summer pockets 【If Story】 〜もう一度だけ、あの眩しさを〜   作:白羽凪

12 / 14
こっちの街での実質的最終回です。



第十一話 島へ...

 

「島...?」

 

「そう。...鳥白島だよ。うみが生まれた島。...それで...お父さんとお母さんが...過ごしてた...島で......っ!」

 

 

 言った傍から涙がこぼれだす。気が付けば顔がぐちゃぐちゃになるまで泣いていた。

 前に島にいたころを思い出す度、懐かしさと辛さが胸を締め付ける。

 

 それでも、これまではそれから逃げるために思い出さないでいた。そう考えれば俺は少し前に進めたのかもしれない。

 

 それでも、寂しいものは寂しい。

 

(しろは...!!)

 

 声にならない声で叫ぶ。そんな俺を、うみはきょとんとした目で見ていた。

 うみは、次の言葉を待っていた。ならば、いつまでも泣いているわけには行けない。

 

 俺は無理やりに涙をぬぐって、提案をつづけた。

 

 

「あの場所なら...俺はもううみを見失わないから。...ずっと傍にいれる気がするんだ。だから...そういうの、どうかな。...もちろん、今の小学校が気に入ってるなら、無理に、とは言わないけど」

 

「...学校は、だいじょうぶ。...まだ、友だちいないから」

 

「...」

 

 

 何とも言えない。

 

 そこらへんはしろはに似たんだろうか。でも、人間関係が出来上がってないなら、それならそれでチャンスに思える。

 

 

「でも」

 

 うみはつぶらな瞳で俺を除いた。

 

 

「おとーさんは、いいの?」

 

「...え?」

 

「さっき、泣いてた」

 

「...ああ」

 

 

 言われて、数分前の自分の行動を思い出した。

 思い切り、泣いていた。今だって泣きそうだ。

 

 けど、結局はこういうことなんだと、同時に理解も出来た。

 泣きたくなるくらい悲しい思いをして、やっと向き合えるのだろう。だから、俺自身が悲しいのはもうどうでもいいことだった。

 

 

 それを、どうにかうみに伝える。

 

「悲しい...けどさ、決めたんだ。おとーさんは、もううみから離れないって。...だから、こんくらいへっちゃらだ」

 

「...うん、へっちゃら」

 

 うみは答えに満足したのか、ぐっと親指を立てて返事を返した。

 

「じゃ、うみが元気になったら引っ越しちゃうか」

 

「うん。...おとーさん」

 

「なんだ?」

 

「今日は...ここにいてくれる?」

 

 

 今の俺だからこそ言えたのであろう、うみのわがまま。

 俺は、ためらうことなく秒で頷いた。

 

「...もちろん。...ずっと一緒にいてやれなくて、ごめんな」

 

「...これから一緒なら、いいよ」

 

「ああ、約束する」

 

 

 言うなり、うみは疲れたのかまた目を閉じて間もなく眠ってしまった。

 今度は、穏やかな寝息。

 

 気が付けば、俺も安心して眠ってしまっていた...。

 

 

 

---

 

 

 

 それから、俺は次の日に会社退職届を出しに行った。

 けじめをつけなければいけないことからは逃れられない。何を言われるか怖くもなったが、うみのため、逃げるわけにはいかなかった。

 

 

 上司は、怒鳴りこそしなかったものの、さすがに苦い顔をした。

 

「...気持ちは堅い、か」

 

「はい。...こんな結果になってしまって、申し訳ございません」

 

「会社としては君がいなくなるのは痛手だが...。でも、これ以上君の人生を縛ってはいけないだろう。...娘さんはどうだ?」

 

「今は目を覚まして、検査もして異常はなかったので、退院は明後日くらいになりそうです。元気ですよ」

 

「そうか...。まあ、なんだ。少なくとも、君が元気になってよかったと思ってるよ。...これは受理する。...元気でな」

 

「...はい」

 

 一人知れず、俺は泣きそうになった。

 ただ仕事をしていただけのこの会社だったが、案外悪いものではなかったのかもしれない。

  

 それこそ、俺が意地張ってだれにも頼らなかったせいで周りが見えていなかっただけで、この会社はもっと良いものだったのかもしれない。

 

 

 ...けれど今はもう、それはどうでもいいか。

 

 

「これからどうするんだ?」

 

「妻の実家があった島へ戻ろうと思います。...あとは、そこから」

 

「そうか。...風邪ひくなよ」

 

「はい」

 

 俺は最後にすっきりとした笑みを上司に向けて、会社を後にしようとする。

 

 しかし、図ってか図らずか、会社の前にそいつはいた。

 

「やあ」

 

「春原...お前、仕事は?」

 

「お前の姿が見えたから、ちょっと抜け出してきただけさ。...それより、決めたんだね。決意」

 

「ああ。...俺は、ここをやめて、島に帰るよ」

 

「そっか、それが鷹原の答えなんだね」

 

 春原は表情筋を少しほぐして、うんと一度だけ頷いた。

 

「いいんじゃないかな。...こんなすがすがしい鷹原の顔、初めて見たし」

 

「そうか?」

 

「ずっとしかめっ面でさ、面白みのない顔して、人生苦しそうに生きて...。そんなやつがこう笑ってるんだ。止めることなんてないでしょ?」

 

「...まあ、そう、だな」

 

 俺が返信に困っていると、春原はぷっと笑い出した。

 

「なんだよ」

 

「別に? ちょっと、昔の友達に似てる気がしてさ」

 

「なんだそりゃ...。...っと、そろそろ行くわ。...本当にありがとうな」

 

 春原に対する感謝の言葉は、尽くしても尽くしきれない。だからこそ、俺はいつも別れるような態度で春原と別れることにする。

 

 そんな中、春原はただ俺の名前をもう一度呼んだ。

 

「鷹原!」

 

「なんだ」

 

「...うまくやれよな」

 

「ああ」

 

 

 春原はいつも通り、朗らかな顔で笑う。

 その笑顔に答えるように、俺は会社を後にした。

 

 

 

---

 

 

 あとは、これまでお世話になった人間に動向を伝えることにした。

 特別それをしたところで意味はないと分かっていたものの、なぜかそうしたい気持ちでいっぱいだったのだ。

 

 最後に、取引先であった天王寺夫妻の元へ電話をかける。

 家にいる二人なためか、すぐに電話はつながった。

 

「もしもし...、鷹原です」

 

「あぁ、先日の。...それで、今日はどうしたんです?」

 

「いえ、あれから色々と整理がついたんで、その報告を」

 

---

 

「会社、辞めたんですね」

 

「はい。...すいません、先日お邪魔したばっかりなのに」

 

「俺は問題ないですよ。力になれなかったのが少し悔しいですけど、結果オーライなら、オッケーっすよ」

 

「...いえ、力になりました。本当に、助かりました」

 

「そうですか。ならよかったです。...それじゃ、お元気で」

 

「はい。...本当に、ありがとうございました」

 

 電話はそこで切れる。

 一つ大きな息を吐いて、俺は天井を見上げた。

 

 

 

 ...これからどうなるか、なんて何も分からない。

 でも、これからどうしたいかだけははっきりとわかる。

 

 もう、間違えたくないから。

 

 

 

 

 

 

 ...さあ、島に戻ろう。

 俺は、数年ぶりにその電話番号を打ち込んだ。

 

 

 

「...もしもし、鏡子さん」

 

 

 




全ては次回に。
ここまで読んでいただきありがとうございます。願わくばどうか、最終回まで。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。