summer pockets 【If Story】 〜もう一度だけ、あの眩しさを〜   作:白羽凪

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随分と期間を開けてしまった...反省。
さて、頑張っていきましょう。


第六話 籠の中の逃避

~羽依里side~

 

 翌日会社に出勤すると、案の定上司が苦い顔をして詰め寄ってきた。

 けれど、それにもう何も覚えない。なんの感情もわかなかった。

 

 ただ俺は無表情のまま、機械のように答える。

 そうしていると、上司は先ほどまでとは打って変わって、少し青ざめ、怯えた声で俺の名前を呼んだ。

 

 

「鷹原...なんで、笑ってるんだ?」

 

「え?」

 

 気づかないうちに、頬の方のこわばりが緩んでいたらしい。

 けど、不思議なものだ。

 

 普通、笑ってるっていうなら、怒るところだろ?

 

 なんで、そんなに怯えてるんだ?

 

 

 俺は、自分がおかしくなっている感覚を完全に失っていた。

 だから、自分の表情の変貌に気づかない。

 

 いよいよ上司は困り果て、背中を向けて言葉だけを残していった。

 

 

「...とにかく、仕事に支障がないようにしてくれれば、それでいいから。...辛いなら、連絡くらいくれよ」

 

 

 最後の方になるにつれ声のトーンが下がったためか、俺はそれを聞き取ることは出来なかった。

 が、事の本質は理解できた。

 

 さあ、今日も仕事だ。

 

 

 

---

 

 

 

 さて、いよいよおかしかった。

 昼に休みが来るまで俺はデスクで働きっぱなしだったわけだが、誰からのコンタクトもなかった。

 普通、こんな日でも最低午前中に1、2回は誰かからの相談や、打ち合わせが来る。

 

 に対して、今日は0。入社以来初めてな気までする。

 

 それ以上に、周りの人の俺に対する目がどこか不気味に思えた。

 嫌って、遠ざけているわけでもない。

 謙遜して、グイグイ出られないわけでもない。

 

 なら、俺はどうして遠ざけられているんだろうか?

 

 

 しかし、それに怒りを覚えたり、不思議に思って誰かに声を掛けようかと思ったりするほど、俺はそれを大したことだとは思わなかった。

 

 そうして一人昼食に向かう。

 うちのビルには屋上がある。

 

 意外と風が気持ちよくて、それなのに来る人はほとんどいない。特等席状態になっているわけだ。

 

 そこを俺は目指す。

 

 屋上について道中買ったコンビニ弁当を広げて、さあ頂こうというところで、屋上のドアが開いた。

 

 そこには、春原が立っていた。

 

 

「...どうした?」

 

「昼飯。一緒に。いいだろ?」

 

「別にいいけどさぁ...」

 

 

 特別春原を拒む理由がない俺は、たちまち設けられた椅子の半分に寄った。

 春原は、俺の隣に座るなり、空を仰ぎながら話しだした。

 

 

「鷹原さぁ...なんで働いてるの?」

 

「この会社で、ってことか?」

 

「そうじゃない。...なんで、働いてるのって。何のために、働いてるの?」

 

「...はぁ?」

 

 

 春原の質問が唐突で、また、その意味が理解できなくて俺は思わず声を上げた。

 春原が空に向けていた視線を俺の目線の高さまで落とす。

 

 そこで初めて、俺は春原が笑っていないことに気づいた。

 

 

「...なんでってなぁ。そりゃあ、それが当たり前みたいなもんだし...」

 

「うみちゃん、は?」

 

 

 春原のその一言で、俺は忘れようとしていた全てを思い出した。

 昨日の会話、これまでの行動。

 

 考えれば考えるほど嫌で嫌で仕方がなくて、忘れたくて仕方がなかった全ての事。

 忘れかけていたのに、全て思い出した。

 

 思い出したくないのに、全て思い出した。

 

 

 頭痛がする。昨日言われたネグレクトという言葉が脳内をこだましているせいだろうか?

 吐き気がする。自分自身の責任に耐えれなくなった反動だろうか?

 

 

 苦しい。

 腹の底のほうからあらゆる負の感情が込みあがってくる。それは心臓から次第に俺の体をむしばんでいくように。

 

 息が上がる。うみのことを思い出す。また苦しくなって、頭痛が、吐き気が...

 

 

 

 

「鷹原!!?」

 

 春原が俺の異変に気付いたのか、すぐさま俺の背中をさすって安静を取り戻させた。どうやら俺は過呼吸になっていたみたいだった。

 

「はぁっ! ...はぁ...はぁ...」

 

「ごめん。急に変なこと言い出して」

 

「...」

 

 別にいいさ、とは言えなかった。

 一番掘り出されたくなかった過去を掘り出されて、冗談だったといわれた時に許せないのと同じ感情だ。

 

 気が付けば俺は、目の前の春原を睨んでいた。

 その視線になにか思うところがあったのか、春原は動揺の一切を顔から隠した。

 

 

「...けど、僕も何も考えずに言ったわけじゃあ、ないからね」

 

「...なんだと?」

 

 つまり、苦しめるだけ苦しめて、謝る気はないということだろうか?

 ...腹が立つ。

 

 殴り飛ばしてやりたい。

 

 

 怨嗟の声がこだまする。

 それに支配され、体が動き出しそうになった時、春原は俺の肩を両腕で持った。

 

 

 意表を突かれた俺は、動けないまま固まる。

 

「...前に、この場所で、僕は鷹原に娘のことを聞いた。...その時さ、お前、すっごく楽しそうに笑ってたの。聞いてるところ、あまり幸せそうな状況じゃなかったのにさ。心の底から、鷹原は笑ってた」

 

「...だったら、なんだよ」

 

「でもさ、今日の鷹原はおかしい。...一応、昨日うみちゃんが倒れたのは聞いた。のに、ヘラヘラ笑ってさ。おかしさに...誰も気づかないはずなんてない。...ねえ、お前さ、なにか言われたの?」

 

「...お前には、関係ない」

 

 

 そうだ。こいつは赤の他人だ。

 俺のことを話す道理なんて...

 

 

「あるね。今ここにいる時点で当事者だ」

 

「屁理屈」

 

「それでもいいさ。僕はさ、鷹原の力になりたいんだよ。だから今こうしてるわけ。...いい加減気づきなよ。...いつから、鷹原は一人になったの?」

 

「...やめろ」

 

「そんなに僕は頼りない? 僕のことが嫌い?」

 

「...やめろ!!」

 

「...ほんとは、分かってるんだろ。一人になんてなれないって。...一人で生きるのが、苦しいって」

 

 

 

「やめろおおお!!!」

 

 

 俺は、暴走する身体を止めることなく、春原に殴りかかった。

 

 

 

 




ここら辺がだれてるの1番悔しいです。
ここからどう修正するか。期待しておいて下さい。

といったところで今回はこの辺で。
感想、評価等いただければ僥倖です。
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