二度目の人生で、Vtuberになりました。   作:SANO

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3:デビュー直前

 約束の18時になる15分前。

 ここ最近になって聞くようになったRAINの通知音が聞こえたので内容を確認してみると、グループ通話する部屋のURLと入室用パスがマネージャーから届いていた。

 

 緊張からか、少し手間取りつつもパスワードを打ち込み入室すると、なぜか“罪袋”ならぬ“V袋”のアイコンにしている佐々木さんと、自キャラの顔をアイコンにしている同期の5人が既に入室していて俺を待っている状態だった。

 

 少し手間取っていたとはいえ、連絡が届いてから入室するまでの時間は短かったはずなのだが、みんな早すぎじゃないかな?

 一応「失礼します」と無難な挨拶をした後、緊張でカラカラな喉をストローを刺したミネラルウォーターで潤していると、

 

 

『時間前だけど、みんな揃っているようだし親睦会を始めたいけど、問題ないかな?』

「大丈夫です」

『問題ないです』

『私も大丈夫です』

『始めましょう!』

『ありません』

『あっ、だっ大丈夫、です』

 

 

 今回の進行役の佐々木さんの提案に皆がそれぞれの言葉で了承したことで、予定時間前であるが俺にとって初声合わせとなる同期との親睦会が始まった。

 

 

『まずは、ギリギリになってしまったけど6人目のVtuberが決まったので、彼女から自己紹介をお願いしようかな』

「みっ皆さん初めまして、【冬空ユキ】役の九条七海です。よろしくお願いします。」

 

 

 少し詰まってしまったが、通話越しでも効果があるか実証実験をしていないとはいえ、【言霊】も載せているので受ける印象は悪くないと思う。

 

 

『よろしく!すごい良い声だね!!』

『よろしく~!』

『ヨロヨロ~』

『よろしくお願いします』

『よろしくです』

 

 

 俺の挨拶に一斉に返事が返ってくるので声が混ざってしまい、聖徳太子ではないので誰が何を言ったのか上手く聞き取れなかった。

 というか、聞き取れても誰が誰の声なのか分からない。

 

 そもそも6人目は俺がタイミングよく現れなければ欠番のままであり、5人でデビューする予定であったために5人の交流は既に行われていた。

 リアルで会うという顔合わせも済ませているそうで、佐々木さん経由の話ではメンバーの仲は良好であるとのこと。

 

 そう。既に出来上がっているグループへ参加しないといけないという、現状の中学生生活と同じ状況なのだ。

 今回の親睦会も既存メンバーの5人と新規メンバーの俺の交流会でもある。

 

 

 あっやばい。改めて現状を認識したら、少し胃がキリキリと痛み出してきた。

 というか、佐々木さん!早く次に進めてくれ!

 楽し気に会話する輪に入れないで、ポツンと聞いているだけの状況は色々とキツイ!!

 

 

 そんな俺の願いを聞き取ってくれたのか、佐々木さんは俺の挨拶だけで何故か盛り上がり始めた面々を宥めつつ自己紹介をするように誘導してくれる。

 さすがプロジェクトリーダー(?)だ。

 

 俺は、既に起動させていたメモ帳をアクティブにし、キーボードに手を添えて準備を整える。

 

 前世の社会人の時の話。

 営業ではなかったとはいえ他社の人間と会うことが間々あり、その際に相手と交換した名刺を視界の端に映るように置いて、名前や役職を間違えないようにしたり、帰った後は裏面などに印象とか外見的特徴などを書いていた。

 

 同期となる“ガワ”のVtuberは覚えられたが、中の人の名前はもちろん声も俺は知らないのだ。

 マネージャーからオフコラボの企画が既に検討されている。という情報を得ているので、早めに覚えておくに越したことはない。

 

 

『じゃあ私から、初めまして―――』

 

 

 

 

 

********************

 

 

 

 

 

『6人目のメンバーが決まったわよ』

 

 

 通話越しでの打ち合わせの最中。

 専属のマネージャーさんから軽い口調で告げられた内容に、飲んでいたお茶が気管に入ってしまい大きく咽てしまう。

 

 

『ちょっと、大丈夫?』

「ケホッケホッ。ろっ6人目は、良い人が見つからないから欠番って話じゃなかったんですか?」

 

 

 私を含めた5人は、現在所属している会社―――事務所とも言う―――から「Vtuberになってみないか?」とスカウトされた身である。

 最初の説明時には6人でデビューする予定と聞かされており、実際に6人で映っているイラストも見せられていた。

 

 だが、事務所側がどういう人材が欲しかったのか分からないが、6人目となる人材が見つからないまま時が過ぎていった。

 そして、5人での顔合わせも済ませて本格的に準備が始まる頃になって「6人目は欠番として、5人でデビューする」という決定が伝えられたのだ。

 それがデビューする日まで一カ月を切った大事な時期の今になって……

 

 

『見つかったのよ。ただ問題があってね』

「問題?」

『6人目の子ね、まだ中学生なの』

「はい!?」

 

 

 最初に言った通り、現在のメンバーは応募ではなくスカウトされて決まったのだ。

 となれば、6人目の子もスカウトされたということになるのだが……中学生をスカウト?え?その子をスカウトした人って、ロリコンじゃないよね?

 

 

『邪な想像をしているところで悪いけど、ちゃんと能力を鑑みて採用された子だからね』

「Hなことなんて想像してません!!」

『私、邪なとは言ったけど性的とは言ってないわよ?』

「うっ……」

 

 

 違う。違うんだよぉ。

 年端もいかない子と邪な想像が組み合わされれば、そういう考えにも辿り着いてしまうのは当然であって、決して私がロリコンなわけじゃないんだよぉ!!

 

 

『ごめんなさい。少しからかいすぎたわ。話を進めるわね?』

「……はい」

『日程はまだ未定だけど―――』

 

 

 マネージャーさんからの話を自分に分かりやすくまとめると、

 自分より年上の人たちのグループへ何の備えもなく放り込まれるのは、中学生には酷というものである。

 なので実質的なリーダーというかまとめ役な立ち位置になっている私が、その子がグループの輪へ入れるようにサポートをお願いしたいということになる。

 

 また、直近の予定として通話での親睦会を開催することになっているから、その時にでも沢山お話でもして仲良くなってほしい……って、これ私が受けること前提の話じゃん。

 

 まあ、別に嫌ってわけじゃないから問題はないんだけどね、うん。

 

 

 

 

 なんてことがあってから、数日後の今日。

 結局マネージャーさんからのお願いを引き受けた私。

 

 だって、これから同期となる子なのだから仲良くするのは当然だというのもあるけど、中学生の子に初っ端から他のメンバー達の癖の強さを受け止めさせるのは、酷というものだ。

 そう思って、身構えていたのだが……

 

 

 彼女が自己紹介をするときに聞こえてくる声に、私は一目惚れならぬ一声惚れをした。

 

 

 緊張からか単純に話し慣れていないのか、少し詰まらせながらも懸命に話す彼女の声はとても柔らかく滑らかで、ヘッドセットで通話に参加していた私の耳と脳を蕩けさせた。

 

 親睦会に臨むときの「年上として面倒をみないと」という義務感はキレイサッパリ吹き飛んでしまい。

 「この子は私が守ってあげなきゃダメだ!!」という母性にも似た感情が体中を駆け巡った。

 

 

「よろしく!すごい良い声だね!!」

 

 

 脳が蕩けたままだが、すぐに自己紹介に対して明るく反応することで「自己紹介は失敗してないよ。上手くできたよ」と安心してもらう……少し自分の欲望が漏れた気がするが、気にしない!!

 他のメンバーもヘッドセットで聞いていたわけではないようだが、十分に彼女の声に魅了されたようで少し興奮気味に感想を言い合っている。

 彼女―――七海ちゃんに絡んでいかないのは、事前に私がみんなで一斉に話しかけると怯えてしまうからと注意しておいたからだろう。

 

 ただ、これだと七海ちゃんが孤立気味になってしまっている。

 注意の仕方を間違えた後悔と、それを素早くフォローしてくれた佐々木さんに感謝をしつつ、私達も自己紹介をすべく、心持ち姿勢を正しくする。

 

 

「じゃあ私から、初めまして【水原(みずはら)カレン】役の【橋本(はしもと) (さき)】です。みんなのまとめ役のような感じだから、分からないことや聞きたいことがあったら遠慮なく話してもらえると嬉しいかな。よろしくね」

 

 

 

 

 

********************

 

 

 

 

 

 ありがたい。本当にそう思える気遣いを橋本さんはしてくれている。

 まとめ役をやっているだけあって、話していくうちに分かった個性的な他のメンバー達を御している様は、リアルでは学校の先生をしているのではと勘ぐってしまうほどだ。

 おかげで俺が先輩方から受ける無茶ぶりが大幅に軽減されている。

 

 いきなり「アニソンのデュエットしましょう!!」とか勘弁してほしい。

 誰かと一緒に歌うということはもちろん、初対面ばかりの人達の中で歌うとか、無茶ぶりにもほどがある。

 だけど、そういう点を抜かせば……

 

 

『それじゃあ七海ちゃんもゲームをするの?』

「そうですね。読書の合間に、ちょっとやる程度ですけど」

『どっちも目を使うから疲れねぇか?ウチには無理だわ』

『それは杏華(きょうか)ちゃんが、完全なアウトドア派だからだよ』

 

 

 会話の中心になることなんて今世では初めての事だから、橋本さんのフォローがあっても小さく緊張しっぱなしではあるが、父や芳子さん以外との会話はとても楽しかった。

 そして、楽しいことは時間が経つのも早いもので、気づけはお開きの時間となっていた。

 

 

『楽しい時間に水を差すようで悪いけど、これから予定のある子もいるし、ここらでお開きにしましょう』

『は~い。楽しい時間はあっという間だね』

 

 

 他のメンバーには悪いが佐々木さんのお開き案内は正直、助かった。

 楽しい時間であったとはいえ、長時間の緊張に晒され続けた病弱な体は、長年付き合ってきた俺に対してアラートを発令する程度に限界を訴えていたからだ。

 

 幸いにも、俺の体が丈夫ではないことは今回の親睦会で伝わっているので、申し訳ないがキチンと別れの挨拶をしてからPCの電源を落とした俺は、少しフラつく足取りでベットへうつ伏せにダイブする。

 

 

「20時、か。2時間近く話してたのか……」

 

 

 2時間でこの消耗具合は、Vtuberとしてヤバいのかもしれない。

 さすがに耐久配信なんて地獄をする予定などないが、1時間ほどの配信をほぼ毎日する予定と組み立てている状況では不安になってしまう。

 

 父はもちろん、桃瀬マネージャーや佐々木さんからは「無理をしなくてもいい」といわれたが、俺を含めた6人は先陣となってデビューするのだから、他の5人の足を引っ張るようなことは避けなければならない。

 かといって無理をしたせいで寝込んでしまったら、それこそ意味がない事は分かっているので、とりあえずは体力づくりのために、他のメンバーが時折受けているというレッスンに参加させてもらうとしよう。

 

 俺は微睡んでいく思考の中でツラツラと今後の予定を考えながら、最後にはゆっくりと瞼を閉じて夢の世界へと旅……立つ前に、様子を見に来た芳子さんによって起こされると「そのままでは体調を崩す」と怒られてしまった。

 

 今さっき、体調に注意すると決めた直後の体たらくに反省しつつ、毛布に包まれて今度こそ夢の世界へと旅立っていった。

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