summer pockets 【If Story】 〜もう一度だけ、あの眩しさを〜 作:白羽凪
~羽依里side~
電話を受け取るや否や、俺は会社に一報入れて、すぐに病院へと向かった。
車で出勤していないのが災いし、その道中はなかなか時間のかかるものとなった。
それでも、そんなことを考える暇なかった。
~過去~
「病院って...怪我ですか!?」
「はい...休憩時間の間に」
「箇所は!? 命に別状は!?」
「落ち着いてください! ...焦っても、どうにもならないんですから」
電話越しの言葉はもっともで、だからこそ苛立ちが募った。
たかが赤の他人であるお前に、俺のうみに対する想いなんてわかるものか。
そうした言葉を噛み殺し、改めて状況を確認する。
「...今、病院に運ばれてるんですか?」
「はい。市内の国立病院です」
「怪我したのはどこですか?」
「頭...です」
その一言で、さらに背筋に冷や汗が走った。
手足であれば、まだ後に残る問題が少なかったかもしれないが、頭はまさに最悪と言える箇所であった。
脳に影響が出ることも安易に想像できる。
「分かりました。すぐに向かいます」
「すいません、連絡が遅れてしまって...」
建設的な態度をとる先生に、なおも腹が立った。
俺はただ、心から叫び声を発する。
「そんなことはどうでもいい!」
そのまま勢いに任せて電話を切り、即座に走り出した。
~現在~
そうして病院にたどり着く。
俺が病室に入った時には、うみはしっかり寝息を立てて眠っていた。
頭に包帯が巻かれており、そこが怪我の箇所であるというのはすぐに分かった。
その痛々しい姿に、俺は目をそらしたくなった。
そんな中で、病室に担当医が入ってきた。
「鷹原さんのお父さんですか?」
「はい。...先生、うみは、大丈夫なんでしょうか?」
分かってていても、聞かずにはいられなかった。
手は震え、汗は止まらない。
俺は、確証が欲しかった。
また明日、ちゃんと会えるという可能性が続くことの。
先生はいたって落ち着いた様子で答えた。
「命に別状はないです。処置も完了していますし、後遺症もおそらく残りません。外傷もさほど深くなく、傷跡が残ることもないだろうと思われます。どちらかというと、意識を失った方が大きかったのでしょう」
「そうですか...」
その一言を聞いただけで、俺は安堵した。
よかった...。
もし、うみにも先立たれたら、俺はきっと...。
...もう、生きていけない。
しかし、全てがいいように動いたわけではないことも、先生は伝えた。
「ただ、いつ眠りが覚めるかは...分かりません。明日になるか、もう少し長くなるか...。こればかりは、医者にも手の施しようがありません」
「...そう、ですか...」
俺は、心の底でうごめいていた喜びの感情をすぐさま沈めた。
こんな状態で、喜ぶことは出来なかった。
「どのようにして怪我をしたのかは、本人の口、もしくは本人の動向を知る人から聞かない限りは検討のつきようがありません。医者にできるのは、目の前の命を救うことだけですから」
「...それでも、うみを救ってくれたこと、ありがとうございました」
俺は、沈んだ表情のまま、うわべだけでそう言った。
医者の尽力がなかったら、今こうして寝ているだけの状況すら危ういのも事実であって、だからこそ感謝をしないわけにはいかなかった。
「いえいえ、医者ですから」
先生はそうとだけ言って、病室から出ていった。
部屋には、俺と寝たままのうみだけが残っている。
ふと、窓から外を見た。
夕焼けに街が染まりだす午後5時。
こんな時間にうみと一緒にいれるのは、数少ない休日くらいのものだろうか。
それすら、俺は拒もうとしていることが増えている。
「...ははっ...。なんか、馬鹿みたいだな」
俺は誰もいない空間に向かって呟く。
「こうして働くだけ働いて、実の娘の危機に何もできないでさ、結局会社からもとんでもないくらい怒られるだろうし...。...なんだよ、何もうまくいかないって。...もう、嫌だ...!!」
悲しいくらいに自暴自棄になっていく自分がいた。
今なら、何をやってもうまくいかない気がする。
もう、何をやってもダメになる気がする。
進めば進むほど、その先は地獄。
生きる希望は...一体どこにあるんだろうか。
「...なぁ、うみ。俺さ、もう父親、やめたほうがいいのかな?」
「...」
「もう、しんどいんだよ...。多分、俺がお父さんじゃ、お前を幸せにできないんだよ。...俺は、お前を幸せにするために、生きてきたつもりなのにさ...」
あふれる言葉は止まらない。受け止める声はない。
いつからか、俺が生きているのは義務でしかなかった。
けれど、それはうまくいかなかった。
当然だろう。
もう、本心で誰かを幸せにしようとすることは、出来ていなかったのだから。
「情けねえよ...しろは...!!」
すがりたい相手は、とうにいない。
そうして悲観していると、病室の扉が開いた。
そこには、見慣れない若い男性が経っている。
けれど、俺はそれが誰かを理解するのに時間はかからなかった。
「あなたは...」
「うみちゃんのクラスの担任の、直枝です」
今回のクロスオーバー先紹介のコーナー。
・直枝 理樹
リトルバスターズの主人公ですね。小学校の先生というポジションを考えてみたら意外といけそうだったので採用しました。
といったあたりでしょうか。
特に追記事項はないです。
今回はこの辺で。