「初コラボが無事に終わったことを祝して、乾杯」
「「「乾杯っ」」」
橋本さんが自身の音頭に併せて小さく掲げたグラスへ、桃瀬さん、橋本さんの専属マネージャーで井上さん、そして俺の三人は、自分の持っているグラスを橋本さんのへ当たらない程度に近づけながら声を上げた。
そして皆が祝杯を口を付けるのを見てから、自分もグラスを口へと運ぶ。
現在の俺達は、ちょっと高そうな焼き肉店の個室でテーブルを囲んでいる。
集まっている理由は橋本さんの音頭の通りで、俺のデバフ(人見知りと軽度のコミュ症)を知っているために面子の配慮をしてくれたようだ。
あとは、昨日の今日で二人きりになるのは拙いという思いが、対人スキルが貧弱な俺でもなんとなく察することができる。
ちなみに、俺を含めた全員はノンアルコールである。
女子中学生のいる前では、さすがに飲酒をするわけにはいかないのだろう。
前世では飲めず匂いだけで悪酔いするほどの弱さで、今世でもアルコール耐性の無さは引き継いでいるので、正直ありがたいことである。
ただ、こういう席でアルコールがないのはツライというのを聞いたことはあった。
俺に配慮しすぎて、そういう楽しい席を詰まらなくしてしまっているのなら、逆に飲んでもらった方がありがたいのだが……
「飲まなくても楽しいが?」
という意味の同形異音的なことを全員から言われたので、俺はそれ以上は何も言えなかった。
そんな事を思っている間に、店員によって運び込まれた肉や野菜がテーブルを埋め尽くしていき、鍋奉行ならぬ焼き肉奉行みたいになった井上さんがテキパキと鉄板の上で肉や野菜を焼いていく。
「七海ちゃん、お肉ばっかりじゃあ駄目だから野菜もいっぱい食べるんだよ」
「あっはい。野菜は好きなので」
「「「え?」」」
「……え?」
井上さんの言葉に同意しただけで、全員から驚いた顔を向けられるとか意味が分からんのだが?
「すごいねぇ。焼き肉に行ったら、私は肉しか食べないよ?」
「野菜嫌いじゃない中学生って、実在したのね」
いやいや、俺も嫌いな野菜はあるよ?
単純に、焼き肉の時によく出てくる野菜は食べられるだけだよ?
「いや、ニンジンたべられるだけ凄いわよ。私ニンジンだけは駄目だし」
「あ~、それ分かる~」
「え?人参って甘いし美味しくない?」
「「それはない」」
「嘘っ!?」
何故か嫌いな野菜で盛り上がりを見せる女性陣三人を見つつ、焼けた野菜を自分の皿へと移して、それを少量ずつタレにつけて食べていく。
見た目麗しい女性達が楽し気に会話する様をオカズに食べるメシは上手いなぁ……いま食べてるのはキャベツだけど……
「って、七海ちゃんがもう食べてるし!?」
「焦げちゃいそうだったので、お先です」
「あっ、本当だ」
「じゃあ、私もいただきます」
フライングした奴がいたものの、こうして“お疲れ会”という名の女子会が始まったのだが、開始30分ほどで俺が限界を迎えた。
場の空気にとかではなく、単純に胃の許容量がなくなった。
本来の中学生くらいの年代ならば成長期だとかでたくさん食べられるイメージがありそうだが、こちとら小学生に間違われる見た目通りの胃袋しか持ち合わせていないのだ。
もう何も口にできないってレベルの満腹度ではないので、肉などの重いものは避けてサラダや付け合わせ等で誤魔化してはいるが、それもいつまで続けられる手ではない。
ということで
「ちょっと……」
「ん?ああ、いってらっしゃい」
他の人はどうかは知らないが、トイレで少し体を軽くしてくる。
そうじゃなくても、ずっと座ったままだったので少し体を動かしておきたかったのもある。
だが、初めて来た店で促されるがままに個室へ入ったために、どこにトイレがあるとかの店内の構造が分からず、プチ迷子になってしまった。
下手に彷徨って来た道も引き返せないマジな迷子になる前に戻った方がいいかと思い始めた時、前から男性店員さんが歩いてくるのが見えた。
「あ、あのっ」
「ん?どうかした?」
探している場所が場所なので女性店員に聴くべきなのだろうが、内面的には同性になる男性店員の方が話しかけやすいので、そういったことは無視する。
店員の方も、俺の見た目から迷子であると察してくれたのだろう。
そして小さい子供相手の対応になれているのか、しゃがみこんで目線の高さを俺より少し低い所にすることにして、こういう時に下を向きがちな子供の目線と合うように対応している。
まあ、中身がオッサンなので普通に対応してくれても問題ないんだけど、逆にちょっとダメージを負うこともあるのだから……
「えと、ト――お手洗いに……」
「ぁ~……案内するね」
「お願いします」
前言撤回。
男相手でも、普通にトイレの場所を聞くのは顔が熱くなる程度に恥ずかしいわ。
いや、俺以上に顔を赤くしている店員のが伝播しただけであったと思いたい。
とはいえ、赤面しつつも仕事はキッチリとやってくれるようで、俺の速度に合わせつつ一番近くにあるト――化粧室まで連れてきてくれた。
さすがに入り口近くまでは恥ずかしいのか、少し手前で「あそこだよ」と案内を終了させたので店員にお礼をいって足早に移動する。
と
「あっ!」
「え?……キャッ」
店員の声に思わず振り返ってしまう。
瞬間。体が柔らかい何かに衝突し、反発から尻もちをつくように転倒してしまうだけでなく、頭から冷たい何か液体を被ってしまった。
後ろを見ると青い顔をして、小走りで近づいてくる男性店員。
前を見ると慌てた様子で俺の濡れてしまった部分へハンカチを当てながら、謝罪をするキレイ系の美人さん。
前方不注意の人同士の接触事故である。
「すぐにタオルを持ってきます」
「すみません。お願いします」
“ある”事でフリーズしてしまった俺の様子に、状況が理解できず放心してしまっている子供と判断されたのか。
目撃者である男性店員と被害者である美人さんは、加害者である俺を置いてテキパキと行動していく。
「大丈夫?痛い所はない?」
「ぁ……はい」
匂い的にレモン系の飲み物だったのだろう、美人さんは既に使っているハンカチとは別の予備のハンカチを取り出すと、二枚のハンカチで頭から被ってしまった俺の髪や顔を拭いてくれる。
そうしながらも、こちらを気づかうように優し気に話しかけてくれ、未だにフリーズから回復しきれない俺は、生返事しか返せない。
俺の状況を理解したのか「ちょっとゴメンね」と謝罪の言葉を口にしながら、俺を手を取って立ち上がらせると壁際まで俺を移動させると、先ほどの転倒でぶつけた可能性のある場所を触ったり、軽く服を捲って目視で確認しだした。
そこまでされてればフリーズから強制回復を果たして、相手へと声をかける。
混乱している思考のままで……
「ゆいママ!大丈夫だから」
「……え?」
「……あっ……」