仮面ライダージオウ ~もののけプリンセス1480~ 作:コッコリリン
険しい山の道を抜け、森の中にある獣道を歩くこと半日。木々から漏れる日の光を浴びながら、その者はただ西へ西へと進んでいた。
道を歩くは大きな二本の角を生やしたアカシシ。強靭な身体に跨る者は、分厚い蓑と赤い頭巾に身を包んだ少年。背中に弓、腰に小刀を携え、顔を頭巾で覆っていてもそこから覗き見える凛々しい目つきは前を見据え続けている。
少年は相棒のアカシシに揺られながら、昨日の晩に思いを馳せる。ひょんなことから一時だけ行動を共にした、妙な僧。名をジコ坊と言うその男から、ここより遥か西の先にあると呼ばれる森の話を聞いた。
そこへ目指す理由は、少年の右腕。時折疼くその右腕を、少年は無意識のうちに擦る。
彼が生まれ育ち、共に生きて来た人々が住まう村から離れる切欠となった因縁ある右腕。大事な人間を守るためとはいえ、彼は禁忌に手を染め、結果呪いをもらってしまい、そして皆に惜しまれながらも村を出て行く羽目となってしまったこの呪われた右腕。彼は自らがした行いに悔いはない。だがこのままでは、少年の身体は呪いに蝕まれ、やがて死ぬ……それをただ何もせずに黙ってみていられるほど、少年は自分の命に無頓着ではない。
そこで、男から聞いた西にある広大な森に呪いを解く手がかりがあるやもしれないと知り、少年は男と別れ先へ進む。元より呪いの原因が西にあると聞いて目指していたのだ。少年の旅に目的地は然程変わらない。
道へ道へ……アカシシの揺れを身体で感じながら、少年は進み続けていた。
「―――っ」
だがその歩みは唐突に止まる。少年が止めたのではない、アカシシが小さな耳をピンと立て、立ち止まったのだ。
「どうした、ヤックル」
突然歩みを止めたヤックルという名の相棒のアカシシに、何事かと問う少年。ヤックルは首を動かし、周囲を見回す。そうして、ある一点へと顔を向けた。
少年もその視線の先を見る。耳に聞こえるのは、森の中に住まう鳥と獣の鳴き声。姿は見えずとも、ここには多くの命が住んでいるとわかる程に声が響く。しかし、森にいるのであればそれらの声など特段おかしいとは思わない。
背の高い木々が視界一杯に広がる光景。その先をヤックルはじっと見つめ、少年もまた見つめる。相棒が何もないのに、急に立ち止まる訳がない。何かがあると、少年は確信している。
そして、ふと気付く。
(……森が……いや、空が騒がしい?)
獣の声、木々が風で揺れる音……そこに混じって、何かが遠く離れて行く音が微かに聞こえた。
聞き慣れない音だ。鳥の翼とも違う、妙な音。空を見上げようにも、木の葉によって空は遮られ、正体を知ることはできない。そしてその音が聞こえなくなると、今度は何かが幾つもの枝を折るような音が聞こえた。
自然に鳴る音ではない。それに気付き、気になった少年はヤックルから飛び降りて音の下へと歩き出す。念のため、小刀の柄に手をかけ、自衛できるようにしておく。
草むらを掻き分け、歩き進めることしばらくして、少年は目の前の光景に違和感を覚える。そこにあったのは、他の木々と変わらない太い幹に大きな木。しかし、そこから木の葉が舞い落ちているのが妙に気になった。
冬ならともかく、今の季節では自然に葉は落ちない……そう考え、少年は視線を上へと上げた。
「っ……!」
そうして、気付いた。木の枝に引っかかるようにしてぶら下がる影があることを。目を凝らして見れば、それは獣の姿ではない。服を着た人間の姿がそこにあった。
そして、その枝がミシミシと軋む音を鳴らし始めていることにも気付く。
「まずいっ!」
思わず少年は叫び、その人物の下へと駆ける。枝が人間の重さに耐え切れず、やがて枝が半ばでバキリという音と共に折れ曲がった。そうして、ぶら下がっていた人物は、重力に従い落下を始め……
「ぐぅ……!」
あわや地面に激突するかと思われた瞬間、落下地点へと滑り込む形で少年がその人物を受け止める形で衝撃を和らげることに成功した。
遅れて舞い散る木の葉。木の高さから見れば大怪我は必須、打ちどころが悪ければ死ぬ可能性すらあった。
ホッとするも束の間、少年は落ちて来た人物を草が生い茂る地面に寝かせた。
「おい! おい! しっかりしろ!」
なるだけ頭を揺らさないよう、その者へ呼びかける少年。その際、目の前の人物を観察する。
性別は男性。年若いが、少年よりは上の年齢に見える、青年とも呼べる顔立ち。しかしそれよりも、妙な身なりをしているのが気になった。茶色の髪に、麻とも違う材質な上に派手な色の服。足には下駄とも草鞋とも違う履物と、これまで見たことのない物ばかり。
どこから来たのだろうかと、少年が目の前の青年について考えていると、呻き声が少年の耳に入る。
「う……」
薄っすらと、青年が目を開く。まだ意識が朦朧としているのか、完全に瞼を開くことができないでいるようだった。
「気が付いたか。私が見えるか?」
意識を取り戻した青年に安堵しつつ、少年は問う。最初、青年は霞む視界の中でどうにか少年の顔を収めることができた。
「ぁ……俺……」
「落ち着いてくれ……自分が何者か、わかるか?」
頭を強く打っているかもしれないと思った少年は、青年に自らのことを問うてみる。弱々しく開かれた口から、漏れ出るように言葉が出て来た。
「俺……は……」
ゆっくり、ゆっくりと、青年は意識が消えて行くのを感じる。それでも、最後の力を振り絞って、己の名を紡ぎ出す。
「常盤……ソウ、ゴ……」
そうして……力尽き、再び意識を闇へと落として行った。
「っ……!?」
力無く頭を下げた青年……常盤ソウゴと名乗った彼の息を、少年は確認する。やがて、ちゃんと息をしていることと、心臓の鼓動が聞こえることを知って、安堵した。
恐らく、身体に強い衝撃を受けたことによって気を失ったのだろう。顔や身体に切り傷が見受けられるが、見たところ大きな傷ではない。よく診なければわからないが、現段階では恐らく命に別状はないだろう。
(それにしても……)
だが、どうしても気になる。何故木の上に引っかかっていたのだろうか? 見上げれば、ソウゴと名乗った青年が引っかかっていた木の上の枝がいくつも折れている。これではまるで、空から落ちて来たかのようではないか。服装も一風変わってはいるが、どうも旅人の装備というには軽装すぎる。それが疑問に拍車をかける。
一体全体、彼は何者なのだろうか……そう考えていた少年だったが、今はこの青年の身を案じる方が先だ。少年は青年を軽々と背負い上げ、来た道を戻る。
その先で主の帰りを待っている相棒の背中に乗せ、どこか休めるところを探すために。
――――――
――――
――
どこまでも暗い空間。冷たさも、暑さすらも感じない。足元を見れば、水の波紋のように白い光が広がっていく。
自分は立っているのか、それとも浮いているのか。はたまた横になっているのか……何もかもが曖昧な感覚の中で気付く。これは夢だと。明晰夢というものだろうか? 呑気にそう考える余裕があることに、自分でも驚く。
何者の気配もない、自分一人だけの世界。夢の世界というには、拍子抜けする程に何も無さ過ぎる。念じれば何か現れたりしないだろうか?
そう考えていた矢先、後ろから気配を感じ取る。誰か来たのだろうか? そう思い、振り返ってみた。
そこにいたのは、人……などではなかった。
姿形は、鹿にも見える。しかし頭の角が数えきれない程に枝分かれしているそれは、鹿ともトナカイともつかない。それだけだ。顔や身体の色までは全貌はわからない。何故ならばソレは、金色に淡く光っていた。というよりも、光が形を成したかのよう。
自分の存在は曖昧だというのに、何故か目の前の存在ははっきりとした存在感を放っている。自分の夢なのに、どうしてだろう? そんなことを考えていた。
そうして、その光はゆっくりと近づいてくる。2m程離れていたソレは、徐々に徐々に、こちらへと歩み寄ってきて、やがて手の届く範囲にまで来て立ち止まった。
何も考えてなどいなかった。ただ身体が勝手に、まるで操られているかのように、そっと、手を持ち上げる。おもむろに光に手を伸ばし、そして、
フゴフゴという音が、耳元から聞こえて来た。
――
――――
―――――――
「……へ?」
そこで、常盤ソウゴは目を覚ました。視界は暗闇から土の天井へと切り替わり、身体には涼しい風が吹きつける。そしてふと顔を横へ向ければ、
「うぉぉっ!?」
頭に立派な角を生やした鹿? のような動物が、ソウゴの顔に鼻を押し付けんばかりに匂いを嗅いでいた。思わず驚き飛び起きるソウゴ。対し、鹿は特段驚いた素振りも見せずに、無垢な瞳をソウゴへ向けているだけだった。
そうして、害はないと知ったソウゴは、改めて周囲を見回す。土の天井、壁の至るところから木の根が生え、そこから一歩足を踏み出せば空から燦燦と日の光が降り注ぐ。ソウゴは自分が寝ていた場所が、土の地面に敷かれた薄い布の上だと気付いた。
「……あの人が、助けてくれたのか」
思い出せるのは、タイムジャッカーによってタイムマジーンから放り出され、宙へ投げ出された際の景色。その後、どうにか僅かばかりに意識を取り戻し、その時にソウゴを抱き起した頭巾で顔を隠した少年の顔……そしてそれを最後に、ソウゴの意識は再び眠りに落ちていった。
落下したというのに、身体は特に痛みはない。顔にあった切り傷も、少しヒリヒリする程度で大したものではない。奇跡的に五体満足で、今こうしていられる。
「……そういや、あの人がいないな」
見回して見ても、ソウゴと鹿以外、ここには誰もいない。立ち上がり、外へ出てみる。ソウゴが眠っていた場所は、一本の巨木の下に出来た洞のような場所のようだった。目の前に広がるのは広大な森。ソウゴが立っている場所は、少し小高い丘のような場所で、おあつらえ向きとも言えるような場所だった。
振り返れば、鹿がこちらの様子を伺うようにしてじっと見つめている。ふと気付いたが、鹿のすぐ傍には焚き火の跡が。そして頭巾や藁の蓑、弓と矢が入った矢筒が丁寧に置かれてあった。鹿も背中に鞍が括りつけられ、口元には手綱が備え付けられている。
頭巾には見覚えがある。恩人である少年の物だ。となると、この鹿は少年が跨っていたものだろうか。それにして、弓矢は見たところ本物のようで、ここが随分昔の時代なのだと伺い知ることができる。
そうして、ゲイツたちの安否が気になった。どことも知れない遥か過去、逸れた仲間たちは無事だろうかと。だが、今はそれもどうにもならない。仲間たちの無事を祈るしかできない中、ソウゴは鹿へと警戒心を抱かせないよう、ゆっくりと歩み寄る。
「えっと……お前のご主人? は、どこ行ったか知らない?」
言葉は返ってこないとはわかっているが、とりあえず何か動きがないかダメ元で聞いてみる。案の定、きょとんと首を捻るくらいの反応しか返ってこなかった。
途方に暮れるソウゴ。どうしたものかと考え……その瞬間、鹿がビクリと唐突に首を動かした。
「うぉ!? ど、どうしたの?」
いきなり別の反応を示されて驚くソウゴ。だが鹿は、じっとある一点を見つめる。その先を見ても、ソウゴにはわからない……が、唐突に鹿がまた別の動きを見せた。
「ちょ、ちょっと!? ちょっと待ってよ、ちょっとぉ!?」
突然、鹿が走り出す。逃げ出すつもりかと考え、咄嗟にソウゴは手を伸ばし、そして手綱を引っ掴むと、
「うぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
鹿に引っ張られる形となり、ソウゴは悲鳴を上げて森の中へと飛び込んでいった。
少年は油断していた。怪我人を看護し、もう大事はないと思い、水を汲みに行くべく森の中の川へと一人で赴くことにした。距離もそこまで離れているわけでもなく、相棒のヤックルに青年の様子を見守るよう言い聞かせ、それでも念のために小刀を携帯して川へ。そうして目的の川に着き、必要な分の飲み水を汲み上げ、いざ戻ろうとし踵を返した。
その瞬間、殺気を感じ取った。咄嗟に屈むと、少年の頭上を鋭い音を立てて何かが飛んできて、スコンという音と共に止まる。見れば、すぐ傍の木の幹に一本の矢が突き刺さっていた。位置的に見て、少年の頭があった場所だ。判断が遅れれば、矢は脳を貫通し、少年の命を奪っただろう。
その矢の襲撃を合図に、周りの木々の影からいくつもの影が飛び出してくる。薄汚い服を身に纏い、手には上等とまではいかないにしても、人を殺傷するには十分すぎる程の刀や鉞、そして弓を手にした男たち。それが十数人。ニタニタと下卑た笑みを浮かべながら、少年を取り囲んだ。
「……何者か」
この状況、そして相手の身なり。それらから導き出される相手の正体を、少年は見破っていたが、それでも念のためと思い、男たちに問う。それに答えたのは、少年から一番近い距離にいる手に刀を持つ男。
「見てわかんねぇか? 俺たちゃ物盗りだよ」
物盗り、つまるところ野盗の連中。貧しさゆえか、それとも戦に敗れた兵士の末路か、経緯は定かではない。だが、現在進行形で少年はその物盗りの標的にされたのだと悟る。
「……見てわかる通り、私には価値のある物は身に付けていない。あなたたちが欲しい物などない」
殆どの荷物は、ヤックルと共に置いてきた。あるのはせいぜい、得物の小刀くらいだ。
「んなもん、お前が決めることじゃねぇよ。お前から身ぐるみ剥がしてから俺らが判断すんだ」
「まぁ……命は貰うのは確定だけどなぁ?」
相手から物を奪うのには、やはり動けない者から奪うのが確実……つまりは、そういうことだ。連中からすれば、少年は哀れな狩りの対象でしかないのだろう。
無論、少年とて黙ってやられるつもりはない。小刀を抜き放ち、抵抗の意思を見せる。
「お? やるってのかぁ?」
一対多。数からすれば、少年の圧倒的不利だ。それをわかっているからこそ、物盗りたちは嘲り笑う。しかも武器は小刀一本。何ができるというのか。
嘲りの中に、立ち込めて行く殺気……それを察した瞬間、少年は僅かに苦悶の表情を浮かべる。
(っ……また、右腕が……!)
その身に怒りを、殺意を宿した瞬間、蠢くように疼き始める呪いの右腕。やがて暴れ出すであろう右腕を抑え込もうと、少年は懸命に足掻く。
その時、意識が物盗りから外れた。
「死ねぇ!!」
「っ!」
刀を手に、先ほどまで受け答えしていた男が襲い掛かる。もはやなりふり構ってはいられない。覚悟を決め、少年は小刀を握りしめる。せめて相手の腕を切り、戦意を削ごうと振りかざそうとした。
「―――ぁぁぁああああああ!!」
しかし、それは中断される。
「うぉぉっ!?」
「いっでぇ!」
悲鳴と共に男と少年の間に割って入るように、草の間から飛び出してきた影。今度は人ではなく、四足の獣。立派な角を生やしたその存在を視認し、男は驚き刀を振り上げた勢いのまま尻もちをつき、少年は別の意味で驚愕する。
「ヤックル!?」
友にして旅の相棒であるアカシシのヤックル。主の危機を察し、少年を庇うようにして立つその姿は、どこか凛々しさをも感じさせる。
だがふと気付く。ヤックルと共に、別の人間の声が聞こえてこなかったか。ヤックルが少年と男たちの間に立ち塞がる時、何かが草むらの上に落ちた音もした気がするが。
「いててて……」
そんなことを考えていると、ヤックルを挟んだ向こう側で声がする。そうして、頭を擦りながら顔を顰めている青年が、身体に付いた草を手で払いながら立ち上がっていた。
「そなたは……」
その者には見覚えがある。というよりも、昨日少年が拾い上げ、傷の手当までした奇妙な青年。名は確か、常盤ソウゴと名乗ったか。彼もまた少年に気付き、振り向いた。
「あ、君は……」
「おいテメェ! いきなり何しやがる!?」
恩人との邂逅を果たせたソウゴに向けて、尻もちを着いていた男ががなり立てる。いきなり現れ、すっ転ばせた相手に対して羞恥と怒りを滲ませた男は、刀の切っ先をソウゴへ向けた。
「え? あ、ごめん……って、何か取り込み中……だった?」
物騒な身なりの男に気付き、ソウゴは改めてこの状況を確認する。武装した男たちと、対峙していた少年……それらから導き出されるこの状況は、十中八九男たちが少年に危害を加えようとしていた、という風にしか考えられなかった。
ただ、ソウゴに恐れはない。というよりも、まるで時代劇のワンシーンみたいだと、そんな場違いなまでに呑気なことを考えていた。
そんなソウゴの能天気とも取れる態度に、男たちは苛立ちを募らせる。バカにしているのかこいつは、と。だがソウゴの身に纏っている服を見て、目の色を変える。
「おい、こいつ変な恰好してるぞ」
「あぁ。ふざけた奴だが、こいつの荷物を奪っちまえば金になるかもしれねぇ」
標的を少年からソウゴへ変更した物盗りたちは、武器をソウゴへと向けた。切っ先鋭い得物を前にし、ソウゴは相手がこちらを殺す気でいることを察する。
「っ、いけない、すぐに逃げろ!」
ソウゴを庇うため、小刀を手に再び構えようとする少年。怪我人である彼に無茶はさせられない。そう思っての行動だった。
が、それをソウゴは遮る。自ら男たちの前に進み出て行った。
「ここは俺に任せて。アンタは俺の後ろに」
「何を……!」
バカなことを言うなと、ソウゴを窘めようとする。だが、僅かに振り向いたソウゴの表情には、恐れでも覚悟を決めた顔でもないものが浮かんでいた。
「だってさ」
それは……余裕の笑みだった。
「恩人の危機を黙って見ているのって、王様じゃないでしょ?」
言って、ソウゴは懐からある物を取り出す。それは、ソウゴがこれまで戦いに使われてきた、云わば武器。パールホワイトのカラーリングのソレが何かわからない少年は眉を上げた。
その間、ソウゴはソレこと『ジクウドライバー』を腰の前、丹田に当たる部分へと当てる。すると、ジクウドライバーの左側からベルトが射出、自動でソウゴの腰に巻き付く形で右側のバックルに挿入。瞬時に銀色のベルトが巻かれたことで、ジクウドライバーをいつでも使用可能な状態にした。
そして、ソウゴは再び男たちへ向き直り……右手に円形のある物を持ち、突き出した。
ある物こと『ライドウォッチ』には、ジオウのライダークレストと2019の年代の数字が描かれている。そして、ソウゴが親指でライドウォッチのカバー部分『ウェイクベゼル』を90°に回転。クレストと年代が消え、代わりに表れたのは、
≪ZI-O!≫
「は? じ、じおー?」
ソウゴの仮面ライダーの顔。そして上部の『ライドオンスターター』を押すと、ライダー名のサウンドが響くと共に、円形に顔のホログラムが浮かび上がる。
これが、“変身”の前段階。何をしているのかわからない男たちが戸惑っている間にも、ソウゴは進む。
ジクウドライバーの右側のスロット『D’9スロット』にライドウォッチを装填。すぐさまジクウドライバーの『ライドオンリューザー』を押し込むと、ジクウドライバーのロックが解除され、僅かに右に傾く。すると、
「な、なんだこりゃぁ!?」
男たちの戸惑いと困惑の声と共に、ソウゴの背後に半透明の巨大な時計のエフェクトが現れる。見るも奇怪な光景を前にし、声に出さずとも少年もまた驚愕し、思わず身構えた。
ジクウドライバーの中央ディスプレイ『ザイトウインドー』のデジタル盤に針時計が四つ回る映像が映し出され、背後の時計が針と共にゆっくりと反時計回りに動き出す。時計の針が動く音が鳴る中、ソウゴは肩幅にまで足を広げ、左手を右上へ突き出すように構えた。
これらは、ソウゴが戦士へ至るためのシークエンスであり、ある種の儀式めいた物。やがてソウゴが手首を回転させ、そして己の身を変える言葉を叫ぶ。
「変身!!」
スナップを効かせた左手で、ジクウドライバーそのものである『ジクウサーキュラー』を半時計回しに回転。背後の時計もまた、ジクウドライバーに連動して回転。長針と短針が、鐘の音と共に10時10分を指し示す。
≪RIDER TIME!!≫
そして時計に浮かび上がるマゼンタ色の“ラ”“イ”“ダ”“-”の文字。回転運動のエネルギーによって、ジクウドライバーの機能が動き出す!
≪
ソウゴの身体を中心に、腕時計のバンドのような輪が幾つも取り囲み、回りだす。背後の時計が消える直前、ライダーの文字が実体化し、前方へ飛び出す。やがて文字が小さくなりつつソウゴへと戻ってきた時、ソウゴを取り囲んでいたバンドの輪は砕け散るように消え……ソウゴの姿は、完全に別物へと変わっていた。
全体を黒のボディスーツに身を包み、身体の中心には腕時計のバンドを模した装飾、上半身には強靭なプロテクターを纏い、そして顔は10時10分を指し示した白い針時計をイメージした仮面。目の部分が黒い空白のように空いていたが、エフェクトから飛び出してきた文字が、顔へと吸い込まれていき、顔面へ装着される。
顔に張り付いた“ライダー”の文字。それが今のソウゴの目『インジケーションアイ』となり、変身シークエンスを完了させた。
「これは……」
姿を完全に変えたソウゴを前にして、少年は目の前の光景に、そしてその身から醸し出される覇気とも取れるオーラを前にし、ただただ息を呑む。
その者は、時の王者にして、やがては全てを凌駕する存在へと成り得る最強の存在……『仮面ライダージオウ』が、今ここに降臨した。
「な、なんだこいつ!? 見た目が、変わりやがった!?」
「もののけの類かぁ!?」
ド派手にして奇天烈。遥か未来の時代で作られた技術であることを知る由もない男たちから、驚愕、困惑、恐怖が入り混じった声が上がる。ソウゴ改めジオウは、そんな彼らを前にして悠然と進み出る。
「さぁ……行くよ!」
それが……戦闘開始の合図となった。
戦闘は次回なんDA☆