二度目の人生で、Vtuberになりました。   作:SANO

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プロットなしで見切り発車した弊害が……。
上手く二人の関係を想定通りに持って行けずに無理矢理収めた感が満載だし、それと歌コラボだけで凄い話数を使っているし……ヤバイ。


9:理解

「なんでこうなった?」

 

 

 大人たちが慌ただしく動く様を眺めつつ、俺はパイプ椅子に行儀良く座ったまま呟く。

 

 

 

 どうして今の状況になっているかというと、遡る……ほどでもない1時間前のことだ。

 

 今日は、橋本さんこと【水原カレン】との歌コラボをするために部屋で配信の準備をしていたのだが、そこに父が訪ねて来るなり

 

 

「すまない。コラボはスタジオでやってほしい」

「んんん?」

 

 

 それだけ言い残して、慌ただしく部屋を出る父。

 そして、入れ替わるようにしてやってきた芳子さんは、事前に聞いていたのだろう。

 意味が分からずにフリーズしている俺に出掛ける準備をするようにと促しながら、未だオシャレに無頓着な俺のために服や髪のセットを手伝ってくれる。

 

 用意された白のブラウスに、脹脛まである紺色のワンピースを身に着けつつ、寝癖のあった髪は芳子さんが慣れた手つきで梳かしていく。

 

 そうして、露出を嫌う俺の要望を叶えつつも芳子さん自身がOKを出せる程度な見た目に整えられた俺の姿を、慌ただしく準備を終えた父が一瞬だけ驚いた顔をするも、すぐに俺を引きずるように車に押し込むと、あとのことを芳子さんに頼みつつ車を会社へと走らせる。

 

 一息ついた車内で詳しい説明を父に乞うも、着いてから説明するからという理由で黙秘され何の成果も得られず。

 

 ならばと、会社に到着して「さあ説明を!」と意気込むも、「準備の指揮をしてほしいから」と父を社員に取られてしまい。

 何も聞けずに準備をしている部屋に案内された後は放置。

 途中で会った俺専属のマネージャーである桃瀬さんは、父と同じように忙しく動いているため話を聞けそうにもない。

 

 おそらく話しかけても大丈夫そうな会社の人はいるにはいるが、【人見知り】と【コミュ症】の俺には初対面の大人へと話しかけるなんてルナティックレベルの行動など出来るはずなく。

 静かに隅っこにあったパイプ椅子に座って、事の成り行きを見守ることしかできなかった。

 

 だが、数分後……

 

 

「おはようございます」

 

 

 そんな挨拶と共に救世主が現れた。

 俺は椅子から飛び降りるかのように離れると、小走りで救世主こと橋本さんへと駆け寄る。

 

 

「あ、あの!」

「っ……七海ちゃん、おはよう」

「?……おはようございます」

 

 

 なんか一瞬、顔が強張ったような?でも今は笑顔だし、気のせいか?

 

 

「今日の服。清楚で七海ちゃんに似合ってるよ」

「あ、ありがとうございます」

 

 

 コーディネートは芳子さんだが、こうして褒められるのは純粋に嬉しい。

 橋本さんも、明るいグレーのチュニックとレギンスパンツで、なんというか……大人っぽいです!

 女性の服装を褒めたことなんてないからバカっぽい感想しか出せず、必死に自分の語彙力をフル活用して……って、服装の褒め合いがしたいわけじゃない!

 

 気が急いて舌が少し空回りしつつも、ようやく現れた話せる知り合いを逃すまいと、彼女の服の端を掴みながら用件を伝える。

 

 

「あの、あの……これから何が始まるのか、聞いてますか?」

「え?連絡いってないの?」

 

 

 父から今回のコラボはスタジオでというのは聞いているが、歌コラボだけにしては準備されている規模が大きすぎるのだ。

 

 

「はい。えと、聞けるような、人、いなくて」

「あー……」

 

 

 橋本さんは、納得したかのような声を上げる。

 通話などでクラスメイトよりは交流しているし、昨日は一緒にカラオケに行ったりして、俺の人となりを分かってくれているのだろう。

 少し考える素振りをすると、

 

 

「……説明する前に、ちょっと移動しようか。準備の邪魔になるかもだし」

「あっはい」

 

 

 橋本さんは近くの人に、これから行く場所を伝えてから歩き出した。

 なんとなく、昨日のようなスキンシップをしてくるのではと身構えていた俺は、スタスタと歩き出した相手の姿に一瞬だけ茫然とし、そのあと自意識過剰だったと少し赤くなりながら前をいく彼女へ小走りでついていく。

 

 

********************

 

 

 

 小走りで付いてきてくれる七海ちゃんを見て、自分が緊張から歩くスピードが速かったことに気づき、慌てつつもゆっくりとスピードを落としていく。

 今日は休日ということもあって社内に人の姿はなく、誰にも会うことのないまま近くにある自動販売機が設置されている休憩室へと到着した。

 

 これからの事を考えるだけで喉がカラカラに渇き、二人分の水を購入して七海ちゃんにも半ば強引に受け取ってもらう。

 

 そして、3分の1ほど使い喉を潤した後に覚悟を決めて口を開いた。

 

 

「説明の前に、話したいことがあって……聞いてもらってもいいかな?」

「ぇ?……あっはい」

 

 

 私の真剣さを感じつつも、理由が分からないのだろう。

 七海ちゃんは、両手で持っているミネラルウォーターのボトルから凹む音を響かせながら、ぎこちなく私のお願いに頷いてくれる。

 

 

「カラオケの終了間際の事、覚えてる?」

 

 

 七海ちゃんは、どういう風に思い出したのか少し顔を赤くしながら再度頷く。

 それを見た私は可愛いと思うものの、カラオケの時に感じたような邪な感情が湧き出てくることはなかった。

 

 やっぱり、あの時はどうかしていたのだ。

 

 そんな確信を得つつも、行動した事実は間違いないことであると、姿勢を正して驚かせないように静かに頭を下げ

 

 

「嫌な思いをさせて、ごめんなさい」

 

 

 しっかりと謝罪の言葉を口にする。

 顔は見えないが、息を呑むのが何となくわかった。

 

 どのくらい時間が経ったのだろう。

 糾弾される覚悟で七海ちゃんの反応を待っていた私には、すごく長い時間に感じた沈黙の中、それを破るかのように取った彼女の行動に驚かされる。

 

 

「いえ、謝るのは私の方です。ヒドイ事をして、すみませんでした」

「ええ!?」

 

 

 私と同じように頭を下げて謝罪した意味が理解できず、声を荒げてしまう。

 記憶を掘り返しても、私は彼女からヒドイ事をされたことなんてないし、逆にしてしまったから謝っているというのに……。

 

 混乱する私を見て、躊躇いつつも七海ちゃんは理由を話し始める。

 

 

 曰く、自分の声は相手の感情を動かすことができる。と

 

 曰く、普段は出さないようにしていたが、歌う時には自分の意識に関係なく出てしまった。と

 

 曰く、そんな自分の歌声を近くで聞き続けた私は……ということ。

 

 

 漫画やアニメの世界じゃないのだから、そんなファンタジーのようなことなんてと思ったが、友達が「1なんとか」というのを卒論として出す際に話していた内容を思い出す。

 川のせせらぎを聞いて、リラックスするのは云々……。

 

 そうなると、初めて彼女の声を聴いた時に受けた衝撃も、それが理由となるのだろうか?

 

 

 話し終えた彼女を見ると、俯いているので表情は分からないが、手にしている水が小さく震えていた。

 説明された内容は人によっては不快感を覚えるだろうことは容易に想像できるし、彼女の性格から同期の中で一番交流が多いとはいえ、赤の他人である私に自分の素性を話すのは凄く覚悟がいることだったはずだ。

 

 私が嫌なことをしたより、自分がそうさせたことに罪悪感を覚える彼女を責めるなんて、私には到底できないし、する気なんて1ミリもない。

 だから、こういう時には……

 

 

********************

 

 

 

 橋本さんに手を引かれつつ、買ってもらったミネラルウォーターを燃えるように熱くなっている顔へ当てて冷やす。

 彼女曰く、もう泣いた後は見えないから大丈夫とのことなので、この熱がなくなれば普段の私に戻れるはずだ。

 

 だが、ついさっきまでいた休憩室での出来事をふいに思い出すたび、顔の熱が否応なく上昇してしまう。

 

 

 彼女の謝罪に、自身の能力によって襲われていたかもしれないという恐怖よりも、そんなことを強要させてしまった橋本さんへの罪悪感の方が勝った。

 思わず自分の方が悪いと謝罪して、引っ込みがつかなくなり父にも話したことのない自分の能力を、概要だけとはいえ話してしまった。

 

 

 頭のおかしい奴だと思っているんじゃないか?

 気味の悪いガキと思っているんじゃないか?

 

 

 説明をした後に恐怖で震えていると、ふわりとした感触に包みこまれ、自分が橋本さんに抱きしめられていることに気づく。

 そして、「ありがとう」と彼女からの一言で、俺の顔はヒドイことになった。

 

 幸いにも、涙で彼女の服を汚すことはなく。

 ぐしゃぐしゃになった俺の顔は、自分の行動を思い返し赤く染めてしまうこと以外は、彼女の持ち物から出てきた化粧品やらでほぼ元通りになって、会社の人に心配をかけずに済んだ。

 

 そして、少しだけの予定が結構な時間を使ってしまったので、スタジオに戻る道中で今日の説明を受けることとなり

 

 

「急遽、会社のスタジオでやる事になったのは、私のせいでもあるの」

「どういうことですか?」

「謝る機会が欲しくね……その、色々と理由を付けて……」

 

 

 アハハと力なく笑う橋本さんへ、思わずジト~とした視線を向けてしまう。

 そんな俺に気づいた彼女は慌てて弁明する。

 

 

「で、でもね。事務所側も“あの準備”の練習になるって快諾してくれたから!」

「だから、あんなに大がかりだったんですね」

「そう、そういうこと!」

 

 

 確かに準備されてたカメラの数も多かったし……いやまて、あの数のカメラが俺たちを映すべくレンズを向けて来るのか?

 

 

「……帰りたくなってきました」

「え?ちょっ!急にどうしたの!?」

「あんな数のカメラに、撮られる準備なんて……」

「だ、大丈夫だよ。撮ったのを見るのは今日いる5~6人の社員さんだけだし」

 

 

 いつの間にか、手を繋いでいるのが俺を連行するためという理由に変わって……後日、社員から「注射を嫌がりその場に踏ん張る犬を必死に連れて行こうとする飼い主」に見えたといわれる光景を生み出しながら、俺たちはスタジオへと到着したのだった。

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