二度目の人生で、Vtuberになりました。   作:SANO

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短いですが、特殊タグの操作で燃え尽きました。
これを使いこなせる原作者様、すごすぎぃ!!


#デビュー後
4:初めまして、冬空ユキです(1)


 通話での親睦会を終えてから、数日後。

 とうとう【サンステージ】所属のVtuber達がデビューする日となった。

 

 とはいっても、一人30分枠の自己紹介配信を6人連続でやると3時間という長時間視聴が必要となり、そうなると配信順によっては十分な視聴者数を確保できない可能性が指摘されていた。

 では一日に1人デビューという案も出ていたが、一人目と六人目のデビュー日が離れてしまうのは駄目だということになって、最終的に会社は「二人ずつで三日間で全員をデビューさせる」ことを選択した。

 

 そして、一日目の一番手という大役を任されたのが……

 

 

「……ぅぅ、胃痛が、する……」

 

 

 【冬空ユキ】こと俺である。

 既に配信の準備は完了していて、あとは指定した時間に配信が始まるのを待っているだけであり、待機画面としてユキの生みの親であるイラストレーターさんから提供されたアニメーションが流れている。

 

 

 * * *

 

 濃紺色の背景の中を白い雪の結晶がポツポツと舞う。

 そんな景色の中央に、赤い傘を差したデフォルメされたユキが立って、微笑みながらこちらを見ている。

 彼女は、持っている傘をクルクルと回しながら「ちょっと待ってね」という吹き出しを表示させており、定期的に瞬きすらしている。 

 

 * * *

 

 

 視線を待機者数が表示されている欄へと移せば、何故か2,000人を超える人がいて、コメント欄には待機画面のアニメーションについて感想を言っていたり、PVから来たことを告げるコメントなどで溢れていた。

 

 

 そう。PVである。

 俺のだけではなく、全員を取り扱ったPVが配信されているのだ。

 

 これは事前に事務所用として【サンステージ】の名前で登録したアカウントを使って告知動画を投稿したもので、6人全員が並んだ画面から各人をピックアップしてキャラごとの公式紹介文を映すだけの簡易なものではあるが、上手く宣伝していたのか結構な再生数を稼いでいた。

 なので、そこから何割かの人が来てくれたのだろう。

 

 ちなみに、【冬空ユキ】の公式設定は、

 

-----

 

 ある北国生まれの地精。

 人間に興味があって、女子高生に化けて人の多い場所で生活してる。

 違う土地にいるために、貧弱になり苦労している。

 

-----

 

 スカウトされた時に見た設定にはなかったヨワヨワ設定が盛り込まれているが、俺の病弱さを反映させているとのこと。

 また3D化を見込んでいるためか俺の身長に似せた身長も記載されているものの、元の俺が女子中学生からしても小さいということもあって、他のキャラと比べると一回りも二回りも小さい女子高生という珍しい状態になっている。

 そこをツッコまれても「私、人間じゃないですから」的なことでも言って誤魔化せるだろう。

 

 

 なんて現実逃避をしている間に、配信開始が秒読み段階へと移っていた。

 

 

「スゥー……ハァー……」

 

 

 バクバクと激しい鼓動を響かせる心臓を落ち着かせるために深呼吸をし、カラカラに乾いた喉を脇に置いてあるミネラルウォーターで軽く潤す。

 

 

「あっ、あっ、あ~~っ」

 

 

 初手の挨拶でミスらないように声のチェックをも終え、ついに時計が配信時間と同じ時刻を示し、立ち上げてあったソフトや機材が起動した。

 すると、アニメーションが流れていた待機画面が一瞬の暗転の後に、画面中央に俺の動きに同調して小刻みに動いている【冬空ユキ】が表れる。

 

 もう後戻りはできない。覚悟を決めて、目の前に置かれたマイクに音が入らないように静かに息を吸い込むと……

 

 

 

 

 「皆さん、こんばんわ~」

 

キターーー

こんばんわ

ばんわ~

時間通りだ

おっ、ええやん

すげえ良い声

声好き

 

「あっあ、ありがとうございます。えと、声の大きさ、問題ないですか?」

 

 

 よし、挨拶は上手くいった。

 【言霊】を使っていないのに声を褒められて動揺して少し吃ったが、まあ進行には問題ないだろう。

 

 

ちょうどいい

問題ない

もう少し大きくてもええんやで?

緊張してても、よく聞こえるよ

 

「大丈夫みたいですね。それじゃあ自己紹介します。」

 

 姿勢を整えると、画面に映るアバターであるユキも体をまっすぐにして、表情の変化を認識したのかキリッとした真剣な顔つきへと変わる。

 まあ、それでもどこかポヤンとした印象を受けてしまうのだが……

 

 

「皆さん初めまして、【サンステージ】所属の新人バーチャルミャーチューバーで、【冬空ユキ】と言います。」

 

 

 自己紹介に併せて、コメント欄やキャラに被らないように【冬空ユキ】の設定と目標が書かれた画面を表示する。

 目標については無難に「人間の友達を作る」にしている。

 

 

JKなのにちっさw

精霊要素どこ?

 

「ちっさくないし、みんなが大きすぎるだけです。それに精霊の間では、標準です」

 

精霊が小さいことが判明

小さい、良いと思います

 

 

 小さいに反応して、変な設定を生やしてしまったような気がする。

 

 

「今のところ雑談をメインで、馴染んでいければ別の事をやろうと思ってます。」

 

雑談助かる

この声で歌ってほしい

ゲームで悲鳴聞きたい

りょうかい

AMSRやろうぜ

ホラゲやろう

うっ……ふぅ……

 

 

 雑談メインを伝えたら、何故か他のコンテンツを勧めるコメントがすごい勢いで流れてくる。

 というか、悲鳴とかAMSRとか変態チックなの多すぎないか?特にうめき声コメントした奴、何してた?

 

 

「……ええと……マシュマロを読んで終了時間になるのが怖いので、先にファンネームや押しマークなどを決めたいと思います」

 

視聴者が変態すぎて、困惑してるw

初配信でこれはキツイわな

仕方ないんや。声を聞いてると我慢ができない

わかる

もしもしポリスメン?

 

 変態コメントは俺の声が原因と主張しているが、【言霊】を使っても鎮静や軽い強制ができるだけだから、欲望の解放とか意味わからん効果はないはずなんだけどな?

 とはいえ、ここで検証を始める時間なんて作れるわけもないから、事故や問題を起こさないように初配信を終えられることだけを考えるとしよう。


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