二度目の人生で、Vtuberになりました。   作:SANO

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申し訳ない。
予約投稿の日付が29日じゃなくて30日になってました……。


7:初カラオケ

 近くに知り合いが働いているカラオケ店があるから、という橋本さんの勧めで彼女の車の助手席に乗り込んで出発したのだが、今更ながら自分が置かれている状況を再認識して緊張からガチガチに体が硬くなってしまう。

 

 自慢ではないが、前世も含めて女性と車の中で二人きりになるなんて初めてだ。

 学校への送迎をしてくれる芳子さんも女性だが、彼女は前世を含めても年上なためか「お母さん」的な感じがして、一緒にいても緊張はあまりしない。

 まあ、仕方ないとはいえ子ども扱いをされるのは少し気恥ずかしさがあるけれど……。

 

 

「そんなガチガチになってると、着いた時にはヘトヘトになっちゃうよ?」

「えと、すみません」

 

 

 俺のあまりな緊張具合に、苦笑いを浮かべながら橋本さんが忠告してくれるが、それで緊張が解けるようなら人見知りなんてとうの昔に改善されている。

 

 

「……そういえば、この間のマイクの音量調節の事なんだけどね」

「あっ、はい」

 

 

 突然、前に相談していた配信関係についての話が出てきて戸惑いつつも応答していると、そこから派生してカメラについてやコメント関係などの配信についての話が続いていった。

 そして気が付いてみれば、件のカラオケ店へ到着するまで彼女と普通に会話をしている自分がいて、現状に理解できない混乱から意味もなく周囲をキョロキョロと見まわしてしまう。

 

 

「ほぉら、ここにいても歌えないよ」

「えと、はい」

 

 

 助手席のほうへと回り込んできた橋本さんが差し出す手を、反射的にとって母親に連れられた幼子のように初めて訪れたカラオケ店へと向かう。

 というか、ナチュラルに恋人つなぎとかやめてくれ!!俺、汗とか掻いてないよね!?

 

 

「……ん?」

 

 

 慣れた感じで受付の人とやり取りする橋本さんの隣で、田舎者丸出しでキョロキョロとカラオケ店の内装や人と行き来を眺めていると、目端にチラリと映った人がひどく気になった。

 

 モデルのような美人さんと、俺と同じくらいな背丈の女の子の組み合わせ。

 

 ほんわか美人の橋本さんと、平均JCよりも小さい俺と似たような組み合わせだから、ついつい目で彼女達の動向を追ってしまう。

 

 

「……ぅゎ」

 

 

 あっ違うわ。あの小さい子は俺とは別次元の人間だわ。

 あの胸部装甲は、絶対に生きてる次元が違いすぎる。というかロリ巨乳って、二次元にしかいない種族じゃなかったんだな。

 勉強になった。なんの勉強かは知らんけど……。

 

 

「何見てるの?」

「ぴぃっ!?」

 

 

 とはいえ、男の頃の悲しい(さが)か黒ワンピのロリ巨乳を見続けていると、受付を終えた橋本さんが俺目線へと合わせるように屈みつつ、俺の目線を先を追いながら何故か顔同士がくっつくくらいに近づけてきた。

 超至近距離で、美人の横顔が俺の目を眩ませ、声と吐息で耳が擽られて超過敏を起こし、すごくいい香りが俺の鼻を麻痺させ、一瞬だけ軽く触れた頬が俺の顔を真っ赤に燃えあがらせる。

 

 ねぇ!!女性って、こんなにスキンシップが激しいものなの!?

 

 この後もこんなのが続くなら、帰る頃には廃人になってる自信があるんだけれど!!

 

 

「うわぁ……おっきい」

「あ、あの。ちっ近いです」

 

 

 俺が見ていた二人組―――特にロリ巨乳を見たのだろう。思わずと言った口調で、率直な感想が彼女の口から洩れた。

 だが、そんなことはどうでもいいので、早く離れて欲しくて五感のうち4つが機能不全を起こしつつも必死に現状改善を懇願する。

 

 自分から離れればいいだと?

 下手に動いて、相手の体のどこかに触れたり、急に距離をとって相手に変な誤解を与えたりしたらどうするんだよ!?

 

 

「……ああもう!七海ちゃんは可愛いなぁ!!」

「~~~~っ!?」

 

 

 あぎゃあああああっ!?

 だっ抱き着いてこないで!!

 腕に!腕に!なんか柔らかいものがががががっ!!

 

 

「あの、お客様。受付前で、そういったことは……」

「へ?あ、すっすみません」

 

 

 格好いい感じの店員が困った顔でやんわりと注意をすれば、現状を理解できたのか俺並みに顔を赤くさせた橋本さんが、店員へと謝罪した後で逃げるように俺の手を引いて指定された部屋へ逃げていく。

 

 慌てる様を見て冷静になれた俺は、半ば引きずられるように彼女についていきながら、気になる二人組がいた場所へと再度視線を向ける。

 当然、もうそこにはいないのだが、何故かまた会えるような気がして、ちゃんと顔とかも見ておけばよかったなと変な方向へと思考を飛ばしていた。

 

 

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「さっきはゴメンね」

「いえ、大丈夫です」

 

 

 初対面から現在までで、何となく橋本さんの人となりが理解できた俺は、さりげなく距離をとりつつ少しぎこちない笑顔で彼女の謝罪を受け入れた。

 こちらが機嫌を悪くしていないことは分かってくれたようで、ホッとした表情をするもののさすがに少しションボリとした雰囲気が見て取れる。

 

 しかし、彼女の過激なスキンシップという荒治療(?)の成果か、車ほど狭くないとはいえ密室に若い女性と二人きりというシチュエーションにも関わらず、いつもの軽い緊張程度で居ることができるのは非常に助かっている。

 

 ここで極度の緊張をし続ければ練習どころではないし、下手をしなくても倒れてしまっていただろう。

 そうなれば店側はもちろん、せっかく誘ってくれた橋本さん、倒れた俺。誰もが嫌な気持ちになるだけの最悪な結末になっていたはずだ。

 

 だから、フォローをするのは当然だと思う。

 

 

「ちょっとスキンシップに慣れてなくて、びっくりしただけで嫌だったわけじゃないですから……」

「うん。ありがとう」

「えと。練習、しましょう、か?」

 

 

 親しい女友達がいない俺ができる最高のフォローであると脳内で言い訳しつつ、何故か生暖かい目でこちらを見てくる彼女から逃げるように、分厚いⅰPadのようなモノを差し出してみる。

 たぶん、これを操作して曲を選んだりなんだりができるのだろうが、カラオケ初心者の俺には一般常識的なことも分からない可能性があった。

 

 

「そういえば、カラオケが初めてなんだっけ?」

「はい」

「それじゃあ、使い方を教えるね」

「ぁ、よろしくお願いします」

 

 

 さすがに過激だったと思ったのか、人見知りの俺からすればまだ近いが、今までと比べても距離をとってくれたので、ふわりと香るいい匂いに鼻がムズムズはするものの、そこまで緊張することなく彼女の声と指の動きに集中できた。

 

 

「へぇ……歌手や曲名が分からなくても、歌詞で探せるんですね」

「そうだね。後は、“声で探す”っていうのもあって」

「???」

「これはね―――」

 

 

 5分程かけて、橋本さんからデンモク――電子目次本を略したものらしい――の操作説明を受けた俺は、操作実演と言われるがままに普段から一人で作業中に口ずさむ曲を入力してみることになった。

 初めてのカラオケで自分で操作して選曲を行うこともあって、PCに初めて触る中高年齢層よりマシ程度な不慣れ感が満載の手つきで教えられた手順を進めていく。

 

 

「で、これを選択して……決定」

「うん。出来てる出来てる!ほら、イントロも流れ始めたし」

「よかった」

「じゃあ、はい。これ」

「え?」

 

 

 無事に選曲ができて、俺の聞き馴染んでいるイントロが流れる中。

 すごくいい笑顔をした橋本さんが、俺に向かってマイクを差し出してくる。

 

 

「自分で入れた曲なら、自分で歌わないと!」

「えっ、ちょっ、まだ心のじゅ―――」

「ほらほら、歌が始まるよ」

「ぁ、ぁ、ぁ…」

 

 

 押し付けられるようにマイクを渡され、突き返そうにも手拍子を始めて受け取る気ゼロ。

 操作することに集中して、歌うための心の準備など全くしていないので、声が出るかもわからない。

 でも、貧乏性なのか入れた曲を歌わずにキャンセルするのは勿体無いような気がして、そうなると歌わないとならないわけで……

 

 あっ、やばい。もう歌が……

 

 ええい、ままよ!!

 

 

『手のひらに掴んだ約束は』

「ぇ…?」

 

 

 何か橋本さんが言ったような気がしたが、半ばパニックになっている俺は、歌うことだけで頭がいっぱいだ。

 

 

『永遠に 消えないたからもの』

 

 

 だからこそ、自分がどういう存在なのかを忘れていた。

 

 

『いつか見上げた 空の彼方に』

 

 

 自分の声が、普通とは違うことを

 

 

『僕らの明日へと導く』

 

 

 同じ発声というプロセスを使うということは……

 

 

『Future Star』

 

 

 間奏に入って一息つくと、パニックになっていた頭も馴染み深い歌で落ち着きを取り戻した。

 

 そうなると自分の歌声について気になってきて、チラリと隣で聞いているであろう橋本さんを見やると、少し顔を赤らめながら俺へ熱い視線を向けていた。

 なぜ?と思うも、間奏が終わり歌が始まったことで再び気にする余裕がなくなった。

 

 そして、好きで歌っているものを聞いているのが橋本さんだけで、多くの耳がない中で声の大きさを気にする必要がなく歌えるということは、自分で思っていた以上に楽しいものであった。

 自然と歌に没頭していく、最初に気にしていた橋本さんの様子は歌う楽しさの前にドンドンと小さくなっていき……

 

 あっと言う間に一曲。歌い終わっていた。

 

 

 歌い終わった余韻に浸る間もなく、すぐに脳内で熱中する前の状況を思い出して、慌てて橋本さんへと視線を向ける。

 そこには両手を胸元で握りしめて、頬を赤く染め目を潤ませた姿があり

 

 

「七海ちゃん!!」

「ふぇえ!?」

 

 

 マイクを持っていた両手の上から、彼女の手が重ねられる。

 歌うという軽い運動をした俺よりも、なお高い体温が手の甲から伝わってきて、その熱さに驚いて声をかけるタイミングを逃してしまう。

 

 

「すごく良かった。七海ちゃんの声が、体に染み渡っていく感じがしてね。歌詞の内容で胸がいっぱいになったの」

「……ぇ?」

 

 

 彼女の感想に、ある考えが頭をよぎった。

 

 俺が歌った曲は、解釈は人それぞれだとしても“甘酸っぱい青春物語”だと解釈している部分が“俺には”ある。

 そして俺が【言霊】と呼称している能力は、把握している中に人へ軽い強制力を働かせることが分かっている。

 トドメに、初めての熱唱中ということで自分が能力をON、OFF、どっちにしていたか“覚えていない”。

 

 もし、これが俺の想像通りなら……

 

 

「ああ!!無性に一曲、歌いたくなってきた!!次、私が歌っていい?」

「ぁ、はい。どうぞ」

 

 

 興奮した橋本さんへマイクを差し出すと、受け取った彼女は手慣れた感じで選曲を終えると、前世的には懐かしい“青春を題材にした歌”の曲が流れ始めた。

 

 そうして唖然とする俺を置いて、見た目通りの柔らかな歌声で一曲歌い終えた彼女は見た感じ、いつも通りに戻っているように見えた。

 

 

「あ~、久しぶりに思いっきり歌った気がする」

「えと、大丈夫、ですか?」

「?うん。すごく気持ちよかった」

 

 

 俺との会話に、先ほどの熱に浮かれたような感じはしない。

 想像している通りの効果が発揮されているとしたら、その効果は限定的なのだろうか?

 

 

「一曲ずつ歌ったし、次はコラボ用にデュエットしようか」

「うえ!?」

「これとか、どうかな?」

「ぁ、知ってます」

「じゃあ、試しに歌ってみよう」

「なんで!?」

 

 

 知ってるという回答を、どう解釈すればそうなるの!?

 【言霊】について考えたいことができたけど、明日の歌の練習もしないといけないし、意外と橋本さんは押しが強いし、なんか最近こんなのばっかじゃん!!

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