二度目の人生で、Vtuberになりました。   作:SANO

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1:ティンときた

「夕方から会議があってな。悪いが、今日は遅くなるかもしれん」

「んっ、分かった。芳子さんに伝えておくよ……あっ、これ美味しい」

「そうだろう?我ながら上手くいったと思ってるよ」

 

 

 朝の食卓を父と二人で囲みながら、今日の予定などを笑顔になりながら交わしてく。

 

 普通、中学2年生の女の子というと思春期真っ只中であり、父親を一方的に毛嫌いして「一緒の空間にいたくない」とか言ったりするらしいが……中身が元オッサンな俺には、全く無縁の話だ。

 

 そもそも家事代行サービスから芳子さんという家政婦さんを雇っているとはいえ、父子家庭なんて協力し合わないと生活はできない。

 幸いにも父が有名どころの会社でまぁまぁな役職に付いているので、金銭面は俺を附属の小中高一貫校へ入学させられるほどには裕福である。

 

 

 食事を終えると、父は出勤の準備をするために部屋へと向う。

 事前に準備を済ませている俺は、キッチンで専用の台に乗りながら食器を軽く水洗いをして汚れを落としてから、貯めた水の中へとつけていく。

 

 

 普通の女の子であれば朝は身嗜みの時間であり、朝食を抜かしたとしても大忙しになるのだろうが、俺はそこまで時間をかけなくても問題がない。

 理由としては、前世が男の感性が云々―――ということもあるのだが、【言霊】以外にも世の女性たちに殺意を抱かれるだろう【特異】持ちだからという点が大きい。

 

 

 それは、外見の現状維持に必要なケアを、何故かこの体は最低限だけで済むということだ。

 男親ということで心配した芳子さんから、ケア方法を教えられたのだが、それだって前世の男の時にしていた事に毛が生えた程度のことで、彼女からすれば「もっともっと必要なことがあるのだけれど……」と不満顔になる程度には初歩中の初歩。

 

 そんな女性視点では雑ケアをしているのに、背中の中ほどまであるストレートロングな黒髪は艶やかで、肌は少し色白だかシミ一つなく滑らかという最良の状態を維持できている。

 ただ、病弱だからなのか成長期のはずなのに身長がここ数年は140cm台前半から動くことがなく、華奢で体の線が細いことも合わさり「壊れそうで怖い」とか「小学生?」とか散々な評価を貰っている。

 

 

 胸?キャミソールで十分な程度ですが、何か?

 

 

 いいんだよ。デカいと動きずらいのは分かるし、未だに女性モノ関係は芳子さんが伴っていないと恥ずかしくて店に入ることすらできないんだから……。

 

 個人的には、胸より身長が伸び悩んでいるのが問題なのだ。

 女の子は小さいほうが―――なんて言う人もいるが、前世の男の時には180台とデカかったので、周囲から見下ろされたり、大きくなっていくのに自分は変わらないというのは精神的には結構キツい。

 

 クラスメイトの女子の中で一番長身な子に、中腰になってもらわないと目線が合わないと知った時なんて、自分の目からハイライト消えたと自覚できるほどにショックを受け、その顔がよほど怖かったのか「ヒッ」とか悲鳴をあげられてしまった。

 

 とにもかくにも、濡れた髪をそのままにするとか、暴飲暴食するとか自分から悪影響が大きいことをしなければ、俺は朝の準備を男の時より少し長い程度で済むということなのだ。

 

 だから、片づけが終われば部屋に戻り、鏡の前で軽く身嗜みの再チェックするだけで終わる。

 そうして、カバンなどの必要品を持って玄関前まで行けば、出勤準備を終えた父が車のカギを片手に待っている。

 

 

「忘れ物は?」

「大丈夫」

「それじゃあ、行くか」

「んっ」

 

 

 そして、父の車に乗り込むと学校へと向かう。

 これが家事の手伝いができるようになった小学校3年生から続く、平日朝の我が家の日常である。

 

 

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「―――おはようございます」

「あっ、おっおはようございます。九条さん」

「おっおはよう、九条さん!」

 

 

 教室に入ってすぐ近くにいたクラスメイト達へ軽くお辞儀をしながら挨拶をすると、彼女達が慌てた声で挨拶を返してくるので、それを今度は軽く頷くようなお辞儀で受け取ると、そそくさと自分の席である窓際で一番前の席へと移動する。

 

 もう慣れた反応だ。平均的な身長を持つクラスメイト達からすれば、俺のような普段の目線より下にいる小さな存在に気づくのに、一瞬程度だが遅れてしまうのである。

 

 

 

 ん?ああ、九条は今世での俺の苗字である。

 今更ではあるが「九条( くじょう) 七海( ななみ)」が今の俺のフルネームである。

 ちなみに、父は「九条( くじょう) 明人( あきひと)」で、母は「九条( くじょう) (りん)」という。

 

 

 

 そんな「九条さん」こと俺が、挨拶したことで止まっていた会話は再開され、少し興奮したのような楽し気な声が聞こえてくるのを振り向かずに耳だけで確認しつつ、自分の席に到着したあとは図書館から借りている本を取り出して、朝礼が始まるまで、近くの席のクラスメイトがしてくる挨拶を返す以外は読書で時間を潰す。

 

 出来るのであれば、誰かと会話でもして交友を深めたほうがいいのだろうが、エスカレーター式でグループが完成しきっているクラス内では、小学生の時以上の難易度となり、とてもではないが会話の輪に突撃する度胸も勇気もない。

 

 

 いつものように周囲の会話をBGMにしつつ本を読み進め、教師が来てからは学生の本分である勉学をこなしていくだけである。

 さすがに中学生レベルともなれば完全に忘れていることも多く、社会人になってから仕事と勉強の両立の難しさを知っているので、真面目に受けていることもあって小学生の時と同様に教師陣からの評判は良い……一部の女性教師からは少し違った意味での評判を受けていると風の噂を聞いたが、怖いので深く関わらないようにしている。

 

 ちなみに体育は、息切れするほどの運動などについてはドクターストップがかかっているが、それ以外ではあれば無理しない程度にという前置きで許可が出ているので、ほぼ参加できていることもあって小学生の時には赤点回避のために受けていた補習授業をせずに済んでいる。

 時折、授業中のスポーツに熱が入り、限界まで動いてしまったために途中でぶっ倒れて保健室へと運ばれることがあったが、ご愛嬌ということで許してほしい。

 

 

 授業も終わり放課後になると、芳子さんへ連絡を入れて時間まで図書館で時間を潰し、予定の時間より前に校門へと向かい待っていると、一台の車が送迎のプロが運転しているかのように静かで丁寧な動作で俺の前で停車する。

 運転席にいる人物を確認してから、助手席へと乗り込む

 

 

「芳子さん、いつもすみません」

「平気よ。可愛い七海ちゃんの為ですもの」

「あはは……」

 

 

 車で送迎なんてものは本来であれば家事代行サービス範囲外なのだが、芳子さんは色々と屁理屈などをこねくり回して、父や会社を説得して「休憩時間」の部分を利用して納得させたらしい。

 

 朝に父娘が協力しないと生活できないと言ったが、芳子さんという存在がなければ協力していたとしても九条家は早々に崩壊していたと断言できるだろう。ありがたや、ありがたや……

 

 

 俺がシートベルトをしたのを確認した芳子さんは、電気自動車でもないのに振動を感じさせないのに滑らかさで車を発進させると、家に向かう道とは反対方向へと走り出し、

 

 

「悪いけど、帰る前に少し寄り道をするわね」

「寄り道ですか?」

「七海ちゃんのお父さんがね。忘れ物しちゃったらしくて、それを届けなくっちゃなの」

「ええ~、お父さん何やってるのぉ……」

 

 

 後部座席を指し示す芳子さんに促されて、後ろを見ると封がされた分厚い封筒が二つも置いてあった。

 朝に俺へ忘れ物の確認をさせておいて、自分はこんなデカいものを忘れるとか何やってんるだよ。

 

 

「それでね。申し訳ないんだけれど、七海ちゃんが届けて欲しいの」

「え?私がですか?」

「本当は、会社の前まで取りに来てくれる予定だったの。でも手が離せなくなったらしくてね、中までって言われたんだけど……」

「……あ~、その恰好だと……」

「そうなのよ」

 

 

 横にいる芳子さんを見れば、動きやすさを重視したTシャツにジーンズ姿で腰にエプロンを付けて、座席下から“つっかけ”と呼ばれるワンベルトタイプのサンダルが、顔を覗かせている。

 エプロンは外せばいいとしても、都心にある会社へ行くには少し恥ずかしい恰好であると、俺でも分かった。

 

 

「それに、部外者の私より、娘の七海ちゃんのほうがいいだろうしね。行ったことあるんでしょう?」

「ええ、まあ」

 

 

 父の勤めている会社は前世である未来から見ても、育児関係については法整備されてまだ日が浅いというのに柔軟な対応をしているのだ。

 事業内託児所が設置してあり、そこは0歳から小学生までを受け入れているので、父は休憩時間ということで一時的に会社を抜けて学校へ俺を迎えに来て、終業時間まで預かってもらうという生活を芳子さんが来るまでの小学3年生まで続けていた。

 

 そういう事もあり、父の会社には顔見知りの人が結構いたりする。

 俺としても、背伸びしたがりな子供として思われていると分かっていながらも、中身と近い年齢である大人との会話は結構好きだった。

 

 芳子さんが来てからは毎日の利用はなくなったものの、彼女の家庭事情から休んだりした日などに利用していたりした。

 中学生になってからは年齢制限はもちろんだが、渋々ではあったものの俺が一人で家にいることに父が了承してくれたこともあって、めっきり来ることはなくなった。

 

 久しぶりに行って挨拶でもしておこうかな?

 さすがに娘であっても部外者なので仕事の邪魔をせず、寄り道をしないで道中で会えたなら挨拶を交わす程度に留めるつもりだが……。

 

 

「分かりました。私が届けに行きますね」

「ありがとう。助かるわ」

 

 

 なんて会話をしている父の会社に到着した。

 来社した人用の駐車場を芳子さんへ伝えてから、意外と重い封筒を両腕で抱えるように持って車を降りた俺は、数年ぶりとなる父の会社へ正面玄関から入っていった。

 

 

「あら?あなた、もしかして七海ちゃん!?」

 

 

 入って正面にある受付カウンターに座っていた二人の女性のうちの一人が、俺の事をすぐに気付いて驚いた声を上げた。

 ええと、確かこの人は……

 

 

「お久しぶりです。涼宮さん」

「本当に久しぶりね。今日はどうしたの?」

「父に直接、渡すものがありまして……」

 

 

 自分が抱えている封筒を少しだけ持ち上げて見せると、俺が来るとは知らなかっただけで連絡が届いていたのだろう。すぐにゲスト用の社員証を取り出して、渡す素振りを見せるが……

 

 

「首に掛けてあげるね」

「すみません。お願いします」

 

 

 首に掛けてくれた涼宮さんは、そのまま父のいる場所まで案内を買って出てくれたので厚意に甘えさせてもらう。

 ゲスト用の社員証を持っていても、自分の体格の小ささは理解しているので変な勘違いは、未然に防いでおくに限る。

 

 自分の記憶にある場所とは変わっておらず、小学生時代に来慣れたフロアへと案内されると、何人かテーブルを囲んで何事か話し合いをしている父が見えた。

 これは少し待っていたほうがいいのかなと思う間もなく、俺と涼宮さんの姿を見つけた父は、物凄い驚いた表情で可能な限りの速足でこちらへ向かってくる。

 

 

「七海!どうして……って、届けに来てくれたのか?」

「うん。芳子さんより、私のほうがいいと思って」

「すまない。本当に助かったよ」

「次から注意してね」

 

 

 俺の腕の中にある封筒を片手で軽く受け取る父の姿に、自身との筋力差に内心で小さく落ち込みつつ二三言葉を交わしていると、先ほどまで父と話し合いをしていた何人かが俺を見ながら、小声で何事か話しているのが目端に映った。

 こちらを見る視線には悪い感じがしないものの、話し合いを中断してしまったのだし変に長居をしたらマズそうだ。

 すぐに退散しようと父へ帰る旨を伝えようとする前に、小声で話し合っていたうちの人が、俺を見つつも遠慮がちに父へと話しかけてきた。

 

 

「あの、九条さん。その子、九条さんの娘さんですよね?」

「ん?ああ、ちょっと忘れ物を持ってきてもらったんだよ」

「初めまして。七海です」

 

 

 とりあえず、第一印象を悪くしないように会釈しつつ、微笑みながら自己紹介する。

 【言霊】のおかげで大抵の人は、こちらに対して悪印象を抱くことはないのだが、今回は変な作用をしてしまったようで……

 

 

「九条さん!!残りの一人は娘さんにしましょうよ!!」

「ハァ!?お前、何を言っ―――」

「七海さんだっけ?君、Vtuberに興味はないかい!?」

「……はい?」

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