京太郎くんカップリング短編集   作:茶蕎麦

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 少し時間が空いて申し訳ありませんー。

 お待たせしました、京優希とアンケートとなります!
 どうか投票よろしくおねがいしますねー。

 ちなみに自分は単行本派だったりしますので、知識が遅れてしまいこれから書くものが公式に準拠出来ていなかったら申し訳ありません。
 その場合はこんなイフもあるのかな、と心広く読んでいただけましたら嬉しいですー。


恋するのは難しいけれど面白おかしく過ごしたい京優希

 片岡優希にとって、面白おかしく過ごすことこそ、正しい生き方だった。たくさんの笑顔の中で過ごすことなんて、心地いいことこの上ない。

 しかし、正しく生きるというのは殊の外難しかった。邪魔するのは苦手な()()の勉強に、得意な麻雀での敗衄、そして。

 

「はー……こんなの、つまんないじょっ!」

 

 性格と一緒、御髪要らずの素直なツーサイドが思わず振った頭につられてざわめく。

 常日頃から小ぶりな体躯に元気いっぱい。そんな少女が困惑しているのは、己の怖じ気だった。

 未だ稚さが抜けきれていない優希にはよく分からない。あんなに優しいお人好しに好きだと伝えるというそれだけが、こんなに大変なんてどういうことだと首をひねる。

 

「私としたことが、当たって砕けるのを怖がってるのかー? そんなの私らしくないじぇ、むしろ当たって砕いてやるじょ!」

 

 しかし、生来からの負けん気が弱い心に待ったをかけた。想い人を砕いてはいけませんよ、という空に聞こえた親友のツッコミを他所にして、意気を増した優希は気炎を上げだした。

 下級生たちの歓談から離れた待ちぼうけで一人きりの雀卓から疾く離れて、そのまま駆ける。

 

「先輩?」

「どこ行くんですかー?」

「どっかだじぇ!」

 

 そうして、優希は副部長の突然の乱心に起きた新入部員のざわめきにおざなりに対応して、心の向くまま旧校舎の部室から出ていった。

 

「はぁ……体が重いじぇ。これはタコスぢからが足りてない証拠だじょ……」

 

 遠い雲に、弾む息。ここ数年麻雀にはまり込み過ぎて、すっかり体力が落ちてきたことを今更ながらに覚える。

 それをなんとかタコス――エネルギー――が足りていないという冗句で収めたいところではあるが、乙女的には最近薄く付きはじめたお肉が気になりもした。

 とはいえ、この程度の衝動的なダッシュくらいで痩せてくれはしないだろう。そんなことよりもと、想いの源泉、彼のことを思い出しながら、優希は独り言つ。

 

「アイツは、確か……のどちゃんが学生なんとか長の選挙に出馬するから、ってその手伝いだったかに行ってるんだった……なら私の、のどちゃんセンサーを頼りにすれば、っと」

「うぉっ、どうした優希。外だろうが駆けると危ないぞ」

「京太郎っ!」

「っと」

 

 そして、少女の疾走は曲がり角でこの上なく優しいものに捕まった。その顔を見て、ほころびを隠しきれなくなった優希は、物理的に彼の胸元に顔を埋めて面を隠す。

 すると、好きな異性の香りを思いっきり味わうこととなり、ますます彼女の気持ちはざわめくのだった。

 優希はそっと離れてから顔を真っ赤にしてもじもじと話し出す。

 

「京太郎、その……あのね、だじょ……」

「どうした優希、おかしいぞ? 何か悪いものでも拾って食ったか?」

「お、おかしくなんかないじょ! 思えばちょっと前にこんなちっちゃな紫の花の蜜を舐めたけど……そんなの誤差みたいなもんだじぇ!」

「優希……お前高校生にもなって、ホトケノザの蜜を吸ってたのか……はぁ。まるで子供みたいだな」

「むっ」

 

 そして、優希は話すにつれて呆れを口にする京太郎にむかっ腹を立てた。

 いや、たしかに先に自分は後輩の中でも野良な子や子供っぽい子達と戯れながら、通学路で花の蜜をちゅーちゅーしてはいる。

 とはいえ、子供とは何事だろう。こんなに、恋の憂いに悩む女子高生を捕まえて、と思い優希は口走るのだった。

 

「私は子供じゃないじょ! 多少ナリは近くても、実際それとは遠い懊悩を秘めたクールな大人なんだじぇ?」

「大人もクールも違うと思うが……で。お前何悩んでんだよ、優希」

「う、どうしてバレたんだじぇ?」

「いや、普通に口に出してるし、懊悩とか、よっぽどでもなけりゃ片岡優希の頭の辞書から出てきやしないだろ。何か、困ったことでもあるのか?」

「うう……」

 

 じり、とたっぱのある男子に詰め寄られて優希はますます怖じる。

 相手が慣れていて中身が綿みたいな奴だと知っているからこそ、逃げはしないがそれでも胸元の恋心を暴れさせる難敵に対して、及び腰になってしまうのはしかたない。

 困ったこと、それはたった一つ。もっともっと、望むように面白おかしく過ごすために決心できないそんな今のこと。

 

「ああっ!」

 

 くすぐったくも、寂しくて愛おしくて辛い。そんな感覚をこじらせながら、優希は刹那的になる。

 これが破れかぶれかなんて知ったことか。恋が麻疹で病気ならば、隠しておけば悪化するのは火を見るより明らかなのだから。

 上から見下げることなく、ただ優しく認める鳶色。何時ものようにそれを見上げながら、挑むように優希は叫ぶのだった。

 

「京太郎! お前が好きだからだじぇ!」

「えっと……好き、って……」

「ラブに決まってるじょ! この唐変木!」

「おっ、おぅ……」

 

 勢い、そればかりに任せて本音をぶつける。これが後悔に繋がるのだって、知らない。熱に浮かされるのが恋ならば、きっと今の自分は精一杯それを出来ている。

 そんなことを信じながら、潤んだ瞳を京太郎に向ける優希。そして、そのまま男女は茜に染まる。

 カラスの鳴き声、車の排気音、遠ざかる飛行機雲。

 しばらくの間、耐え難い沈黙の中黙していた京太郎は、ようやく口を開ける。

 

「……俺も優希、お前のことが好きだよ」

 

 はにかんで、小さくも心を込めて。それは、確かに恋に対する応えだった。

 

 

 

「むー」

「そんなに怒るなって……タコスおごってやったろ?」

「この怒り、学食のタコスじゃ足りないじょ」

「はぁ。なら、家で作ってやろうか?」

「……しょうがないじぇ、坊主。それで手を打ってやるじょ」

 

 恋は実って、花の笑顔は満開に。小さな彼女は大きな彼氏の手をずっと離さず、きゃいきゃいと。

 浮ついた心が離れたからと、嫉妬に呑まれずただ彼の困り顔すら楽しむのだった。

 彼の実家にお呼ばれして、大好物をいただける。そんな夢のような楽しみにワクワクしながら、京太郎の手を引き優希は帰路を進む。

 空の青のように変わりがちな少女の心に揺らされながら、青年はぽつりとやゆするように言った。

 

「ったく……そんなにホイホイ食べて、太っても知らないぞ?」

「ん? 京太郎はちっちゃくて丸太みたいな体型が好きなんだじょ? なら平気だじぇ」

「はぁ? 誰がそんなことを……」

「お前よりノッポの男子が言ってたじぇ?」

「誠……予想が外れたからって、またちっちゃな嫌がらせを……」

 

 高久田誠。京太郎の悪友であり、今は亡き京咲派の中でも固くそれが実ると信じ切っていた人物である。

 未だに咲と京太郎がお似合いだと思っている彼は、相手の体型が変わったら心も変わるんじゃ、と優希にいらんことを吹き込んだのだった。

 勿論、まんまるとした優希だって、京太郎にとっては可愛いものでしかない。

 まあ見た目に反してろくに悪いこと出来ないあいつじゃ出来ることはこれくらいか、と苦笑する京太郎。優希は、そんな彼を見上げながら、言った。

 

「予想って……ひょっとして、咲ちゃんと京太郎のことか?」

「……知ってたのか?」

「前に夫婦って言ってたことがあったって、思い出してただけだじぇ……でも……」

 

 過去の面白おかしさに反して、途端につまらなくなる、今。少女の手は迷いに離される。

 京太郎と咲はお似合いだ、と誰かは言っていた。お前たちは凸凹で不似合いだな、と誰かが言っていた。

 どちらが正しいか分からない。果たしてどっちも間違っているのかもしれなかった。

 

 しかし、優希は恋故に迷う。

 私は彼にふさわしくないのではないかと、大好きのために、似合わない苦悩に浸かるのだ。

 

「……本当に、京太郎は私で良かったのか?」

 

 優しい、それだけでなく多くが整った男の子。麻雀の腕はポンコツだが、そこそこ見れるように頑張って来ている今、スキなんてほとんど見当たらない。好きばかりはたくさんあるのに。

 反して、自分は何なんだ。お気楽にも成りきれず、つまらないことでうじうじしてしまう。そんな輝けない花が隣りにあっていいのかと、優希は考えてしまうのだった。

 

「ちんちくりんで、考えが足りなくて、自分勝手……こんな私のどこが……っ」

 

 そう、それこそ咲や和のように大きかったり思慮深かったり、ましてや優しかったら自信が持てたのでは。そう勘違いしながら弱音を吐き出し続けようとした口は、大きな手のひらに頬を包まれたことによって止まった。

 何よりも愛おしそうに、細く細く見つめながら、京太郎は優希にむけて訥々と語る。

 

「可愛らしくて、思い切りがよくて……それで自分勝手なんていうのは嘘だ。なんだ、いいところだらけじゃないか」

「あう……そんなこと……違うじぇ……」

「いや。そんな優希が、俺は好きなんだ」

 

 そう、胸を張って言う京太郎は恋に何一つ後悔なんてしていない。

 それは、異性の幼馴染と距離を空けるようになったことを寂しく思ったり、好みの異性をじっと見つめることを控えるようになったことを残念に感じることだってしばしばある。

 とはいえ、そんなもの秤にかけるまでもなく、どうでもいいと捨てされるものだ。

 

 何しろ、自分の恋で大好きな人が笑ってくれる、そんな面白おかしい今こそが大切なのだから。

 腰を屈めた彼は、彼女にしっかりと目を合わせてから、言う。

 

「信じられないならさ……そんなつまらないこと忘れちまうくらい、ずっと一緒にいようぜ?」

 

 それは、何度目の告白だろうか。結構そこかしこでいちゃついている二人であるからには、中々分からない。

 

 けれども、今回伝わった想いに、ようやく安心できた優希はこの上なく笑顔を開かせて。

 

「あは! そうこなくちゃ、だじぇ!」

 

 面白おかしく過ごす未来のために、再び彼の手を握り返すのだった。

 

次のカップリングは誰がいいでしょうか?

  • 京智葉
  • 京華菜
  • 京宥
  • 京煌
  • ツンデレ

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