィと護衛や付き人多数、そしてハジメ、カービィ、ルティ、レムユエ、ティオ、光輝はアンカジ北部にある農業地帯の一角に来ていた。
二百メートル四方どころかその三倍はありそうな平地が広がっている。
そこへカービィたちは更に水を入れる。
未だ、半信半疑のランズィは、この非常時に謀ったと分かれば即座に死刑にしてやると言わんばかりの眼光でハジメ達を睨んでいた。
しかもカービィの出せる水も限りがあると思っているからだ。
常識的に考えて不可能な話なので、ランズィの眼差しも仕方のないものであるが……。
もっとも、その疑いの眼差しは、レムユエが魔法を行使した瞬間驚愕一色に染まった。
「壊劫」
前方の農地に頭上に向けて真っ直ぐにつき出された右手の先に、黒く渦巻く球体が出現する。
その球体は、農地の上で形を変え、薄く四角く引き伸ばされていき、遂に二百メートル四方の薄い膜となった。
そして、一瞬の停滞のあと、音も立てずに地面へと落下し、そのまま何事もなかったかのように大地を押しつぶした。
地響きが鳴り響く。
そして一瞬にして、超重力を掛けられた農地は二百メートル四方、深さ五メートルの巨大な貯水所となった。
これで後は水を入れるだけである。
ハジメがチラリとランズィ達を見ると、お付の人々も含めて全員が、顎が外れないか心配になるほどカクンと口を開けて、目も飛び出さんばかりに見開いていた。
衝撃が強すぎて声が出ていないようだが、全員が内心で「なにぃーー!?」と叫んでいるのは明白である。
神代魔法(重力魔法)を半分程の出力で放ったレムユエは、「ふぅ」と息を吐く。
魔力枯渇というほどではないが、一気に大量に消費したことに変わりはなく僅かだが倦怠感を感じたのだ。
レムユエはストックしてある魔力回復薬を取り出してもいいのだが、この後、『グリューエン大火山』に挑むことを考えれば、出来るだけ温存しておきたい。
よって……
フラリと背後に体を倒れさせるレムユエだったが、体を支えようともがく仕草は見せない。
そこでカービィ特製の『トマトジュース』である。
これはカービィがコピー能力コックでマキシムトマト数個を煮込んでジュースにした上で、コピー能力アイススパーク(冷蔵庫マークのついたエプロンをつけたカービィ)で冷やしたジュースである。
その効果は体力と魔力を即時に半分まで回復し、一時間程魔力と体力が10秒で十分の一回復し続けるアイテムである。
(ただし、欠点として冷えてないと回復量が半分になる為、砂漠やグリューエン火山内ではマジックバッグや宝物庫に入れる必要がある。)
一応これを一人100個程持っていて、カービィが光輝に渡した時、本人は結構驚いていた。
「……いただきます」
レムユエは『トマトジュース』にストローを刺して飲み始めた。
チュ〜、チュ~、ゴク……ゴク。
「いやいやいや、こんな時に何故貴重な飲み物を飲んだ!?」
領主のツッコミに「これは魔力回復剤だ」と言って肩を竦めたハジメとレムユエは、その仕草にイラっときているランズィ達を尻目に仕事に取り掛かった。
ハジメは、貯水池に降りると、土中の鉱物を『鉱物分離』で取り出し、水が吸収されないように貯水池の表面を金属コーティングしているのだ。そして、コーティングを終えて戻ってくると、今度はレムユエが腕を突き出し、即席の貯水池に水系魔法を行使した。
何気に今作ではレムユエが火属性と神代魔法以外を使うのは初であるのでシアは「あ、レムユエさんって火以外も使えたんですね。」と呟いたのはステータスプレートを気にしてなかった証拠である。
「虚波」
水系上級魔法の一つで、大波を作り出して相手にぶつける魔法だ。
普通の術師や現在の光輝レベルでは、大波と言っても、せいぜい十から二十メートル四方の津波が発生する程度だが、レムユエが行使すると桁が変わる。
横幅百五十メートル高さ百メートルの津波が虚空に発生し、一気に貯水池へと流れ込んだ。
きっとカービィのコピー能力ウォーターでやっていたら更に時間がかかっていただろう。
そしてこの貯水池に貯められる水の総量は約二十万トン。
途中、何度か魔力回復をし、魔力を補給して溜め込んだのだった。
程なくして、二百メートル四方の貯水池は、汚染されていない新鮮な水でなみなみと満たされた。
「……こんなことが……」
ランズィは、あり得べからざる事態に呆然としながら眼前で太陽の光を反射してオアシスと同じように光り輝く池を見つめた。言葉もないようだ。
「取り敢えず、これで当分は保つだろう。あとは、オアシスを調べてみて……何も分からなければ、稼いだ時間で水については救援要請すればいいだろうな。」
「あ、ああ。いや、聞きたい事は色々あるが……ありがとう。心から感謝する。これで、我が国民を干上がらせずに済む。オアシスの方も私が案内しよう」
ランズィはまだ衝撃から立ち直りきれずにいるようだが、それでもすべきことは弁えている様で、ハジメ達への態度をガラリと変えると誠意を込めて礼をした。
ハジメ達は、そのままオアシスへと移動する。
オアシスは、相変わらずキラキラと光を反射して美しく輝いており、とても毒素を含んでいるようには見えなかった。
しかし……
「……ん?」
「……ハジメ?」
ハジメと光輝が、眉をしかめてオアシスの一点を見る。
「どうしたの二人とも?」
「いや、何か、今、魔眼石に反応があったような……」
「俺も気配探知に反応があった」
「……ふむ、領主殿、調査チームってのはどの程度調べたのじゃ?」
「……確か、資料ではオアシスとそこから流れる川、各所井戸の水質調査と地下水脈の調査を行ったようだ。水質は息子から聞いての通り、地下水脈は特に異常は見つからなかった。もっとも、調べられたのは、このオアシスから数十メートルが限度だが。オアシスの底まではまだ手が回っていない」
「オアシスの底には、何かアーティファクトでも沈めているのですか?」
「いや。オアシスの警備と管理に、とあるアーティファクトが使われているが、それは地上に設置してある……結界系のアーティファクトでな、オアシス全体を汚染されるなどありえん事だ。事実、今までオアシスが汚染されたことなど一度もなかったのだ」
ランズィのいうアーティファクトとは『真意の裁断』といい、実は、このアンカジを守っている光のドームのことだ。
砂の侵入を阻み、空気や水分など必要なものは通す作用がある便利な障壁なのだが、何を通すかは設定者の側で決めることが出来る。
そして、単純な障壁機能だけでなく探知機能もあり、何を探知するかの設定も出来る。
その探知の設定は汎用性があり、闇系魔法が組み込まれているのか精神作用も探知可能なのだ。
つまり、『オアシスに対して悪意のあるもの』と設定すれば、『真意の裁断』が反応し、設定権者であるランズィに伝わるのである。
もちろん、実際の設定がどんな内容かは秘匿されており領主にしかわからない。
ちなみに、現在は調査などで人の出入りが多い上、既に汚染されてしまっていることもあり警備は最低限を残して解除されている。
「……へぇ。じゃあ、あれは何なんだろうな」
アンカジ公国自慢のオアシスを汚され、悔しそうに拳を握り締める姿は、なるほど、ビィズの父親というだけあってそっくりである。
そんなランズィを尻目に、ハジメは、口元を歪めて笑った。
ハジメと光輝には、魔力を発する〝何か〟がオアシスの中央付近の底に確かに見えている。
あるはずのないものがあると言われランズィ達が動揺する。
ハジメは、オアシスのすぐ近くまで来ると『宝物庫』から五百ミリリットルのペットボトルのような形の金属塊を取り出し直接魔力を注ぎ込んだ。そして、それを無造作にオアシスへと投げ込んだ。
スタスタとオアシスから離れ、家族の隣に並び立つハジメ。
皆が疑問顔を向けるが、ハジメは何も答えない。
そして、いい加減しびれを切らしたランズィがハジメに何をしたのか問い詰めようとした、その瞬間……!
ドゴォオオオ!!!
凄まじい爆発音と共にオアシスの中央で巨大な水柱が噴き上がった。
再び顎がカクンと落ちて目を剥くランズィ達。
「ちっ、意外にすばしっこい……いや、防御力が高いのか?……おい、光輝。見えてるんだろ?水の魔法で手伝え!」
「あぁ、水槍!」
光輝も魔力探知で的確に『何か』を捉えて水の槍を次々と投げていった。
ハジメは今度は十個くらい同じものを取り出しポイポイとオアシスに投げ込んでいく。
そして、やっぱり数秒ほどすると、オアシスのあちこちで大爆発と巨大な水柱が噴き上がった。
ハジメが投げ込んだのは、いわゆる魚雷である。
七大迷宮の一つ『メルジーネ海底遺跡』用に用意した物であり、海用の兵器と言えば魚雷だろうと完成品そこそこ作っておいたのである。
せっかくだし試してみようと実験がてら放り込んでみたのだ。
結果として、威力はそれなりで、追尾性と速度もあるが上手く巻かれているようだ。
「おいおいおい!ハジメ殿!光輝殿!一体何をやったんだ!あっ、あぁ!桟橋が吹き飛んだぞ!魚達の肉片がぁ!オアシスが赤く染まっていくぅ!」
「ちっ、まだ捕まらねぇか。こうなったらカービィ!コピー能力グラビティで水ごと浮かせてくれ!」
「うん!コピー能力グラビティ!グラビティサークル!」
コピー能力グラビティの『グラビティサークル』はライセン迷宮で使った青い魔法陣が出現するあの技に名前をつけたのだ。
そしてオアシスと同サイズの青い魔法陣を出して水を浮かべた。
「なんだ……これは……」
オアシスより現れたそれは、体長十メートル、無数の触手をウネウネとくねらせ、赤く輝く魔石を持っていた。
スライム……そう表現するのが一番わかりやすいだろう。
だが、サイズがおかしい。
通常、スライム型の魔物はせいぜい体長一メートルくらいなのだ。
また、周囲の水を操るような力もなかったはずだ。
少なくとも触手のように操ることは、自身の肉体以外では出来なかったはずである。
よって何度目かわからない驚きの声と共にランズィの呆然としたつぶやきが、やけに明瞭に響き渡ったのだった。
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