二度目の人生で、Vtuberになりました。   作:SANO

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 知人に原作を進められ、読了後の溢れた欲求を発散するためにプロットが未完成のまま見切り発車するという、やばい状態(ヤベェよヤベェよ


#デビュー前
プロローグ


 【30歳まで貞操を守り続けていた男は、魔法使いになる】

 

 

 ネットの中で無数に存在するネタの一つである。

 所詮はネタであるので、1ミリほどしか信じていなかった……うん、もう少しで「彼女いない歴=年齢」の俺が30歳になるからね、クモの糸ほどの淡い期待をしていた。

 

 とはいえ、億分の一でも高確率であろう魔法使いになれたとしても、少し他人と違うだけで排除される現代社会では、そこまで使い道がないような気がする。

 成人向け作品であればエロいことに使いそうだが、(悪人は除く)相手の尊厳や人権を奪う行いに嫌悪感が出てくる程度には倫理観はあるので、妄想段階でこれだから実際になら尚の事、使えないだろう。

 

 倫理観に邪魔されず、現代科学では実現不可能で、一度はやってみたいこと超常現象……あるじゃん。

 

 

 

 【逆行や転生】とかの生まれ変わりがあるじゃん!

 

 

 

 いいねぇ。だんだん妄想が滾ってきたぞぉ!

 そうだなぁ。生まれ変わるとしたら女性になるとか良いかもなぁ、男性の内面を理解できる女性とかモテそうじゃ……駄目だな。男と恋仲になるとか、想像しただけで鳥肌が立つわ。

 いや、だったら百合の花を咲かせればいいんじゃね?……内面ノンケで、外見百合……テンプレだが、これだな!決定。

 

 

 

【カチンッ】

 

 

 

 ……ん?なんか、変な音がしたような―――

 

 

「先輩。もうすぐ昼休憩が終わりますよ」

「……っと、もうそんな時間か。分かった直ぐ行く!」

 

 

 後輩の声に、さっきまで繰り広げていた妄想ワールドをバッサリと削除して、仮眠のために横になっていた体を起こしながら仕事用の思考へと変換してく。

 そうして、仕事モードへと切り替わった俺は自分が先ほどまでしていた妄想の事など頭からキレイに抜け落ち、数日後に30歳の誕生日を何事もなく迎えることになった。

 頭の中で響いた音が自分の人生を変えるモノであることも知らずに……

 

 

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「七海ー!朝ご飯ができたぞー!」

「はーい。今行く!」

 

 

 14年前の記憶を思い出しながら学校の準備をしていた俺に、リビングから父親が声をかけてくる。

 それに返事をしながら、心の中で拒否感が残りつつも着慣れてしまった制服のブレザーへ袖を通すと、全身が見れるウォールミラーで父親に苦言を言われない程度に身だしなみを整える。

 

 

 あっ、やば。少し髪の毛が跳ねてる。ご飯食べたら直しておかないとだな。

 

 

 なんてことを思いながら、手櫛で寝癖部分を梳かしつつ背中の中ほどまである黒髪を揺らしながら部屋を出た。

 

 

 

 

 

 どういう状況であるか、何となくであれ完璧であれ分かってくれただろうか?

 

 

 そう、俺はネット小説などで見かける「TS転生」というものを、現在進行形で経験しているのだ。

 ついでにオプションとして「逆行」がついているという、設定の大盤振る舞い……いや、俺の知っている歴史とかと若干の差異があるので、パラレルワールドだから「TS並行世界転生」となるのだろうか?……どうでもいいか、自分だけしか知りえない状況なのだから分かれば名称はなくてもいいのだしね。

 

 

 話を戻して、こうなる経緯を語るとしよう。

 

 

 成人男性であった前世は、30歳の誕生日を独りベットの中で迎えて「おめっとさん俺」と呟いた後に就寝したのが最後の記憶で、気づいたら透明な箱の中――後で保育器と知った――でたくさんの管に繋がれて寝かされている状態だった。

 

 自分が女の子として生まれ変わっている事実を把握し、理解できるまでには様々な騒動と黒歴史入りの出来事があったのだが、ここでは割愛する。

 いや、だって、赤ん坊故に理性だけでは抗えない生理現象などを、精神的には自分より年下の父親に世話されるとか……ああもう!今思い出しても死にたくなってくる!!!!

 とにかく!自分の現状を理解した(せざるを得なかった)のは、幼稚園に入園するぐらいだった。

 

 しかし、理解ができたからと言って現状に納得ができたかと言うと、とてもではないが一時は自殺を考えるほど受け入れがたいものであった。

 30年も男として生きてきた――愚息は二つあるうちの一つの役割しか果たせなかったが――記憶が残っている中で、これからは女として一生を過ごさなければならないのだ。

 

 たぶん欝状態か、それの一歩手前まで追い詰められていた3歳の女児なんて存在は、保育士達からすれば厄介な園児であったことだろう。

 

 

 外見と内面の不一致による精神的不安定さはもとより、正常であっても30歳のオッサンがママゴトや遊具で遊ぶなど出来ない。

 そうなると自然と周囲から浮いてしまうし、病弱だった故に保育士が近くにいることが多かったので、他の園児からすれば「気味悪い子が大人を独り占めしている」な感じにに見え、嫉妬心などから更に周囲から浮いてしまう。

 

 そうなると、この年代に限らずイジメが起きると思うだろうが、贔屓を加速させる側面をもちつつも保育士が俺の周辺へ目を光らせていたことと、俺には少し特異な能力があったために手を出されることはなかった。

 

 

 

 特異な能力。

 それは、声――言霊――である。

 

 

 

 当時は知らなかったのだが、俺は“ささやき声”とか“つぶやき声”と呼ばれるような園児らしくない声の出し方を無意識にしていたそうで、この声を聴いたある保育士曰く「言うことを聞いてあげたくなる」とのこと。

 

 最初は「え?こいつロリコンなのか?」と思ったのだが、他の保育士や突っかかてくる園児との言葉のやり取りをしていくと、どうやら俺の声は「鎮静や軽い強制力」があるらしいことが分かった。

 前世で魔法使い()になったことと関係あるのかなと思ったりしたが、調べる術もないし普通に便利なので、“言霊”と名付けて当時は鬱陶しい園児たちを追い払うために故意に使っていた。

 

 このような感じで、保育士という大人の防壁と特異な能力のおかげで、内心は暴風が吹き荒れつつも普通の幼稚園生活を送っていた。

 なに?ボッチ生活は普通とは言わない?

 

 おっ?やるか?言霊使えば、お前さんを社会的に「コロセ」るんだぞ?おおん?

 

 

 

 

 

 とまあ、卒園までATフィールド全開で他者との交流を拒絶した生活を送っていたために、皮肉にも現在の自分と向き合える時間を得ることができた。

 そして、小学生に入学するくらいの年齢になるころには、渋々であっても現実を認めるしかないと観念する形で折り合いをつけるべきだと考えるようになってきていた。

 いや、本当は自分の中にある良心が、殻に閉じこもって知らんぷりをし続けることができなくなったからだ。

 

 

 迫られた二者択一に、迷うことなく自身の命を使って娘を救い、産んだ母親。

 最愛の人を亡くしたというのに悲しむ暇もなく育児と家事と仕事という激務を続ける父親。

 

 

 二人の唯一の娘である俺が二人の気持ちを蔑ろにして、本当は分かっているのに分かりたくなくて自分の殻に引きこもって外の世界を拒絶し続けることは、俺にはできなかった。

 

 

 だから、小学校入学式。

 校長の長ったらしい挨拶を、右耳から左耳に聞き流しながら覚悟を決めた。

 

 

「二人の娘として生きよう」と……

 

 

 この後、前世時代から続くデバフ【人見知り】と、長年のATフィールド全開をし続けた結果として付与された軽度のデバフ【コミュ症】が、自分の覚悟を最高難易度にまで引き上げているという事実に愕然とすることになる。

 そこに追い打ちをかけるように【病弱】という特大デバフが、車による登下校、高頻度の早退や欠席、運動系イベント全ての見学または欠席という、親交を深める機会がことごとく奪われることになった。

 もちろん両親に対して、感謝はすれど恨むことはないが「もうゴールしてもいいよね?」と言いたくなるほどに環境が厳しい。

 

 

 その結末として、休み時間や放課後のすべての時間を図書室か借りてきた本を読んいる本の虫のような小学生女子が誕生した。

 前世の仕事柄、速読ができていたとはいえ、卒業するころには閲覧可能な蔵書を読破し終えて2週目に突入していたといえば、どれだけヤバい奴だったか分かってもらえるだろう。

 

 そんな本ばかりに集中をしていればクラスメイトとの関係は【友達未満、顔見知り以上】という微妙なものとなり、臨海学校や修学旅行などのイベント時の班分けなどは、裏でクラス内のカーストトップの男女数人が話し合いをして、どの班が俺を受け入れるかの相談をしていていたのを、俺は知っている。

 

 

 当然、こんな状況を甘んじて受け入れていたわけではない。

 

 

 クラスメイトから嫌われていたわけでないようで、少なくない頻度で話題を振ってくれる機会があり、【人見知り】と【コミュ症】のデバフがあるとはいえ、軽い会話程度ならできる……はずだったのだ。

 

 誤算としては、小学生女子が持つ話題に中身がオジサンである俺がついていけなかったことだ。

 

 小学生男子などが良く話題にする少年漫画や、ライダーモノ(なぜか戦隊モノが、この世界にはなかった)であれば、歴史の差異があっても自分も嗜んでいたものなのでついていけなくはない。

 しかし経験則として、この年代の男子は女子に話しかけるのは勇気のいるもので、下手に親しくしようものなら同性からからかわれてしまう。

 

 だから、女子から話題が振られることがほとんどなのだが、「〇〇の文房具が可愛かった」とか「アイドルの〇〇が格好いい」とか「〇〇の服がうんたらかんたら―――」と、自分から話題を発展させることのできない受け身しか取れない話題ばかりなのだ。

 図書室に入り浸っているから、オススメの本を尋ねられた時は会話を長く続けられることもあったが、話題全体からの割合としては1割あるかないかレベルで親交を深められるわけがない。

 

 

 こうして、幼稚園時代よりはマシとはいえ、小学生時代も大きなイベントもなく終わってしまった。

 

 

 ちなみにだが、学力のほうは2週目ということで歴史を学びなおしたり、教科書を読んで忘れていた記憶を掘り起こしたりするだけで学年上位をキープしていた。

 中身がオッサンで同年代からすれば、賢く立ち回ることができたので教師からの覚えも良く、成績は親贔屓があったとしても絶賛してくれる内容にできたので、この点では親孝行ができたかなとは思っている。

 

 え?学力が首位じゃないのかって?

 仲良しグループがない孤立気味な俺が学力首位をとり続けるとか、頭の良さを地盤としたグループとの間に火種を作ることになりかねない危険行為をするわけないだろう。

 というか前世の記憶を持っているせいで、パラレルワールドな今世との違いを矯正しきれなくて、普通に満点を逃してるところがあるので、手を抜かなくても首位にはなれなかったんだけどね。

 

 

 そして、中学校入学。

 中学生デビューを目論むも、小中高一貫校の学校なので外部入学で入ってきた少数を除いて、ほぼ同じメンツなのでグループ形成などは終わっているために計画段階でとん挫した。

 

 

 このまま中学高校と、小学生時代と同じ孤立気味な学生生活になるのかと、半ば達観し始めた中学2年生の春。

 一つの出来事をきっかけとして、俺の人生がガラリと変わることとなるのだった。

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