私が彼女を知ったのは、初配信の時だった。
自分がVtuberになってから、企業所属の同業者の動向を確認したりしていたので、【サンステージ】の宣伝は自然と目に入って、時間があったので彼女の初配信をライブで見ることができた。
第一印象は、【黒猫燦】に似ている。
もちろん、あの子のように炎上したり事故ったりしない健全な配信なので、安心して見ていられる。
でも、話し方やアバターの動きから、何となく誰かが傍にいないと危険な目に自分からフラフラといってしまいそうな、危なっかしい雰囲気を感じ取れた。
それなので、現役高校生と自称しているが設定身長の低さも相まって、中の人はもっと若い……いや幼いのではないかと勘ぐってしまう。
あとは、声が凄く印象的だった。
彼女の声は自然と耳に馴染み、声がスッと頭の中へと入っていく感じが凄く心地よいのだ。
この声で子守唄とかを歌われたら、すぐに寝付いてしまいそうな気さえする。
だからなのか、彼女の配信を見ている視聴者達のテンションは少し高く感じるし、コメントの内容も過激なものがチラホラと目についた。
当然ながらデビュー前の準備中に、講義などでコメントへの対応策を教えてもらっていたようで、一律で過激なコメントにはスルーして触れることはなかったが、テンション高めなコメントの多さに驚いているようだった。
そんな彼女と初めて会ったのは、燦を十六夜さんとのトラブルを解決した後に連れて行った焼き肉店。
燦を連れて行った事をどこで聞いたのかリース……姫穣さんは、自分も行きたいと言いだして、何故か二日連続での焼き肉となった、その日。
互いの不注意から、私は【冬空ユキ】こと【九条七海】さんと出会うことになった。
九条七海という存在は、黒猫燦こと【黒音今宵】とは違った方向の美少女であった。
黒音今宵が、歩けば誰もが振り返る美少女だとするならば、九条七海は向かい合って初めて分かる美少女のよう。
あとは。
今宵は、人見知りな癖に見栄を張りたがるから、ついつい意地悪をして可愛い反応を見てしまいたくなる。言い方を選ばなければ、言動一つ一つが相手の加虐心を刺激してくるのだ。
七海さんは、今宵と同じ人見知りなのだが、配信時と変わらない声のせいか意地悪をしたくなるというよりか、ついつい面倒をみてあげたくなる保護欲を刺激してくる。
そんな二人の美少女から、何故か「まま」と認識されている私はどうすればいいのだろうか?
昔から、困っている人を放っておけない質だったとはいえ、片方は別企業の子であり身長などから怪しんでいたが、高校生どころか中学2年という今宵よりも年下で、本当に保護者が必要な子供だった。
とはいえ、年齢的に自分がそんな大きな子供を持てるわけがないのだが、七海さんは病弱だからなのか小学生に間違われるほどに全体的に小柄で、そんな子に「まま」と耳障りの良い声で呼ばれるのは、様々な意味で危険極まりない。
幸いにも、七海さんの保護者ポジに【水原カレン】こと【橋本咲】さんがいるようなので、大丈夫かと思ったのもつかの間。
気づけば七海さんの隣で咲さんと一緒に、あれこれと世話を焼いている自分がいた。
席を離そうにも移動できそうな場所はすでになく、時間ギリギリまで母親になったような気分で七海さんの世話を焼くことに……。
結局、姫穣さんが呼んだマネージャーがサンステージのマネージャーと何かしらの話し合いが終わったのと、取っていた席の時間が迫っていたことで急遽開かれた食事会は終わり、その中で私は【冬空ユキ】と【水原カレン】という別企業のVtuberと繋がりを得ることとなった。
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「こんユキ~」
配信が始まったので、マイクに向かっていつもの挨拶を口にする。
こんゆき~
久しぶり~
こんゆき~
こにゅき~
おひさ~
久しぶりというコメントがある通り、現在は歌コラボから1週間後である。
もう何となく予想がついているだろうが、その通り!寝込みました!!
幸いというかレッスンを組んでもらったことで身体機能が向上したのか、寝込むと一日は寝たきりになるのだが、今回は半日と少しで起き上がれる程度には回復することができた。
とはいえ翌日は学校が休みということで、安全をとってもう一日休んだので体調は無理なく回復しきれた。
なら、何で配信するのが遅くなっているのかと思うだろう。
もともと俺の病弱さは周知の事実なので、歌コラボ後は3~4日ほどは休むことは事前に決まっていたのだが、その間に学校で全国テストが始まったことにより休みが過ぎても配信を始めることができなかった。
そして、休みが明けても配信が行われないことで、俺の元には事情を知らない人たちから心配や謝罪などの連絡が人生で経験したことのないレベルで届いた。
橋本さんを含めた【サンステージ】の同期はもちろん、焼き肉店で偶然にも知り合えた【あるてま】所属の【夏波結】こと【暁湊】さん、【リース=エル=リスリット】こと【神代姫穣】さん、【我王神太刀】こと【富樫勇太】さんなどなど……。
え?【あるてま】で一人、会ってない人がいる?
いや、彼とは間違いなくあっているし、言葉も交わした。
だって我王神太刀とは、俺がトイレの場所を聞いた男性店員だったのだから……。
彼と同期の二人も凄く驚いていたので、バイトしていたことは秘密だったのだろう。
自己紹介後すぐに、仕事が途中だからという理由で挨拶もそこそこに退出していったのだが、あの時の個室に男性は彼一人だったのも早々に撤退した理由だったのは想像に難くない。
そんなわけで、今日が一週間ぶりの配信となる訳である。
「しばらく配信できなくて、ごめんなさい。学業に集中してたので、配信ができなかったんです」
そういえば、小中高で全国テストとかやってたな
ということは、本当に学生?
おっと?
おっと?
「私は女子高生ですが、何か?」
【言霊】に少しだけ喜怒哀楽の“怒”を含めた声で、彼らの疑問へと答えてあげる。
ヒェッ
ユキちゃんの怒った声、マジで肝が冷える
ワイの息子がないなった
ワイの心臓が鼓動しなくなった
成仏してくれ
おっと、少し驚かせすぎたかコメントが少し騒がしくなってしまった。
軽く咳払いをしつつ、声をいつも通りへと戻しつつ、話題を変えるべく声を上げる。
「日が随分と経ってしまいましたが……皆さん、この間の歌コラボはどうでしたか?」
控えめに言って最高
良かったよ!
またやってほしい
歌だけの切り抜きを毎日聞いてる
超楽しかった
「ぇ、ぁ、ぅ……よっ喜んで貰えて嬉しいです」
コメント欄を埋め尽くす賛美の言葉に、背中がムズムズする。
事前に好評だったと桃瀬さんから聞いていたし、こんな質問をすれば返答は予想出来ていたというのに、いざりユキ友やリスナーから生の感想をコメントで見せられると考えていた以上の衝撃が俺の中を駆け巡った。
やば、急に恥ずかしくなってきた。
おや?もしかして照れてる?
褒められ慣れてないと見た!
良し、お前等、もっと褒めろ!
「え?ちょっ、待って!」
可愛い!
歌声、キレイ!
よく頑張ったな!
最高だったぞ!
「やっ、ちょっ、恥ずかしいから!」
照れてる顔も可愛い
一生懸命に歌ってる姿に感動した
可愛いよ
くぁわいい~
ひゅー、美人だぜ
「ねぇ、ナニコレ!?新手のイジメ!?」
可愛かったよ!水原カレン✓
素晴らしい歌でした星月ツカサ✓
天使の歌声だったわ小春ヒメカ✓
最高の時間だった宇野シン✓
何度かイキかけたよ泉谷カオル✓
同期ww
図ったかのように同時ww
「同期まで!?」
こうして、俺の歌コラボ後の初配信は褒めコメントに悶える【冬空ユキ】を眺めるという意味不明なものへと変貌したのであった。