summer pockets 【If Story】 〜もう一度だけ、あの眩しさを〜   作:白羽凪

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プロローグ

 夏のまぶしさを、俺はもう覚えていない。

 

 最後に夏休みを楽しいと思ったのは、いつの日だっただろう。

 大人になって、住む世界はだんだんと黒くなる。

 

 見たくないものまで見えた初めて。

 苦しい現実に心をやられて。

 

 そうして、大きくなった。

 

 

 大きくなって...俺は、もう自分が何者なのかを忘れてしまった。

 

 

 

---

 

 

 

 朝早く、家を出る。

 家に今年小学生になった娘を残したまま、行きたくもない会社へ向かう。

 

 思えば、俺は何のために働いているのだろうと、ときどき思う時がある。

 

 

「...はぁ」

 

 今年に入って、数えきれないほどついたため息をつく。

 

 

「...生きるって、なんだろうな」

 

 

 生きていることが楽しいと思っていたころは、もうとっくの昔。

 少なくとも、最愛の妻を失ってからは、そんなことを思えなくなった。

 

 

 ふと、俺は手元の指輪を見た。

 

 

 

「しろは...」

 

 

 このリングをつけている相手は、もうこの世にはいない。

 

 鳴瀬しろは。

 

 俺が愛した、最愛の女性は、娘であるうみの出産と同時に死んだ。

 そこからだ。

 

 この、地獄のような生活は。

 

 

 

 もちろん、うみを大切にしようと思って、行動してきた。

 

 それでも、島で生きることは、この上なく辛かった。

 うみのためを思うなら、島で生きていた方がよかったのかもしれない。

 

 

 けれど、島で過ごすたびに、誰かの歪みない優しさや、たどるたびに湧いてくる思い出が、たちまち俺を苦しめた。

 

 そうして、気が付けば俺はうみを連れて島を出ていた。

 ...逃げたのだ。

 

 

 そうして、街に越してからは、今のような生活の繰り返し。

 初めは頑張ってうみの世話をしていた気がするが、気が付けばもう完全にその手は離れていた。

 

 うみのためにと思って仕事を頑張れば頑張るほど、自分の置かれる境遇は高くなって、かかる負担は大きくなって。

 

 進むも地獄、戻るも地獄。

 

 

 そんな生活を生きてるうちに、俺は人としての心を失いつつあった。

 

 そうして、今日も会社に至る。

 

 

 

 

 

 

  

 ただ、日中において、少し楽になった点があると言えば、うみが小学生になったことくらいだろうか。

 つまり、うみからすれば今年の夏は小学一年生の初めての夏休みということになる。

 

 

 

 ...夏休み、か。

 

 きっと、楽しいものだったと思う。

 今はもう、夏休みの過ごし方なんてものはないが。

 

 

 それでも、うみの夏休みが楽しいものであってほしいとは願っている。

 願うだけで、どうせ何もできないだろうと、割り切りながら。

 

 

 

 

 最近になり、セミの鳴き声がちらほらと響きだした。

 そうして、告げられる。

 

 

 

 

 夏の始まり。

 

 




というわけで、時間軸はいつもの、羽未がループに入る前の話です。
羽未がちょうど小学生になったばかりなので、本編より5年前といったくらいですかね。

というわけで、こちらを開始させていただきます。
何卒よろしくお願いいたします
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