一番になった原村和さんを頑張って書いてみましたが……どうでしょうか?
案の定ちょっと違うことやって不安ですが、どうかよろしくおねがいしますー。
山上から残雪流れてせせらぎに。春の長野に清水が溢れんばかりに輝く、そんな毎年の当たり前に今更美しさを覚えるのは、心境が変わったからだろうな、と京太郎は思う。
休みの一日。友人と遊ぶかランニング程度の運動をするかという程度の予定しかなかった一日を、しずしずと隣を歩く少女は酷く明るいものに変えてくれた。
もう暮れかけの今日に偶然出会った彼女とこれまで行ったのは、観光にもならない清澄の田舎の案内に、さほど繋がりの良くない会話程度。だが、少女と共にあるその間がとても楽しかったのは、言うまでもなかった。
初対面の少女のそのはにかみが愛おしくて、頑張った。それだけでこんなに楽しい一日になるなんて。
「……夕焼けが、とても綺麗ですね」
「そうだな」
立ち止まり、彼女はほうっと口にする。気障にも君の方が綺麗だと勝手に発しようとする口を止めるのは、想像以上に大変だ。
胸元に滲む焦りのような心地よくもある感覚を意識しながら、一目惚れも良いものだと、暮れに染まる白磁の顔を覗きながら京太郎は思った。
須賀京太郎は、原村和が好きである。あまりに分かり易いそれは、彼を知るものの殆どに周知されてすらいた。
以前夫婦とすらからかわれていた程の仲の幼馴染みを放って和と同じ部活に入部したことや、度々彼女の胸元に視線を向かせて件の幼馴染みに和の親友に足を踏まれて騒いでいることなど。
京太郎の友人高久田誠がその変心ぶりに驚くくらいには、状況証拠が多分にあった。
そして、それだけでなく他にも、囁かれる理由はある。
「すまない……俺、他に好きな人がいるんだ」
それは、京太郎が女子生徒に告白を受けたその時に、そんな言葉を零したことに端を発していた。見目と性格も良い彼は高校入学以前から女子に好かれることが多かったが、こうきっぱりと告白を断るようになったのは、はじめてのこと。
地味に咲と京太郎がくっつくことを願っていた誠あたりは、咲へ本気になったのだと自分の都合の良いように考えているが、彼がよく視線が向かう方を見てみれば、それが違うことは明らかだ。
またそんなのは、彼を慕う少女にとっては尚更分かりやすいもので。でれっとした京太郎をじと目で見つめながら、件の幼馴染みこと宮永咲は尋ねるのだった。
「ねえ、京ちゃん、原村さんのことが好きなの?」
「それは……」
「言いよどんでも視線の向きはのどちゃんから変わっていないじょ? やれやれ、遠くの山につられて隣の可能性の塊に見向きもしないなんて京太郎もみーはーだじぇ」
「おいおい、胸もとに手に入れてもないものはないぞ。悪いが、俺には大平原にロマンを感じられるほど変わり者じゃないんだよ」
「全く、何時までも私がのどちゃんのおっぱいの引き立て役だと勘違いしているんだから、この小僧は駄目なんだじぇ。ふっふ、のどちゃんの撃破記録がまた一つ更新されるのが楽しみだじょ」
「妄想はその海抜ゼロメートル振りから少しは成長してから言えって。っていうか、俺の告白は失敗するの前提かよ……あ」
「ふーん。京ちゃん、やっぱり好きなんだ」
「うっ……」
打てば響く、そんな少年少女の冗談めいた会話は、横からの鋭い言葉によって止まる。
タコス娘と侮っていた優希に知らず本心を吐露させられていた京太郎は、咲の冷たい視線にたじろぐ。ついでに、その少し下方から優希も半目でじろりとならう。
しかし、それとなく困ってから、むしろ何俺が咲にびびってるんだと思い直した彼は開き直る。目を本命から反らして、少し真面目になってから、京太郎は言った。
「別にいーだろ。誰を好きとか嫌いとか、俺ももう子供じゃないんだから思って当たり前だっての。咲が気にすることじゃないだろ」
「それはそうだけど……」
京太郎が口にした言葉に、咲は思わず口ごもる。
確かに、男女の好きに横から文句を言うのは違うだろう。けれども京太郎が誰か――自分以外の女子――を好きでいるのは何となく、つまらない。つい、空いた指先は髪先を捩る。
咲がそんな乙女の気持ちを持て余していると、冗談めかして京太郎はずばりと言った。
「ならなんだよ、咲。ひょっとして……嫉妬か?」
「べ、別に私、原村さんに嫉妬なんかしてないからねっ!」
「おー、咲ちゃん真っ赤だじぇ……」
「あうう……」
鈍感が急に核心を言い当てたことに、咲は言葉の選択を誤る。そして、彼女は自分の発言に本心に、そんな全てに真っ赤になった。
顔を手のひらで覆って俯く姿に何となく少女の思いを感じ取った京太郎は、決まり悪そうに頬を掻く。どうしようかと悩む彼を、見上げる少女の目は厳しくなった。
友人のツンデレを目撃して少し感動すらしていた優希。しかし、どうにも京太郎は自分たちを恋愛対象として見ない。そのことに、彼女は義憤するのだった。
「……私には京太郎の身の程知らずの高め狙いぶりが鼻につくじぇ。ボーイ、お前にはこの私に挑んでみるような気概は持てないのかい?」
「優希……俺がしたいのは山あり谷ありの恋愛で、別にゲートボールがしたいわけじゃないんだ」
「むっ、誰が、平原安置のローボールだじょ!」
「優希ちゃん、よくそんなにツッコめるね……」
だがしかし、咲と比べてコメディ路線な優希に、恋路を真っ直ぐ進むのは難しい。
彼女はごまかすようにされた難易度の高いボケに対しても、見事なツッコミを披露してしまうのだった。
なんといっても、優希には彼の笑顔が楽しくて。だから彼女は近くにいるだけでドキドキしていることをすら、隠すのである。
「はぁ……」
そんな風にして、真剣になりきれない三人。最近ずっと仲良しな皆の輪の外、高嶺の位置にて。
「仲、いいですね……」
和は自分のことが話題にのぼっていることなど知らず、そうこぼすのだった。
「どうもありがとうございます、須賀君」
「いや、お礼なら和が買い出しじゃんけんに負けたら直ぐに俺に荷物持ちについて行けって言った優希に言ったほうがいいぞ?」
「ふふ。ゆーきには、後で言います」
あいにくの曇天。しかし、それでも京太郎の気持ちは晴れ渡っていた。
笑顔の隣で艷が流れて、横で揺れる。そんなこんなに胸ときめかせながら、京太郎はちらほらモノが入ったエコバッグ片手に道を行く。
木が影を作り過ぎない程度に散らばった、しかし涼やかな春の通り。そんな中を京太郎と和は制服姿のまま歩んでいた。
正に、至福の時間。しかし、京太郎は、何とはなしに意地悪な笑みをした我らが悪待ち部長のことを思い出す。何となく彼女、久が楽しげだったのはバッグの中の饅頭ふたつがそれほど楽しみだったからか否か。
最低でも和と自分のデート地味た二人歩きを歓迎していた訳ではないだろうから少し気になるな、と京太郎は考えたりしていた。
しかし、そんな彼の思慮など、彼女の喜色には関係ない。歩み軽く、身を弾ませながら、和は言った。
「こういうの、久しぶり、ですよね」
「ああ……二人きりっていうのは春先に道に迷ってた和に清澄の案内をした時以来だな」
「ふふ。あの時は、どうもありがとうございました。実はあの時、携帯電話の電池も切れていてマップもなしに、少し心細かったんです」
「そう、だったのか……」
言われ、京太郎はあの日のことを思い出す。それは中学二年生に上がる寸前のこと。
春休みに部活休みの京太郎がランニングしていた最中、転校して独りちょっと冒険してみた和と出会ったのだ。
その際に一目惚れをした彼は、新しい転校先でのはじめての出歩きを試みて清澄の入り口にまで来てしまっていた彼女に、道案内がてらの地元紹介を買って出たのだった。
今も輝く楽しかった、思い出。しかし、そこに腑に落ちないところを覚えた京太郎は呟く。
「しかし、今考えると和が素直に初対面の俺に案内されたのは意外だったな」
「あの……私って、素直に思えませんか?」
「いや、和は何というか……よく知らない男に付いていくような、危機意識のない女の子じゃないだろ? どうして俺を信用してくれたのか、不思議でさ」
「それを言うなら須賀君も、普段は初めて会った女の子を誘うような男の子には思えませんが」
「……まあ、確かにあの時は俺も少し勇気を出していたな。不思議だ」
流石に、一目惚れしていたから、とは口に出せずに誤魔化す京太郎。
しかし、そんなこんなを全部観察し切っていた彼女は、こう呟くのだった。
「いいえ。
「え?」
驚き口をぽかんと開ける京太郎。しかし、そんな間抜けな様にくすりともせず、むしろ愛しいものと目を細めて、和は続ける。
「須賀君は、私に一目惚れしてくれたのかもしれません。ですが、私はひと目で恋したわけではありませんでした」
和は、知っていた。けれども、黙っていたのだ。そして、隠していた。
少女は今、吐露する。
「貴方の思わず表に出てしまうくらいの
彼女は恋しく自分を見ていた彼のことを、見ていた。
そうして、それが嫌いではなかったから。ずっと記憶の底に残していて。
「そして、二年後再び須賀君の
再会し、また胸に秘めたそれに触れたことで、和は気づいたのだった。ああ、自分は彼のことが好きなのだと。
胸元が弾む。いやそれどころか弾けそう。自分のこんな好きを、彼も今覚えていてくれていればいいな、と彼女は思う。
そして今真剣に見つめ返してくる京太郎を見て、和はそのよく出来た面を微笑みに歪ませて、告白を続けるのだった。
「実は私、今日はズルをしました」
「……ズル?」
「ええ、実は宮永さんたち部の皆さんには私が負けるような順番でじゃんけんして頂くように頼んでいたのです。そして、私が負けた時には須賀君と二人きりにして欲しいと優希に頼んでいました」
「あー……みんな、特に優希、嫌がらなかったか?」
「ええ。ですが私が須賀君に引導を渡したいから、と言ったらゆーきは二つ返事で了承してくれましたよ?」
「引導を渡すっていう名の告白……つまり抜け駆けした、ってことか。それは……ズルいな」
「ええ。でも、私も心配だったのですよ? 須賀君、ゆーきや宮永さんのことが大好きみたいですから」
「いや、あいつらのことは正直、ペットのカピバラと同じようなものとしか思ってないぞ……」
「それでも、何時好意の種類が変わるのか、私には気が気でなかったんです」
和は、そこで表情を暗いものに変える。
咲は、和に嫉妬していた。そして、同じように和は咲に嫉妬していたのだ。
好きの側で、笑顔が咲く。それが、自分のものでないのは、とても苦しいことで。
だから、もう伝えざるを得なかった。だから、とそろそろ頬を紅色に染めて、和は全てを伝えようとする。
「須賀君……ここまで言ったら分かって頂けているでしょうが……あの、私は……」
「あー……もう大分格好悪いけれど、俺から言わせてくれ。……和、好きだ」
「……はい。私もきょ……京太郎君が好きです」
それは、綺麗なものとは言えない、不格好な告白。しかし、合わさった想いは代えがたいくらいに幸せを味わわせてくれる。
「和」
「京太郎君……」
だから、もっとと思うのは当然のことで。二人がそろりと手を伸ばし合い、それが重なり笑顔までも同じくなったそんな時。
それこそ手のひらの組み方がそれっぽくなるために身動ぎ出しそうな、そんな見つめ合う恋人同士の間隙に。
「わっ」
「きゃ」
風が一陣。遅れて光が射し。それがとても綺麗な朱色であることに、二人は気づく。
そして、お互いあの日のようにほほえみ合って。
「……夕焼けが、とても綺麗ですね」
「和の方が、綺麗だ」
「もうっ」
手を繋いで歩きながら、そんな風に言葉を交わすのだった。
「のどちゃんと京太郎、遅いじょー。私のタコスチップスはまだかー」
「うぅ。京ちゃん、フラれて落ち込んでなければ良いけれど……」
「ふふ。傷心の須賀君、ねぇ……」
「おぉ、悪い顔しちょるのぉ。と」
「カン……ツモ。嶺上開花、タンヤオ、ドラニ、4000・2000です」
「……やられたじぇー」
麻雀楽しむ彼女らが、睦まじく帰ってきた二人に驚かさせられるまで、あと少し。
次のカップリングは誰がいいでしょうか?
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京久
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京咲
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京恭
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ヤンデレ