ミジンコの俺がラスボス級悪役お嬢様とベストエンドを迎える方法   作:草木 しょぼー

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冗談

「あれ? にぃに、あそこにいるのって……もしかして柏木先輩? いえ、星奈お姉さまじゃなくって?」

 

 デジャヴじゃない。一緒に登校する美亜のブラコン疑惑から始まる一連の展開。あくまでもシナリオに沿って話が進むため、俺たち脇役の行動も一定の範囲に収束されるのだろう。

 実際に再現される事で、改めてここがゲームの世界だと実感する。

 星奈との関係が学校で話題になるのは避けられない。今度は不名誉なレッテルを貼られないようにしないとな。さすがに、露出狂とか恥ずか死ぬ。

 

 

「あぁ、星奈だな」

 

「えっ?! 星奈? にぃにっ、星奈って……」

 

 美亜が驚いた猫のような顔をしている。

 

「ん? 星奈とは顔見知りだからな。良い機会だから美亜の事を紹介しておくよ」

 

「へっ、まままっ、にぃに!」

 

 美亜が腕を絡めて、なんとか俺を止めようとするのだが、結局これもこうなる訳か。星奈から見れば前回同様、腕を組んで仲良くイチャラブ登校してくる二人と映るのだろう。だが、それもわかっていれば、どうって事はない。

 

「おはようございます、光太」

 

 美亜を半ば引きずるようにして近付いた俺へと、星奈がちょうど今時分の春の陽射しを思わせる、暖かな声音で声を掛けてきた。

 

「おはよう、星奈。誤解しないでもらいたいんだが――」

 

「おはようございます、美亜さん。初めまして、ですね」

 

 あれ? 何だ? 何か……。

 

「お、おはようございます、柏木先輩。初めますてっ……妹の竹原 美亜です」

 

 美亜は急いで俺の腕を離すと、深々とお辞儀をした。残念ながら、今回も無事に噛んでしまって恥ずかし気に俯いている。

 

「ご一緒しても?」

 

 そんな美亜を微笑ましく眺めていた星奈が、視線を俺に向けて尋ねてきた。

 

「あぁ、もちろん」

 

 何でもない風を装って、三人連れだって坂を上がり始める。美亜と星奈に挟まれ、まさに両手に花。

 当然、周囲の生徒たちから少なくない視線を集めてしまっている。だが前回と違って、今回は羨望や嫉妬といった類のそれだ。多少の優越感を覚えてしまうのは大目に見てもらいたい。

 しかし、どうも引っかかる。ほぼ同じ流れを辿る予定調和の中にあって、星奈の反応だけが大きく異なっている。さっきのはあれは……。

 左隣の美亜を横目で窺うと、ちらちらと星奈に視線を送るも、何を話していいのか分からないといった様子で黙って歩いている。

 同様に、まるで俺の考え事を邪魔しないように、ただ付き添うように横を歩く星奈も無言だった。ただ、その優雅と形容される歩く姿が、なんとなく軽やかさを感じさせる。背中にかかる銀髪がいつもより楽し気に踊っているのを見るに、あながち気のせいというわけでもなさそうだ。

 

「星奈は、一人っ子だっけ?」

 

「そうです。出来れば美亜さんみたいな、可愛い妹が欲しいですね」

 

「わわわっ、私っ、可愛いですか?」

 

「えぇ、とても」

 

「なんだ美亜、俺がいつも可愛いって言ってるのに、本気にしていなかったのか?」

 

「もう、にぃに!」

 

 頬を上気させた美亜から上目遣いに贈られる抗議の目。ありがとうございます、ご褒美です。

 

「いつも言ってもらえるなんて羨ましいです」

 

 ……やっぱりおかしい。

 

「星奈なんて言われ慣れてるんじゃないのか?」

 

「光太からって所が重要なんです。羨ましいというか、この感情をより正確に言い表すとしたら――嫉妬、ですね」

 

「「へっ?!」」

 

 呆けた顔を二つ並べて、思わず立ち止まってしまう俺と美亜。嫉妬? つまりそれって……やきもちって事?

 星奈は何事も無かったかのように坂道を上がっていく。少し先で立ち止まった星奈が数瞬の間をおき、くるりと、スカートの裾を翻して振り返った。ふわりと舞った銀髪が陽射しに煌き、両手で鞄を抱き抱えた少女を彩る。坂の上に広がる、雲一つない青空と同じ――澄んだ瞳が俺をじっと見つめていた。

 気が付けば周囲の好奇の視線もざわめきも、俺の世界から星奈以外のものが消えていた。その瞳から目を離せないまま、ごくりと空唾を飲み込んだ。

 

「冗談ですよ? 冗談」

 

 そう言った星奈の瞳が半月を描く。鞄で口元を隠しているが、あの向こう側では悪戯っぽい微笑が浮かべられているに違いない。さっきみたいなのを【目を奪われる】と言うのだろう。

  

「で、ですよねー、びっくりしちゃいました」

 

 顔が火照ったのか、美亜が手で扇ぎながら、止めていた息を吐き出すように口を開く。止まっていた時間が動き出したかのように空気が弛緩した。

 

「光太? 顔が赤いですけど、どうかしましたか?」

 

「……別に」

 

「そうですか」

 

 もちろん俺だって、最初から本気になんかしていない。心臓がバクバクいってるのは只の不整脈だし、脇汗掻いたけど多汗症なだけだし。わかってたから。最初から冗談だって、わかってたから。これっぽっちもガッカリなんてしていない。

 胸中で繰り返されるのは誰に向けての弁解なのか、俺は再び坂道を上がり始めた。

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