それではどうぞ!
オアシスより現れたそれは、体長十メートル、無数の触手をウネウネとくねらせ、赤く輝く魔石を持っていた。
スライム……そう表現するのが一番わかりやすいだろう。
だが、サイズがおかしい。
通常、スライム型の魔物はせいぜい体長一メートルくらいで、周囲の水を操るような力もなかったはずだ。
少なくとも触手のように操ることは、自身の肉体以外では出来なかったはずである。
「なんだ……この魔物は一体何なんだ?バチェラム……なのか?」
呆然とランズィがそんな事を呟く。
バチェラムとは、この世界のスライム型の魔物のことだ。
「まぁ、何でもいいさ。こいつがオアシスが汚染された原因だろ?大方、毒素を出す固有魔法でも持っているんだろう」
「……確かに、そう考えるのが妥当か。……だがこんな化け物を倒せるのか?」
ハジメとランズィが会話している間も、まるで怒り心頭といった感じで触手攻撃をしてくるオアシスバチュラム。
レムユエとティオは炎で触手を溶かし、カービィは『属性ミックス』のファイアソードで『一とうりょうだん』する。
(帽子はコピー能力ソードと変わらない姿)
光輝も同じ様に魔法を聖剣に纏って攻撃する。
ハジメも、会話しながらドンナー・シュラークで迎撃しつつ、核と思しき赤い魔石を狙い撃つが、魔石はまるで意思を持っているかのように縦横無尽に体内を動き回り、中々狙いをつけさせない。
その様子を見て、ランズィが、ハジメの持つアーティファクトやユエ達の魔法に、もう驚いていられるかと投げやり気味にスルーすることを決めて、冷静な態度でハジメに勝算を尋ねた。
「ん~……ああ、大丈夫だ。もう捉えた」
ランズィの質問に対してお座なりな返事をしながら、目を細めジッと動き回る魔石の軌跡を追っていたハジメは、おもむろにシュラークをホルスターにしまうと、ドンナーだけを持って両手で構えた。
持ち手の右腕を真っ直ぐ突き出し左肘を曲げて、足も前後に開いている。
ドンナーによる精密射撃体勢である。
ハジメの眼はまるで鷹のように鋭く細められ、魔石の動きを完全に捉えているようだ。
そして……
ドパンッ!!
乾いた破裂音と共に空を切り裂き駆け抜けた一条の閃光は、カクっと慣性を無視して進路を変えた魔石を、まるで磁石が引き合うように、あるいは魔石そのものが自ら当たりにいったかのように寸分違わず撃ち抜いた。
レールガンの衝撃と熱量によって魔石は一瞬で消滅し、同時にオアシスバチュラムを構成していた水も力を失ってただの水へと戻った。
そしてドザァー!と大量の水が降り注ぐ音を響かせながら、激しく波立つオアシスを見つめるランズィ達。
「……終わったのかね?」
「ああ、もう、オアシスに魔力反応はねぇよ。原因を排除した事がイコール浄化と言えるのかは分からないが」
ハジメの言葉に、自分達アンカジを存亡の危機に陥れた元凶が、あっさり撃退されたことに、まるで狐につままれたような気分になるランズィ達。
それでも、元凶が目の前で消滅したことは確かなので、慌ててランズィの部下の一人が水質の鑑定を行った。
「……どうだ?」
「……いえ、汚染されたままです」
ランズィの期待するような声音に、しかし部下は落胆した様子で首を振った。
オアシスから汲んだ水からも人々が感染していたことから予想していたことではあるが、オアシスバチュラムがいなくても一度汚染された水は残るという事実に、やはり皆落胆が隠せないようだった。
「まぁ、そう気を落とすでない。元凶がいなくなった以上、これ以上汚染が進むことはない。新鮮な水は地下水脈からいくらでも湧き出るのじゃから、上手く汚染水を排出してやれば、そう遠くないうちに元のオアシスを取り戻せよう」
ティオが慰めるようにランズィ達に言うと、彼等も、気を取り直し復興に向けて意欲を見せ始めた。
ランズィを中心に一丸となっている姿から、アンカジの住民は、みながこの国を愛しているのだということがよくわかる。
過酷な環境にある国だからこそ、愛国心も強いのだろう。
「……しかし、あのバチュラムらしき魔物は一体なんだったのか……新種の魔物が地下水脈から流れ込みでもしたのだろうか?」
気を取り直したランズィが首を傾げてオアシスを眺める。それに答えたのはハジメだった。
「おそらくだが……魔人族の仕業じゃないか?」
「!?魔人族だと?ハジメ殿、貴殿がそう言うからには思い当たる事があるのだな?」
ハジメの言葉に驚いた表情を見せたランズィは、しかし、すぐさま冷静さを取り戻し、ハジメに続きを促した。
水の確保と元凶の排除を成し遂げたハジメに、ランズィは敬意と信頼を寄せているようで、最初の、胡乱な眼差しはもはや一ナノたりともない。
ハジメは、オアシスバチュラムが、魔人族の神代魔法による新たな魔物だと推測していた。
それはオアシスバチュラムの特異性もそうだが、ウルの町で大量の魔物は愛子先生がいたからと言うこと(ハジメの予想)や、オルクスでの勇者一行を狙ったという事実があるからだ。
おそらく、魔人族の魔物の軍備は整いつつあるのだろう。
そして、いざ戦争となる前に、危険や不確定要素、北大陸の要所に対する調査と打撃を行っているのだ。
愛子という食料供給を一変させかねない存在と、聖教教会が魔人族の魔物に対抗するため異世界から喚んだ勇者を狙ったのがいい証拠だ。
もし魔人族でなければ別の狙いがあるかも知れないがその可能性は低い。
そして、アンカジは、エリセンから海産系食料供給の中継点であり、果物やその他食料の供給も多大であることから食料関係において間違いなく要所であると言える。
しかも、襲撃した場合、大砂漠のど真ん中という地理から、救援も呼びにくい。魔人族が狙うのもおかしな話ではないのだ。
その辺りのことを、ランズィに話すと、彼は低く唸り声を上げ苦い表情を見せた。
「魔物のことは聞き及んでいる。こちらでも独自に調査はしていたが……よもや、あんなものまで使役できるようになっているとは……見通しが甘かったか」
「まぁ、仕方ないんじゃないか?王都でも、おそらく新種の魔物なんて情報は掴んでいないだろうし。なにせ、勇者一行が襲われたのも、つい最近だ。今頃、あちこちで大騒ぎだろうよ」
「いよいよ、本格的に動き出したということか……ハジメ殿……貴殿たちは冒険者と名乗っていたが……そのアーティファクトといい、強さといい、やはり光輝殿と同じ……」
ハジメが、何も答えず肩を竦めると、ランズィは何か事情があるのだろうとそれ以上の詮索を止めた。
どんな事情があろうとアンカジがハジメ達に救われたことに変わりはない。恩人に対しては、無用な詮索をするよりやるべき事がある。
「……ハジメ殿、カービィ殿、レムユエ殿、シア殿、ティオ殿、ルティ殿、光輝殿。アンカジ公国領主ランズィ・フォウワード・ゼンゲンは、国を代表して礼を言う。この国は貴殿たちに救われた」
そう言うと、ランズィを含め彼等の部下達も深々と頭を下げた。
領主たる者が、そう簡単に頭を下げるべきではないのだが、ハジメたちが『神の使徒』の一人であるか否かに関わらず、きっと、ランズィは頭を下げただろう。
そんな彼等に、ハジメはニッコリと満面の笑みを見せる。そして、
「ああ、たっぷり感謝してくれ。そして、決してこの巨大な恩を忘れないようにな」
思いっきり恩に着せた。
「「「「「「え」」」」」」
これにはカービィ、レムユエ、シア、ティオ、ルティ、光輝も固まった。
いや、カービィに関してはハジメに少し失望したような目に変わっていた。
何故ならカービィは見返りなど一切求めていないからである。
今まででもせいぜい『貸し一つ』だった為「それくらいは」と思っていたのだ。
他のみんなもだいたい似たような気持ちはあるが見返りはあまり求めていないので言葉が出なかったのである。
それはもう、清々しいまでに言い切ったハジメはしばらく黙って………「冗談だ、気にしないでくれ。人として当然のことをしたまでだ」と言った。
この日、ハジメは家族の好感度をまぁまぁ落とした。
結局、答えとして、
「あ、あぁもちろんだ。末代まで覚えているとも……だが、アンカジには未だ苦しんでいる患者達が大勢いる……それも、頼めるかね?」
ハジメたちに感染者たちを救うため〝静因石〟の採取を改めて依頼した。
「もともと、俺たちは『グリューエン大火山』に用があって来たんだ。そっちも問題ない。ただ、どれくらい採取する必要があるんだ?」
あっさり引き受けたハジメにホッと胸を撫で下ろし、ランズィは、現在の患者数と必要な採取量を伝えた。
相当な量であったが、ハジメたちには『宝物庫』や『マジックバッグ』があるので問題ない。
こういうところでも、普通の冒険者では全ての患者を救うことは出来なかっただろうと、ランズィはハジメ達との出会いを神に感謝する。
こうしてハジメたちは、患者の為にさっさと『グリューエン大火山』へと向かうことにしたのだった。
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