二度目の人生で、Vtuberになりました。   作:SANO

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14:二次会

 尋ねてきた橋本さんへ事の経緯を話そうとしたのだが、ふと気づいてはいけないことに気づいた。

 

 ここに居るすべての人が、俺を注視しているということに……

 ここに居るすべての人が、俺の言葉に耳を傾けていることに……

 

 

「ぁっ……えと……その……ぅぁ」

 

 

 気づかないままであれば普通に話すことができたのだろうが、気づいてしまったからには意識せずにはいられない。

 

 皆が自分をどんな目で見ているのか、負の感情で見ていないのか、それを判断するために見ているのではないか……。

 

 そんな自分勝手に視線から重圧を感じて、息が上がっていく。

 

 こうなると、視線が気になって頭の中で話を纏めることができず時間だけが過ぎていき、それが焦りを生み出して何か話さなければという思いだけが先行して“うわ言”のような意味のない事ばかりが俺の口から漏れ出る。

 そして、そんな状況が俺の焦りをさらに強くしていくという。最悪な悪循環に陥ってしまった。

 

 しまいには、自分の意志とは関係なくポロポロと目から大粒の“汗”が溢れ出てしまう始末。

 

 

 この俺の豹変に、全員がそれぞれの理由で大慌ての状況へとなった。

 

 橋本さん達は、部屋を出るまでは普通だった俺の変わり様に、

 

 夏波結(仮)達は、俺へヒドイ事をしたのではないかという疑いを向けられるかもしれない事に

 

 男性店員は、修羅場のような場所に巻き込まれた事に

 

 

「あの、すみません。私の方から説明してもいいですか?」

「……失礼ですが、どなたですか?」

 

 

 疑惑を向けられる前に説明をしようと思ったのか、夏波結(仮)が橋本さんへと話しかける。

 俺の豹変で忘れていたのか、橋本さんは一瞬だけポカンとするものの直ぐに必死に零れる“汗”を止めようとしている俺を自身の腕の中へと収め、警戒した声をあげる。

 

 

「え……っと」

 

 

 素性を尋ねられた夏波結(仮)は、俺を守るよう抱きしめつつ警戒している橋本さん、スマホを片手に対応準備をしているマネージャー達、未だに止まらない“汗”に四苦八苦している俺へと順番に視線を向けた。

 そして小さく息を吐き出すと、諦めたかのような表情をしてから

 

 

「初めまして、【あるてま】所属の夏波結です」

「「「「「……え?」」」」」

 

 

 その場にいる俺と夏波結を除いた全員の声が、見事にシンクロした瞬間だった。

 

 

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「本当に、すみませんでした」

 

 

 暁湊さん――夏波結の中の人の名前――へ向かって、深々と土下座をする。

 物品での謝意は拒絶されたので、それ以外で俺ができる謝罪方法はこれしかない。

 本当は地面で行いたかったが、この個室は入ってすぐに座敷となるので床板の上となるのは了承いただきたいところである。

 

 

 こうして、一緒の個室にいるのには訳がある。

 

 

 暁さんが自身がライバーであることを明かした後、知り合いの背の高い綺麗な女性もライバーであり【リース=エル=リスリット】であると明かして、さらに周囲を驚かせた。

 そして彼女が、俺と暁さんの騒ぎ(?)へ駆けつける前に連絡していた二人のマネージャーも現れて、結構な大所帯となった前で暁さんが事の顛末を説明してくれたことで、無事に事態は収束することとなった。

 

 実害といえるものは、俺の髪からレモンの匂いがする事だけで、それも暁さんと橋本さんの二人が自身のバックから四次元ポケットなのかと思えるほどに色々な化粧品やらなんやらを取り出して対処してくれたので、さすがに無臭とまではいかなくても説明されなければ気づかない程度にまでのレベルになった。

 その際、美女に両脇から挟まれて髪の毛を弄られるという、拷問なのかご褒美なのか分からない時間を無心で耐え忍んでいた俺を他所に、二人は意気投合したようで俺と黒猫燦を話のタネとして和気藹々と話す仲になっているようだった。

 

 いや、ちょっと待て?

 俺と黒猫燦を話のタネにする?ということは、俺は彼女と同じ枠組みということか?

 いやいや、炎上系バーチャルミャーチューバ―と、俺が同列なの!?

 

 あっ、どっちも手のかかる子供ですか、すみません。

 

 

 

 

 ともあれ、俺の髪の手入れで席を外している間に、【サンステージ】と【あるてま】のマネージャーも何やら有意義な時間を過ごせていたようで、新しい個室をとるという手間をかけての他企業のバーチャルミャーチューバ―との意見交換会という名の食事会が開催することになっていた。

 周囲が賛成している中で、拒否することも、一人で先に帰るということも、コミュ症の俺にできるはずもなく。

 そもそも、そんな決定権は昔のオカルト雑誌で見たことのある【人間に捕まり両手を持たれぶら下がっているかのように連行される宇宙人】のように両脇の美女からガッチリと捕まっている俺には存在しなかった。

 

 連れられるままに、二人の真ん中に座らされた俺はチャンスとばかりに、上記のように土下座謝罪を繰り出したわけである。

 

 

 

 

「ちょっ、もう大丈夫だから、ちゃんと誠意は伝わってるから」

「でも、私が取り乱さなければ……」

「九条さんの事情は聴いてるし、結果的には秘密は守られたから大丈夫よ」

 

 

 確かに、俺が失言をしてしまった場所や、【サンステージ】が予約した個室には“Vtuberの関係者”しかいなかったから、一般の人には暁さんの正体を知られることはなかった。

 だからといって、俺の言動が許されるのは……

 

 

「それよりも、ほら床の上に直接は痛いでしょうに」

「ぁっ……」

 

 

 暁さんは、土下座の状態から動かない俺に向かって呆れたような声を上げつつ、膝立ちになると俺の脇を掴み軽々と持ち上げてしまう。

 そして、俺の隣にいた橋本さんがタイミングよく俺の下へ座布団を滑り込ませると、その上にポスンと下ろされてしまった。

 

 

「ありがとうございます。七海ちゃん、こういう時は凄く頑固になるので」

「いえ。うちのライバーにも似たような子がいるので」

「……もしかして、黒猫燦さん?」

「あ~、分かりますか?」

 

 

 俺の両隣で楽しそうに会話を始める、橋本さんと暁さん。

 土下座をこれ以上続けても、謝罪になるどころか世話を焼かせてしまい本末転倒となりそうなので渋々と座布団の上に座りなおすと、タイミングよく両脇から小皿や箸、グラス等などの食事セットが用意される。

 

 人によっては、お偉いさんになったようだと思うだろう。

 だが、これは絶対に違うと言い切れる。だって……

 

 

「七海ちゃん、甘い飲み物ばかりだと体に悪いから、最初は烏龍茶にしようね」

「九条さんは、野菜食べられるのよね。色々と食べられるように小さいのを焼いていきましょうか」

「ぇ、ぁ……はい」

 

 

 これ絶対に上手く食事ができないような、幼児とかに向けた世話焼きだよね!?

 

 外見的にはちんちくりんではあるが、これでも中学生なんだぞ!!JCだぞ!!

 それに、精神は男として30歳までの人生経験を積んでるから、精神的には二人より年上なんだが!?

 間違っても、幼児扱いしていい相手ではないと思うんですけど!!

 

 って言えたらコミュ症だとは言われないので、実際は小さく返事をするしかないけどね!

 あ~、タレの染み込んだシイタケうめぇ~……

 

 

 ちょっ、自分でできるから!

 前掛けまで人にされたら、本当に幼児扱いを肯定してるようになっちゃうから!!

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