12/1 本文を少し修正。
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―――12月某日。
すっかりと冬の寒さが厳しくなってきて、その日も空は良く晴れていたものの気温は一桁台を更新する寒い日だった。道行く人々も厚手のコートやマフラーで防寒をしっかりとしている。皆一様に吐く息は白く、ぎゅっとコートの裾を掴んで足早に通り過ぎていく人の姿もある。
そんな中、ダイバーネーム・クオン……リアルネーム・
それから数分か、十数分ほどした頃、レイはジャケットに突っ込んでいた手をおもむろに出すと、その手に持っていたスマホの画面をちらりと見る。
「―――すみません、お待たせしました」
自分に話しかけてくる聞きなれた声。顔を上げると、そこにはもこもこの防寒着に身を包んだ、片目が青みがかった黒い前髪で隠れている女性が立っていた。ダイバーネーム・クーコ……リアルネームは
そう、彼女こそがレイの待ち人。今日はクリスマスのプレゼントをレイが敬愛してやまないテンコに贈りたいので、彼女と仲の良いソラに意見を聞きたいと、こうして会う約束をしていたのだった。(ちなみに話を聞いたマギーさんは「あらーん、二人で街角デートをするほどに仲良しになったのね♪」と嬉しそうに言っていた。ちなみにレイは「ちが、そ、そういうのじゃないから……!」と即座に否定した。)
厚手のロングコートに、首元を覆うモフモフのファー、下は寒さ対策かロングスカートという出で立ち。肩からは肩掛け用のひもを付けたバックを提げている。GBNでの改造巫女服と刀のアクセサリー二本を背負った姿を見慣れているためか、リアルでのクーコ……ソラの防寒対策バッチリな服装を見るのは、なんだか新鮮な気分だった。
「大丈夫、私も今来たところだから……」
「はあ、そうですか。そのわりには、10分ほど前からそわそわと落ち着かない様子でしたが……」
スマホをポケットに仕舞って、さあ行こうかという所にソラの発言。歩き出そうとしていた体勢のまま、レイは首を回してソラを見た。ちなみにリアルでは彼女の方が身長が高いため、少し見上げるような形になる。
「……え、まさかあなた、ずっと見てたの……?」
「ええ。私が来るのをまだかまだかと待っている姿は……中々可愛らしかったですよ。クオン」
「あ、あ、あ、あなたねぇぇぇ!?」
口元に手をやって「ふふっ」と上品に笑うソラに、瞬間湯沸かし器の如く何かのゲージが上がるレイ。リアルでの普段の彼女を知っているものがこの場にいれば、あるいは驚きの表情をしたかもしれない。GBNで『クオン』として振舞っている時と違い、レイは
「往来の真ん中で叫び声を上げたりして、はしたないですよクオン。お姉ちゃんは恥ずかしいです」
「誰がお姉ちゃんかー!?」
身長差もあり、傍から見れば二人のやり取りは「仲の良い姉妹」のようにも見えるだろうか。ソラの「お姉ちゃん」発言に、なんだなんだと見ていた周囲の人々は何か微笑ましいものを見るような目になり、各々歩き出す。止まっていた人の流れは再び淀みなく動き出したのである。
「……ふぅ。弄るのはこれくらいにして、そろそろ行きましょうか」
「誰のせいだと……。はあ、もういいわよ。……ん」
「なんです?」
レイが自身の左手を指しだしてきたのを見て、ソラは頭にハテナマークを浮かべる。
「いや、人多いから。あなたが迷子にならないように」
「どちらかと言えば、迷子になるのはあなたの方では?」
「は? なりませんけど? 迷子になんかなりませんけど?」
「……まあいいでしょう」
まったく困ったお人ですね……と呟きながら、ソラは差し出されたレイの手を握る。それから互いの指を絡めて、いわゆる恋人つなぎのようにすると、レイはおもむろに自分のジャケットのポケットにつないだその手を突っ込んだ。
「…………っ」
「どうかした?」
「い、いえ。何も」
「そう?」
あまりにも自然な動き。自分でなければ慌てふためいていたかもしれない。内心の動揺が表情にあまり出ないのをこれ幸いと、レイに連れられてソラも歩きだすのだった。
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「ところでクオン、あなた全身黒ずくめなのは女子としてどうかと思いますが」
「う、うるさいわね……。いいのよこれで。楽だし」
「………………」
「な、なによ」
「いえ……。ただ、言葉のセンスだけでなくファッションセンスも磨いた方がいいかと思いまして」
「は? 喧嘩売ってる?」
「あなたのその、すぐにムキになるところもお姉ちゃんはどうかと思います」
「誰が姉か!?」
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二人がやってきたのは、様々な店舗が軒を連ねる大型複合施設。屋内は暖房が効いているため、ソラは上着を脱いで片腕に持つことにした。ここにあるものを求めてか、あるいは暖を取りにきたのか、人の数はそこそこ多い。
「それで、プレゼントといっても何を買うのか決めているのですか?」
「まだ決まっていないからあなたに意見を聞きたいのだけど……。あなたテンコ様の近くにいるのだから、何かない? テンコ様が欲しそうにしているものとか、これが欲しいなと呟いていたとか」
つまりは実質ノープランということである。後先考えないというか、計画性がないというか、レイはその場の勢いで行動することがしばしばあった。
「……私がテンコ様の欲しているものを知っているとして、それを口にしてしまっては意味がないでしょう。贈り物というものは、誰に何を贈るのか……あれこれと考え、選んでこそです」
「煽りの一つも入れてこないとか、あなた本当にクーコ……?」
「帰ります」
「あ、ごめん! 謝るから、謝るから帰らないでー!」
すん……とした表情(といっても傍目には不愛想なままなので、その些細な違いはよくわからないが)になったソラは踵を返して帰ろうとする。そんな彼女を引き留めようと必死にしがみつくレイ。しかし、案外と力の強いソラに徐々に引きずられていく。
二人の攻防(?)はしばらく続いたのだった……。
………
……
…
「まったく、無駄な体力を使いましたね」
「……誰のせいだと……」
「はい?」
「ナンデモナイデス」
帰ろうとするソラをなんとか引き留めたあと、レイとソラの二人は屋内に設置されているベンチで休憩していた。
「それで、プレゼントですが、まずは定番の洋服でも見に行きましょう。テンコ様に似合うものが見つかるかもしれませんし」
「洋服ね……。わかったわ」
テンコはGBNだと袖の長い、肩と脇の部分が切り抜かれているそこそこ露出度高めの巫女装束っぽい和装を着ている。最近ではレイがGBNで「クオン」として活動をしているチャンネルの、とある配信回後からクーコ(ソラ)を通じて贈られた服を着るようにもなったが、基本は和装である。
リアルでも同じく和装が中心……とは限らないが、衣服を贈るというのは確かにいいアイデアだろう。洋服類を取り扱っている店舗はここの一階にあったはず……とレイは頭の中の見取り図を確認する。
「ん、そうと決まれば早速行きましょうか」
「そうですね。善は急げといいますし」
ベンチから立ち上がり、目的地であるアパレルショップへと向かう。道すがら他にもないかと店先を見て回りつつ、それほど時間もかからずに二人は目的の店舗についた。
「うわあ……すごい品ぞろえ……」
「ふむ。小さめの、いいサイズのものがあればいいのですが」
「ちょっと、いまどこを見ながらいったの?」
ソラの視線が一瞬、膨らみの少ない自身の胸へと向いていたことを、レイは見逃さなかった。スレンダーと言えば聞こえはいいが、背は平均かそれ以下で、なおかつ全体的に引っ掛かりの少ない体……それはレイのコンプレックスの一つでもあった。
「……。まあともかく、何かいいものがないか見て回りましょう」
「あ、ちょっと待ってよ」
素知らぬ顔で入っていくソラ。その後ろ姿を追って、レイも店内に足を踏み入れる。「いらっしゃいませー」という店員の声。
ブランドやサイズによって分けられている衣服。無地や柄ものだけでも結構な種類があり、それらの組み合わせとなるともっと多くなるだろう。こういう店に慣れていないレイは目移りしてしまう。これは思ったよりも時間が掛かりそうだ……そう思っていた矢先、「クオン」と声を掛けられた。振り向くと、両手いっぱいに服を持ったソラが立っていた。
「……なに、それ全部買うの……?」
「いいえ。まずは試着をしてみようかと思いまして」
「試着? したいならすればいいんじゃない? 私は見て回ってるから……」
「これは私のものではありませんよ」
静かに首を振るソラ。そして続けてこう言った。
「試着するのはあなたです。背格好もテンコ様と近しいですし、着せ替えにんぎょ……こほん、試着をするには適任かと思いまして」
「……なにか企んでない?」
「いいえ? なにも」
すっとぼけるソラだが、その瞳の奥には確かに怪しい光が宿っていた。しかし「さあさあ早く試着室へ」と背中を押されて、試着室へと押し込まれていったレイがそれに気づくことはなかったのである。
…
……
………
十数分後。レイはソラの着せ替え人形と化していた。カーディガンとスカート、オーバーオールとしましま模様の服、着物にくノ一装束に……途中からチョイスがおかしくなってきて、最初は「テンコ様に贈るものだし……」とソラが持ってきていた衣服や衣装に着替えていたレイも、さすがに違和感を覚え始めていた。
「ふむ、よくお似合いですよクオン」
「……ねえ、クーコ。くノ一はさすがにおかしくない……?」
「はて、おかしいところなどないと思いますが」
「いやいやいや、おかしいわよね。くノ一装束はさすがに」
「くノ一装束姿のテンコ様、見たくないですか?」
「見たい」
即答だった。
「というわけで次はこれを」
「何がというわけなのよ、何が。ミニミニ(スカート)サンタ服って、それもうコスプレ用のあれでしょ……」
「なにを言っているのですかあなたは? こう見えても普段着ですよ。普段着。ほら、きちんと「こすぷれこーなー」に置いてありますし」
「コスプレコーナーに置いてある服は普段着とは言わないと思うのだけど!?」
「クオン。ミニミニ(スカート)サンタテンコ様、見たくはないですか?」
「見たい」
2回目もまた即答だった。というか、レイの扱い方を心得たソラの掌の上で転がされていた。
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アパレルショップを後にした二人は、財団Bの文字看板がデカデカと掲げられているガンプラショップに来ていた。(洋服は何着か見繕って購入した)
あれこれと考えたものの、結局いいものは思い浮かばず。ならばテンコ様もGBNをプレイしているのだから、ガンプラをプレゼントにしよう、ということでレイとソラの意見は一致したのである。
一昔前であれば、おもちゃ屋の角のコーナーにひっそりと積まれていたであろうガンプラは、GPDやGBNによってその売り場面積が拡大し、いまやガンプラの専門店が大型複合施設に入るほどになっていた。
豊富な種類のガンプラが陳列棚に所狭しと積まれているが、それらは登場作品やグレードごとに分けられているため、どの作品に出てくるこの機体のガンプラがほしいけどごっちゃになっていて見つからない! などということはない。親切!
「さすがは大型店……種類が豊富ですね」
「うん……。これならテンコ様にプレゼントするためのガンプラも見つけられそう」
とりあえず入り口で別れ、それぞれ別のコーナーへと向かう。ソラはSD系のガンプラが置かれているコーナーへ、レイはまずRGやMGといったお値段は張るが組みごたえのあるガンプラのコーナーへ。
……さて、突然ではあるがガンプラにはいくつかのグレードがある。まずはGBNで最も多く使われている1/144スケールの『
次に同じ1/144スケールながら、HGよりもより精密に、よりリアルに、を追求した『
それから『
そして、SD。デフォルメされた二頭身のガンプラであり、1/144キットと比べてもかなり小さい。その小ささ故に装甲が薄く、耐久値はHGのそれに劣ってしまう。また手足が短いために攻撃のリーチが短く、GBNでもこのSDガンプラを好んで使うダイバーは少ない。
しかし、SDガンダムのガンプラは様々な作品展開をしている関係からシリーズが豊富で種類も多く、無改造でも個性を出しやすいという利点があった。故にSDガンダムを愛好するダイバーもまた、個性的なダイバーが多いとも。
ちなみにソラもSDガンダムのカスタム機を使うダイバーである。ならばこそ、SD系コーナーへと一直線に向かったのも自分が得意とするものが故にだろう。
「……うーん、どれもしっくりとこない……」
MGのガンプラをいくつか見ながら、レイはそう呟く。テンコは超然的な雰囲気を持つ人物である。一部では『半神半魔』『
そんなテンコだからこそ、心惹かれている。
そんなテンコだからこそ、何を贈るかで悩む。
作りごたえのあるものならばMGやRGなのだが、HGキットしか存在しないガンプラも多いため、自然と種類の多いHGコーナーへと足が進む。禍々しいデザインが特徴的なアルケー、圧縮した『光』をエネルギーにする『フォトンバッテリー』を搭載しているG-セルフ、かつて使っていたエールストライク、流線型の妖艶なフォルムが目を惹くキュベレイ、ミノフスキークラフトによる単独飛行が可能なペーネロペー……は改造機の『禍津天照』があるか。
あーでもないこーでもないと考えていると、ふとソラのほうが気になった。SD系コーナーに置かれているガンプラも種類が多い。彼女も同じくあれこれと悩んでいるのかもしれない。
「クーコー、そっちはどう? 何かいいものあった?」
ひょこっとSDコーナーを覗き込む。ソラは特売品のワゴンの前に立っていた。見るとそのワゴンには『限定復刻!』『現品限り!』という手書きの文字が躍るファンシーな色合いのPOPが貼られていた。
「……何かいいものでもあった?」
真剣な眼差しをしているソラの横からワゴンを覗くと、SDガンプラのキットが一つ残っていた。現品限り、ということはこれが最後の一個ということなのだろう。
「あなた、これがほしいの?」
「……いえ、そういうわけでは」
顔を見上げるとソラはついっと目を逸らした。そしてこほんっ、と咳払いを一つ。
「それよりも、テンコ様に贈るガンプラは決まったのですか?」
「まだ。これだっていうのが中々見つからなくて……」
「あれこれと考えるから決まらないのですよ。自分の直感を信じるのです」
「……あなた、言ってることが違わない……?」
「はて、何のことやら」
素知らぬ顔でそう言うソラ。訝りながらもそれ以上の追及はせず、SD系ガンプラを見て回ることにする。
「……結構種類あるのね。私もたまには、SDガンダム作ってみようかな……」
「でしたら!」
レイの呟いた言葉を耳聡く聞きつけたソラは、彼女の両手を掴むとぐいっと顔を近づける。表情はいつものとあまり変わらないが、その目の奥にあるギラついた感情は、自身の漬かる沼に新たな同志を引きずり込まんとするオタクのそれだった。
「SDガンダムを組むのであれば、クロスシルエットシリーズ。これは外せません。SDフレームとCSフレーム、この2種類のフレームにより、一つのキットで頭身や可動範囲の違う2つのキットを組めるお得感。また互換性も高く、複数のシリーズキットをミキシングビルドすることで、複雑な改造や加工をせずともオリジナルSDを作ることもできますよ。他のBB戦士といったSDシリーズもいいですが、動かして遊べるという意味ではこちらをお薦めします」
「お、おお……」
普段とは違い、饒舌に語るソラの姿に気圧されるレイ。というか、顔が近い。爛々と輝く瞳には狂気すら感じる。正直言って、ちょっと引いていた。
「……あなたのおススメはわかったから、少し離れて……。近いから」
「え? あっ、これは失礼しました……。私としたことが、つい」
つい先程までの熱の入りようはなんだったのか。そう思うほどに一瞬で冷静さを取り戻したソラの顔が離れる。握っていた手も放し、その場を仕切り直すように咳払いをした。
「こほん。まあ、普段MGなどの大きなガンプラを弄り回しているあなたが、SDシリーズに興味を持つことはいいことです……。小さいもの同士、よくお似合いかと」
「一言多いのよあなた……」
………
……
…
なんやかんやあり、テンコへの贈り物として『SDガンダムBB戦士ガンダムレギルス』を購入したレイ。買い物を終え、電車で帰るというソラを見送るために駅の改札前までやってきていた。
「今日はありがとう、クーコ。おかげでいい買い物ができた」
「いえ、暇だったので……。それに、思わぬところでSDガンダムの布教ができたのは僥倖でした」
あれを布教活動と言うのだろうか、と思いはしたがあえて口には出さなかった。実際ソラの熱弁により、SDガンダムのキットを(自分用に)いくつか買ったのだし。
電車の時間が迫り「それでは、またGBNで」と踵を返したソラの背中に「ちょっと待って」と声をかける。振り向いた彼女に、何か箱のようなものが入ったビニール袋を差し出す。
「……? これ、は……」
「あなたが欲しそうに見ていたからね。ついでにね、ついで」
その中に入っていたのは、ワゴンの前でソラが見つめていた限定復刻のSDガンダムのキット。ついでと言ってはいるが、ライバルへと贈る少し早めのクリスマスプレゼントといったところか。
「クオン」
「なに?」
「……少し、お耳を拝借」
そう言ってすすす、と近づきレイの耳元へと口を近づけるソラ。そして、周囲には聞こえないような音量で囁く。
「ありがとうございます。今日のデートは楽しかったですよ、レイ」
「んなっ!? な、な、な……」
言うだけ言うと、ソラはそそくさと改札へと向かって行ってしまう。ショックで固まっていたレイが再起動した頃には、当人は既におらず。
「なん、なんなのよ、あの女……!」
やり場のない感情の叫び声が、12月の冬空に響き渡るのだった。
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作中12月の話を11月末に・・・数日くらいは誤差ですわよねセバスチャン!
クーコこと
バトローグ
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GPD配信(キリシマホビーショップ)
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クオンVSクーコ
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クオンVS首無し
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グランダイブチャレンジ(E・D)
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ロータスチャレンジ(E・D)
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激闘!SDガンダムタッグバトル!