アスカを……返せ……!   作:黒猫のハロ

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壱 絆創膏

『一つだけ聞くわ──』

 

 エレベーターの間の抜けた開放音と共に、アスカは開いた扉に背を預けて、腕を組んだ。

 瞳がかたく閉じられる。

 

 そして──

 

『──あのバカをどう思ってるの?』

 

 そう腕を組みながら唐突に口を開いて、綾波レイに問いかけた。

 

『……バカ?』

『バカと言えばバカシンジでしょ』

『……碇くん?』

 

 アスカは不機嫌そうに、青い瞳だけを綾波に向ける。

 

『どうなの?』

『……よく、分からない』

 

 アスカの心が波を立てる。

 言ってしまえば、少しだけ苛立ちが込み上げていた。

 

『ッ……! これだから日本人は! はっきりしなさいよっ!』

 

 ──怒声。

 同時にアスカの左手が壁を叩いた。

 

 アルミの鈍い金属音が木霊する。

 

 その左手の小さな痛みを忘れる頃には──アスカは閉じていくエレベーター背に早足で硬い廊下を歩き出していた。

 

 ──『碇くんと一緒にいるとポカポカする』

 

 アスカの歩みは止まらない。

 

 ──『私も碇君に、ポカポカしてほしい』

 

『……ほんっとつくづくウルトラバカね』

 

 そう一人呟いて、両の手を固く握りしめる。

 

 脳裏に浮かぶのは、綾波レイの手に貼られていた無数の絆創膏。

 

 確信を、持ってしまった。

 

『それって……好きって事じゃん!』

 

 綾波レイの気持が誰に向いているのかを。

 

 そして、──自分自身の気持にも。

 

『……』

 

 アスカは立ち止まり、自らの左手に視線を落とした。

 

 巻かれた二枚の絆創膏。

 

 それはアスカが敗北を認めるには十分な現実だった。

 

 アスカは手料理をシンジにふるまおうと、少し前から料理の練習に励んでいた。絆創膏はその時にできた傷跡であると同時に、努力の結晶でもあった。

 

 しかし、そんな栄誉の傷を負っていたのは、アスカだけでは無かった。

 

 巻かれた絆創膏の数の差──それはつまりは努力の差でもある。

 

『……』

 

 無自覚を、装っていた。

 

 (みずか)らの気持に、自分自身が、気づかぬように。

 

 それもここまでだ。現れた恋敵。

 その出現を確信すると同時に、アスカは気づかないふりを──やめた

 

『……はぁ』

 

 零れるため息。

 

 仄暗い廊下に溶け込むように、アスカの心は重く沈み込んでいく。

 

 ──いつからだろう。碇シンジに心を許したのは。

 

『……ふざけないで』

 

 ──なんで、アイツなの。

 

『……ぜんぶ、ぜんぶ、勝ってるのに』

 

 ──シンクロテストも、エヴァの操縦も。

 

 ぜんぶ、ぜんぶ、私の方が上なのに。

 

 そう何度も自分に問いかける。

 

 けれど、答えは出ない。

 

 そんなにすぐに分かる事であるならば、アスカの抱く気持ちは、きっと『恋』では無かったはずで──

 

『……責任、とりなさいよ……バカシンジ』

 

 誰もいない廊下に、アスカの小さな声が、木霊した。

 




ハーメルン初投稿。
先日、エヴァストアでアスカのアクリルスタンドを購入した際、ふと昔ノートになぐり書いた物語を思い出し、また書きたくなった次第です。

あの頃よりは、もっとうまく書けるかな……と。

■量産型をワンパン■アスカ「キスしよっか?」から始まる物語など、いろいろとありますが、まずは3号機実験から書きたいなと思っております。

書きたくなった時、オリジナルで書いている作品で詰まった時などに、投稿していく次第です。

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