二課の情報網に引っ掛からないって事は活動しつつも証拠隠滅がしっかりなされているか、どっかのデカい組織に匿われているかの二択だとあたしは踏んでいる。
前者であればいずれ尻尾が掴めるだろうが、後者だった場合厄介な事この上ない事になる。
理由として、まずあたしはこっちの世界の組織に詳しくない。一から調べるにしても時間はないし、そんな悠長に待ってくれるほど師匠は甘くないのも理解している。
おまけにこっちの世界の天羽奏は
「…参ったな、死人が蘇ったとか新聞に載ったりしたら翼に怒られる。」
「何を一人でぼやいてるの、奏?」
「何でもないさ、ちょっとした独り言だよ。」
思わず口から漏らした言葉を翼は耳聡く聞いていたらしく、首を傾げつつ聞いてきた。適当にはぐらかしつつ二課の廊下を二人で歩いていく。
今日は了子さんとこで翼のメディカルチェックがあるらしく、付き添いで付いて来たはいいものの特にこの後の予定は立てていなかったからどうしたもんかと考えを巡らせる。
「あ、弦十郎の旦那のとこにでも行ってみるかな。ちょっと相談したいこともあるし。」
「指令に相談?どういった用件か教えて欲しいんだけど。」
「大丈夫だよ、別に危ない事しようってんじゃないからさ!それより翼、了子さん待たせると怒られちゃうぞ?」
医務室に着いたタイミングでぽんと手を叩けばあたしは足早に翼と別れて旦那の元へと駆け出す。なんせ今から行う相談は翼に聞かれると十中八九止められるだろう案件だからだ。
二課の本部の中を探していたら休憩中の旦那を見つけたので早速本題を切り出してみる。内容はあたし自身で師匠を探したいという旨だ。
「確かに今現在タスクマスターに関する情報は見つかっていないが、奏君自身が探しに行くのは簡単には了承しかねるな。」
旦那は言いつつコーヒーを一口啜るとあたしをじっと見つめてくる。その視線に負けじとあたしも見つめ返すけど、簡単に折れてくれるような男じゃないのは重々理解している。
二カ月前、翼に連れられて初めて二課に来た時に聞かされたツヴァイウイングライブの顛末。その後の翼の精神状況を見てきたからこそ余計にあたしに無茶はしてほしくないんだろうな。
けど、それでも足踏みしてる暇なんてないんだ。ようやく見つけたんだから意地でも…!
「…ふぅ、並行世界から来たとは言えやはり奏君か。易々納得はしてくれないようだな。仕方がない、翼には俺が話しておこう。」
にらめっこがずっと続くかと思ってたら拍子抜けする程簡単に旦那の方が折れてくれた。
「さっすが旦那だ、話が分かるねー!」
「ただし、無茶は絶対にするなよ。後奏君だと分かる格好は控えてくれ、新聞沙汰にでもなったら事だからな?」
その言葉にあたしはグッと親指を立てて応える。そして善は急げと二課を飛び出した。
キャップとサングラスを身に付けて町へと繰り出しかれこれ3時間程、うろついてりゃ向こうから来るだろうと高を括ってたあたしの読みは盛大に外れたのだった。元とは言え弟子が会いに来たのに放置ってのはどうなのさ?
仕方なく散策を続けていたら突然鳴り響くノイズの発生警報、どうにも大事な時に厄介ごとに巻き込まれるのはあたしの性分らしい。
「チッ、適当なシェルターにでも向かうか。」
悪態一つ吐いて駆け出そうとした時、数体のノイズに追われる女の子があたしの前を通り過ぎて行った。格好からしてあれは翼の通う学校の生徒みたいだ。
足は速いように見えたけどいずれ体力の限界は来るだろう、そうなると―――とそこまで考えた時には既に女の子の横まで追いついていた。
「やぁ、お嬢さん。良ければあたしが助けてあげようか?」
へらりと笑みを浮かべるあたしを見て信じられない物を見るような視線を向ける女の子。まぁ、切迫した状況で笑ってる奴なんか見たらそうなるか。
取り合えず背中から手を回し、引き寄せると同時に足を抱え上げてお姫様抱っこの体勢に。
「え、あの、大丈夫です!私自分で走れますから!」
「遠慮なんていらないよ、それにあたしが走った方が速いしね!」
言うと同時に力を込めるとさっきとは比べ物にならない速度で走り出す。なるべく揺らしたくはないんだけど、なりふりなんて構ってられないからそこは許して欲しい。
ノイズを置き去りにして行くあたしを女の子は茫然と見つめてくる。人ひとり抱えて全力疾走なんてあたしの世界じゃ日常風景なんだけどこの子には刺激が強すぎたか?なんて考えてたら突然目の前に湧いてくるノイズ達。
「邪魔すんじゃ、ねぇ!」
力強く地を蹴ってそれを飛び越えたは良いものの、帽子とサングラスは衝撃に負けて外れてしまった。結果女の子にはあたしの顔がバッチリ見える形に。
「―――!?」
絶句しているって事はそういう事だろう、今更誤魔化す方法も無いし喋ってる暇もないから足は止めずひたすら走り続ける。そうこうしている内に人気のない工場地帯へとたどり着いたあたし達、ここならこの子以外は居ないから構わないかな。
「さぁてノイズ共、遊んでやるからかかってきな?」
聖唱してギアを纏えばアームドギアを展開し、すぐ様周りのノイズを殲滅してゆく。ものの数分で片付け終わり、二課の出動を待っている間、あたしは女の子に話しかけた。
「あたしの自己紹介はいらなさそうだな、お嬢さんの名前は聞いてもかまわないかい?」
「私は、えっと…小日向未来です」
そんなやり取りをして他愛ない話をしていると、二課のエージェントが続々とやってきた。一先ずはこれで一息つけると思った矢先、エージェント達の奥から現れた緒川さんが目についた。
緒川さんはあたしの元へやってくると、開口一番に衝撃的な事を言い放ったんだ。
「奏さん、新たなガングニールのアウフヴァッヘン反応が検知されました!」