ありがたや~
本来、(1)と(2)は一つだったので加筆してありますが、今回も短めです。
結構な速さで流れていくコメントを目で追いながら、頭の中でカウントをとっていく。
「ん~……コメントの感じだと【ユキ友】が多いみたいだから、ファンネームはユキ友にしますね」
多数決で決めたために少し時間をかかったが、無事にネームやアート、押しマークなどが決まったので一安心だ。
チラリと時計に目をやれば、配信終了まで15分ほど残っている。
これなら、いくつかマシュマロを消化することができるかもしれない。
「それでは、無事にやるべきことが終わったので、事前に募集していたマシュマロを消化していきたいと思います」
会社と契約した日に冬空ユキ名義のアカウントを登録し、配信中に使う質問を募集していたので結構な数が届いている。
当然、システム検閲を潜り抜けてきたセンシティブなものや悪ふさげの類が混ざっていたが、それは速攻で除外して無難な質問を事前に選んでストックしてある。
今回はその中から、適当に見繕ったものを表示させる。
「まずは、これかな?」
初めまして~ 冬空ユキさんは、北国生まれとのことですが 具体的にはどこなんでしょうか? 気になって、夜8時間しか眠れません。
マシュマロ ❏〟 |
「うん。それだけ眠れてれば問題ないと思います」
まあ、こういうのは“お約束”というのは分かってるけど、ツッコまずにはいられなかった。
「質問についてですが、皆さんの想像にお任せします。えっと……A secret makes a woman woman……です」
別に上手くもない英語で場を濁して、この質問を終わりにする。
そもそも正直な話、詳細な出身地などの設定は考えてすらいない。
なので、最初にこう答えておくことで、以後の出身地系の質問は“ヒミツ”で通すような下地を作っておく。という作戦だ。
こういうものは事前にやっておくとネタで多少いじられても、延々と追及してくることはない。
変に追及される前に、次のマシュマロに行ってしまおう。
「次のマシュマロは、これです」
ユッキー初めまして!! 現役JKとのことですが学力はどんな感じです? あと、得意不得意の科目などはありますか?
マシュマロ ❏〟 |
「呼び方は、好きなように呼んでいいですよ。まあ、私がそれに反応するかは別ですけど」
「えっと、学力は良い方じゃないかなと思ってます。テストで平均点以下をとったことないですし」
実際には上位のほうにいるけど、前世の記憶持ちっていうチートを使ってるから自慢にはならない。
学力とは少し違うが、体育なんて倒れたという前科持ちだけあって、保健委員が俺の近くに待機している要介護者扱いだしね。
「得意な教科は、敢えてを付ければ数学かな?不得意な教科は英語と歴史ですね」
数学は、数式を当てはめて解いていくのが謎解きみたいで好きなんだよね。
英語は、前世から苦手意識がついちゃって、今世でもそれを引きずってる感じ。
歴史は、ここがパラレルワールドなせいで覚えた知識が前世と今世でごっちゃになって、大変なんだよ。
「芸術や技能?家事はやってるので家庭科?は、まぁまぁ得意ですよ」
「ごめんなさい。友達でお願いします」
ペコリと頭を下げると、アバターの【冬空ユキ】も稼働範囲内でのお辞儀をする。
初配信で求婚してくるとか、意味が分からんわ。これも俺の声が原因なのか?それとも知らないだけで何かのネタなのか?
「美術は普通かな?可もなく不可もなくって感じですね。音楽は、楽器は良いけど歌は人前で歌うのが恥ずかしい」
「予想通りの反応すぎて、びっくりだよ。残念ですが、当分は雑談メインで行きます。やることになっても機材がないし」
さすがに、ネタなのか本気なのか分からないコメントは困る。
この話題はこれ以上は危険かな?
「このマシュマロは、これで終わりにしましょう。次は……」
デビューおめでとうございます! すごく気の早い質問ですが、コラボをするなら 誰としたいですか?理由もお願いします。
マシュマロ ❏〟 |
「お祝いマロありがとうございます。コラボは、ん~そうだなぁ……同期の【水原カレン】がいいかもです」
「そんなじゃないですよ。えっと言っていいのかな?」
あの通話親睦会って、話題にしていいんだよな?
設定的には問題ないから、個人情報とかの話題を言わないように注意して、
「実を言うと私、同期の中で最後に加入したんです」
「それなんで親睦会を開いてもらった時とか輪に中々入れなくって、そんな状況に手を差し伸べてくれたのが水原カレンなんです」
「ええっ見てたの!?この後、配信だよね!?」
「そっそれならいいけど……ううっ、同期に見られてると思ったら、恥ずかしくなってきた」
無駄に高性能な認証システムのせいで、画面上のユキは顔を真っ赤にして照れつつも嬉しそうに小さく笑っている。
ぐっ、マネするんじゃねぇ!!
「ああ、もう!いい時間だしマシュマロ消化は終わり!!終わりの挨拶します」
運よく、終了時間まで残り数分。
さっさと終わらせて顔の熱をとらないと、熱を出しそうだ。
「皆さん、今日は来てくれてありがとう。この後の【水原カレン】の初配信もよければ見てください。概要欄にURLを載せてありますので」
「それじゃあ、皆さん。またね~」
手を振れないので、代わりに頭を振って配信を終了。
もちろん。Vtuberのあるある事故である切り忘れをしていないか確認をする。
うん。全部、停止を確認。
「……疲れた」
本当に配信が終わったと分かった瞬間に、猛烈な疲れが私を襲った。
対話のように目の前に相手がいない。
通話のように相手の声は聞こえない。
だからこそ変に緊張せずに話すことができたと思っていたけれど、そんなことはなかったようだ。
このままベッドで寝て休みたい欲求が湧いてくるが、それ以上に直ぐに始まる水原カレンの初配信を見たいという欲求のほうが強い。
幸いにも、会社側というかたぶん父が用意してくれた今座っている椅子にはリクライニング機能がついているので、楽な姿勢にしつつも寝落ちしないように調整する。
また芳子さんに怒られたくないしね。
「ふぅ……」
水原カレンの配信待機画面を見ながら、体を軽く休めることができてから、ようやく自分の配信を振り返る余裕ができた。
どうにか大きな失敗はしなくて済んだ。
配信中のコメントにもあったけど、【あるてま】2期生の一人がミスをして配信15分で逃げ―――終了したのを知っていたから、少し余裕が持てたのかもしれない。
“黒猫燦”さん、ありがとう助かったよ。
まあ、そんな炎上するようなことをしてもウケて人気が出てるんだから、彼女はすごい人なのだろう。決してマネしたいとは思わないが……。
そもそも、あれは素でやっているのだろうか?演技だとしたら炎上させつつも視聴者に悪感情を持たれないような立ち回りはすごいと思うし、素だとしたら私と同じ“能力持ち”なのかと疑いたくなる愛され属性だ。
能力と言えば、視聴者のテンションがいやに高かったけど、あれは何だったのだろうか?
最後の案内で【言霊】を使ってしまったのを除けば、配信中は一切使用していなかったはずなのだが……もしかして能力が強化されたとか、バトル漫画的な感じなのかな?
「あーあーあー、テステス、皆さん聞こえてますか~?」
結論を求めない思考の海に漂い微睡み始めた頭に、水原カレンの声が届いてスッと頭がクリアになる。
いつの間にか閉じていた目を開けてみれば、無造作ウェーブのかかった黒髪ショートのキレイ系のお姉さんが笑顔でこちら側に話しかけていた。
「ですよね!いや~嬉しいなぁ、私も一目見た瞬間に虜になっちゃいましたよ」
初配信だというのに、それを感じさせないかのような会話の展開や話し方は、親睦会でフォローしてくれた時と似ていて自然と笑みがこぼれた。
「すごいなぁ……私も、こんな風になれるのかな?」
自分が無意識に呟いた言葉に気づくこともなく、俺は再び微睡みながら楽し気に話をする姿を見続けた。