仮面ライダージオウ ~もののけプリンセス1480~ 作:コッコリリン
い(本音)
あとオリジナルタイムジャッカー出ます。てかすでに前回出ました。言うの遅くなってサーセン!(誠意0)
「この本によれば、元普通の高校生『常盤ソウゴ』……彼には魔王にして時の王者、オーマジオウとなる未来が待っていた」
時計の針が進む音のみが響く暗い空間。過去か未来か、それとも現代か、いずれも定かではない空間。その中に一人佇むコートと長いマフラーを身に付けた青年が、大きな本を広げたまま、誰もいない暗闇へ向けて語りかける。本の表紙は腕時計の金具のような装飾が施され、そして大きく『逢魔降臨歴』と綴られている。
そして一頁、おもむろに捲る。
「彼は全ライダーの力を継承し、全てのライダーの集大成とも言えるグランドジオウの力を、魔王の力を手に入れた。グランドジオウは強大であり、彼の前に立ち塞がる者全てを蹴散らす程の力を持つ」
どこか誇らしげにも見える表情で語り続ける青年。しかし、次の頁を捲るとその顔が変わる。
「……しかし、ここで常盤ソウゴは予想だにしない事件に巻き込まれてしまう。グランドジオウの力を奪われた常盤ソウゴは仲間たちと共に時空間を移動するも、敵の妨害に遭う。一人はぐれた常盤ソウゴは、そこで一人の少年と出会うが……おっと」
パタン。本を閉じる。
「失礼。先まで読み過ぎました」
しれっと、涼しい顔を崩さずに言った。
「ところで、皆さんにとって“自然”とは一体なんでしょうか?」
本を閉じたまま、青年は再び語り掛ける。答えは返ってこない。それを承知の上でか、青年はゆったり歩きながら語るのをやめない。
「自然とは、皆さんの周りにある草木や水、風といった、身近な物か? 或いは人々を癒すためのパワースポットか? ……それとも、時として人に牙剥く人ならざる意思宿りし大きな存在か?」
ピタリと、その足を止める。そして再び暗闇へと向き直った。
「古来より、自然には意思が宿っていると言い伝えられています。無論、それは古代の人々が自然という存在を畏れ、敬っていたからこそ。しかしそれは、科学技術が発達した現代においては、所詮は伝説にすぎずに古い習わしとしか捉えられないでしょう……と言っても、それは飽く迄も現代に生きる人々から見ればの話」
そして、小さく笑う。
「古代から意思を持つ大いなる存在……人々はそれを、“神”と呼んでいたそうです」
一つ、区切りを入れる。その際、笑みはより深くなる。
「これより語られるのは、常盤ソウゴこと我が魔王が、そんな神と邂逅するお話……いや。伝説、と呼ぶべきか。この伝説が、我が魔王の大活躍を描いた物語として受け取るか、それとも荒唐無稽の作り話と受け取るか、はたまた我々人間に対する問題提起と受け取るか……それは、皆さん次第」
青年の含み笑いが最後、空間に木霊する。そして、
「ウォズ?」
暗闇の空間から一転。ウォズと呼ばれた青年の肩を叩く者の声により、場面は切り替わった。
ウォズが振り返れば、柄の入ったシャツにベージュのズボンという服装の、どこか人の良さそうな雰囲気を持つ短い茶髪の青年が一人。
「ん? 何かな、我が魔王?」
「いや、誰もいないのに何を語ってんのかなって思ってさ」
「なぁに、ちょっとした一人語りさ」
訝し気に問う我が魔王と呼ばれた青年に何事もないようにウォズはそう返した。ウォズが自らを我が魔王と呼び、性格もまた風変りな人物であることを知っている青年は、特に気にせずにウォズの言葉に疑問を抱かなかった。
「唐突に立ち止まったかと思えば、また意味不明なことを言っているのかお前は」
と、青年の横から呆れかえった口調でウォズに話しかける者がいた。赤いラインが入った黒いハーネスという出で立ちの黒髪の青年。冷徹にも見える雰囲気を醸し出す青年は腕を組み、ウォズを睨めつける。
「意味不明、とは心外だねゲイツ君。これも我が魔王の家臣としての仕事の一つだというのに」
「あ、そうだったの?」
「あっさり信じるなジオウ。戯言が仕事になるか」
「ひどい言い様だね……」
黒髪の青年こと明光院ゲイツが容赦なくウォズに毒を吐く。別に気を遣うような間柄ではないとはいえ、ウォズとしてはそこまでばっさり言わなくてもと思わなくもない。
「三人とも、立ち止まってどうしたの?」
三人のトリオとも取られそうな会話を聞いていなかった、羽衣のような白い服を纏った長く美しい黒髪を靡かせた美しい少女が訝しんだ様子で声をかける。どことなく月を彷彿とさせる神秘的な佇まいの彼女に声にいち早く反応したのは、魔王ともジオウとも呼ばれた青年。
「そうだった! ホラ、二人とも遊んでないで早く行くよ! ツクヨミも!」
「誰が遊んでるんだ誰が!」
「わ、我が魔王、あまり強く引っ張るとコケるコケる……!」
「ちょ、ソウゴ!?」
輝かんばかりの笑顔でゲイツとウォズの腕を引き、ハイテンションに足早に進んでいく青年。そのテンションについていけないゲイツとウォズはなすがままに引きずられて行き、少女ことツクヨミもまた青年に置いて行かれまいと駆ける。道行く人々は騒ぐ彼らを奇異の目で見ながらも通り過ぎて行った。
どこにでもいるような、普通の青年にしか見えない彼、常盤ソウゴ。その正体は、常人を遥かに凌ぐ戦士仮面ライダーにして、平成の時代を駆け抜けた全ライダーの力を継承し、魔王としてこの世に君臨する未来が待っているとされている者。
そんな彼は今、都会から遠く離れたとある町にて、仲間たちと共に石やコンクリート等で整備された山道を意気揚々と入って行く。山道の脇に置かれた縦長の看板には、大きくこう書かれていた。
『世界自然遺産“シシ神の森”展望台』
「うおおおおっ! すっげぇ!」
山岳から遠くを望む展望台。見晴らしのいい景色と境界を作るように立てられた鉄の柵から身を乗り出し、ソウゴは気分を高揚させながら柵の向こう側に広がる広大な森を目にする。視界一杯に広がる緑の大地。同じく隆起する山々もまた木々に覆われ、雲一つない空から降り注ぐ太陽の光を浴びた緑は、遠目からでもわかる程に煌めきを放っているのがわかる。ソウゴたちの頭上を鳥が飛び交い、そして森の向こうへと飛んで消えていく。森の中に巣があるのだろう。
まさに自然の宝庫と呼ぶに相応しい、命が溢れている森だった。都会ではお目にかかれない絶景中の絶景。ソウゴのみならず、展望台に訪れた人々全員が目を輝かせていた。
「本当、すごい景色ね」
「……ああ」
ソウゴよりも落ち着いてはいるが、ツクヨミとゲイツもまたこの絶景に見入っている。特にゲイツに至っては、広大な自然を前にして、いつもの仏頂面が緩くなっており、顔には出ずともソウゴ以上に感動しているようだった。
そもそも、ツクヨミとゲイツは荒廃した50年後の未来からやって来た未来人。これまで生きてきた中で、森というものを間近で見ることなど無かった二人にとって、この光景に感慨深い物を感じるのも一入だった。
「シシ神の森……近年、世界自然遺産に登録された、日本のアマゾン、或いは日本のガラパゴスとも評されている秘境の森」
三人の隣で森を眺めながら、ウォズが涼しい顔で解説を始める。
「過去に何人もの調査員が森を調べてきたが、一部独自の進化を遂げている動植物がいたり、あまりに入り組んでいるために調査が完全に行き届いていなかったりと、いまだ謎が多い、しかし生命の神秘に満ち溢れた森として有名だね。そのありのままの自然を維持するために、指定された場所以外の森の立ち入りは、固く禁じられている。破った者は重い罰金が課せられる」
「おぉぉ、ウォズよく知ってるね」
「フッ、私も我が魔王と同じく、歴史の知識に関しては多少の自信はあるからね」
淡々と語るウォズに称賛を送るソウゴ。自らをソウゴの家臣と称するウォズは、飽く迄も涼しい顔は崩さないまま、しかしどこか誇らしげだ。
「何を白々しい。ここに来るまでのパンフレットに書いてあっただろう」
「……ゲイツ君、そこは察して黙っていて欲しいところだったんだがね」
ジト目で言うゲイツに、ウォズは目を合わすことなくそう返す。若干顔が強張っている辺り、図星だった。
「いやぁでもホントにすごいなぁ……おじさんにも見せてあげたかったなぁ」
すごい以外の言葉が出てこない、一面に広がる森の景色を見て、今この場にいない彼の大叔父にして育ての親である常盤順一郎を思うソウゴ。きっと彼も気に入る筈だと思うと、やはり残念な気持ちが湧き上がる。
「仕方ない。彼には彼の仕事があるのだから。ならば、彼の分まで私たちが楽しむのが、彼に対する礼とも言えるだろうね」
「そうね。お土産、奮発してあげなきゃ」
そんなソウゴを慰めるようにウォズとツクヨミが言う。
彼らが今日ここにいる理由は、一重に順一郎のおかげであった。切っ掛けは、知り合いから譲り受けたという温泉旅行のペアチケット二枚を彼が持ってきたはいいものの、
『いやぁ、これ知り合いが都合が悪くなったって言って譲ってもらっちゃったんだけどさ、おじさん、修理の仕事が立て込んじゃってて。けど捨てるのも勿体ないし、ソウゴ君たち、おじさんの代わりに行って来てよ』
と言って、ソウゴたちに手渡してくれたため。そう言っていた彼の後ろには、依頼によって預けられた電子レンジや音楽プレーヤーといった様々な電化製品が積み上げられていた。その中で時計屋である彼の本業とも言える時計もあるにはあったが、どっちかというと他の電化製品の方の比率が多かったのは気のせいではなかった。
「……でも、森の名前になっているシシ神って何? パンフレットにもそういう存在がいたってだけしか書いてなかったし」
森を一しきり眺めていたツクヨミが視線をソウゴへ向け、そう質問する。
「ん~、俺もここに来るまで軽くネットで調べた程度で詳しく知ってるってわけじゃないんだけど」
ツクヨミの質問に答えるため、ソウゴも視線を森から彼女へと移した。
「ずっと昔、この森はシシ神によって守られてきて、多くの命を与えたり、奪ったりしてきたらしいよ。そうすることで、森の生命のバランスを取ってきたんだってさ。けど、自然破壊をやめない人間がシシ神を怒らせてしまったせいで、山は枯れて森の近くにあったタタラ場も滅んだんだってさ。で、一度は枯れて無くなった森を、タタラ場の生き残った人たちが心を入れ替えて再生するように尽力した結果が今の森らしいよ。当時はこの森よりももっと広かったって」
「へぇ……今でも十分広いのに」
この森も遥か太古の時代と比べると、ほんの一部分でしかないレベルらしい。ソウゴの説明を聞き、ツクヨミは想像もできないとばかりに感嘆にため息をついた。
「くだらん。そんな超常な存在がいるわけがない。大方、大火事か何かの災害を『シシ神が森を枯らした』という風にして定説にしたんだろう」
「もうゲイツ~。夢がないよそれぇ」
手すりに背中からもたれかかり、鼻を鳴らしてソウゴの解説に異を唱えて現実的なことを言うゲイツ。昔から戒めの意味を込めて、災害を不可思議な現象に置き換えるという話はあるにはあるが、ここに来てまでそういった思考を持つゲイツをソウゴが窘める。ツクヨミもまた呆れてゲイツを見やった。
が、ウォズのみが悪戯っぽく笑う。
「そうは言いつつ、本当は科学では説明できない話とかが苦手なだけなんじゃないかい、ゲイツ君?」
「はぁぁぁっ!? そんなわけがあるか!!」
ゲイツが大声で反論。周囲の人々も何事かと視線を送るが、ツクヨミが「すいません、すいません」と頭を下げて何でもないということをアピールすると、すぐに興味を無くして好奇の視線は消えていった。
「もう、ゲイツ! ムキになって大声出さないでよ」
「ムキになってなどない!」
「まぁまぁまぁ」
ムキになってるじゃないか、という言葉は飲み込んで、ソウゴがゲイツを落ち着かせた。
「それで話は戻すけど、シシ神については史料が少ないこともあって、今も謎が多いんだ。その見た目も色々あって、人の形だったり鹿みたいな姿だったり、或いは色んな動物が混ぜられたみたいな姿だったりで、これと言って決まってないみたいだ」
「さすが我が魔王。よく調べられている」
ソウゴの話にウォズが感激した面持ちで彼を称賛した。大体のソウゴの発言を肯定するウォズではあるが、ソウゴもそれで悪い気はしない。照れて「いやぁ、それほどでも」と言いながら頭を掻いた。
「……けど、何だかあれね」
再び森を眺めていたツクヨミが、ポツリと呟く。視線の先には、相も変わらずどこまでも広い緑の森。かつて一度は枯れてここまで再生し、今は人の手で管理されている大きな自然。
「過去でも未来でも、人間の業っていうのは変わらないのね……」
荒廃した50年後の未来から来た、ツクヨミから出て来る言葉。時空を移動する技術を持つ時代に生まれたからこそ、その言葉は実感が込められており、彼女の横顔はどことなく寂しげに見える。そんな彼女の言葉に返す言葉は、ゲイツとウォズにもない。
「……よし、決めた!」
が、一人決意を新たにソウゴが声を上げた。そしてグッと握りこぶしを作る。
「俺が王様になったら、無暗に自然破壊をするのを止めるようにしよう!」
「……またお前はそういうことを……」
力強く宣言したソウゴを、ゲイツは呆れて見やる。初めて会った頃はソウゴの壮大にしてバカげた考えを否定こそしていたが、そんな考えを大真面目に実現しようとするのがソウゴであるということを知った最近では、呆れこそすれども否定をすることが無くなった。
「いや、でもさ! 確かに人は昔から自然破壊とかしてきたけれど、自然を破壊しないで生きていけるのならそれに越したことはないでしょ?」
「ま、まぁ……それはそうかも、ね?」
至極真っ当なことを言っているようだが、聞くだけなら何とも中身のない発言だということに気付いたツクヨミは、曖昧に返答した。
「やはり、我が魔王は思慮深い。自然破壊からなる未来の悲劇にすら目を向けるとは」
「あ、ウォズはそう考えるんだ……」
対し、感心した面持ちでソウゴを持ち上げるウォズ。相変わらずソウゴ第一なウォズにツクヨミは呆れた視線を送った。
「……まぁ、やれるものならやってみればいいさ」
そして、誇大妄想とも取られかねないソウゴの語る未来を、ゲイツは何とも思っていないようにそっぽ向きつつ、されど否定せずにそう言った。
「お? 何なに? ゲイツ応援してくれんの?」
「何でそう受け取るんだお前は!!」
からかうソウゴに、ムキになった反論するゲイツ。将来の夢は王であると公言して憚らないソウゴと彼を取り巻く仲間たちは、広大な自然を前にしていつもの調子で騒がしく戯れる。
そんな様子を物陰から見る者がいるということには気付かないまま、彼らはそこで時を過ごした。
「それで? 次はどこへ行くつもりだ?」
展望台を後にし、現在ソウゴたちが訪れたのは、展望台へ続く道沿いにいくつもの店舗が連ねられた、所謂観光客向けの商店街。店舗の殆どは土産物を店先で売っており、その土地の名産を商品として置いている。人の従来も多く、下手をすれば逸れてしまいかねない程だ。
「次は、えっと……ここからだとシシ神の森博物館が近いかな」
ソウゴはシシ神の森を観光名所にした一帯の地図が載っているパンフレットを見ながら、次の行き先である施設の写真を指さした。
「ほらこの写真とか。シシ神と縁があった人の備品が展示されてるんだって! すごくない?」
言って、ソウゴはパンフレットのあるページをゲイツたちに見せる。紹介ページの写真には、ソウゴの言う人物が持っていたとされている、弓や蓑、そして歪な形の石ころといった備品が数点、軽い解説付きで載せられていた。
「へぇ……シシ神と縁があった人ってどんな人なのかしら?」
「それは行ってみないとわからないかな。何でもシシ神っていう存在を知らしめたのはこの人らしいよ」
「なら何故シシ神についてわからないことが多いんだ。そいつがシシ神を世に知らしめたのならば謎を解明している筈だろう」
「さぁ? そこも直接見なきゃわからないなぁ」
ゲイツの質問はもっともだったが、ソウゴとしてもそこの辺りは疑問だった。その人物がシシ神についての詳細を後世に伝えていれば、シシ神は世間に認知されてもっと有名になっていただろうに。
それとも、伝えられない理由でもあったのだろうか……そう考えている矢先、ある土産物店が視界に入る。その店先に並べられているある物に、ソウゴは興味を惹かれた。
「おぉ、何これすごい!」
好奇心に動かされるまま、ソウゴはその商品を手に取る。黒を基調にした、白い塗料で前面を塗って顔を、ピンク色の塗料で鋭い目を表現している独特なお面だった。夏祭りに出て来るプラスチック製のお面とは違い、こちらは木彫りのお面。プロの職人の手によるものだろう、頬や目元の凹凸といった緩急といった細かい箇所も描かれ、端整な顔立ちの人間をイメージしたであろう精巧に彫られたそれは、お面に興味がない人をも魅了するものがある。
「それは『戦士の仮面』だね。国から間引きの意味合いも含めて伐採を許可されているシシ神の森の木を使って作られた、この町の名産品らしい。普通のお面とは違った独特な色合い、技術から、コレクターの間で大変人気なんだとか」
ウォズがソウゴの後ろでパンフレットを読みながら説明する。ゲイツもお面を手に取るも、眉間に皺を寄せただけで元の位置に戻した。あまり関心が無かったらしい。
「へぇ……この辺りは昔は鉄が採れてたらしいけど、シシ神の森が一度無くなってからは鉄を採るのをやめて、枯れた木とか自然災害で倒れた木とかを使って資源以外に何か作れないか模索したのが始まりらしいんだ」
詳しいことは書かれてなくとも、さすが歴史的価値のある観光地なだけにパンフレットには軽い説明がなされている。ウォズの隣でツクヨミもお面の起源について読み上げた。
「しっかし、奇天烈な顔だな。一体誰をモチーフに作ったんだ?」
「何でも、この土地の大災害から人々を守るために戦った人物を模したとのことだが、どういった人物かまでは書かれていないな」
一般人的観点から見れば奇抜なデザインとしか映らないお面を見ながらゲイツが言うと、ウォズがパンフレットを眺めながら返した。
「ねぇ、これなんとなーく俺に似てない?」
淡々としたゲイツに向けて、ソウゴがお面を顔の前に持っていき、はしゃぎながら着ける素振りをする。色合い的にはソウゴが仮面ライダーに変身した姿に見えなくもないが、仮面の造形までは流石に似てはいなかった。
「色しか似てないだろうが。バカなこと言ってないで、さっさと目的の博物館とやらへ向かうぞ」
ソウゴからお面を取り上げ、店の前に置く。「ちぇーゲイツ相変わらずノリが悪ーい」と口を尖らせながら文句を言うソウゴだったが、それ以外は特に異論もなく店を後にしようとした。
「きゃーっ!?」
その途端、商店街に響き渡る女性の悲鳴。ソウゴたちを含め、道を歩いていた誰も彼もが立ち止まり、何事かと声の方へと振り返る。その瞬間、次々と悲鳴が上がっていった。
「ば、化け物だぁ!? 誰か助けてくれぇ!!」
「逃げろぉ!!」
化け物……その言葉を皮切りに、商店街はパニックに陥った。ソウゴたちがいる場所からはその姿を視認できず、最初こそ周りの人々も怪訝な顔をするだけだったが、向こう側から大勢の人が恐慌で染まった顔で我先にと逃げているのを見て、ただ事ではないと判断した人から順にその場から逃げ出していった。
そして、逃げ出すこともなくその場に留まる者たちがいた。
「化け物って!?」
「……アナザーライダーか?」
ソウゴたちには『化け物』というフレーズに心当たりがある。これまで幾度となく戦ってきた、仮面ライダーの“なり損ない”とも言うべき存在。時を操る集団『タイムジャッカー』により、従来の仮面ライダーの存在を奪うことで誕生する者たち。
「けど、仮面ライダーの力は我が魔王がすでに継承している筈だが?」
言って、ウォズがパンフレットを懐に仕舞いながら言う。仮面ライダーの力は、すでにソウゴが手に入れている以上、アナザーライダーが誕生することは無い……筈なのだが。
「ともかく、行こう! 相手が誰であれ、放っておけない!」
先ほどまでの緩やかな雰囲気は消え、そこにいるのはこれまで多くの戦いを経験してきた戦士たち。ソウゴ、ゲイツ、ウォズ、そしてツクヨミの四人は、人々が逃げる逆方向へ向かって走り出した。
悲鳴が聞こえた場所までは一分もかからず辿り着く。商店街のど真ん中、人々が悲鳴を上げながら逃げて行く中、ソウゴたちは騒ぎの原因を探そうとした……が、原因はすぐさま見つかった。
「あれは……!」
ソウゴの目に飛び込んで来た二つの存在……そいつらとは過去、ソウゴは戦ったことがあった。
一体、赤と青が半々という色合い。くすんだ体色に生え揃った牙、そして腰のレバーが付いたベルトのようなデバイスを装着した人型の怪物。
もう一体、逆立ったピンク色の髪と後ろに靡くコードのような髪。毒々しいピンク色を基調としたスーツを纏った、醜い怪人。
赤と青の怪人の右胸には英語で『BULD』と綴られ、ピンクの怪人の胸のプロテクターには『EX-AID』と綴られているそれらは、ソウゴたちにとっては因縁深いと言っても過言ではない存在……仮面ライダーならざる者、『アナザーライダー』だった。
「アナザービルドに、アナザーエグゼイド!?」
「どういうことだ? 奴らの元となっているライダーのウォッチは、すでにジオウが継承している筈だ」
仮面ライダーの力そのものが封じ込められている『ライドウォッチ』。彼らの元の仮面ライダーである『仮面ライダービルド』と『仮面ライダーエグゼイド』のウォッチは、すでにソウゴが手にしている。そのため、すでに二つの仮面ライダーは存在していない。にも関わらず、目の前にいない筈のアナザーライダーが存在している。
「……またアナザージオウⅡの仕業、の可能性もあるね」
例外として、アナザーライダーを召喚、使役する力を持つアナザーライダーがいたことを思い出すウォズ。その間も、目の前のアナザーライダーを観察する。
そして、違和感に気付いた。
「考えるのは後だ! 行くぞ、ゲイツ! ウォズ!」
「ああ!」
ソウゴとゲイツは手荷物からいつも携帯している物を取り出す。それはパールホワイトの大きなデジタル腕時計のようにも見える、二人にとっては戦うために必須の武器。仮面ライダーへと変身するためのベルト『ジクウドライバー』を、二人は使用しようとした。
「待て」
が、それに待ったをかけるウォズ。咄嗟のことで一瞬硬直した二人は、訝し気にウォズを見やった。
「……様子がおかしい」
対し、ウォズは眉を上げて怪訝な顔をアナザーライダーへと向ける。そのアナザーライダーはというと、
『オ、オォォオォ……』
『ウゥゥゥ……』
両手を突き出す形で、覚束ない足取りのままこちらへとゾンビめいて向かってきてはいる……が、一歩一歩足を踏み出すごとに、彼らの身体の表皮が剥がれ落ちて行くのが見て取れた。それと連動するかのように、アナザーライダーたちの苦悶に満ちた呻き声が弱々しくなっていくのがわかる。
「……何か、弱ってる……?」
哀れな程にボロボロになっていくアナザーライダーに、ソウゴがどうするべきか考えあぐね……そして、
『ァァァァァッ……』
ドサリ。重々しい音をたて、遂にアナザーライダー二体は地に伏せ力尽き、そしてボロボロになっていた身体が罅割れ、最終的には砂のように崩れていった。
後に残されたのは、くすんだ茶色のアナザーライダーだった二つの砂の山。何もせずとも消えてなくなってしまったアナザーライダーたちに対し、ソウゴたちはただ呆然と突っ立っているしかできなかった。
「消え、ちゃった……?」
「……一体全体、どうなっている?」
過去にない出来事に困惑し、ただそう呟くしかできないソウゴとゲイツ。身構えていたツクヨミもまたその場から動くことはできなかった。
そんな中で、一早く困惑から抜け出したウォズが砂の山へと歩み寄り、そして砂を手に取る。
「……これは」
見た目はただの砂だが、ウォズから見れば砂になってしまったというよりも、長い年月の間、雨風に晒されすぎてしまったが故に風化してしまい、最終的には形を保てなくなったかのようにも見えた。
「……アナザーライダーはアナザーライダーでも、どうやら私たちが過去に遭遇したアナザーライダーとはまた違った形で生み出されたようだね……それも五年やそこらではなく、相当昔に生み出されたもののようだ」
無論、どんな方法で生み出されたのかはまだわからない。だが何故アナザーライダーがこんな状態になっているのか。そして何故そんな状態になってまで動こうとしたのか……これまでにない出来事に、さすがのウォズも首を捻らざるをえなかった。
「相当昔って……何でそんな時にアナザーライダーが?」
「そこまでは私にもわからないよ。ただ、ここまでひどく劣化したアナザーライダーを見るのは、私も初めてだ」
ツクヨミの疑問を聞きながら、ウォズは立ち上がる。アナザーライダーとなると、まず間違いなくタイムジャッカーが関わってくる。しかし、これまでのタイムジャッカーの悪事と比べると、どうも勝手が違うように見えてならない。推測を建てようにも、まだ状況が完全に把握しきれていない現状では、何とも言えないのがもどかしいところだった。
「……とりあえず、戦わないで済んだことには変わりはないか」
拍子抜けとばかりにジクウドライバーを戻すゲイツ。だが、対照的にソウゴは険しい顔を戻すことなく、アナザーライダーだった砂の山を見つめている。
「ソウゴ? どうしたの?」
そんなソウゴに声をかけるツクヨミ。ソウゴは、砂の山から視線を外すことなくツクヨミに応えた。
「……確かに、アナザーライダーは消えたけど」
人が消えた商店街。今ここにいるのはソウゴたち、そして砂の山と脇目も振らずに逃げ出した観光客が捨てて行ったゴミや備品がそこかしこに散らばる道のど真ん中。
そこに吹く、一陣の風。暖かい季節だというのに、妙に肌寒さを感じさせる風が、ソウゴの直感を刺激した。
「なんか……まずい気がする……!」
唐突に現れ、そして消えた謎のアナザーライダー。無論、放置するつもりはソウゴたちにはない。だが、これまでとは違う事態というのもあるが、何か得体の知れない……これまでとは決定的に何かが違う、大きな事件が起きようとしている。ソウゴはそう思えてならなかった。
「なるほど。その直感もまた王としての証、ということですか? オーマジオウ」
途端、声が響く。仲間たちの誰かの声ではない、聞き覚えのない声。落ち着きのある声がした時、条件反射で身構えながらソウゴたちは声の主の方へと振り返った。
店の影から悠々と歩み出てきた者がいた。細い身体に、薄緑色のローブ。右手に嵌められた羽根飾り付きのブレスレット。場違いなまでの服装をしたその人物は、ユラリとその中性的とも言える顔をソウゴへと向けてきた。
「あんたは……?」
警戒を怠る事なく、ソウゴが問う。目の前にいる人物は、明らかに観光客ではない。この状況にも関わらず落ち着き払った態度、羽根飾りの装飾を身に付け、挙句ソウゴのことを『オーマジオウ』と……遠い未来、最低最悪の魔王として轟かせているソウゴの名を呼んだ。それらから導き出される存在は、一つしかない。
「タイムジャッカー……?」
ツクヨミが人物の正体を言い当てる。ソウゴとは別の人物を王として据えようと考えている、時間を操る未来人たち。しかし、ソウゴたちが知るタイムジャッカーは三人。今相対している人物は、ソウゴたちからすればその三人のうちの誰でもない、見慣れない存在だった。
「新手のタイムジャッカーか……面倒なことになったね」
先ほどのアナザーライダーは恐らく、この者の仕業と見て間違いない……ウォズはそう確信する。同時、彼……或るいは彼女がどのような人物なのか。これまで敵対してきたタイムジャッカーとは違い、初めて相対する者の出方が掴めない。
当のタイムジャッカーは、切れ長の目をより細くし、虚無にも似た暗い瞳でじっとソウゴを見つめる。
「なるほど、平成ライダーの力を継承してきただけはある……
言って、ほくそ笑む。妖魅とも取れるその笑みは人を惑わし、堕落せしめる美しさを秘めているが、笑みの奥にある不気味な悪意を感じ取ったソウゴたちは、より一層警戒心を強く抱く。
「貴様……ジオウが狙いか」
タイムジャッカーの発言から、ゲイツが相手の狙いがソウゴであることを察する。再びジクウドライバーを手に取るべく手を動かそうとした。
それよりもタイムジャッカーが動く方が早い。
「ふっ!」
右手の羽根飾りを揺らしつつ、タイムジャッカーが手を振るう。その瞬間、時計の針が止まった時の音と共にソウゴたち四人の動きがテレビの一時停止のようにピタリと動きを止めた。
(しまっ……!)
タイムジャッカーの十八番である時間停止の力……それを先手を打たれて使用されてしまった。タイムジャッカーのことを知っていながら迂闊であったと、ソウゴたちは内心で歯噛みした。
「フフ……その通りです。そして……」
ノイズを走らせるソウゴたちへ向かって、ローブをはためかせながらゆったりとした足取りで接近してくるタイムジャッカー。顔も何も動かない中、懸命にもがくソウゴたちを嘲笑い、そしてソウゴの目の前で立ち止まる。
「その目的は……たった今、果たされる」
そう言って、ソウゴの胸板に手を当てる。瞬間、その手が眩い金色に輝きだす。それはすぐに消え、一歩後ろへと下がった。
「う、ぐぁ……!?」
それを合図に、時間停止の力が消えて自由になったソウゴたち。しかし、ソウゴは苦悶の表情を浮かべながら、前のめりに倒れ込んだ。
「ソウゴ!?」
「ジオウ!」
「我が魔王!?」
すぐさまゲイツたちがソウゴを助け起こす。それを見ながら、タイムジャッカーは含み笑いを上げた。
「これで……」
そして……いつの間にか手に持っていた
「また、私の悲願に一歩近づいた」
掌程の大きさの、金色の光沢を放つウォッチ。いくつもの小さな歯車の意匠がこらされ、その中央にはソウゴが変身した時の顔が描かれているそれを見て、ソウゴは慌てて懐を漁る。
「『グランドジオウライドウォッチ』が……!?」
グランドジオウライドウォッチ……それはソウゴが変身する中で一番強力、かつ魔王としての力が封じ込められている現段階で最強のウォッチ。平成ライダーの力そのものと言っても過言ではない大事なウォッチが今、タイムジャッカーの手の中にある。
それ即ち、平成ライダーの力を奪われたと言っても過言ではなかった。
「これさえ手に入れれば、もうこの時代には用はない」
ライドウォッチを懐に入れると、タイムジャッカーは嘲笑を浮かべる。と、頭上を影が突如として覆う。
「うわっ!?」
「くっ……!」
突然吹き荒ぶ風に、ソウゴたちの視界が塞がれる。顔を覆っていた腕をどかして、どうにか前方を確認すると、そこには漆黒の船を模した頭部と帆船の帆を両肩に生やした人型の巨大な物体。それをソウゴたちは知っている。
「『タイムマジーン』……!?」
時空間航行が可能な未来のマシン、つまるところタイムマシンのロボモードが現れ、そして主であるタイムジャッカーへと手を差し出す。恭しい臣下にも見えるタイムマジーンの手の上に乗ったタイムジャッカーは、胸部のコックピットハッチを開き、ソウゴたちへ振り返った。
「またお会いしましょう、オーマジオウ……いえ……常盤ソウゴ」
最後、微笑みを見せてから、タイムジャッカーはコックピットへ乗り込み、ハッチを閉めるや否や、ロボモードからビークルモードへ変形、帆船のような形となったタイムマジーンは高速で空へ飛び上がっていく。その先には、タイムマジーンの時空転移システムが作動したことで開いた時空間トンネルがあり、そこへ迷いなく飛び込んでいった。
「まずい、逃げられるぞ!」
ゲイツが慌て、タイムジャッカーが逃げ込んだトンネルを睨む。このままでは、ジオウの最強の力を奪われたまま、どこの時代へ逃げ込んだのかわからなくなってしまう。
「俺たちも追おう! 今からならまだ間に合う!」
「わかったわ!」
ソウゴもゲイツと同じことを考え、今すぐ追う選択肢を取る。ツクヨミも異論はない。
「まったく……せっかくの旅行が台無しだね」
声は冷静でいて、顔は忌々しいというのを隠そうともしないウォズがぼやく。タイムジャッカーを追うため、ソウゴたちは自身たちのタイムマジーンを呼び出す。
呼び出して十秒もしないうちに、白と赤のビークルモードのタイムマジーンが現れる。白はソウゴ専用機、赤はゲイツ専用機だ。それぞれにソウゴとツクヨミ、ゲイツとウォズが乗り込んだ。
「よし、行くよ皆!」
『ああ。奴の思い通りにはさせん』
操縦席に座り、左右の操縦桿のグリップを握るソウゴとゲイツ。それぞれの脇でツクヨミ、ウォズが揺れに備える。いつでも発進できる状態となった。
「時空転移システム、起動!」
コックピットの計器が作動、エンジン出力を全開にし、タイムマジーンの推進ユニットが起動した。そしてタイムジャッカーが逃げ込んだ時空間トンネルへと飛び込んでいく。
色鮮やかな光の道『ジェネレーションズウェイ』を亜高速で飛行する二体のタイムマジーン。ソウゴとゲイツは前方のモニターからタイムジャッカーが乗るマシンを探す……が、その姿は視認できない。
「いない……どこに行った!?」
「もう別の時間に逃げ込まれたのかしら……?」
焦燥感に駆られながらも賢明に探すソウゴ。隣、嫌な予測をたてて顔を青くするツクヨミ。これまでの経験では、平成ライダーが関わる事件に遭遇した際、その時代の仮面ライダーに会いに行けば、必然的にタイムジャッカーと遭遇する事ばかりだった。だが今回はそういう話ではなく、手がかりもない以上、逃げられたら足取りが掴めなくなってしまう。
『いや、まだ近くにいる……注意しろ』
諦める姿勢を見せないゲイツが、通信機越しに警戒を促す。眉間に皺を寄せて険しい顔をしたままモニターを睨むゲイツの横でウォズが疑問符を浮かべた。
『何でそんなことがわかるんだい?』
『勘だ』
「勘なの!?」
あっさりと言い切ったゲイツに、思わずツクヨミがツッコんだ。だがゲイツはいたって真面目に言う。
『いや……恐らく、俺の読みが当たっていれば奴はまだ近くに』
ゲイツが自分の予測を言いかけた、その時、
―――ドォンッ!
「うわぁっ!?」
「きゃぁ! な、何!?」
突然、ソウゴとツクヨミが大きな振動に驚き、体勢を崩す。上下左右に揺れるタイムマジーンに揺らされる中、ソウゴは懸命に操縦桿を握りしめる。
『ジオウ、上だ! 奴がお前たちの上に乗っている!!』
ゲイツが通信機の向こうで叫ぶ。ゲイツのモニターには、ソウゴのタイムマジーンの上でロボモードになってタイムジャッカーのタイムマジーンが馬乗りになっていた。どうやら気付かれないよう、二人のタイムマジーンの上を飛んで姿を眩ませていたようだった。
その間にも、タイムジャッカーのタイムマジーンが動く。大きな右拳を振り上げると、ソウゴのタイムマジーン目掛け勢いよく振り下ろす。殴られた箇所から火花が散り、搭乗しているソウゴとツクヨミに強い衝撃が再び襲い掛かる。
「く、そぉ! 離れろぉ!」
操縦桿を操り、何とかタイムジャッカーを振り払おうとする。それでも微動だにせず、今度は左拳による攻撃、その後は右拳と、絶え間ない連続攻撃がソウゴのタイムマジーンにダメージを与えて行く。
『クソ! 狙いが定まらん!』
ゲイツが援護しようとするも、上下左右に揺れ動くソウゴのタイムマジーンによって照準がブレる。下手をすれば、ソウゴとツクヨミを撃ち落としかねないと判断したゲイツは、攻撃したくとも攻撃ができないでいた。
そうこうしているうちに、前方が眩い光に覆われていく。その光が消えたかと思うと、真っ青な空がモニターに映し出された。タイムマジーンが時空間トンネルから抜け出し、その時代に辿り着いたようだった。
しかし、それでもタイムジャッカーは攻撃をやめない。嘲笑うかのように、さらに強い攻撃をソウゴたちへ食らわせた。
今までのものよりも強い衝撃。その際、タイムマジーンのコックピットハッチがひしゃげ、穴が開いた。そしてそれと同時、ソウゴも衝撃に耐え切れずに席から身体が離れてしまう。
それが、決定打となった。
「あ……」
気付けば、ソウゴはコックピット内を浮き上がっていた。妙な浮遊感の中、ソウゴの身体は穴へと吸い込まれるように投げ出され、
「うわぁぁっ!?」
ソウゴは、タイムマジーンの身体から飛び出していった。
「ソウゴぉぉぉ!!」
ツクヨミが悲鳴にも似た叫びを上げ、手を伸ばす。無情にもその手はソウゴに届かず、宙を舞うように落ちて行くソウゴをただ見ているしかできない。
ソウゴの視界は次々と変わっていく。離れて行くコックピット、そこで自身の名を呼びながら手を伸ばすツクヨミ。そしてタイムジャッカーのタイムマジーンに伸し掛かられたまま遠くへ飛んでいく自身のタイムマジーンとゲイツのタイムマジーン。
そして、上下が反転する。落下する先にはどこまでも広がる自然豊かな深緑の森……それを最後に、ソウゴの意識は途絶えたのだった。