summer pockets 【If Story】 〜もう一度だけ、あの眩しさを〜   作:白羽凪

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意外とのろのろペースで進みそうなのでちゃっちゃと毎日投稿しちゃいましょう。


第二話 輝かない夏

~羽依里side~

 

 一駅二駅進んだところで春原が電車を降りる。

 ようやく一人になった俺はひたすらにイメージトレーニングを繰り返していた。

 

 相手と同じ目線で話すためのコツ。

 どうやったら相手を不機嫌にしないか。

 

 こういうのは、決まって自分が低く出ればたいてい何とでもなる。

 プライドというものが大幅に欠如している今の自分にとっては、きっと天職なのだろう。

 

 そんなどうでもいいことをただ念じていると、目的地の駅へと電車が止まった。

 その40分ほどの旅は、意外にも短く思えた。

 

 

 駅を降りると、瞬く間に炎天下にさらされた。

 街のはずれであるこの場所は、日陰になりそうなところもあまり見受けられない。

 

 そこからかしこでセミがうるさいほどに鳴き、遠くの方のアスファルトは陽炎を生み出している。

 

 夏である。

 

 まだ夏休みではないのが幸いだろうか。賑やかな子供の声は聞こえなかった。

 

 

 夏休み、少年時代、思い出...。

 今となっては、なにも思い出せない。

 

 昔、夏休みの過ごし方を忘れたと色々した高校の頃の自分は、きっとかわいかったのだろう。

 

 

 あの頃の俺から見た今の俺は、どんなに無様なんだろうな...。

 

 誰も得をしない自虐をして、しかしすぐさま気持ちを切り替え、マップに記入してあるしるしを頼りに目的地へと向かった。

 

 ほどなくして俺は住宅街につく。

 さすがにこれに俺は驚いた。

 

 相手の年齢は俺よりさほど変わりないと聞く。

 けれど、目の前に広がるのは高級とは言わないものの、立派な住宅街。

 

 まだ20代のうちにここに住んでいるとなると、その生活の実体が伺える。

 

 と同時に、むなしさを覚えるので、俺は深く考えないでおいた。

 

 

 目標の家にたどり着く。

 

 目の前の家はなかなかに立派だった。

 

 さすがガーデニング講師の家といったところだろうか。邪魔にならない、見栄えが良くなる程度に家に植物を走らせ、育ててあるハーブの香りだろうか、鼻腔をついた匂いはたちまち俺の気分を良くさせた。

 

 

 とりあえず、大事な資料を手元に持って、インターホンを鳴らす。

 たちまち、奥からどたどたと音が聞こえたかと思うと、内電話も通さずドアが開かれた。

 

 

「はい、天王寺ですけど...」

 

「すいません、天王寺さんのお宅の、ガーデニング用の植物の苗を取り扱っているところの鷹原と言いますけど...」

 

「あぁ、確かそんな話が...」

 

 

 すると、二階の奥の方からだろうか、声が聞こえてきた。

 

 

「瑚太朗くん、お客様リビングに上がってもらっててー、そろそろ降りるからー」

 

「...だそうで。講師は俺じゃないので、ちょっと待ってもらえますか? 客間、用意するんで少し待ってください」

 

「は、はぁ...」

 

 そうして、男の方は客間の準備をはじめに家に戻った。

 

 

 ...仲のよさそうな夫婦だ。

 

 今の一言二言で、それを知るには十分だった。

 おそらく新婚なのだろう。

 

 

 ...うらやむ以外の、何もできそうになかった。

 

 

 

 少しばかり外の暑さにさらされていると、もう一度玄関のドアが開いた。

 

「お待たせしました。さ、こちらへどうぞ」

 

「お邪魔します」

 

 

 どうにか愛想笑いを浮かべて、案内された客間へ向かう。

 そこには一仕事終えてきたのか、奥さんの方も椅子に座っていた。

 

 

「おはようございます」

 

「おはようございます」

 

 

 相手の奥さんがこちらを見るなり一礼。社交辞令として返さないわけにもいかず、俺も礼を返した。

 

 おはようございますを、家族にろくに言えない俺は、こうして成り上がってきた。

 

 

 自分も椅子に座り、相手の旦那のほうも椅子に座ったところで、改めて仕事についての話を始める。

 

 

「えっと...天王寺、瑚太朗さんと、小鳥さん」

 

「はい、そうですね」

 

「私、鷹原羽依里といいます。お願いします」

 

「はい、お願いします」

 

 

 ガーデニングについては小鳥さんの方がメインで担当しているためか、基本瑚太朗さんのほうは何も口出しをしなかった。

 

 

「鷹原さんが、うちの担当をするのは初めてですよね?」

 

「確か、前の担当が変わっちゃって...、はい、そうですね」

 

「要件の方はいつもと同じですか?」

 

「いつもの...ちょっと待ってくださいね」

 

 

 

 初めて対面する相手に、自分から空気を作り出すことはなかなかに難しかった。

 仕方なく俺は向こうの作る雰囲気に乗り、仕事を進めることにした。

 

 上司から渡された紙一覧を見てみる。

 中には、律儀に前者からの引継ぎの紙が用意されていた。

 

 それにちらりと目を通す。

 

 

 

 ...業務内容は、前回までの取り扱い商品の継続、並びに新種の紹介、買ってもらうことか...。

 

 

 さすがに俺は植物に関しての専門知識は持ち合わせてないため、リストを相手に提示するほかなかった。

 

 

「今まで弊社から買っていただいている苗や種の購入の継続の有無と、弊社の新種に需要があれば、といったところです」

 

「ああ、それなら買わせていただきます。結構、元気に育ってくれる植物たちなので。...え、新種!?」

 

 

 素で驚かれた。

 さらによく見ると、子供のように目を輝かせていた。

 

 

「こちらのリストなんですけど...」

 

 俺は手元にあったリストをそのまま小鳥さんへ手渡した。

 それを元気よく受け取るや否や、すぐに声を上げた。

 

 

「瑚太朗君! 瑚太朗君! すごいよ! まだ私が育てたことのない植物、いっぱいある!! え、買っちゃってもいいかな!?」

 

「...まあ、俺分かんないし。小鳥の判断に任せる。増えるならそういう風に付けておくから」

 

「いやぁ~、瑚太朗君は太っ腹だぁねぇ」

 

 

 愉悦に浸りながら、一人声を上げる小鳥さんにさすがに目を当ててられず、旦那である瑚太朗さんのほうへと視線をそらし、小声で確認した。

 

 

「...いつもこんな感じですか?」

 

「こんな感じです。...」

 

 

 そうこうしていると、小鳥さんの方も落ち着いたのか、少し冷めた声音で切り出した。

 

 

「というわけで、買わせて、いただき、ます!」

 

 

 あ、冷めてなかった。

 

 

「あ、ありがとうございます...。来月からでいいですよね?」

 

「そうしてください」

 

 興奮冷めやらぬ妻の代わりに、夫がそう答えた。

 

 

 商談成立。これでお仕事も終わりですかね。

 

 

 

 そう思って立ち上がる。

 仕事が終わると、一気に気持ちが冷めてしまった。

 

 当然だった。

 

 目の前の二人は、まさに仲睦まじい新婚ほやほやと言えるような二人で。

 それは、いつか自分がずっとこうあってほしいと望んでいた光景なのだから。

 

 その光景からは、目をそらしたかった。

 

 

 二度と手に入ることのない景色。愛する人と、ともに歩いて行ける、そんな景色。

 

 望んでしまうだけそれはむなしいから、一刻も早く立ち去りたかった。

 

 

 

 そんな感じでブルーになっていると、ふいに旦那である瑚太朗さんの方が俺を呼び止めた。

 

 

「あ、ちょっと待ってください」

 

「なんですか?」

 

 

 

 

「...なんで、泣いてるんですか?」

 

 

 

 




はい、というわけでクロスオーバーなコーナー。

・天王寺夫妻

こたこと√のアフターです。まあ、ガーデニングの時点でお察しですよねw
Rewriteネタを持ってくるにあたって、この√、もしくはちはや√からの派生が一番使えるんですよね。ただ、ちはや√は戦闘シーンが絡んでくるので、一番人間らしいこっちを使わせていただいております。

作者の好みです(ボソッ)

といったところで、今回はこの辺で。
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