『一つだけ聞くわ──』
エレベーターの間の抜けた開放音と共に、アスカは開いた扉に背を預けて、腕を組んだ。
瞳がかたく閉じられる。
そして──
『──あのバカをどう思ってるの?』
そう腕を組みながら唐突に口を開いて、綾波レイに問いかけた。
『……バカ?』
『バカと言えばバカシンジでしょ』
『……碇くん?』
アスカは不機嫌そうに、青い瞳だけを綾波に向ける。
『どうなの?』
『……よく、分からない』
アスカの心が波を立てる。
言ってしまえば、少しだけ苛立ちが込み上げていた。
『ッ……! これだから日本人は! はっきりしなさいよっ!』
──怒声。
同時にアスカの左手が壁を叩いた。
アルミの鈍い金属音が木霊する。
その左手の小さな痛みを忘れる頃には──アスカは閉じていくエレベーター背に早足で硬い廊下を歩き出していた。
──『碇くんと一緒にいるとポカポカする』
アスカの歩みは止まらない。
──『私も碇君に、ポカポカしてほしい』
『……ほんっとつくづくウルトラバカね』
そう一人呟いて、両の手を固く握りしめる。
脳裏に浮かぶのは、綾波レイの手に貼られていた無数の絆創膏。
確信を、持ってしまった。
『それって……好きって事じゃん!』
綾波レイの気持が誰に向いているのかを。
そして、──自分自身の気持にも。
『……』
アスカは立ち止まり、自らの左手に視線を落とした。
巻かれた二枚の絆創膏。
それはアスカが敗北を認めるには十分な現実だった。
アスカは手料理をシンジにふるまおうと、少し前から料理の練習に励んでいた。絆創膏はその時にできた傷跡であると同時に、努力の結晶でもあった。
しかし、そんな栄誉の傷を負っていたのは、アスカだけでは無かった。
巻かれた絆創膏の数の差──それはつまりは努力の差でもある。
『……』
無自覚を、装っていた。
それもここまでだ。現れた恋敵。
その出現を確信すると同時に、アスカは気づかないふりを──やめた
『……はぁ』
零れるため息。
仄暗い廊下に溶け込むように、アスカの心は重く沈み込んでいく。
──いつからだろう。碇シンジに心を許したのは。
『……ふざけないで』
──なんで、アイツなの。
『……ぜんぶ、ぜんぶ、勝ってるのに』
──シンクロテストも、エヴァの操縦も。
ぜんぶ、ぜんぶ、私の方が上なのに。
そう何度も自分に問いかける。
けれど、答えは出ない。
そんなにすぐに分かる事であるならば、アスカの抱く気持ちは、きっと『恋』では無かったはずで──
『……責任、とりなさいよ……バカシンジ』
誰もいない廊下に、アスカの小さな声が、木霊した。
ハーメルン初投稿。
先日、エヴァストアでアスカのアクリルスタンドを購入した際、ふと昔ノートになぐり書いた物語を思い出し、また書きたくなった次第です。
あの頃よりは、もっとうまく書けるかな……と。
■量産型をワンパン■アスカ「キスしよっか?」から始まる物語など、いろいろとありますが、まずは3号機実験から書きたいなと思っております。
書きたくなった時、オリジナルで書いている作品で詰まった時などに、投稿していく次第です。
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