【跡地】GBN総合掲示板   作:青いカンテラ

16 / 49
1話2000~3000字(字数オーバー)。タイトルに『断片』とある通り、これは切れ端のお話。



―――アングレカムの花。
―――それは祈り。それは願い。いつまでもあなたと……。


GBN断片:サイドダイバーズ/クオン編【銀の祈り】4/5

 ◆◆◆

 ◇◇◇

 ◆◆◆

 

 本当は気づいていた。

 けれど、気づかないふりをしていた。

 

 久遠と一緒にいられる時間が、もうそれほど残されていないことに。

 久遠が生きられる時間が、もうほとんど残っていないことに。

 

 けれどわたしはおねーちゃんだから。久遠のおねーちゃんだから。

 胸の奥を刺す痛みから目を逸らして、いつか必ず来る別れへの恐れにふたをして。

 

 気づかないふりをした。

 見えないふりをした。

 

 そうして感情を押し込めて。

 わたしは明るいおねーちゃんとしての仮面を被る。

 

 久遠に心配かけたくなかったから。

 久遠を心配させたくなかったから。

 

 不安と恐れを出さないように。

 不安と恐れを見せないように。

 

 せめて久遠の前でだけは……。

 わたしは、わたしは……。

 

 ◆◆◆

 ◇◇◇

 ◆◆◆

 

「もったいないですわねえ」

「……な、なにが?」

 

 昼下がりのカフェテラス。そこでは零とエヴァンジェの二人が午後のティータイムをしていた。

 アイスティーをストローでちびちびと飲んでいた零は、ふとこぼれたエヴァンジェの呟きで視線を上げる。北欧はヨーロッパ出身だという彼女は、日本人離れした整ったプロポーションの持ち主だった。今も形の良い細い眉を八の字にし、切れ長のアイスブルーの瞳を悩まし気に潤ませている。それだけでも絵になるのだから、美人というものはズルい。

 

「いえ、せっかくお奇麗ですのに、帽子や眼鏡で隠しているのはもったいないと思いましたの」

「っ……。奇麗なんかじゃ、ないよ」

 

 心の傷跡に無遠慮に触れたような気がして、零は表情を歪ませて俯いてしまう。自分の見た目は好きになれない。ハーフである母親の血を色濃く受け継いでいる零は、その容姿もさることながら髪や瞳の色も、他の子どもたちとは違っていた。みんなは黒い髪なのに一人だけ老人のような白髪で、みんなは黒っぽい瞳なのに一人だけ青い瞳で。ただそれだけ、たったそれだけのことで子ども同士の小さなコミュニティからつま弾きにされてきた零は、自分の見た目がイヤでイヤでしょうがなかった。

 

 今だって、大きめの帽子にまとめた髪を隠して、色付きの眼鏡を掛けることで瞳の色をわからなくしている。妹の久遠には「キレイだ」と褒められるし、そう言ってくれることは嬉しい。けれどもいまだに、幼い頃に受けた言葉の刃は零の心に突き刺さって、目に見えない透明な血を流し続けている。

 

 そんな零の様子に何かを察してか、エヴァンジェは慌てたように謝罪の言葉を口にする。

 

「あ、ご、ごめんなさいですわレイさん。わたくし、何かレイさんを傷つけるようなことを……」

「……ううん。いいよ。大丈夫……。えへへ、ここのアイスティー美味しいね」

 

 そう言って、無理矢理に感情を押し込めて。零は笑顔を作って見せる。けれどそれはどう見ても無理をしているとわかるもので。エヴァンジェは彼女に、日本に来て初めてできたライバル(友人)にそんな顔をさせた自分の言葉を悔いた。

 人は誰しも心に傷跡を、痛みを抱えて生きている。傍から見れば本当に些細なことでも、本人にとっては触れられたくないものであったりする。人と人が分かり合うのは難しい。言葉にしなければわからない。けれども言葉にすれば傷つけてしまう。だがそれでも、傷つくことを恐れて、傷つけることを恐れてしり込みし、足踏みをしていても前には進めないのもまた確かで。

 

 だからこそ、失敗したのならそれを反省し次に活かせば良い。同じ失敗をしないように心に刻めばいい。うじうじしていてもドーにもならない。ならばしゃらくせぇですわ! と行く手を阻む壁も、山も、惑星だって何のこれしきと突き貫いて突き進む。それがエヴァンジェ・ホロウという少女の在り方だった。

 

「そうですわ! 悩むのなど夜のベッドの中ですればいいだけのこと! レイさん!」

「ふぇっ!?」

 

 大声で名前を呼ばれ、零がびくりと体を跳ねさせる。そんな彼女の手を取って、エヴァンジェは快活に笑うのだ。

 

「行きますわよレイさん!」

「い、行くって、どこに?」

「モチのロン、ガンダムベースにですわっ! ガンプラバトルでスカッと気分を切り替えましょう!」

「えっ、ちょ、ちょっと待って」

 

 あーっはっはっはっ! と高笑いをしながら、零の手を引いてずんずんと前を行くエヴァンジェ。彼女の行動は多少強引かもしれないが、零はその強引さがキライではなかった。

 

 エヴァンジェに連れられて行く零の口元には、小さくともはっきりと笑みが浮かんでいた。

 

 ………

 ……

 …

 

「たのもー! ですわ!」

「お、おぉ……いらっしゃいませ。今日はどういったご用け」

「GPDは空いてますの?」

「えっ、あ、はい。2番の筐体が空いてますが」

「よろしい! それではありがたく使わせていただきますわね! あーっはっはっはっ!」

 

 ガンダムベース・シーサイド店に乗り込んだエヴァンジェは、まっすぐにインフォメーションカウンターへと向かう。そこでレンタル用のガンプラを手入れしていた店員は彼女の勢いに飲まれ、ぽかんとした表情のままエヴァンジェと、その後ろをついていく零の二つの背中を見送ったのだった。

 

 そしていつの間にかやってきていたマツムラ店長は、眩しいものを見るように目を細めて呟く。

 

「……これが若さか」

「店長何言ってんです?」

 

 2番の筐体に着くと、いつかのようにエヴァンジェがプレイヤー1側、零が反対側のプレイヤー2にそれぞれのガンプラをセットした。

 

 英語のシステム音声が鳴り、セットされたガンプラがスキャンされて行くのと同時にプラネットコーティングが施される。

 

「エヴァンジェ・ホロウ。ギャン・ランサーVerⅡ、目標を貫きましてよ!」

「夜ノ森零……。ガンダムAGE-2リペアード、行きます」

 

 前回とは違い、黒系の塗装がなされたギャン・ランサーVerⅡと、修理に使った特務隊仕様に合わせてボディは白、胸の「A」のマークは逆に赤く塗装されたガンダムAGE-2リペアードの瞳がそれぞれ輝き、シミュレーション空間へと打ち出される。

 

 バトルフィールドは初めて戦った時と同じく宇宙。どこまでも広がる漆黒の空間に、遠く星々が煌めいて見える。

 

「さて、エヴァンジェはどこから……」

 

 溺れている、とエヴァンジェに評された機体制御も、あれから随分と上達した。細かい操作で機体を安定させながらも、油断なく周囲を警戒する。

 

≪あーっはっはっはっ! 行きますわよレイさん!≫

 

 赤い光の尾を引きながら、漆黒の宇宙を切り裂いて飛行する一機のMS。主兵装だったGNランスをGN粒子対応に改造したショットランサーに持ち替え、機体もまたクロスボーン・バンガードの『黒の部隊(ブラック・バンガード)』をイメージした黒系に染め上げたギャン・クリーガーのカスタム機……エヴァンジェのギャン・ランサーVerⅡが背中のGNドライヴ[T]から赤い粒子をまき散らしながら高速で接近してくる。

 

 彼女の戦法は高速で接近してのランスによる刺突。単純明快ではあるが、だからこそ速く鋭い一撃は、油断などすれば一息で胴体に穴をあけられる。彼女の戦い方を見て「ただの突撃お嬢様か」と慢心して一撃のもとに屠られたファイターを何人も見た。初陣で彼女相手に勝ち星をあげられたのは、本当に、奇跡と言ってもいいだろう。

 

 ぺろり、と唇を舐める。油断せずに、赤い魔槍から黒のそれへと持ち替えたギャン・ランサーVerⅡを見つめる。お互いに手の内は知れている。ならばあとは技量と勝負運がものを言う。

 

「……行こう、ガンダムAGE-2リペアード」

 

 零の言葉に応えるように、ツインアイが力強く輝いた。

 

 ◆◆◆

 ◇◇◇

 ◆◆◆

 

 エヴァンジェとの幾度目かのガンプラバトルをしてから数日後。

 零の姿は、市内にある総合病院の中庭にあった。そこに設置されているベンチで、寝間着にカーディガンという病院の敷地内ならではの恰好の久遠に、零はGPDを始めてから恒例となっているせんかほーこくをしていた。

 

「―――っていう感じでね! じーぴーでぃーだと必須の、ビーム対策のしかたを教えてくれて助かっちゃった!」

「そうか。姉さんはGPDを楽しんでいるんだな」

「うん! えへへ、人前に出るのは、まだちょっと怖いけど……ガンプラバトルをしているときは、怖くないし。何より強い人とバトルするのはすっごく楽しい!」

 

 ―――俺はもっと強くなる。

 ―――もっともっと強いやつと戦いてぇ。

 

 笑顔でそう語る零と、彼女の手元にある特務隊仕様と同じ白いAGE-2から聞こえてくる声。それらにふっと笑みをこぼして、久遠は外ということで銀髪を帽子の中に隠している零の頭を抱き寄せる。

 

「……久遠?」

「姉さんが楽しそうなら、私も嬉しいよ」

「そう? よかった」

「ああ」

 

 その心臓の鼓動を確かめるように、まだその時が来ていないことを確かめるように、久遠の胸元に頬をすり寄せる零。そんな姉の姿を慈しむように久遠もまた頬を寄せて抱きしめる力を強める。

 

 姉妹の他には人の姿のない中庭に風が吹き抜けた。日陰を作る目的で植えられている木々の葉が揺れてざわざわと音を立てる。大丈夫。零はGPDを、ガンプラバトルを通じて確かな繋がりができた。それはまだ小さく細いかもしれないけれど、エヴァンジェの、初めてできた友達の話をするときの零はとても楽しそうで。

 

 やはりGPDを始めてよかったのだと、久遠はそう確信する。過去のイヤな経験から友達はおらず、話すことと言えば久遠やガンプラだった姉が、いまは別の誰かの名前を口にする。そのことに一抹の寂しさと言い知れぬ感情が胸の奥をちくりと刺す。けれど久遠はそれらを表に出すことはなかった。少しの寂しさと痛みにふたをして、心の奥深くへと封じ込めて、見ないふりをする。

 

 これでいい。

 それでいい。

 

 私はもうすぐ旅立ってしまうから。夜毎に見る悪夢が無くなったとてわかるのだ。死神の足音が近づいてきていることが。残された時間は本当に少ないことが。出来ることならば零と、大好きなおねーちゃんと、ずっと一緒にいたい。一緒にガンプラを作って、アニメを見て、感想を言い合って、触れあって……けれどそれは、叶わぬ願い。

 

 いくら強く望んだところで、死神は待ってはくれない。奇跡は二度は起こらない。わかっている。わかっているからこそ、思わずにはいられない。願わずにはいられない。この穏やかな時間が、永遠に続けばいいのに……と。

 

「―――姉さん」

「なに?」

「実はな、姉さんに渡したいものがあるんだ」

「渡したいもの……? え、これって……」

 

 いつまでそうしていただろう。数分か、数十分か。どちらともなく離れて、それから久遠は思い出したように、カーディガンのポケットから二つの小さな細長い銃のようなパーツを取り出した。

 

 それを見た零は、驚きに目を丸くする。なぜならそれは、ガンプラの武装パーツだったからだ。

 

「久遠、これ……」

「この病院にたまたま来ていた、コウサカという人に手伝ってもらってな。私はガンプラバトルはできないが、ガンプラを作ることはできるからな。少しでも姉さんの力になりたいと思ったんだ」

「……そっか。ありがとう久遠。これ、大事にするね」

 

 久遠から受け取ったガンプラのパーツをそっと握りしめて、零はにへらっと緩やかな笑顔を見せる。ああ、その笑顔を見られるだけで。あなたが嬉しそうにしているだけで。すべてが報われるのです。

 

「うん……。姉さんが喜んでくれたのなら、私も苦労したかいが……げほっ、ごほっ……!」

「く、久遠!?」

 

 急に咳き込んだ久遠に驚いて、零が叫ぶ。ごほっごほっ、と咳き込む彼女の顔を心配そうに覗き込みながら、背中を手でさする。

 

「……すまない、姉さん……。先生を、ファリド先生を呼んできて、くれないか……」

「先生を?」

「ああ……」

「わ、わかった。久遠はここにいてね。動いちゃダメだからね? すぐ戻ってくるから待ってて!」

 

 ぱたぱたと走って中庭から病院内へと駆けていく小さな姉を見送り、久遠は口を押えていた手を離してじっと見る。そこにはぬるりとした感触の、赤い液体がべったりとついていた。

 

「……もう少しだけ、もう少しだけ持ってくれ……」

 

 どこからか、死神の嗤い声が聞こえた、気がした。

 

 ◆◆◆

 ◇◇◇

 ◆◆◆

 

「それで? どうなんだ、あの子は」

「どう、とは……?」

 

 別の日。総合病院内にある、自動販売機の置かれた休憩スペースで白衣を着た二人の男が話をしていた。一人は金髪碧眼の男、ファリド。そしてもう一人は、彼の同僚であり友人でもあるボードウィン。

 

 ボードウィンは自販機で買った缶コーヒーのプルタブを開けながら「お前の担当してる患者のことだよ」と言葉を付け足す。

 

「彼女か……」

 

 言葉を探すように、ファリドは視線を手元の飲みかけの缶コーヒーへと落とした。彼の担当している患者は、それなりに多い。その中でも、最近はとある少女……夜ノ森久遠のことを気に掛けていた。

 

「一時はなんとか持ち直したが、難しいな」

「お前にしては珍しく、歯切れが悪いじゃないか」

「私とて一人の人間だよ。ボードウィン。日に日に弱っていく少女に、尽くせる手を尽くしても、それでもなお何とか一日一日を生き長らえることしかできない。いまほど自分の無力さを痛感したことはない」

「……まあ、そうだな。診ている患者が日に日に弱っていくのを見るのが辛いのは俺だってそうだ」

 

 残っていたコーヒーを飲み干し、ゴミ箱に缶を入れるボードウィン。ファリドに背を向けたまま、自分に言い聞かせるように「それでも俺たちは、最後の最後まで患者と向き合わなければいけない」と絞り出すように言葉を紡ぐ。

 

「……正直に言えば、久遠くんの体調が一度回復したのは奇跡のようなものだ」

「奇跡、ね……。だがそんなものはまやかしに過ぎない」

「ああ。奇跡は一瞬であるからこそ強く光り輝く……。そして、結局のところは辻褄があっていくものだ」

 

 ファリドは、自分が担当している久遠のことを思う。一時は外出許可を出してもいいと思えるくらいにまで持ち直した彼女だが、それも長くは続かなかった。奇跡的もいえるほどの体調の回復の揺り戻しだとでも言うように、日に日に悪化している。

 

「しかし、彼女も健気だな。もう起き上がるのも辛いんだろう?」

「せめて姉の前では元気な姿を見せたいのだろう。心配させまいと気丈に振る舞ってこそいるが、いつまで持つか……おや」

「ん? どうしたファリド」

「いや、どうやら私の気のせいだったようだ」

「なんだそりゃ?」

 

 「聞かれてしまったかな」とファリドは口の中だけで呟くと、缶コーヒーの残りを飲み干すのだった。

 

 ボードウィンは気づかなかったが、この休憩スペースでの二人の会話を偶然にも聞いてしまったものがいた。息を切らせながらリノリウムの床を走っているのは、銀髪の少女。看護師長であるイシューの「廊下を走るな!」という怒声にも、答えている余裕はいまはなかった。

 

「……久遠!」

 

 病室のドアを開ける。清潔に保たれている白い部屋の中では、青みがかった黒髪の少女がベッドの上で体を起こしていた。そして微笑んでこう言うのだ。「姉さん、来てくれて嬉しいよ」と。

 

「姉さん。前にも言ったが、廊下を走っては……」

「久遠っ!」

「おっと……。どうしたんだ、姉さん。今日はいつにもまして勢いがあるな」

 

 持っていた荷物を放り投げるようにして床に置き、ベッドの久遠に飛び込むように抱きつく。とくん……とくん……と命の音が聞こえる。けれどそれは、随分と弱々しくて。そのことが、零に強く意識させるのだ。彼女の時間は残り少ないのだと。

 

「ひぐっ、く、おん……くおんっ、くおん、くおん……う、うう……うええええん……」

「おやおや、姉さんは泣き虫だな」

 

 妹の名前を呼びながら、ただただ泣きじゃくる小さな姉の背中を、慈しむように優しく撫ぜる。

 

 愛しい人よ、どうか最後まで―――。

 

 それがどれほどに身勝手で、自分勝手で、残酷な願いなのだとしても。彼女には涙ではなく笑顔でいてほしい。残された時間は僅かで、置いて逝ってしまう後ろめたさも、もう会えないのだという寂しさも、ずっと先の未来まで共に歩けないのだという悲しみもあるけれど。

 

 それでも。ああ、それでも……。

 

 どうか。

 どうか。

 

「……っ」

 

 久遠はふと、自分の頬を伝うものがあることに気がついた。ずっと抑えてきたものが、ずっと見ないふりをしてきたものが。今になって溢れてきたのだった。

 

「ねえ、さん……。ぐっ、ぐすっ、うぅ……」

 

 二人で抱き合って、零と久遠は泣いた。ただただ悲しみを押し流すように、別れたくないと、もっとずっと一緒にいたいと、この世でたった二人だけの姉妹は涙を流す。

 

 …

 ……

 ………

 

 ひとしきり泣いたあと、姉妹はどちらともなく体を離した。けれども、繋いだ手は離さずに。

 

「……久遠、決めたよ………」

「決めたって、なにを……?」

 

 泣きはらして赤くなった目に決意を秘めて、零はその深い藍色の双眸で、まっすぐに久遠の黒味を帯びた赤い瞳を見る。

 

「大会に、ガンプラバトル日本選手権に出る」

 

 ガンプラバトル日本選手権。それは、日本国内で行われるGPDの大会としては世界選手権に次いで規模の大きいガンプラバトル大会である。日本全国の予選を勝ち抜いたファイターが集い、頂点を争う。さらにはこの大会で好成績を残せば、一つ上の世界大会への道も開ける。

 

「それで、それでね、久遠。世界大会に行こう。一緒に。おねーちゃん頑張るから。世界大会に行けるように、頑張るから」

「姉さん……」

 

 繋いだ零の手は小刻みに震えていた。GPDを始めてからわずか数か月の零が日本選手権へと出場し、ましてや世界大会に出るなど、想像を絶するほどの高いハードルが待ち受けている。そんなことは百も承知だろう。それでも、だとしても、零の瞳には強い意志があった。

 

「……そうか。姉さんは、強いのだな」

「ううん。強くなんかないよ。久遠がいてくれるから、頑張れるだけ」

 

 零は繋いでいた手を一度離すと、床に放っていたバックを拾い上げて中から保存容器を取り出す。

 

 ―――まったく、乱暴だな。

 ―――乱暴なのはバトルだけにしてくれよ。

 

「よかった、壊れてない……」

「姉さん、このガンプラは……」

 

 緩衝材代わりの柔らかな布から姿を現したのは、灰色がかった光沢の無い銀色のAGE-2。その右肩には何かの花をモチーフにしたと思われるエンブレムデカールが張り付けられていた。

 

 そして両肩には、久遠が作成した武装パーツを組み込んだサイドバインダーが取り付けられている。

 

「ガンダムAGE-2シルバーバレット……。このサイドバインダー、久遠が作ってくれたパーツを組み込んだんだよ。一緒に、戦えるように」

 

 差し出された一発の銀の弾丸を、久遠は震える手で持つ。シルバーバレット。銀の弾丸という名前のその機体は、零の祈りと願いが形になったものなのだろう。

 

 銀によって作られた弾丸は、祈りによって魔性を打ち払うのだという。

 

 その名前に込められた零の想い。それを考えた時、久遠の眦からはほろほろと涙がこぼれ落ちた。ぽたぽたと大粒の涙がこぼれ落ちて、両手で包むシルバーバレットを濡らす。

 

「姉さん……うぅ……」

「泣いたっていいよ。泣きたい時には、思いっきり」

 

 そう言う零の声は慈愛に満ちていた。涙をこぼし嗚咽を漏らす妹を胸元に抱き寄せて、彼女の青みがかった黒髪を手櫛で梳くように優しく撫ぜる。

 

「ねえさん、わたし、いきたい……。もっともっと、ねえさんといっしょに、いたい……」

「うん、うん……。おねーちゃんもおんなじ気持ちだよ」

「……ねえ、さん……うぅ、ぐすっ、うぅ……うぁぁぁぁ……」

「よしよし。おねーちゃんはここにいるよ」

 

 久遠が泣きつかれて眠るまで、零はずっと彼女を抱きしめていた。

 

 ◆◆◆

 ◇◇◇

 ◆◆◆




【夜ノ森零】
 おねーちゃん。どうか生きて……。叶わぬと知りながらも、そう願わずにはいられない。

【夜ノ森久遠】
 妹。ガンプラの声が聞ける。色々と抑え込んでいたが、ついに溢れてしまった。

【ファリド先生】
 久遠の担当医。いつか運命のガンダム・フレームと出会う男。

【ボードウィン先生】
 ファリドの同僚。妹が一人いる。いつか運命のガンダム・フレームと出会う男。

【ガンダムAGE-2シルバーバレット】
 銀の弾丸。それは祈り。それは願い。放たれた魔を討つ弾丸は怪物を討ち果たすか、あるいは……。

バトローグ

  • GPD配信(キリシマホビーショップ)
  • クオンVSクーコ
  • クオンVS首無し
  • グランダイブチャレンジ(E・D)
  • ロータスチャレンジ(E・D)
  • 激闘!SDガンダムタッグバトル!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告