ミジンコの俺がラスボス級悪役お嬢様とベストエンドを迎える方法   作:草木 しょぼー

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ダメガミッ!

 学校からの帰り道もずっと考え込んでいた。リアルも含めれば久しぶりに外出したこともあってか、ひどく疲れた気がする。重い体を引きずるように階段を上り部屋へと向かう。

 

「あれ? にぃに、帰ったの?」

 

「ん、あぁ、ただいま」

 

「どしたの? 大丈夫?」

 

「あぁ、ちょっと疲れただけだよ」

 

 階段を上がる途中で美弥に下から声をかけられたが、返事をするのもやっとだった。部屋に入って適当に鞄を投げ置く。

 黒原さん――【アマガミッ!】における本来のメインヒロインの名前は鍬原さん。黒髪ロングでくりっとした大きな瞳の美少女。成績優秀、運動神経抜群、面倒見が良く、スタイルも申し分ない。まさに非の打ち所がない完璧人間。

 その鍬原さんが、実は猫を被った裏表のある性格で。裏の顔を見せている時の鍬原さんに、実況動画内で付けられた呼び名、それこそが黒原さん。またの呼び名を腹黒さん。

 今日学校で見た、黒原さんの見た目は間違いなく鍬原さんそのもの。だけど名前は黒原――どういう事だ? ここは【アマガミッ!】の世界じゃないのか? 

 

 こんな時は……籠るか。プレイヤーキャラである主人公が、現実からの逃避先として作った簡易プラネタリウム。押し入れの内側に蛍光ペンで星を書き込んだだけの簡単なもの。それでも主人公にとっては、気持ちが落ち着く憩いの場所だ。

 押し入れに入り込んで襖を閉じ、真っ暗になったところで覆いをかけた豆球のスイッチを入れる。そのぼやっとした光が、真っ赤な文字で殴り書きされた般若心経を浮かび上がらせた。

 

 ――へっ?!

 

 血のように滴る様は妙にリアルで、見ている目から入り込んで脳内を縦横無尽に駆け巡る。仕舞いには聞こえないはずの読経が、俺の鼓膜を振るわせた。

 

「ぅわぁあああああ!!!!!!!!」

 

 驚きのあまり、襖を開け放った勢いで押し入れから転げ落ちる。その音に驚いた美弥が、階段を駆け上がってきた。

 

「なになになにっ? どしたのっ、にぃに。――!? ちょっとぉ、大丈夫っ?」

 

「あぁ、大丈夫だ。驚かせてごめんな」

 

 いててててっと、強《したた》かに打ち付けた腰を擦りながら、振り返った先にいた美弥を見て思わず首をかしげる。

 

「えーっと、どちら様?」

 

「はぁ? 何言ってるのっ、【美亜(みあ)】は美亜に決まってんじゃん。にぃに、頭でも打った? 病院に行った方がいいんじゃない?」

 

 茶髪のロングヘアーをお団子にし、やや目尻のつり上がった利発そうな印象を与える猫目。Tシャツにホットパンツ、どうみても今時のギャル系女子高生。そんな女の子が、半ば呆れた目を俺に向けていた。

 

「……美亜?」

 

「もう、にぃに、二年生になったんだからしっかりしてよねっ!」

 

 心配して駆けつけて損した、などと呟きながら美亜は部屋を出て行った。記憶にある主人公の妹キャラ、黒髪ショートの美弥とは似ても似つかない全くの別人。純真無垢な美弥とは、いっそ種族が違う感すらある。

 本当に、どういう事だ? 黒原さんといい、美亜といい、ついでに押し入れの般若心経といい、この世界は何か色々と間違っている。

 

 ――あっ!!!!!

 

 すっかり忘れていた。やはり、ゲーム世界への転移に浮かれすぎていたようだ。その存在を頭から完全に消してしまっていた。

 ネット掲示板で語られていた【アマガミッ!】にまつわる裏話。目にした時は馬鹿ばかしすぎて、面白くはあったけど流石にガセだろうと笑い飛ばした噂話。【アマガミッ!】愛をこじらせたファンが、個人で作り上げてネット上で配布したという伝説のクソゲー。そのタイトル名は【ダメガミッ!】

 

 部屋を飛び出して階段を駆け下り、家の外に出る。それと同時に振り返った、俺の視界に映りこむ竹原寿司の看板。美亜の兄貴で寿司屋の(せがれ)といえば主人公じゃない。その親友で世話好き、情報通のお助けキャラ。ついでに主人公と攻略対象の新密度まで把握しちゃってる、もしかして主人公の事が好きなの? 的なキャラ。そいつの名前が竹原 光太、つまりは今の俺だ。

 今度こそ間違いない、ここは――【ダメガミッ!】の世界だ。

 

『ちっ、チュートリアル終了でーす』

 

 正解を導き出した俺の頭に直接、聞き覚えのない、不貞腐れた女の声が響いた。

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