【跡地】GBN総合掲示板   作:青いカンテラ

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1話2000~3000字(字数オーバー)。タイトルに『断片』とある通り、これは切れ端のお話。



―――ガンプラの声を聞く。
―――それはかみさまから貰った、特別な才能(ちから)


GBN断片:サイドダイバーズ/クオン編【ガンプラの声】2/5

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 付喪神(つくもがみ)というものがある。長い長い時間を掛けて、人の情念が篭もった物にはいつしか命が宿るという考え方である。人を惑わす精霊や妖怪変化になるという話もあるが、それはさておき。

 

 夜ノ森(ヨノモリ)久遠(クオン)は、そういった『物に宿る想い』を感じ取る不思議な感性の持ち主だった。人が想いを、願いを込めて作った物には、その想いが宿り心となる。久遠はそういった物の声なき声を、幼い自分から感じ取ることができた。だがそれは同時に、彼女を孤独にさせる才能(ちから)でもあった。

 

 人間は、自分たちと違うものを恐れ、拒む。それはもちろん、幼い子供たちの小さなコミュニティとて例外ではなく。自分たちが感じ取れないものを感じ、聞こえない声を聞く久遠の行動は、言葉は、とても不気味に映ったのである。

 

 病弱で部屋にこもりがちだったことも、それに拍車をかけた。いつしか久遠の周囲には誰もいなくなった。ただ、一人を除いて。

 

 ………

 ……

 …

 

 白く清潔な病室。市内にあるとある総合病院の一室で、寝間着姿の久遠はベッドの上で本ではなく、白い人型のロボットのプラモデルを手にしていた。それは先日、姉の零と一緒に作り上げたガンプラ……RX-0ユニコーンガンダム(デストロイモード)。144分の1スケールのそのキットを、久遠は壊さないように優しい手つきで手入れをする。

 

 ―――ありがとう。

 ―――大切にしてくれて。

 ―――僕を作ってくれて。

 

 声なき声が聞こえる。それは明確な『声』として耳朶を振るわせるものではなく。ただ頭の中に、こう言っているのだと言葉が浮かび上がるような、あるいは静かな声が響くような、そんな感覚だった。

 

 昔は、この才能(ちから)がキライだった。人に忌み嫌われ、気味悪がられる原因になっていたこの才能(ちから)が。あるいは彼女が一人っ子だったなら、ずっとキライなままだったかもしれない。けれど、いまは、少しだけ好きになれた。彼女は人の輪からは外れていたけれど、決して独りではなかったから。

 

 姉が、夜ノ森零が傍にいたから。

 

 他の誰でもない、双子の姉が、受け入れてくれたから。

 

 双子と言っても、彼女たちの場合はいわゆる一卵性双生児ではなく、二卵性双生児だった。一つの受精卵ではなく二つの受精卵から生まれた二人は顔立ちこそ似ているが、髪の色も瞳の色も違っている。そして発育の方も久遠のが方がよかったり……というのはさておき。

 

 妹が不思議な感性の持ち主故にコミュニティから弾かれたのなら、姉は日本人らしからぬ容姿と、髪と瞳の色が故にコミュニティから外れた。両親が混血の双子……ここでは二卵性双生児のことである……は稀に、異なる人種特徴を持って生まれることがあるのだという。零と久遠の姉妹の場合は、父親がクォーターであり、母親がハーフだった。そして零は母親の血を色濃く、久遠は父の血を色濃く受け継いでいた。

 

 混血。違う人種と人種の血が混ざったもの。どっちつかず。人は自分たちとは違うものを恐れ、拒む。肌の色が違うから、髪の色が違うから、人種が違うから……それらは些細な違いかもしれない。しかし、その違いが故に人は人をつま弾きにし、遠ざける。

 

 そうやってコミュニティから弾き出されたもの同士、そして姉妹という確かな血の繋がりがあったからか、いつしか零と久遠はお互いを自身の半身として、心の大部分を占める存在として絆を深めていったのである。

 

 零が久遠を受け入れたように、久遠も零を受け入れた。そうやってお互いの心の隙間を埋め合って、確かにそこに『在る』のだと確認をしあって。

 

 そうして今日も、零はやってくる。慌ただしく足音をさせながら、限られた時間の中で少しでも長く久遠の傍に居たいと夜ノ森零(おねーちゃん)はやってくるのだった。

 

「久遠! また来たよ!」

「ああ。来てくれて嬉しいよ、姉さん。けれど病院の廊下を走ってはいけないよ。危ないからね」

 

 いつものようにガララ! とドアを開けて病室に飛び込んできた()を迎え入れる。広げた両手の中に、腕の中にすっぽりと納まる零の青みがかった銀髪を手櫛で梳くように撫ぜながら、久遠は優しい声音で小さな子供に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。

 

「えー、のんびりしてたら時間なくなっちゃうじゃん」

「急いでやってきて、姉さんが怪我でもしたら大変だからな。姉さんも、もし怪我なんかをして私と会える時間が減ったらイヤだろう?」

「う、それは、確かにイヤだけど……」

「そうだろう? 私もイヤだ。だから、慌てず急がずに、な」

「……なんか、久遠がおねーちゃんみたい……」

「まさか。私のおねーちゃんはこの世に一人だけさ」

 

 ふっ、と柔らかな微笑みを口元に浮かばせて。久遠は自身の心音を聞いている、大好きなおねーちゃんの小さな体を抱きしめる。そんな姉妹の穏やかな時間を、サイドテーブルに飾られている希望の象徴たる白い可能性の獣は、ただ静かに見守るのだった。

 

 ◆◆◆

 ◇◇◇

 ◆◆◆

 

 ガンプラには心が宿る。作り手の想いや、願いが、ガンプラに込められることで、それは確かな『心』となるのだ。付喪神のように、何かしら不可思議なことを起こすわけではない。それでも、そこに在る想いは本物なのだと久遠はそう思っている。

 

 そして、ガンプラに宿る心は必ずしも同じにはなりえない。人がそれぞれに人格や個性や特徴を持つように。ガンプラもまた、その心のままに求めるものは違ってくる。

 

 久遠のベッドの横に置かれているサイドテーブル。そこに飾られている白いガンプラ、ユニコーンガンダムは穏やかな気質の持ち主だ。日の光を浴び、そよ風に身を任せ、手入れをすると嬉しそうにする。デストロイモードという物騒な名称の形態ながら、戦いとは無縁なこの場所にいるユニコーンガンダムはただ穏やかにそこに在った。

 

 ―――戦わせろ!

 ―――俺を戦わせろ!

 

 力強く血気盛んな、例えるならやんちゃ坊主のような声で、そのガンプラはそう主張する。久遠の手元にあるのは、両肩に4枚の大型可変翼を備える白と青のガンダム。『ガンダムAGE-2』……アニメ『機動戦士ガンダムAGE』の第2部に登場する可変MSであり、零が作って持ってきたガンプラでもある。

 

「どう? えいじつー、何か言ってる?」

「うん。この子は、AGE2はバトルがしたいみたいだ」

「バトル……?」

 

 久遠から返されたAGE-2を手に、零は小首を傾げる。バトル。そう聞いてまず浮かんだのは、プラモデルやソフビ人形などを手に持ってセリフや効果音を口で言いながら戦わせる、いわゆるブンドドという遊び方だった。

 

 AGE-2が自身を手に持って、バンバーンとかギュンギューンとか言って、遊ぶことを求めているというのもおかしな話ではあるが。とはいえ久遠が、AGE-2がそう望んでいるのだと言うのであれば……。

 

「……なにやらおかしな方向に考えているようだけど、彼が求めているものはガンプラバトルの方だろうね」

「がんぷらばとる? えーと、じーぴーでゅえる、だっけ?」

「うん。たぶん、そう」

 

 零の言葉に、久遠はゆっくりと首肯する。ガンプラバトル。俗にGPDまたはGPデュエルとも呼ばれるそれは、専用のバトルシステムにガンプラをセットし、実際に戦わせるいま巷で大流行している()()だった。

 

 遊びとはいっても、その影響力は意外と馬鹿にできない。なぜならば、実際のガンプラを持ち寄って戦わせるGPDは、地方のガンプラショップが開催している比較的小さな規模の大会から、全国さらには世界規模のバトル大会まで行われているのだから。

 

 元は一部の大人達が楽しむものだったが、版元である財団B、そしてガンプラバトルの発展と普及に尽力してきた旧・八島商事改め八島財閥の努力もあり、いまやGPDは大人から子供まで楽しめる一大コンテンツにまでなっていた。

 

 ―――俺を戦わせろ!

 ―――強いやつと戦いてぇ!

 

 零の組み上げたAGE-2の声が、久遠の頭に響く。小さな姉の手の中にあっても、ひたすらに戦いを求めるその声は止まることはない。どこか優しさを感じさせるユニコーンとは逆に、このAGE-2に宿る心には熱い闘志が漲っている。

 

 『ガンプラバトルには国も、人種も、性別も、関係ない。ただそこにガンプラを愛する心と、熱きガンプラバトルへの闘志があればいい』とは誰の言葉だったか。零は混血であるが故に、髪や瞳の色が他の人とは違うが故に、つま弾きにされた。いまでこそただ一人の妹である自分を寄る辺にしているが、このまま()()()()を迎えれば、寄る辺を失った姉はきっと潰れてしまうだろう。

 

 ならばこそ、必要なのだ。自分がいなくなった後にも、姉を支えるための()()が。寝間着の胸元をぎゅっと握りしめて、久遠は独りそう決心する。残された時間があとどれほどかはわからない。けれど、けれども、もう少しだけ……。

 

「久遠……?」

「っ、ああ、すまない姉さん。少し、考え事をしていた」

 

 不安そうな姉の声と、自らの頬に伸ばされた手の感触で、久遠は暗い思考の海より浮上する。それから安心させるように微笑んで、零の頭を自分の胸へと抱き寄せる。

 

「……姉さん。GPDを始めてみないか」

「じーぴーでぃーを? でも、あれって戦ったらガンプラが壊れちゃうじゃん」

「確かにそうだな……。けど、姉さんのAGE2はバトルを望んでいる。それに、壊れたのなら何度だって直せばいい、とガンプラバトルのすごい人も言っていた」

 

 壊れたのなら何度だって直せばいい、とはとあるレジェンドビルダーにして、後にレジェンドファイターの一人として名を連ねる人物の言葉である。GPDはその性質上バトルを行えばガンプラが傷つき、壊れる。それでもファイターたちは、あるいはビルダーたちは、壊れたガンプラを修理して、強化して、次のバトルへと赴くのだ。己のガンプラが一番強いのだと、己がガンプラを一番うまく扱えるのだと、そう声高に叫んで拳を天高くつき上げ、証明するために。

 

「もちろん無理にとは言わないさ。けど、少なくともAGE2はガンプラバトルをしたがっている。自分の強さをみんなに見せつけてやりたいと、そう言っている」

 

 抱き寄せた姉の、青みがかった銀髪を撫ぜながら、久遠は「何が無理強いはしないだ。AGE-2をダシにして、GPDを始めろと言っているようなものではないか……」と自嘲する。だがしかし、零の手の中にあるAGE-2がバトルを求めているのも確かで、そしてあわよくばガンプラバトルを通じての出会いが、あるいはガンプラバトルが姉の心の新たな支柱と成ればとも思っている。

 

「んー……。わかった。久遠が言うなら、このえいじつーと一緒にじーぴーでぃーやってみる」

「そうか。負けても泣くんじゃないぞ?」

「なーきーまーせーんー! もう、久遠はいっつも子ども扱いして」

 

 つーん、と唇を尖らせるその姿はまさしく見た目相応に子どもっぽいのだが、久遠は何も言わず苦笑を零すにとどめる。

 

「っと、もう時間が来ちゃった……。それじゃあ、またね久遠」

「ああ。また今度」

 

 「せんかほーこくを期待せよ!」と笑いながらそう言って、零は病室を後にする。それを見送った久遠は、ベッドに横になるのだった。

 

 かくして、後に銀の弾丸(シルバーバレット)の名でGPDの空を駆けることになるガンダムは、小さくとも確かな産声を上げたのである。

 

 ◆◆◆

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【夜ノ森零】
 ちっちゃいおねーちゃん。子ども扱いすると怒る。

【夜ノ森久遠】
 でっかいいもーと。おねーちゃんを子ども扱いするし、ガンプラの声を聞ける。

【ガンダムAGE-2】
 アニメ『機動戦士ガンダムAGE』第2部の主役機。4枚の可変翼を持つ可変MS。俺よりつえーやつに会いに行く。

バトローグ

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