仮面ライダージオウ ~もののけプリンセス1480~   作:コッコリリン

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このキャラこんなんちゃう! と思われたら申し訳ありません、諦めてください(ぇ


EX.03 邂逅

 

 

「さぁ……行くよ!」

 

 言って、マゼンタ色の装甲に覆われた頑強なグローブで握りこぶしを作るジオウ。その異様な風貌を前にしてたたらを踏んでいた物盗りの男たちは、相手がやる気だと見るやいなや、己を奮い立たせるようにして各々得物を構え直した。

 

「み、見せかけだ! 囲んでやっちまえ!」

 

 一番手近にいた長刀を手にした男が、刃を振りかざしてジオウへ迫る。技というにはあまりにお粗末であり、隙だらけの大振りであるものの、相手を仕留めるためのその一撃は、素人ならば恐怖で動けずに呆気なくその刃にかかり、命を絶たれるだろう。

 

「ふっ!」

 

 だが、相手は素人ではなく、ここに来るまで多くの戦いを経験した手練れ。しかも常人を遥かに凌ぐ力を備えた仮面ライダー。そんな直線状の攻撃など、身体を僅かにずらすだけで避けられる。続く男たちによる鉞や槍による攻撃すらも軽く避けるか、受け流すかで凌いでいった。

 

「この野郎!!」

 

 ジオウの心臓目掛け、図体のでかい男が槍を持って突撃してくるも、ジオウは矛先をあっさりと掴み取る。まさか掴まれるとは思っていなかった男は、慌てて飛び退こうと槍を引こうとした。

 

 が、無意味。パンチ力8.2tを誇るジオウの握力の前に、いかに屈強な男であろうとも抜け出せるわけもなく。顔を真っ赤にして槍を引き抜こうと足掻く男だったが、逆に軽くジオウが槍を手元に引き寄せると、

 

「うぉっ!?」

 

 あっさり地から足が離れ、己がジオウの下へと吹っ飛ぶ羽目になった挙句、

 

「よっ」

 

 軽い感じに横へ振り抜いたジオウの拳を頬に受けて顔が歪み、またも吹っ飛び、木の幹に叩きつけられる。加減しているとはいえど強力なジオウの拳と衝突に耐えられる筈もなく、意識を異次元へと飛ばした。

 

「うああああああっ!?」

 

 物盗りの中では、一番の巨躯を誇っていた男があっさりと殴り飛ばされたことで恐慌状態になった男の一人が、背を向けたジオウへと刀を手に特攻してくる。やぶれかぶれ、という言葉の通りの、やけくその攻撃だった。

 

 無論、ジオウとて簡単に切られるつもりはない。

 

≪ジカンギレード・ケン!≫

 

 ジクウドライバーから声と共に光が照射されたかと思うと、“ケ”“ン”の文字が宙に浮かぶ。やがて時計が回るエフェクトが現れ、時計の針が重なると、エフェクトは消えて()が実体化される。

 

「はぁっ!!」

 

 そしてそれを、柄に備え付けられているトリガーを引きながら振り向き様に薙ぐ。狙うは、刀。弧を描く紫色の剣閃を叩きつけられた刀の刃は、呆気なく半ばで甲高い音を鳴らして折れた。

 

「……え? へぇ!?」

 

 無残な姿となった己の得物を、素っ頓狂な声を上げながら信じられないとばかりに見る男。粗悪品と言えど、材質は鉄。それをあっさりと破壊した、木漏れ日を浴びて鋭い光を放つジオウの武器。

 

 それは、時計の針の如く鋭利な鋼の刃を携えた一振りの黒い剣。刃の根に大きな文字で『ケン』と綴られたその剣は、『ジカンギレード』と呼ばれているジオウ愛用の武器である。その刀身に行き渡った高圧エネルギーによって共鳴振動を起こした刃にかかれば、普通の武器など、鉄くずどころか紙くずも同然。

 

「せい! おりゃあ!」

 

 続けざまにジカンギレードを振るうジオウ。狙うは、鉞や槍といった男たちが手に持つ得物。いずれも例外なく、次々と半ばで切られて使用不可能にさせていった。素手となって尚も闇雲に掴みかかろうとした者に至っては、軽く蹴りや拳を入れることで失神へと追い込んでいく。

 

「こ、このっ!」

 

 殺してはいなくとも、次々と仲間たちがやられていくのを離れた場所で見ていた弓を持つ男たちは、恐れ慄きながらも矢を放とうと弓の弦を引き絞る。狙うは、ジオウの頭部。いかに強くとも、頭を射抜きさえすればと、男たちは狙いを定めていく。

 

≪ジュウ!≫

 

 しかしそれも、ジオウには通じない。ジカンギレードの刀身が折り畳まれると、綴られていた『ケン』の文字が変形、『ジュウ』へと変わり、同時にジカンギレードの形態も変化を遂げる。

 

 ジカンギレードは遠近両用の武器。その形態を変えることで、剣から銃へ、銃から剣へと変えることが可能。そして銃へと変形させたジオウは、刃から銃口へと変化したジカンギレードの先端を男の一人へ……否、正確に言えば男たちが持つ弓へと向け、トリガーを引く。

 

 炸裂音と共にマズルフラッシュが瞬き、エネルギーが弾丸となって音速の勢いで銃口から飛び出す。寸分違わず、銃弾は今まさに矢が放たれようとした弓を貫き、破壊。木っ端微塵に砕かれ、持ち主の男は驚愕、衝撃で尻もちをつく。さらに一、二、三回と、次々にトリガーが引かれる度に撃ちだされる銃弾によって、男たちの弓は弓から木の破片へと成り果てていった。

 

 これにより、物盗りたち全員の武器は破壊された。

 

 唖然とする男たち。鍛えられた身体などハリボテに過ぎないとばかりにあしらわれ、挙句強力な武器を前にして手も足も出ずに無力化されるなど、誰が予想できようか。

 

「い、いいいい石火矢……!?」

 

「これが、噂の……!?」

 

 そしてそれ以上に、ジオウの武器から放たれた矢とも違う謎の攻撃。一瞬のうちに弓を破壊するその威力、もしそれが自分たちに牙を向くとなれば……。

 

「ねぇ?」

 

「ひぃぃっ!」

 

 ジオウは、最初に刀で攻撃してきた男へ向けて声をかける。それこそ知人に声をかけるような気軽な感じの声だが、自分たちの命は目の前の異形が握っているとなると、どんな声も処刑執行人が死刑を告げる声と同じにしか聞こえない。相手が見せかけの存在ではないことを思い知った男は腰が抜けたせいでへたり込んでしまい、恐怖に顔を歪めてジオウを見上げた。

 

「俺としては、これ以上やり合う気はないから帰って欲しいんだけど……」

 

“ライダー”の瞳が光り、真っ直ぐ男を射抜く。ジオウとしては、武器もない、戦意もない相手にこれ以上戦う意味を見出せない。悪人ではあるが、アナザーライダーでもない相手を切り捨てるつもりも、ジオウにはない。

 

 だがそれでも、

 

「どうする?」

 

 相手に戦う意思があるのであれば、応じなければいけない。銃モードのジカンギレードを掲げ、男へ問いかけた。

 

 対し、ジオウの脅しとも取れる無意識の行動を前にした男はというと、

 

「…………か、帰る。帰るから……み、見逃してくれぇぇぇぇぇ!!」

 

 真っ向から歯向かう意思など、手にした刀ごと根本から叩き折られたため、従う以外の選択肢など無く。最早使い物にならない柄だけとなった刀を放り捨て、ジオウに背を向けて這う這うの体で逃げ出した。

 

 他の男たちも同様。二度と使うことができなくなった武器を捨て、情けない声で助けを求めつつ、一部は気を失っている者を担いで、一目散に逃げていく。

 

 弱者を標的にし、物品を奪って来た男たちは、ジオウという強者によって敗北、逃走していった。

 

「ふぅ」

 

 脅威は去ったと見たジオウは、一息つきながらジクウドライバーのD’9スロットに手を当てる。そこに嵌め込まれているライドウォッチを引き抜くと、一拍置いてマゼンタの光が全身を包み、一瞬輝くとスーツと共に散って消えた。

 

 後に残ったのは、先ほどと同じ服装のソウゴの姿。振り返れば、ソウゴにとって恩人と呼ぶべき少年が、鹿を背にし小刀を手にしたままこちらを見ている。凛々しく、理知的なその顔を僅かに強張らせてはいる。

 

「怪我はない?」

 

 草を踏みしめながら、ソウゴが少年に歩み寄る。先ほどまで圧倒的な力を見せつけていた者とは思えないほど朗らかで、それでいて疲れ一つ見せないその立ち振る舞いは強者の余裕にも見える。

 

「あ……ああ」

 

 どうにかそう返事をする少年。ソウゴはニッと、いつも通り人懐こい笑みを浮かべた。

 

「……」

 

 しばし無言。得体の知れないソウゴを、見極めるために見つめる少年。しかし、ソウゴが純粋に少年を救おうとしていたという事実を改めて鑑みて、ソウゴがこちらに害を為すことはないと考えた少年は、やがて小刀を鞘に収めた。

 

「すまない、助けられたな」

 

 そう何とか返す少年。ソウゴは笑みを崩すことなく返す。

 

「これである程度の恩は返すことはできた、かな?」

 

 その言葉の意味を一瞬考えたが、ソウゴが怪我をしていたところを拾ったことに対する恩だと知る。ソウゴという人間が、人に対する恩を感じ、それを返すような人柄であることがわかると、いまだ張っていた肩の力が楽になるのを感じた。

 

「ああ……十分だ」

 

 肩越しから、ヤックルが己の頬に鼻を押し付けてくるのを感じる。少年の身を案じて駆け付けて来てくれた相棒に、礼を込めて撫でて返した。

 

「ソウゴ、だったか。改めて、礼を言わせてくれ」

 

「助けられてよかった。えっと……」

 

 少年はソウゴの意識が朦朧としている時に名乗られたためにソウゴの名を知ってはいるが、少年の名をソウゴは知らない。名乗っていないことに気付いた少年は、改まって己の名を告げる。

 

「名乗りが遅れてすまない……私は、アシタカという者だ」

 

 

 

 

 

 

 

 時は遡り、場所はいずこかの深い森の中。周りの木々はいずれも太く、岩は苔むし、そして空気は澄んでいる。日の光が天高くまで聳える木の葉から漏れてスポットライトのように地を照らす、神秘的な雰囲気が漂う深い森の中。木々の間を縫うように、その者は走っていた。時に大きな木の根や岩を飛び越え、地形を物ともせずに進む。軽快に飛び回り、そして風を切って走る。

 

 走る理由は一つ。いつもは静かで、人の手が入らない森の中が騒がしい。そして何より、その者の鼻が、説明のつかないような嗅ぎなれない臭いを捕えたためだ。ただの気のせいならばそれでいい。しかし奇妙な胸騒ぎが、その者の心をかき乱す。

 

 その正体を知るため、臭いの下へとひた走る。そしてもうじきそこへと辿り着くというところ、何者かの話し声も聞こえて来た。

 

 獣ではない……人の声。嗅ぎなれない臭いと共に、人間特有の臭いも感じ取れて来た。

 

 この聖域に、人がいる……それだけで、乱れる心の中に怒りの炎が燃え上がるのを感じる。その手の得物を、力強く握りしめた。

 

 話し声がする地点の近く、やや高台に位置する草の影に潜む。そして、臭いの正体、そして話している人間は何者かを、その目で確認した。

 

 そこにあったのは、赤と白の巨大な何かと、異様な風貌の三人の人間の姿だった。

 

 

 

 

 

 

「ツクヨミ、タイムマジーンはどうだ?」

 

 神秘の森の中では異様な存在としか言えない人ならざる巨体が二体。赤と白の巨体ことタイムマジーンは、ビークルモードで地面に伏せるようにして鎮座していた。赤のタイムマジーンは無傷、しかし白のタイムマジーンは至る箇所に傷や凹みが目立ち、特にコックピットハッチの大きな裂傷が被害の大きさを物語っていた。

 

「……詳しく見ないと何とも言えない状態だけれど、飛べるには飛べると思う……けど」

 

 ツクヨミが乗っていたソウゴのタイムマジーンの状態を見ていたツクヨミが、額の汗を拭いながら立ち上がる。状態は思っていた以上には悪くはない、しかしそれでも、悲壮的な感情を隠せないでいた。その理由は、

 

「我が魔王……一体、いずこへ……」

 

 主君ことソウゴが、タイムマジーンから投げ出されたが故のもの。そしてその悲壮感はツクヨミとは比べ物にならない程に発しているウォズはというと、タイムマジーンのすぐ近くの木の根に「あ、あの人すごい落ち込んでる」と誰から見ても指さして言われそうな感じで座り込んでいた。

 

「ごめんなさい、私がソウゴの手を掴めなかったばっかりに……」

 

「いや、あの状況ではどうにもならん。ツクヨミは気負うことは何もない」

 

 ツヨクミの脳裏に浮かぶ、ソウゴが亀裂の入ったコックピットハッチから投げ出される瞬間の光景。どうにかしたくとも、タイムジャッカーがそれを許してくれず、結局ツクヨミはタイムマジーンごと、この森の中へと叩き落とされてしまう結果となった。ゲイツはタイムジャッカーを退けようと躍起になっていたがために、ソウゴがいなくなったことに気付くことができなかった。挙句、気が済んだとでも言いたげなタイムジャッカーのタイムマジーンは離れ、置き土産とばかりにツクヨミの乗ったタイムマジーンを叩き落して行った。このままタイムジャッカーを追うこともできたが、ツクヨミを放置していくこともできない。結局、タイムジャッカーがどこかへ去っていくのを指を咥えて見ていることしかできず、こうして森の中でツクヨミと合流した……そこで、ソウゴが行方不明となってしまったことを知った。

 

「それに、あいつがそう簡単にくたばるわけがない。今はあいつが五体満足であることを祈ろう」

 

 無論、ゲイツとてジオウのことを案じてはいる。それでも、ソウゴの安否を知ることができない以上、そう言うしかできない。

 

「だからお前もそこでいつまでも落ち込んでるんじゃない、気をしっかりもて!」

 

 そして声を荒げ、いまだ凹んでいるウォズの腕を取って強引に立ち上がらせる。どんよりしたオーラを放っているウォズだったが、無理矢理といえども己の足で立てる程には力は抜けていないようだった。

 

「うぅ、我が魔王ぅ……」

 

「……それよりも、今はこの状況をどうするかが問題だ」

 

 しょぼくれてるウォズは半ば放置、ゲイツは周囲を見回しながら言う。太く大きな木々が360°見回しても聳え立つこの森。澄んだ空気は美味なれど、射すような視線がどこからも感じられるような場所が、安全とは到底言いにくい。正直、長居をするのは得策とは言えないだろう。

 

「ここがどういう場所なのか、ある程度は把握しておく必要があるな……俺は少し、周囲を確認してくる」

 

 タイムマジーンがこの状態では、すぐには動くことはできない。得体の知れない場所であるからこそ、少しでも情報を集めておいた方がいいと判断したゲイツは、ツクヨミに向けて言った。

 

「私はタイムマジーンの修理を続けておくわ。お互い、何か非常事態があったらすぐ連絡するようにしましょう」

 

「わかった。ウォズ、行くぞ」

 

 ツクヨミとて、かつてゲイツと共に戦ってきた戦士の一人。そう簡単に遅れは取らないだろうと判断し、ゲイツはこの場をツクヨミに任せてウォズに声をかけて歩き出す……が、落ち込んですぐに動こうとしないウォズを見かね、一旦戻ってウォズの背中を押して再び歩き出した。

 

「……大丈夫なのかしら」

 

 どう見ても大丈夫じゃないウォズとそれを補佐するゲイツに不安を覚えつつも、ツクヨミは二人を見送った。

 

 同時に、彼らを見ていた者もまた、その場を離れるために動き出す。

 

 

 

 

 

 

「まったく、どこを見ても同じ景色ばかりだな」

 

 木の根を乗り越えつつ、ゲイツはぼやく。タイムマジーンから少し離れた場所まで来たものの、景色は相変わらず木と根、或いは岩ばかり。大自然が生み出した神秘的光景は、天からの光と木々の影のコントラストも相まってさぞ写真映えするだろうが、この状況の中では何も変化がないだけで辟易するばかりだ。時には獣か何かの気配もあり、こちらに対して警戒をしているようにも感じる。そのためか、こちらに接触する様子はないのはある意味救いかもしれない。

 

 しかし、こうも地形が変わらないとなると、闇雲に歩き回るのは危険かもしれない。先ほど空中から鳥型サポートメカ『タカウォッチロイド』を飛ばして空から周辺を偵察させたが、見渡す限りの森だったという。これ以上タイムマジーンから離れるのは得策ではないという考えに至り、ゲイツはウォズに提案しようと振り返った。

 

「はぁぁぁぁ……」

 

「ってまだ落ち込んでるのか!? いい加減シャキっとしろ!!」

 

 いつの間にやらまたも木の根に座り込み、ため息を吐いて落ち込むウォズ。思わずガクリとコケかけたゲイツだったが、さすがに見かねて叱責した。というより、ここまでメンタルが弱い男だったかと疑問にすら思えて来る。

 

「……君は心配じゃないのかい? 我が魔王が今どこでどうしているのかわからないというのに……」

 

 僅かに反応したウォズが、覇気のない声でゲイツにそう問いかける。ソウゴと連絡しようにも、携帯端末である『ファイズフォンX』と繋がらない。恐らく、落下した際に紛失してしまったのだろう。そうなるといよいよ安否がわからないという中、一見すると平然としているように見えるゲイツが、ウォズには理解できなかった。

 

 ウォズの疑問に、ゲイツは面倒くさいという顔を隠そうともせず、さりとてその質問を無碍にするつもりもないようで、腕を組みながら言葉を探した。

 

「……心配していないと言うと嘘にはなる」

 

 やがて出て来たのは、ゲイツとてウォズと同じ気持ちであるという言葉。しかしそこには、悲壮感といったものはない。

 

「だがお前だってわかっているだろう。あいつはこんなところでくたばるような奴じゃないってことくらい」

 

 『最低最悪の魔王』と呼ばれている未来の自分と相まみえても、それでも己の理想である『最高最善の魔王』を目指すことをやめようとしない、そこなしの馬鹿が作ろうとしている未来を見てみたい……そう思ったゲイツは、彼と共に肩を並べて戦うことを選んだ。

 

 だからこそゲイツは悲観しない。常盤ソウゴがこんなところで倒れるような男ではないということを信じているからだ。

 

「だから、お前も奴の家臣を名乗るのならばドンと構えておけ。そのうちひょっこり、アホ面引っ提げて俺たちのところに帰ってくるさ」

 

 言って、笑うゲイツ。心の底からソウゴを信じているが故の言葉。信頼の顕れとも取れる言葉を聞いたウォズは、最初こそ半ば驚きで硬直していたものの、やがてゲイツと同じように小さく笑った。

 

「……全く、最初は我が魔王を倒そうと躍起になっていた男が、随分と惚れ込んだものだ」

 

「誰が惚れ込むか! 気持ち悪いこと言うな!」

 

 小ばかにするように言われ、ムキになってゲイツは反論した。先ほどまでウォズから発せられた悲観のオーラは消え、いつも通りの冷静なウォズへと戻ったようだった。

 

「しかし、私も落ちたものだな。君に元気付けられるとは思ってもなかった」

 

「勘違いするな。いつまでもお前がそのままだと先に進めんからな」

 

「やれやれ……」

 

 相変わらず素直じゃない……そう思いながらも、ウォズは笑みを浮かべる。同時、当初はいがみ合っていた己とゲイツが、紆余曲折を経てこうして励まされる関係になったことに対しても悪い気はしなかった。

 

「さて、と……」

 

 落ち込むのはもうやめだ。今は主君の無事を信じ、できることをすると決心したウォズ。そして、

 

 

 

「では、そろそろ出て来てもらおうか?」

 

「そうだな。いい加減、俺も気になっていた頃だ」

 

 

 

 二人の雰囲気が変わる。どことなく穏やかなものから、引き締まったものへ。ゲイツはおもむろに足元に落ちていた小石を拾い上げ、一度軽く宙へ放ってから、野球選手をかくやとばかりのフォームで投げる。狙うは、ゲイツとウォズの視線の先、草むらの中。石は凄まじい速度を伴って飛んでいく。

 

 小石が草むらへ突っ込む寸前、そこから飛び出す白い影。草を散らし、木漏れ日を遮るかのように高く飛び上がった影は、真っ直ぐ、石を投げた張本人であるゲイツの下へ。

 

 殺気と共に飛び掛かって来た影に対し、二人は後ろへ飛び退く。するとゲイツが立っていた場所に、乾いた音をたてて切っ先鋭い槍が突き刺さった。

 

「貴様、何者だ」

 

 ゲイツは構え、警戒心を強くしつつ目の前の槍を手にした人物へ問う。思えば、タイムマジーンの前にいた時から獣以外の存在に見られている気がしてならなかった。それからずっと尾行され、いつまで経っても姿を現さないために業を煮やし、こうして出て来るように仕向けたのだが……現れた人物は、異様な風貌だった。

 

 白い服と、腰には紺色のスカートにも似た長い布を身に纏ったその者の体格は華奢で、体つきから女性、もとい少女であるというのはわかる。そして、頭部に生えた白く長い髪を靡かせ、ゆっくりと顔を上げていく。

 

 しかし、少女の顔がわからない。のっぺらぼうとかそういう類ではなく、目と口がぽっかり空いたような不気味な赤くて丸いお面を付けているために素顔がわからない。髪と思われた白い毛は、見たところどうやらお面の飾りのようだ。首元の牙にも似た飾りを揺らしつつ、少女は槍を構え直した。お面に隠れてはいるが、その向こうからゲイツとウォズを見つめる目からは隠そうともしない敵意を感じる。

 

「……答えるつもりはないようだな」

 

「友好的、とも言えないね」

 

 無言のまま一連の流れを行う少女に、ゲイツは戦闘態勢を解くことはなく、ウォズもまた構えらしい構えは取らなくとも、いつでも迎撃できるように警戒している。しばしの無言の後、まず動き出したのは少女からだった。

 

「っ!」

 

 一息で、槍を手に駆け出す。狙うは、一番手近にいたゲイツ。

 

「ふっ!」

 

 突き出された矛先を身体を逸らして避け、カウンターに掌底を放つ。が、それも避けられ、今度は蹴りを放たれる。今度は避け切れず、咄嗟に片腕でガード。少女を振り払い、後ろへ一度下がるも、少女は追いすがる。

 

「こいつ、早い……っ!」

 

 獣にも似た俊敏性を発揮する少女に、ゲイツが軽く戦慄する。その間も少女はゲイツの首を刈り取らんと、槍を薙いで迫る。殺気の籠った一撃、しかしそれもゲイツは屈んで回避し、先ほどのお返しとばかりに直蹴りを放った。強烈な一撃を、少女は槍を盾代わりにして防ぎ、衝撃を逃しきれずに思わず後退するも、それも一瞬、再び槍を構えようとした。

 

 だが、少女は忘れていた。

 

「そこ!」

 

 相手は二人だということを。

 

「っ!?」

 

 突如、己の身体の周りを布が取り囲み、少女は狼狽える。その隙をつき、布が少女の身体に纏わりつき、一瞬で身体の自由を奪い、拘束。槍も手元から離れて地面に落ち、そして少女自身も立っていられずに倒れ込んでしまった。

 

「――――っ!? ――――っ!!」

 

 獣の唸りにも似た声を上げながら、少女は困惑しつつも藻掻く。しかし布こと、ウォズの変幻自在のマフラーの前では無意味に等しく、びくともしない。

 

「やれやれ、まるで獣のようなお嬢さんだね」

 

ウォズは首元から伸びるマフラーで縛られた少女に、呆れ半分称賛半分といった風に声をかけた。ゲイツも蹴りを防いだ手を振りながら歩み寄る。

 

「何なんだこいつは? いきなり襲ってきて……」

 

「さてね。それも含めて、彼女には色々聞かなければいけないな」

 

 少女を拘束したのは、戦いを収めるというのも勿論ある。しかしゲイツたちにとって、初めて会う現地人。例え友好的ではないにしても、ようやくこの森から出る手がかりが掴めたのだ。ここで逃す手はない。

 

「とりあえず、君にはいくつか尋ねたいことがあるんだが……」

 

 拘束の手を緩めず、ウォズが言う。少しでも緩めれば噛みついてきそうな少女だ。油断だけはしないよう、さりとてこちらには敵意がないことを示しつつ、質問しようとした。

 

 だが、それは止められる。

 

「っ! ウォズ、下がれ!!」

 

 ゲイツによって。

 

「……!?」

 

 ゲイツが警鐘を鳴らしてすぐに、ウォズはその場から飛び退く。それにより、少女を拘束していたマフラーも解かれ、ウォズの下へ戻る。コンマ一秒、ウォズがいた場所をまたもや白い影が疾風が如く飛び掛かり、鋭い音をたてた。

 

 再び臨戦態勢に入る二人。しかし目の前の光景に思わず眉を上げる。

 

「……犬?」

 

 ウォズと少女の間に割って入るように襲い掛かって来た白い影の正体は、大きな白い犬、もとい山犬。しかしその大きさは、ゲイツとウォズが知るようなゴールデンレトリーバー等の大型犬よりも遥かに巨大な、大の大人一人を超える程の大きな犬。しかも、それが二匹。眼光鋭い目でゲイツとウォズを睨み、少女の前に進み出る。まるでそれは、少女を守る戦士のよう。

 

 牙を向き、姿勢を低くして唸る二匹の山犬。純白の美しい体毛を逆立て、ゲイツとウォズを完全に敵視している二匹の身体を、少女は慈しみを込めて優しく撫でる。

 

「どうやら、仲間がいたようだな」

 

 その光景で、少女と犬は密接な関係性にあると理解したゲイツは歯噛みする。今のウォズを狙った牙による一撃。ナイフよりも鋭い牙に貫かれれば最後、命の保証はない。獣といえども、あの俊敏性と凶暴性は脅威だ。

 

「一筋縄ではいかないようだ……どうする? ゲイツ君」

 

 言って、ウォズがゲイツをチラと見る。いかに二人が並の人間が束になっても退けられる程の実力者といえども、あの二匹を前にして生身で挑めば返り討ちにあうだろう。かと言って、相手も簡単に逃がしてはくれなさそうではある。

 

 形勢逆転とばかりに、少女が槍を再び持って矛先をゲイツとウォズへ向けた。いつでもお前たちの首など噛み千切れるのだとでも言うかのように。

 

 確かに、今の二人ではあの山犬相手に勝ち目は薄い。

 

「……不本意だが、仕方ないな」

 

 しかし、それは生身(・・)ではの話だ。

 

 ゲイツは、パールホワイトの時計型のデバイス、ソウゴと同じ『ジクウドライバー』を手に取る。それを見て、彼が何をしようとしているのか理解したウォズ。

 

「ああ、こればかりはしょうがないね」

 

 ウォズもまた、手にデバイスを持つ。それはジクウドライバーではなく、黒と蛍光色グリーンで彩られた装置。中央には液晶画面、そして右側にはレバーが付けられており、そこには何かを嵌め込む窪みがある。ウォズが変身するためのベルト『ビヨンドライバー』だ。

 

 二人は同時に、それぞれのドライバーを腰の前に当てる。するとベルトが装着者の体格を瞬時に把握し、ベルトが射出、自動で腰に巻かれた。

 

 突然、二人が何かを取り出して装着したことで、何をするつもりかわからない少女と山犬たちは、迂闊に動くことができずに見守る姿勢を取ってしまう。その間にも、ゲイツとウォズはそれぞれ変身の準備に取り掛かっていく。

 

「仕掛けてきたのはそちらだ。悪く思うな」

 

 言って、ゲイツは左腕のホルダーに収められていたライドウォッチを取り出し、ウェイクベゼルを回す。そして、ライドウォッチを起動させた。

 

 

 

≪GEIZ!!≫

 

 

 

「正直、動物を虐める趣味はないのだがね……」

 

 不服を言いつつ、ウォズも懐から取り出した、ソウゴとゲイツとはまた違う未来のライドウォッチである『ミライドウォッチ』を手にする。そして起動スイッチ『ミライドオンスターター』を押した。

 

 

 

≪WOZ!!≫

 

 

 

 それぞれのライドウォッチから鳴る音声。すかさずゲイツはジクウドライバーのD’9スロットへ、ウォズはビヨンドライバーの右側にあるレバーの窪み『マッピングスロット』へと、それぞれのライドウォッチを差し込む。

 

≪ACTION!!≫

 

 ウォズがライドウォッチの再び起動スイッチを押すと、ウォッチのカバーが両開きの形で開放され、認識音声の直後に中からウォズの変身後の顔が現れた。ゲイツもまた、ジクウドライバーのライドオンリューザーを拳で押し込み、メインユニットを傾ける。

 

 そこから始まる光景は、何も知らない者からすればこの世のものとは思えないだろう。

 

 両腕を突き出し、そして大きく円を描くように振ってからジクウドライバーを抱え込むようにして構えたゲイツの背後にデジタルウォッチ型のホログラムが回転しながら現れ、そして右腕をゆっくりと大きく一周させるウォズの背後には液晶画面が特徴のスマートウォッチ型のホログラムが現れ、ウォズの周りを幾何学的光が覆う。ゲイツからは焦燥感を煽るように時間が進むデジタル時計の音が、ウォズからは軽快な待機音が流れ出し、静かな森の中を二つの騒音が満たしていく。

 

 奇異としか言えない光景を前にし、少女と山犬たちは何もすることができない。そして、

 

「「変身!」」

 

 二人は、変身を始める。

 

≪RIDER TIME!!≫

 

 ゲイツがジクウドライバーを両手を使って回転、起動させ、電子音と共に背後のホログラムも連動して回転、中央に黄色く“ら”“い”“だ”“-”の大きな文字が紡がれていき、

 

≪投影! FUTURE TIME!!≫

 

 ウォズがウォッチが嵌め込まれた『クランクインハンドル』を右手を突き出す勢いで前方に向けると、ドライバーの中央の画面『ミライドスコープ』に投影されたウォズの変身後の顔が映し出されてウォッチの情報が読み取られ、背後の映像が切り替わり、映し出されたのは“ライダー”の青い文字。

 

 

 

≪仮面ライダー・ゲイツ!!≫

 

 

 

 ゲイツの周囲を腕時計のバンド状のリングが幾重にも重なり回転、ゲイツの身体にスーツを形成していく。そしてホログラムから飛び出してきた“らいだー”が縮小、ゲイツの顔に順次装着されていく。

 

 鋭角的な“らいだー”の文字が『インジケーションバタフライ』というゲイツの目となり、ゲイツは黒いデジタルウォッチをモチーフとした赤いスーツの戦士『仮面ライダーゲイツ』の姿へと変身を完了させる。

 

 

 

≪スゴイ! ジダイ! ミライ!! 仮面ライダーウォズ! ウォズ!!≫

 

 

 

 一方のウォズも、ハイテンションなベルトのサウンドボイスと共に背後のビジョンから“ライダー”の文字が飛び出すやいなや、緑の光を身に纏っていき、やがて光は銀色のスーツへ変わっていく。さらに彼の周囲に形成された頭部、肩部、胸部のアーマーが、ウォズのスーツへと一斉に装着、同時に縮小した文字も顔に嵌め込まれていった。

 

 青い“ライダー”の文字が円心状に並べられた独特の機構をした視覚装置『インジケーショントラックアイ』となった、銀のスーツと蛍光グリーンで縁取りされた黒いアーマーが光る未来の仮面のライダー『仮面ライダーウォズ』へと変身したウォズは、手首をスナップさせて臨戦態勢に入った。

 

「……っ!?」

 

 二人が仮面の戦士『仮面ライダー』へと変身を果たすという光景を前にし、少女は槍を手にし構えるも、その身とお面の下の顔は驚愕に震えている。それは、目の前の二人の人間が突然見たこともない姿へと変わるという現実を前にした者としては至極当然の反応とも言える。彼女を守護するように両脇で唸る猛獣もまた、今までにない事態を前にして攻めあぐねている様子だった。

 

「さぁ、かかってこい!」

 

「フッ」

 

 拳を握り構えるゲイツとウォズ。その身を守るために、二人は強靭にして凶暴な二匹の山犬と相対した。

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、タイムマジーンの修理をしていたツクヨミ。

 

「……これなら何とかなりそうね」

 

 修理道具片手に、額の汗を拭う。森の中は清涼な空気が流れ、やや高くなった体温を心地いい涼しさが下げていく。しばし休憩を挟むことにしたツクヨミは、タイムマジーンの横に座り、森の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

 

 木漏れ日を浴び、鳥の囀りを聞き、綺麗な空気に身を浸す……今のこの状況でなかったら、仲間たちと森林浴を楽しんでいたものだが。

 

「はぁ……ソウゴ、一体どこへ落ちたのかしら……」

 

 落ち着くと思い浮かぶのは、仲間であるソウゴの行方と安否。高い場所から落ちれば、ただではすまない。それをわかっているからこそ、ツクヨミはソウゴのことが心配で仕方がない。ウォズがソウゴの身を案じて落ち込むのも無理はないだろう。

 

 ソウゴの身を案じているばかりではない。今後どう動けばいいのか、そしてタイムジャッカーはどこへ行ったのか……何より、タイムジャッカーはこの時代で何を為そうとしているのか。問題は山積みだった。

 

「……そう言えば、ここって何時代なの?」

 

 ふと考えてみれば、ツクヨミは今が何時代なのかわかっていなかった。タイムジャッカーを追うことに夢中で時空転移システムが示される年代を確認するのを忘れていたし、今も修理することに必死で考えていなかった。タイムジャッカーの狙いを探るためにも、ここが“いつ”“どこ”なのかを把握しておかなければいけない。

 

 ツクヨミはシステムを一時的に起動するため、重い腰を上げる。そしてコックピットに入るためにタイムマジーンへと振り返った。

 

「……え?」

 

 振り返り……視線を感じ、動きが止まる。何者かが、ツクヨミを見ている。それだけならば、ツクヨミは武器を手に取り警戒態勢に入るだろう。

 

 だが今回は訳が違う。それというのも、視線が“一つ”ではなかったからだ。

 

 一つ、二つ、三つ……否、もっとだ。数えきれない視線を、ツクヨミは感じ取っていた。

 

 そして気付く。自分は『囲まれている』という事実に。

 

 いつの間に、と疑問に思う暇すら無い。こちらから動こうにも、動けない。相手が何を考えているのか。相手がどう動くのか……下手なことをすれば、視線の主たちに何をされるかわからない。多勢に無勢、状況は圧倒的不利だ。

 

 だが、相手から敵意らしい敵意は感じられない。どちらかと言えば、好奇と言った方がしっくりくるだろう。それでも相手が人であれ何であれ、動けないことには変わりはない。

 

 やがて、視線は頭上からも感じることに気付く。それは、タイムマジーンの方から……もとい、タイムマジーンの上からだ。何者かが、タイムマジーンの上に登り、ツクヨミを見下ろしている。

 

 ゆっくり、ツクヨミは顔を上げていく。視線の主が何なのかを知るため、恐る恐ると……そして、

 

「――――ッ!?」

 

 その顔を、驚愕で染め上げた。

 

 




仮面ライダーゼロワンが最終回に近づくにつれ、色々と驚愕な展開で次がどうなるのかさっぱりわからない作者です。もうアルトじゃーないとー! は見れないの……? という不安もありーの、次始める仮面ライダーセイバーに期待しーので、私大混乱。

そんなこんなで、第三話でした。初ジブリの二次創作、今後は原作沿いに行くつもりですが、いやー前途多難ですわーHAHAHA!!(至って真面目)

ではまた次回。シーユー。
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