アスカを……返せ……!   作:黒猫のハロ

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弐 天秤に乗せて

 

 暗い室内でアスカは一人、ベッドに横になりながら携帯の画面をのぞき込んでいた。

 

 ──NERV北米第3支部建造EVA3号機起動実験。

 

 連なる文字に視線を走らせる。

 

 そして、その全てに目を通した時、アスカは小さくため息をついた。

 

「3号機起動実験の日って……えこひいきの約束の日じゃない……」

 

 えこひいき──それは零号機パイロットである綾波レイの事である。

 

 そして約束の日とは綾波が計画している催しの事を指していた。

 碇シンジと、その父親である碇ゲンドウを繋ぐキューピット。その為の食事会。

 

『碇君にも……ぱかぽかしてほしい』

 

 アスカの頭の中で、いつの日かの綾波の声が木霊した。

 

「……」

 

 室内にある卓上スタンドが照らすのは、一枚の手紙。

 そこには筆圧の薄い文字で『2号機パイロット様江』と記されている。

 

 アスカはそれを横目で一度眺めると、静かに瞳を閉じた。

 

 ──パイロットが必要だ。そしてそれは恐らくあたし達の中から選ばれる。

 

(もしもバカシンジが選ばれたら……えこひいきが選ばれたなら、食事会は……無くなる)

 

 黒い感情がアスカの心の中に広がっていく。

 

 小さな敗北感が、アスカにその感情──嫉妬を抱かせていた。

 

 けれど、その感情を切り捨てる程に、アスカのプライドが結論を出した。

 

(選ばれるべきは……あたし。その日、一番いらないのも……)

 

 寂しさがアスカの胸中を満たしていく。

 

「……アイツは……喜ぶのかな……」

 

 その問いに答える者はいない。

 

 ただ、暗闇がそこにあるだけだ。

 

「……」

 

 アスカは自らの左手を頭上に掲げ、そこに巻かれた絆創膏をじっと眺める。

 

 ──覚悟は、決まった。

 

 そんな時だった。

 

「アスカ……起きてる?」

 

「──ッ!」

 

 横開きの扉から鳴るノックの音と共に、頭に思い浮かべていた人物が来訪する。

 

 とっさに布団にくるまるアスカであったが──

 

「……やっぱり寝ちゃってるか」

 

 そんなシンジの呟き声と、遠ざかる足音を聞いて──。

 

「……こんな時間に、なによ」

 

 気づけばベッドの中から飛び起き、自ら扉を開け放っていた。

 

「「……」」

 

 交錯する視線。

 

 この時、夜だった事、そして暗かった事にアスカは感謝していた。

 

 自覚があった。

 

 ──今、きっとあたしの顔は、赤くなっている。

 

 そんな事を思いながら。

 

 そしてそれは事実だった。

 

 少し驚いた様子の碇シンジを、ジト目で睨みつけるアスカの顔は、ほんのりと赤く色づいていた。

 

(落ち着け……落ち着け……アスカ)

 

 そう心の中で何度も自分に言い聞かせるアスカではあったが、その甲斐は無く、高鳴る心音がはっきりと耳の奥で鳴り響く。

 

 ずるいタイミングだった。

 

 自らの恋心を自覚し、そしてその相手の事を第一に考え、自らがパイロットに志願しようとした矢先の事である。

 

(ほんっと……最低)

 

 そう心の中で毒づくアスカではあったが──

 

「? アスカ? なんで笑ってるの?」

 

 そうシンジから問われる程に、14歳の少女の恋心は暴走を始めていた。

 




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