summer pockets 【If Story】 〜もう一度だけ、あの眩しさを〜   作:白羽凪

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残すところあと数話(デジャブ)
白羽イズムが光る作品を、ぜひご堪能ください。


第十話 踏み出す一歩の大きさは

「うみ!!」

 

 俺が声を掛けると、うみはゆっくりと、目をしっかりと開いた。

 

「...あ、おとーさん...」

 

「うみ! ...うみ!!」

 

 それ以上に何かを言うことも出来ず、俺はうみに抱き着いた。少し苦しそうにしながらも、うみは微笑んだ。

 

 

「...だいじょうぶだよ。おとーさん」

 

「うん...! うん...!!」

 

 どっちが子供か分からないくらいに、俺はうみに甘えた。

 もっと早く、こうすればよかった。

 

---

 

 それからしばらくして、俺はうみから体を放した。取り乱したように抱き着いたことに少し頬を赤らめつつ、俺は気持ちを切り替え、改めて面と向かってうみと話すことにした。

 

 

「...なあ、うみ。お父さん、決めたんだ。色々と」

 

「うん」

 

「その前に...うみに謝らないといけないなって思うんだ。...これまでの俺の事。ずっと一人にしてて...ごめんな...!」

 

「...うん。さみしかった」

 

 まだ幼さが抜けきっていないうみはその気持ちを率直に口にする。だからこそ、逃げることのできない罪に胸が痛んだ。

 

 それでも、俺は続ける。

 

 

「だからさ...お父さん、さっきも言ったけど、決めたんだ。...もう一人にしないって。ずっとうみの傍にいるって」

 

「...でも、どーやって?」

 

 

 どうやって。

 具体的な案はなかった。けれど、今一番やるべきことは決まっている。

 

 

 

「お父さんな、会社、辞めようと思うんだ」

 

「会社、やめるの?」

 

「ああ。今いるところから動いて、新しく始めてみようと思う。...今度は、いつでもうみのところへ駆けつけれるように。それって...どうかな?」

 

「...ん、いいと思う。...わたしも、そうしてほしい」

 

「そっか」

 

 

 うみは小さく頷いた。ありがたかった。

 

「それでさ...提案があるんだけど」

 

 

 そう言いかけたとき、病室の扉が開いた。

 先生かと思ったが...違う。

 

 

「直枝先生...」

 

「ご無沙汰しております。鷹原さん」

 

 うみのクラスの担任である直枝先生が、ゆっくりとした足取り、気まずそうな顔つきで病室へと入ってきた。 

 これまでやんわりとしていた部屋の雰囲気が、急速に冷えだす。

 

 俺自身、ああも言われていい印象はなかった。けれど、それを今、起きたうみがいるこの場所で口にしてはいけない。

 

 俺は機転を利かせて、先制した。

 

「先生。...ここでは何ですし、外で話しませんか?」

 

「え? あ、はい。...じゃ、うみちゃん、また後で」

 

 俺は直枝先生を連れて病室の外へ出た。そうしてそのまま話を進める。

 

 

「...ネグレクト、でしたっけ?」

 

「...そのことについて、本当に申し訳ないと思ってます」

 

 直枝先生は自分に非があると思ったのか、意外にも素直に頭を下げた。けれど、俺が欲しいのはそういう言葉ではないことを伝えるために手を横へ振った。

 

 

「違います。俺は責めたかったんじゃなくてただ...。...ただ、これからどうするか、伝えたかったんです」

 

「これから...ですか?」

 

「あの時の事、謝らないといけないのは俺の方なんです。ネグレクトをしたつもりこそなかったですけど、実際はそんな状態だったこと、今ならはっきりと言えるんです。...それほどまでに、俺は空回りしてました」

 

「でも、そんなこと知らないで口走ったのは僕です」

 

「だからこそ思うんですよ。...もっと早くから、先生に頼ることが出来ていれば...俺は変われたのかもしれません」

 

「鷹原さん...」

 

 神尾先生に悩みを打ち明けていた時のように。

 目の前の直枝先生に頼ることが出来たはず。

 

 たらればの結果論ではあるが、そう思わずにはいられなかった。

 

 その言葉を受けて、直枝先生はこれまでより一層強い輝きを持った瞳で答えた。

 

 

「...そうですか。ならもう、謝らないことにします。...それで、いいですよね?」

 

「はい。...その上でさっき言った話、これからどうするかを聞いてほしいんです。...というより、絶対に聞いてもらわないといけないと思うんで」

 

「絶対に...ですか?」

 

「はい。...俺は」

 

 

 

 

---

 

 

 

 俺の言葉を受けて、直枝先生は数秒絶句して、やがて少し低い声音で、残念そうに呟いた。

 

 

「決意は...変わりませんか?」

 

「はい。...こうすることが、俺にとって、うみにとって一番の選択だと思うんです」

 

「それは、うみちゃんに言いましたか?」

 

「これから、です。...ちゃんと穏やかな状態で話を聞いてもらって、それで拒否するようなら...また考えます」

 

「...分かりました。こっちも、それを念頭に動きます。...確認ですけど、本当にいいんですね?」

 

「はい」

 

 

 決意は堅かった。

 

 

「分かりました。...ああ、そうだ。それ抜きにして、うみちゃんと一対一で話をさせてもらっていいですか?」

 

「お願いします。うみも話したいことがあると思うので」

 

 

 この人はこの人なりにうみのことを思っている人間だと今ならわかる。だからこそ、俺はこの人のその行動を受け入れよう。

 

 

 

 直枝先生が病室に入り、俺だけが廊下に残る。

 むしろ、こうあることが今はありがたかった。

 

 この後うみに話さなければならないことは、勢い任せで言っていいものではない。

 それこそさっきの俺は感情に任せて全てを話していたようなものだから、この間が今はありがたく思えた。

 

 

「...どうやって伝えるかな」

 

 素直に提案を言うだけでもいいかもしれない。けれど、うみのためを思うのなら、うみの意見を尊重するのが一番である。

 

 

 そうして一人悩んでいる俺をよそに、直枝先生は小10分程度で病室より出てきた。その表情は先ほどまでの何かを憂う顔とは程遠いものだった。

 

 

「もう、いいんですか?」

 

「はい。怪我をする前より元気そうだったので、僕が言うことは何もなかったです」」

 

「そうですか」

 

「鷹原さん」

 

 直枝先生はその少し小さい手で俺の両手を取った。

 

 

「うみちゃんのこと、大切にしてあげてください。...ちょっとしか関わることが出来なかったですけど、それでも担任をしていた身分ですから、せめてこれだけは...」

 

「...分かってますよ。頑張ります」

 

「...なら、僕の出番はもうないですね。また何かあったら連絡ください」

 

 少しばかり張った表情を崩して、直枝先生は踵を返す。俺はその背中をただ見送った。

 まだ若く、頼りない先生なのだろう。...それでも、その真摯さだけは誰も勝てないだろうと、ふとそんなことを思いながら。

 

「...さてと」

 

 今度は俺の番。迷うことなくその病室の扉を開けた。

 

「おとーさん」

 

「悪いな、席外してて。...それで、先生はなんて言ったんだ?」

 

「はやく、元気になってねって」

 

「そうか」

 

 

 それ以上、言葉は出てこない。それどころか伝えたい言葉が混同をはじめ、思考がぐちゃぐちゃになり始めた。

 

 頭が真っ白になるとはよく言ったもので、俺は伝えようとしていた言葉を忘れていた。

 けれど、伝えたい思いだけははっきりと覚えている。

 

 

 カッコ悪くてもいい。でも今だけは、勇気を振り絞って...!

 

 

 震える口先で、俺は確かな思いを告げた。

 

 

 

 

「...なあ、うみ。島へ、戻らないか?」




といったところで、今回はここらへんで。

島、です。
本当の世界でこの選択が羽依里に出来ていたら、きっとsummer pocketsという物語は生まれなかったと思います。
この作品は、一種の否定ですね。

ですが、それなりの幸せというものが、この先に待ってるのではないでしょうか。

そう言った顛末も含めて、どうか最後までお付き合いください。

では、今回はここらへんで。
感想、評価等頂ければ幸いです。
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