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少し時は戻ってハジメ視点
爪熊が、その巨体に似合わない素早さで蹴りハジメに迫り、その長い腕を使って鋭い爪を振るった。
ハジメは理解できない事態に混乱しながら、何故かスッと軽くなった左腕を見た。正確には左腕のあった場所を……
「あ、あれ?」
「あ、あ、あがぁぁぁあああーーー!!!」
ハジメの絶叫が迷宮内に木霊する。ハジメの左腕は肘から先がスッパリと切断されていた。
「ハジメ!」
カービィは叫ぶ。
眼前に迫り爪熊がゆっくりハジメに前足を伸ばす。その爪で切り裂かないということは生きたまま食うつもりなのかもしれない。カービィに助けてもらおうとしたがカービィは既に爪熊を数十体相手にしておりハジメを助けることは無理そうであった。
「あ、あ、ぐぅうう、れ、〝錬成ぇ〟!」
あまりの痛みに涙と鼻水、涎で顔をベトベトに汚しながら、ハジメは右手を背後の壁に押し当て錬成を行った。ほとんど無意識の行動だった。
死の淵でハジメは無意識に頼り、活路が開けた。
背後の壁に縦五十センチ横百二十センチ奥行二メートルの穴が空く。ハジメは爪熊の前足が届くという間一髪のところでゴロゴロ転がりながら穴の中へ体を潜り込ませた。
目の前で獲物を逃したことに怒りをあらわにする爪熊。
「グゥルアアア!!」
咆哮を上げながら固有魔法を発動し、ハジメが潜り込んだ穴目掛けて爪を振るう。凄まじい破壊音を響かせながら壁がガリガリと削られていく。
「うぁあああーー! 〝錬成〟! 〝錬成〟! 〝錬成ぇ〟!」
爪熊の咆哮と壁が削られる破壊音に半ばパニックになりながら少しでもあの化け物から離れようと連続して錬成を行い、どんどん奥へ進んでいく。
後ろは振り返らない。がむしゃらに錬成を繰り返す。地面をほふく前進の要領で進んでいく。既に左腕の痛みのことは頭から飛んでいた。生存本能の命ずるままに唯一の力を振るい続ける。
どれくらいそうやって進んだのか。
ハジメにはわからなかったが、恐ろしい音はもう聞こえなかった。
カービィが倒してくれたのかもしれない。
一度の錬成の効果範囲は二メートル位であるし(これでも初期に比べ倍近く増えている)、何より左腕の出血が酷い。そう長く動けるものではないだろう。
実際、ハジメの意識は出血多量により既に落ちかけていた。それでも、もがくように前へ進もうとする。
しかし……
「〝錬成〟 ……〝錬成〟 ……〝錬成〟 ……〝れんせぇ〟 ……」
何度錬成しても眼前の壁に変化はない。意識よりも先に魔力が尽きたようだ。ズルリと壁に当てていた手が力尽きたように落ちる。
ハジメは、朦朧として今にも落ちそうな意識を辛うじて繋ぎ留めながらゴロリと仰向けに転がった。ボーとしながら真っ暗な天井を見つめる。この辺は緑光石が無いようで明かりもない。
いつしかハジメは昔のことを思い出していた。走馬灯というやつかもしれない。保育園時代から小学生、中学生、そして高校時代。様々な思い出が駆け巡る。
その美しい光景を最後にハジメの意識は闇に呑まれていった。意識が完全に落ちる寸前、ぴたっぴたっと頬に水滴を感じた。
それはまるで、誰かの流した涙のようだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
水滴が頬ほおに当たり口の中に流れ込む感触に、ハジメは意識が徐々に覚醒していくのを感じた。そのことを不思議に思いながらゆっくりと目を開く。
(……生きてる?……助かったの?)
自分の作った穴は縦幅が五十センチ程度しかなかったことを今更ながらに思い出し、ハジメは、錬成して縦幅を広げるために天井に手を伸ばそうとした。
しかし、視界に入る腕が一本しかないことに気がつき動揺をあらわにする。
「な、なんで? ……それに血もたくさん……」
暗くて見えないが明かりがあればハジメの周囲が血の海になっていることがわかっただろう。普通に考えれば絶対に助からない出血量だった。
ハジメが右手で周りを探れば、ヌルヌルとした感触が返ってくる。まだ辺りに流した血が乾いていないのだろう。やはり、大量出血したことは夢ではなかったようだし、血が乾いていないことから、気を失って未だそれほど時間は経っていないようである。
にもかかわらず傷が塞がっていることに、ハジメが疑問を感じていると再び頬や口元にぴちょんと水滴が落ちてきた。それが口に入った瞬間、ハジメは、また少し体に活力が戻った気がした。
「……まさか……これが?」
ハジメは幻肢痛と貧血による気怠さに耐えながら右手を水滴が流れる方へ突き出し錬成を行った。
そうやってふらつきながら再び錬成し奥へ奥へと進んで行く。
不思議なことに、岩の間からにじみ出るこの液体を飲むと魔力も回復するようで、いくら錬成しても魔力が尽きない。ハジメは休まず熱に浮かされたように水源を求めて錬成を繰り返した。
やがて、流れる謎の液体がポタポタからチョロチョロと明らかに量を増やし始めた頃、更に進んだところで、ハジメは遂に水源にたどり着いた。
「こ……れは……」
そこにはバスケットボールぐらいの大きさの青白く発光する鉱石が存在していた。
その鉱石は、周りの石壁に同化するように埋まっており下方へ向けて水滴を滴らせている。神秘的で美しい石だ。
こんな時カービィなら「なにそれ美味しいの?」とでも言いそうである。
アクアマリンの青をもっと濃くして発光させた感じが一番しっくりくる表現だろう。
ハジメは一瞬、幻肢痛も忘れて見蕩れてしまった。
そして縋り付くように、あるいは惹きつけられるように、その石に手を伸ばし直接口を付けた。
すると、体の内に感じていた鈍痛や靄がかかったようだった頭がクリアになり倦怠感も治まっていく。
やはり、ハジメが生き残れたのはこの石から流れる液体が原因らしい。治癒作用がある液体のようだ。幻肢痛は治まらないが、他の怪我や出血の弊害は、瞬く間に回復していく。
ハジメは知らないが、実はその石は〝神結晶〟と呼ばれる歴史上でも最大級の秘宝で、既に遺失物と認識されている伝説の鉱物だったりする。
その液体を〝神水〟と呼び、これを飲んだ者はどんな怪我も病も治るという。欠損部位を再生するような力はないが、飲み続ける限り寿命が尽きないと言われており、そのため不死の霊薬とも言われている。神代の物語に神水を使って人々を癒すエヒト神の姿が語られているという。
ようやく死の淵から生還したことを実感したのか、ハジメはそのままズルズルと壁にもたれながらへたり込んだ。
そして、死の恐怖に震える体を抱え体育座りしながら膝に顔を埋めた。既に脱出しようという気力はない。ハジメは心を折られてしまったのだ。
敵意や悪意になら立ち向かえたかもしれない。助かったと喜んで、再び立ち上がれたかもしれない。
しかし、爪熊のあの目はダメだった。ハジメを餌としてしか見ていない捕食者の目。弱肉強食の頂点に立つ人間がまず向けられることのない目だ。その目に、そして実際に自分の腕を喰われたことに、ハジメの心は砕けてしまった。
(誰か……助けて……)
ここは奈落の底、ハジメの言葉は誰にも届かない……
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一方でカービィは全ての爪熊を倒し(吸い込み)終わり、ハジメを探していた。
魔力を節約したい為、消費がないコピーのもとを使って戦っていた。
しかし全く見つからない。
カービィは思い切って掘ってみることにした。
「コピー能力アニマル!」
カービィはコピー能力アニマルを発動すると熊のぬいぐるみを身に纏った。
※アニマルのぬいぐるみは何のアニマル(動物)か分からないのでその時その時で変えます。
そしてカービィはもう一度爪熊がいた場所に戻って掘った後などがないか探した。
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カービィと別れてから8日目辺り、ハジメの精神に異常が現れ始めていた。
ただひたすら、死と生を交互に願いながら、地獄のような苦痛が過ぎ去るのを待っているだけだったハジメの心に、ふつふつと何か暗く澱んだものが湧き上がってきたのだ。
それはヘドロのように、恐怖と苦痛でひび割れた心の隙間にこびりつき、少しずつ、少しずつ、ハジメの奥深くを侵食していった。
(なぜ僕が苦しまなきゃならない……僕が何をした……)
(なぜこんな目にあってる……なにが原因だ……)
(神は理不尽に誘拐した……)
(クラスメイトは僕を裏切った……)
(ウサギは僕を見下した……)
(アイツは僕を喰った……)
(どうして誰も助けてくれない……)
(誰も助けてくれないならどうすればいい?)
(この苦痛を消すにはどうすればいい?)
激しい苦痛からの解放を望む心が、湧き上がっていた怒りや憎しみといった感情すら不要なものと切り捨て始める。
憤怒と憎悪に心を染めている時ではない。どれだけ心を黒く染めても苦痛は少しもやわらがない。この理不尽に過ぎる状況を打開するには、生き残るためには、余計なものは削ぎ落とさなくてはならない。
(俺は・・何を望んでる?)
(俺は〝生〟を望んでる。)
(それを邪魔するのは誰だ?)
(邪魔するのは敵だ)
(敵とはなんだ?)
(俺の邪魔をするもの、理不尽を強いる全て)
(では俺は何をすべきだ?)
(俺は、俺は……)
ハジメの心から憤怒も憎悪もなくなった。
神の強いた理不尽も、クラスメイトの裏切りも、魔物の敵意も……
こんな自分を友達とだからと言って助けてくれたあの笑顔も……
全てはどうでもいいこと。
ハジメの意思は、ただ一つに固められる。鍛錬を経た刀のように。鋭く強く、万物の尽くを斬り裂くが如く。
すなわち……
( 殺す )
そこには悪意も敵意も憎しみもない。
ただ生きる為に必要だから、滅殺するという純粋なまでの殺意。
自分の生存を脅かす者は全て敵。
そして敵は、
(殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す)
この飢餓感から逃れるには、
(殺して喰らってやるっ!)
そしてハジメは目をギラギラと光らせ、濡れた口元を乱暴に拭い、ニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。歪んだ口元からは犬歯がギラリと覗く。まさに豹変という表現がぴったり当てはまるほどの変わりようだ。
ハジメは起き上がり、錬成を始めながら宣言するようにもう一度呟いた。
「殺してやる」
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「うおおおぉ!ホイールダッシュ!」
ハジメの血を見つけたカービィは遂にハジメを見つけられると張り切ってコピー能力ホイール(服は変化なし、赤い帽子を被るだけ、ホイールモードは相変わらずタイヤになる)でスピードを上げた。
「なかなか見つからない。でも諦めない!」
更に数日が経ちカービィはハジメの錬成した跡を発見した。
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そしてカービィとハジメと別れてから?日目。
「ちくしょう、なんで無いんだ……」
爪熊を殺してから三日、ハジメは上階へと続く道を探し続けていた。
既にこの階層の八割は探索を終えている。爪熊を喰らってからというものステータスがまた跳ね上がり、今や、この階層でハジメにとって脅威となる存在はおらず、広大ではあるものの探索は急ピッチで進められていた。にもかかわらず、いくら探しても何も見つからない。
否、何も見つからないというのは語弊がある。正確には〝上階〟への道であり、〝階下〟への道なら二日前に発見している。ここが迷宮で階層状になっているのなら上階への道も必ずあるはずなのだが、どうしても見つからないのだ。
もしカービィがここにいるならば『ワープスター』とやらで脱出はできるかもしれない。
「……って何で俺はアイツのことを考えてるんだ。」
なお、錬成で直接上階への道を作ればいいじゃないというダンジョンのなんたるかを軽く無視する方法は既に試した後だ。
結果、上だろうと下だろうと、一定の範囲を進むと何故か壁が錬成に反応しなくなるということが分かった。その階層内ならいくらでも錬成できるのだが、上下に関してはなんらかのプロテクトでも掛かっているのかもしれない。この『オルクス大迷宮』は、神代に作られた謎の多い迷宮なのだ。何があっても不思議ではない。
そういうわけで、地道に上階への道を探しているのだが、見つからなければ決断する必要がありそうだ。この大迷宮の更に深部へ潜ることを。
「……行き止まりか。これで分岐点は全て調べたぞ。一体どうなってんだか」
そこへ突然近くの壁からような音が聞こえた。
『………っ!はぁぁっ!……うぉぉぉっ!…………この壁なかなか硬い、でもボクは諦めないぞ!』
ハジメはまさかと思った。
こんなところにまで来てくれるようなお人好しがいるはずないと。
『スーパー能力!』
その言葉を聞いた瞬間にその考えは吹き飛んだ。
「ウルトラソード!」
そして近くの壁は大きな音を立てて崩れた。
そこにいたのは純粋無垢な笑顔を相変わらずハジメに向ける少女……
「カービィ!」
「やっと見つけたよハジメ!」
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