summer pockets 【If Story】 〜もう一度だけ、あの眩しさを〜   作:白羽凪

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傷ついた鳥が二羽、飛んでいた。
一羽はまだ小さく、けれど決して良くはない翼。
それを庇うように、もう一羽が包み込みながら空を行く。

そして、たどり着く世界は。
いつも、果てしない青の先の眩しさでいた。


第十二話(最終回) いつかの眩しさを、君へ

~数週間後~

 

 いつか乗り慣れていた白い船に乗り、俺はうみと島へ向かう。

 俺はうみの手を取ってデッキへと出ていた。

 

 揺れる視界の先に、だんだんとその景色が広がってくる。うみの生まれ故郷であり、俺がしろはと過ごした、鳥白島が。

 

 

「さしずめ俺は...」

 

「さしずめ...?」

 

「いや、何でもない。忘れてくれ」

 

 

 なんだろうと首をかしげるうみに、俺は手をぶんぶんと振った。

 自分が何かに似ていようとどうでもいい。俺はうみの父親。ただその事実だけは変わらないのだから。

 

 

「なあ、うみ。島の事、覚えているか?」

 

「...んーん、あんまり、覚えてないかも」

 

「じゃ、ついたらお父さんと一緒に回ろうか」

 

「うん!」

 

 これまで仕事に費やしていた時間をすべてうみとの時間に回したこともあってか、うみはこれまで以上に朗らかな顔で笑うようになった。

 

 決していい状況とは言えない今この現在も、その笑顔だけで俺は頑張れるようになっていた。

 

 

 アナウンスが鳴り渡り、そろそろ到着の合図を知らせる。

 

「...それじゃ、行こうか」

 

「うん」

 

 俺はうみの手を取って、鳥白島へと渡った。

 

 

---

 

 

 

 島は、変わっていなかった。

 港の形も、ほんの少し爽やかな潮風も、そこらかしこで鳴きあうセミの声も、個々の夏は、この島は、何も変わってなかった。

 

 だからこそ、はじめてここに渡った時の様にしろはいるのではないかと錯覚してしまう。

 もちろん、いるはずなどない。いたとしても、この島に眠っているだけ。

 

 だから、その現実をまずは受け入れることにする。

 

 

「...なあ、うみ。お父さん、家による前に行きたいところあるんだけど、ついてきてもらっていいかな?」

 

「うん」

 

 無邪気なうみの手を引いて、俺は喜びとは間反対の方角へ歩き出す。

 ほどなくして、俺は海の見える丘へとたどり着いた。

 

 そこには『鳴瀬家墓』と刻まれた石碑が一つ、ポツリと立っていた。

 そこは、しろはの墓。ここに、俺はしろはを待たせてしまっていた。

 

 

 果てしない後悔が、俺を取り巻く。分かってはいたものの、せざるを得ない後悔。

 

 この子は、うみは、俺としろはの子だ。だから、育てるのは俺としろはの使命。 

 でも俺は、そんなしろはを置いてこの島から出て行ってしまった。そのことが、今でも心残りになっている。帰ってきた、今でも。

 

 

 返事のない墓へ、俺は一方的に語り掛ける。

 

「...ただいま、しろは。...こんなに遅くなったけど、帰ってきたよ。...なんて、こんなに待たせちゃ、どすこいって言われるんだろうな。...いや、下手したら口もきいてもらえないか」

 

 はははと俺は自虐気味に乾いた笑いを飛ばす。笑わなければ、辛くてまた泣きそうだったから。

 もうここで、うみに涙を見せられない。俺は歯を食いしばって言葉をつづけた。

 

 

「うみさ、もう小学生になっちまったよ。...俺、ちゃんと父親出来てなくてさ。...見てたよな。あの無様な姿。...本当に、ダメになりそうだった」

 

 けれどたくさんの人に助けられて、ここにいる。

 

 

「けど、たくさんの人に出会った。助けてもらった。...ダメな俺だったけど、全部が無駄だったなんて思いたくはないかな。...けど、やっぱり俺はここじゃなきゃダメみたいなんだよ。...だから、戻ってきた。...俺にはやっぱり、お前が必要でさ。ずっと...見守ってほしくて...それも、近くで...」

 

 涙をこらえながら、とぎれとぎれになりながら、俺は最後までその言葉を告げる。

 言い終わった後に一粒涙が頬を流れるが、それだけ。

 

 俺はそれをさっさと払い、後ろで待っているうみのほうを振り返った。

 

「...ごめん、待たせたな」

 

「...んーん」

 

「そうか。じゃあ、行こうか」

 

 

---

 

 

 一時住んでいた家までたどり着く。

 しっかりと手入れされていたのだろう。最後にここを離れたときと、まるで変っていなかった。表札につけられた、鷹原という名前も。

 

 

~過去~

 

 

「もしもし、鏡子さん」

 

『羽依里君...久しぶりだね。調子はどう?』

 

 

 この人は全てを知っておきながら、あえて何も言わないでいることが分かった。俺はその厚意に感謝しつつ、単刀直入に欲望をぶつける。

 

 

「...お願いがあるんです」

 

『...うん、聞くよ?』

 

「...島に戻っても、またやり直しても、いいですかね?」

 

 

 すぐに帰ってきた返事は、イエスだった。

 

 

 

~現在~

 

 

 とはいえ、住み慣れたはずの家なのに、入るのをためらう。

 すると、耐えかねたのか、そうでないのか、うみが声を上げた。

 

「...行かないの?」

 

「行こうか」

 

 こうなれば、後ずさりは出来なかった。俺は、何度も開けてきたドアを開ける。

 

 

「ごめんくださーい!」

 

「はーい」

 

 奥の方から聞こえてくるその声は、全く変わらなかった。

 やがて、あの頃と同じ姿の鏡子さんが、奥から出てきた。

 

 それを目の前にして、俺は固まる。しかし、向こうはというといつも通り、穏やかな声音で俺に声を掛けた。

 

 

「...羽依里君」

 

「...はい」

 

「...えっと、お帰りなさい」

 

「...はい...!」

 

 

 俺は人知れず深くまで頭を下げた。口から感謝と懺悔の言葉がフルコースのようにあふれ出てくる。

 

 

「長い間...ご迷惑をおかけしました。...こんな俺ですが、もう一度チャンスをくれたこと、感謝してます...!」

 

「いいよいいよそんなの。それにほら、うみちゃんがいるんだし。...それに、大事なのは、これからでしょ? ...感謝してるなら、幸せになってほしいな。私はそれでいいから」

 

「絶対幸せになります。...うみと、一緒に」

 

「うん」

 

 

 懐かしい笑み。懐かしい香り。俺はようやく、俺がいた場所、本来俺とうみがいるべき場所に戻ったことを理解した。

 

 

 

---

 

 

 

 そうはいっても、俺にはまだやるべきことがあった。

 それをすべて終えるために、俺はうみを鏡子さんに預けて、倉庫に向かった。

 

 鏡子さん曰く

「かなり古くなっちゃったから、本当は捨てようかなって思ったんだけどね。天善君が言うにはまだ使えるそうだから、捨てるにももったいなくてねぇ...。だから、あるよ。カブ」

 

 らしいので、俺はそれに甘えることとした。

 キックスタートを試すと、元気よくエンジンが鳴った。

 

 

「...よし、頼むぞ」

 

 俺はカブにまたがると、颯爽と夏の鳥白島を駆けた。そのまま、まずは役所へ向かった。

 どんな顔をされても、帰ってきたことを伝えなければならないから。

 

 扉を開くと、見覚えのある顔で、『三谷』と胸に名札を付けた人が作業をしていた。数年前とは違って、もう水鉄砲を背中にかけていないが。

 

 一度深呼吸をして、俺は思い切り声を掛ける。

 

 

「のみき!」

 

「...鷹原か? 久しぶりだな」

 

 のみきは邪険にふるまうことなく、少しだけ驚いた顔をして、俺を出迎えた。

 

「あの...何を驚かれてるか分からないんだけど。...島に帰る連絡は、のみきにだけと鏡子さんに連絡してたんだけど」

 

「ああ、聞いてるぞ。もっとも、聞いた瞬間みんなに言いふらしてやったがな」

 

 のみきは得意げにエッヘンと鼻を鳴らす。

 

「えぇ...。まあいいけど、それはそうとなんで驚いたんだ?」

 

「いや...。思ったより、すがすがしい顔つきだったからな」

 

「あぁ...そういう」

 

「これまで何度か鷹原が島へ帰ってきているのは見かけたが、まるで死んだような顔しかしていなかったからな。それを考えると、今は昔の鷹原に戻ったというか...、うん。そんな感じだな」

 

「そうか。...悪いな。ずっとこんな感じで」

 

「分かったのならいい。...それに、帰ってきてくれたことは私も嬉しい。多分、みんなそうだ」

 

 

 のみきの言うことは間違いではないと思えた。心の底から、この島の暖かさが伝わる。

 

 ...ああ、帰ってきてよかった。気づけて、よかった。

 

 

「この後はどうするんだ?」

 

「とりあえず、みんなの元へ顔を出そうと思う。...まあ、正直小言の二つや三つ言われる覚悟だけどな」

 

「そうか。みっちり叩かれて来い」

 

 

 笑顔ののみきに見送られ、俺はまたバイクへまたがった。

 

 

 

---

 

 駄菓子屋の近くにバイクを止めて、俺は近辺をうろつく。ここに居れば、会える気がした

 そして、出会う。

 

 

「...羽依、里?」

 

「よっ、ただいま」

 

 

 光の反射でトンボ玉が輝く蒼に、俺は不器用に笑って返事をした。

 するとそれが気に食わなかったのか、それ以外か、蒼は顔を赤色に変えて声を上げた。

 

 

「...どの面下げて戻ってきた!!」

 

「...まあ、そうだよな。...なんせ、一度逃げた人間だもんな」

 

 

 蒼の怒りは、納得のいくものだった。

 それを鎮めようとは思わず、まず俺は素直に謝る。

 

 

「...本当に、すまないと思ってる」

 

「...それは私じゃなくて、しろはに言うことでしょ...! ...そういうからには、もう行ったのよね?」

 

「ああ。いの一番に会いに行った」

 

「...そ」

 

 不機嫌な様子のまま、蒼は口先だけで返事をした。

 

 

 

「...なんで戻ってきたの?」

 

「...全部、やり直すため。...うみとここで暮らしたいと思ったから、って言えばいいのかな」

 

「...嘘じゃないでしょうね?」

 

「嘘だと思ったら、俺を殺してくれ」

 

 俺は全てをうみにかける約束をした。覚悟とはそういうものだ。

 俺の覚悟を聞いて蒼は少し目を丸くして、やがて一つため息をついて、顔を上げた。

 

 

「...信じるわよ。ただし、もう二度とみんなを裏切らないこと。...みんな、心配してたんだから。あんたのこと」

 

 蒼は目じりに少し涙をためて、改めて俺に告げた。

 

 

「おかえり、羽依里」

 

「...ああ、ただいま」

 

「...かき氷、食べる?」

 

「ああ、そうする」

 

 

 それはいつかの懐かしい光景。

 そのいつかの日のように、俺はまたここでやり直せるだろうか?

 

 

---

 

 

 それからも、俺はあちこち回った。鳴瀬翁、良一、天善、前いた時お世話になったみんなのもとへ。

 

 鳴瀬翁は、ずいぶんとやつれていた。もはや俺に突っかかることもなく、ただ弱気に俺を見つめていた。その姿を見るだけで、俺は複雑な気持ちになってしまった。だからこそ、もう二度と間違えないと誓う。

 

 

 良一には、一発殴られた。その後、等価交換だと言って、強制的に殴らされた。互いの頬に一発殴られた後を作った状態で、お互いに笑い合った。

 

 天善には、卓球の試合に強制的に付き合わされた。ずっと運動をさぼってたせいか体は動かず、改めて喧嘩なんかより卓球が一番怖いことを思い知らされた。

 

 

 そうして、日は沈み、夜に変わる。

 俺は、うみを連れて、ある場所へ向かった。

 

 

 

---

 

 

 

「ここは?」

 

 足を冷たい海水で濡らしながら、うみはきょろきょろとあたりを見回す。

 俺は頭を撫でて、ただ「待ってろ」とだけ伝える。

 

 

 そうして、数分後。

 あたりの水面が一斉に光りだした。

 

 

「わぁ...!」

 

「綺麗だろ?」

 

 足元には、光を放つウミホタルがたくさんいた。

 ここは、しろはに教えてもらったポイントだった。

 

 とはいえ、ウミホタルは毎日、毎年光るわけではない。ただ今日は、光る気がした。それだけのことだった。

 

 それにこたえてくれたのか、ウミホタルは精一杯光る。俺たちを包み込むように。

 

 

 俺は、うみの小さな手をしっかりと握った。

 

 

「なぁ、うみ?」

 

「なぁに?」

 

「これからさ、どうなるか分からないけどさ。お父さん、頑張るから。...だから、どうか、振り向かないでほしいんだ。...ずっと一緒にいてほしい」

 

「...うん」

 

 うみはしっかりと頷いた。

 

 

 

 光る海辺。これからの未来はどうなるか分からないけども。

 俺はやり切る。うみのために生きて、そのために死ぬ。

 

 迷いながら、間違えながら、それでも進む。だから。

 

 だからどうか、この人生に幸せがありますように。

 

 

 

 

 頭上を一筋の流れ星が通り過ぎた。

 

 未来はまた、ここから...。

 

 

 

 

 

===

 

 

 

 

 島に来てから10年くらいが過ぎた。

 私が生まれたこの島。何も覚えていないところから始まった第二の人生。

 

 けれど、私はこの島が好きになっていた。

 高校に行くために島から離れるだけで恋しくなるほどに、この島が恋しい。

 

 

 私には、お母さんがいない。お父さんが言うには、私が生まれたときには亡くなっていたみたい。

 

 正直、私はずっとお母さんに会いたいと思っていた。お父さんは仕事でいなかったし、私はずっと一人だったから。

 

 けれど、ある日を境に会いたいとは思わなくなった。

 ...いや、そうさせてくれたのは、お父さん。

 

 たくさんの愛情をもらった。たくさん話をしてもらった。たくさんの時間を、私にくれた。最高に、まぶしい日々だった。

 

 

 もうすっかり老いて、やつれたようになったお父さんは、きっと私にたくさんのものをくれた。だから私はもう振り返ろうと思わなくなった。

 

 

 

 

「どうしたの? うみ?」

 

「...んーん、何でもない」

 

「そっか。...じゃ、行こ?」

 

 

 友達に手を引かれて船に乗り、今日もまた学校へ向かう。

 今のこの時間は、きっと当たり前じゃないのかもしれない。

 

 

 だからこそ、私は人知れず風に乗せて言葉を呟く。

 

 

「...ありがとう。お父さん」

 

 

 

 

 

 

 セミが鳴き続ける中、私は今日も、ここに夏を刻もう。

 どこまでもどこまでも、果てしない眩しさの中で。

 

 

 

 




完結です!

途中失踪ぎみ...誠に申し訳ございませんでした。
とはいえ、この作品を完成できたことは、私の誇りです。

summer pocketsの世界の完全否定。
しかし、これはこれで一つの幸福の形、私はそう思っています。

とはいえ、これは絶対に起こりえない世界。そう、IFです。
クロスオーバーも初挑戦でなかなかキャラ崩壊、グダッたりしましたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。

また、ハーメルンのどこかで会いましょう。
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