―――愛しい人よ、どうか最後まで。
―――その『願い』が、どれほど残酷なのだとしても。
GBN断片:サイドダイバーズ/クオン編【久遠】1/5
◆◆◆
◇◇◇
◆◆◆
もう声を聴くことはできない。もう温もりを感じることはできない。もう鼓動の音に安息を感じることはできない。
彼女は、いなくなったから。遠い遠い場所へと旅立って逝ってしまったから。
彼女は、
………
……
…
穏やかな昼下がり。開け放たれた窓からそよ風が室内へと入り込み、僅かにカーテンを揺らす。白く、清潔なその部屋には窓際に大きなベッドが置かれ、天井に取り付けられたレールから仕切り用の布が吊り下がっている。そこは市内にある、とある総合病院の一室だった。
ぺらり、と紙を繰る音が鳴った。ベッドの上で、寝間着姿の、青みがかった黒髪の少女が手元の本へと視線を落としている。黒味を帯びた赤い瞳が文字を追って僅かに動き、細い指先が読み終えたページをぺらりとめくった。
遠くから「こらー、廊下を走るなー!」「えへっ、ごめんなさーい!」という声が聞こえてきて、少女は読んでいた本から視線を上げて閉じたドアの方へと向けた。それからほどなくしてトタタタ……という足音が聞こえてきて、ドアの前で止まると、勢いよくドアが開かれた。そこにいたのは、青みがかった銀髪の少女だった。
「久遠! 来たよ!」
「ああ。来るのはいいけど、姉さん。廊下は走ってはいけないよ」
「えへへ、早く久遠に会いたくて!」
「そうか。なら仕方ないな」
そう言って黒髪の少女は……
とくん、とくん、と命の音が聞こえる。それは妹の、久遠の心臓が動いている何よりの証明である。自分の体を抱き寄せて、優しく髪を撫でる温もりは安らぎを感じさせる。零と久遠、この世にたった二人だけの姉妹の、それは互いの存在を確かめるためのある種義式めいた行為。数分か、数十分か、二人だけの時間は緩やかに過ぎていき、やがてどちらともなく離れて『確認』は終わりを告げた。
「えへへ、久遠分チャージ完了ってね」
「私も姉さん分を存分に補充したよ」
にへら、と緩い笑みを浮かべる零。そんな姉を愛おしく思いながら久遠もまた口元に微笑を浮かべる。
「それで、今日は何か持ってきたようだが、何を持ってきたんだ?」
「あ、そうだったそうだった! これ、一緒に作ろうと思って!」
「これは……」
零ががさごそとビニール袋から取り出したのは、白い人型ロボットが描かれた箱。久遠はそれを見たことがある。それは『ガンダム』と呼ばれるもので、その箱絵に描かれているのは『RX-0ユニコーンガンダム(デストロイモード)』。ユニコーンモードとデストロイモードと呼ばれる二つの形態を持つ白き可能性の獣だった。
「えいちじーゆにこーんがんだむ! ほら、久遠が前に見てたアニメに出てたやつ! ガンプラが売ってたから買っちゃった」
「……だが、私は道具を持っていないぞ? ガンプラは組み立てるのに、道具が必要ではなかったか?」
「ふふーん。そういうと思って、ニッパーも買っておいたのです! ……といっても、安いものだけどねー……」
さらに袋から、グリップが白と黒のニッパーを二つ取り出して片方を久遠に渡す。安物だと零はいったが、ニッパーに詳しくない久遠からすれば、とりあえずガンプラを組むのならこれでも十分に思えた。
零はベッドテーブルを出すと、その上で箱を開ける。中には説明書と共に白や赤、グレーといった色分けされたいくつもランナーが収まっており、さらには各ランナーごとに小分けに包装されている。
「それじゃあ、早速組んじゃおう」
「ああ」
一つの説明書を二人で見ながら、これまた一つのガンプラを組み上げる。ガンプラを組む時の基本に則って、ぱちん、ぱちんとパーツは二度切り。病室であるため、ランナーの切れ端が飛ばないように注意しつつパーツを切り取る。
ガンダムには手と足が二本ずつある。普段であれば単純に同じものを二個ずつ作る労力が発生するために「なぜ手足は二つあるのか」と、哲学的なようでそうでもないような疑問が湧き出ることもしばしば。しかし今は、同じものが二つ分あることを嬉しく思う。なぜならその作業を姉妹で分け合えるから。同じことを零と久遠でできるから。二人なら作業量は半分こなのだ。
もちろん胴体や、頭部といった一つしかない部分を組む時にはそうもいかないが、それでも二人で同じものを作っているこの時間は、何よりも掛け替えのないもので。黙々と作業を続けて、最後に付属していたシールをぺたりと張り付ければ、純白の装甲の隙間から赤く輝くフレームが覗く可能性の獣は、夜ノ森姉妹のユニコーンガンダムは出来上がったのである。
……よくよく見れば所々のゲート痕は残っているし、シールも少し歪んでいるが、使った道具がニッパーだけの、いわゆる素組となれば十分な出来栄えだと言える。
出来上がったそれを前に、零は「おー」と感激したように声を上げた。それから濃い藍色の瞳を輝かせながらユニコーンを手に取って、手足を動かしたり軽くポージングを取らせたりする。
そんな姉の姿に、久遠は柔らかな笑みを浮かべると、そっと零の青みがかった銀髪を右手で梳くようにして撫ぜる。
「……姉さんはかわいいな」
「うゅ? 何か言った?」
「いやなに、姉さんは小さくてかわいいなと思っただけさ」
「小さいは余計なんですけど。すぐに久遠を追い越すから今に見てて」
「そのために牛乳飲んでるし!」とふんす、と鼻息を荒くし薄い胸を張る零。それがまた見た目相応に子どもっぽくて。やれやれ、どちらが姉なんだかわからないな……という言葉は、そっと胸の中に仕舞い込む。
「……って、もうこんな時間! そろそろ帰らないと」
「もうそんな時間か。ガンプラを組んでいたからあっという間だったな」
「今日はあんまり話せなかったけど、久遠と一緒にガンプラを組めたのは楽しかった。また来るね、久遠」
「ああ。気をつけて帰るんだぞ? 知らない人にほいほいついていったりしてはダメだぞ?」
「子どもか! ……えへへ、それじゃまたね!」
来た時と同じように慌ただしく病室を飛び出していく零。またも廊下から「こらー! 廊下は走るなー!」という声が聞こえてきて、久遠は思わず苦笑する。そして、そんな姉と入れ替わるように白衣を着た男性が入ってきた。
「君のお姉さんは、今日も元気のようだ」
「……ファリド先生」
その男性は、久遠の担当医であるファリド。金髪に青い瞳の整った顔立ちをしており、同僚のボードウィンと並んで女性看護師たちからの人気が高い。
「久遠くん。君のお姉さんには、あのことを伝えなくても本当にいいのかい?」
「……はい。姉さんには、最後まで笑顔でいてほしいので……」
「そうか。ならば私も、君の意思を尊重しよう」
だがそれは……続く言葉ごと噛み砕いて飲み込んで、ファリドは診察を始めるのだった……。
◆◆◆
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【夜ノ森零】
おねーちゃんなんですけど! ちっちゃくてかわいい久遠の姉。背で妹に負けているため、毎日牛乳を飲んでいる。
【夜ノ森久遠】
妹。おねーちゃんである零が大好き。
【ファリド先生】
金髪碧眼のイケメン。女性看護師に人気。爆ぜろ。後にとあるガンダムと運命的な出会いをする男。300年だ・・・。
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