【跡地】GBN総合掲示板   作:青いカンテラ

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タイトルに『断片』とある通り、これは切れ端のお話。



※注意:今回は後半あまり愉快なお話ではないです。


GBN断片:サイドダイバーズ/クオン編【母なるもの】

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 GBNの動画配信サービス『G-TUBE』。そこでは日夜多くの動画が投稿され、同じく多くの動画配信者G-TUBERが活動をしている。

 

 そして、GBNでダイバーネーム・クオンとして活動している夜ノ森(ヨノモリ)(レイ)もまた、フォースのリーダーやワールドランキングトップで鎬を削るランカーとして活動する傍らG-TUBERとして動画の投稿や配信も行っていた。

 

 実家である『ヨノモリ塗料』の直販所が休みの日や、GBNにログインしていない時はガンプラを作るか、あるいは動画編集などをしている零だが、他のG-TUBERの動画や配信を見るのも忘れない。自分の配信枠で使えそうなネタや、流行りをチェックしているのだ。自室のPCからGBNに簡易ログインしてG-TUBEを開く。トップページにおススメのチャンネルや新着動画がずらりと表示される中、零はどれを見ようかとスクロールバーを移動させながら思案する。

 

 ティターンズ広報課の新着動画、キャプテン・ジオンとマナー違反者のバトル、新人G-TUBERの967の凸待ち配信・・・。様々な動画や配信枠がある中で、ふと零の目がある配信枠で止まる。それは『マガ家チャンネル』というチャンネルだった。

 

「マガ家……」

 

 聞いたことのない名前だったが、視聴者数や概要欄の一部から最近活動を始めたばかりの新人ではなく、それなりの数配信をしているチャンネルだと判断する。今まで目に付かなかったのは、他の動画や配信枠に埋もれてトップページに表示されなかったからか。あるいは単に時間が合わなかったのかもしれない。

 

 なにはともあれ、見たことのないチャンネルには興味がある。同じG-TUBERとして、自分の配信に取り入れられそうなものを取り込むのは、亡者(リスナー)を飽きさせないためにも必要なことなのだ。

 

 赤字で『ライブ配信中』と表示されているマガ家のチャンネルを開く。すると画面にどこかの部屋で配信をしている鬼人の少女の姿が映し出された。配信用のカメラから少しズレた位置に視線を送っている彼女の横にはコメント欄が表示されており、Aランクに昇格したという彼女の言葉にいくつものお祝いコメントが流れている。

 

 配信画面を分割して片方に配信者の姿を映し、もう片方にはコメント欄を配置することで配信者とリスナーの反応を一度に見れるようにする。スタンダードなタイプの雑談枠といったところか。コメントから、いま配信をしている鬼人の少女の名前はサイゴであることと、どうやら姉妹がいるらしいことがわかる。しかも全員がCランク以上らしい。

 

 ダイバーランクに応じてミッションや機能が解放されるGBNにおいて、Cランクというのは脱初心者を意味するもので、ある意味では本当のスタートラインであると言われている。人によっては、フォースへの参加や結成が解禁されるDランクを初心者のスタートラインであると規定することもあるが、ほとんどの場合Cランクが脱初心者、スタートラインだと言われるのだ。それというのも、GBNではCランクから『必殺技』のシステムが解禁される。これによって『自分だけの必殺技』を獲得できるとあって、このランクに到達してからがGBNの本番、あるいは長い長いチュートリアルの終わりだと、多くのダイバーはそう口を揃えて言うのである。

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 配信ではサイゴがリスナーの最近あったことにコメント返しをしていた。零は自分も配信枠で雑談配信をすることがあるため、最近あったことというネタ振りは使えそうだと思いメモをする。

 

 その後も和やかな雰囲気で進行する雑談配信。配信主のサイゴとリスナーたちとのやり取りを見ながら、零はうちの亡者(リスナー)たちもこれくらい大人しければなー、とそんなことを思う。

 

 このまま時間一杯まで雑談が続くかと思われたその時、サイゴの後ろのドアが開き「待たせたな」という言葉とともに、額に赤い岩を削り出したような、無骨な一本角を持つ女性が部屋に入ってきた。青い差し色の入った茶色のジャージを着たその女性は、長い茶髪をうなじ辺りでまとめた、いわゆるローポニーテールの髪型にしていた。つり上がった深紅の瞳は表情も相まって強い圧を感じさせる。どこか獄炎のオーガに似た雰囲気を思わせるその女性は、サイゴやリスナーたちから『母さん』『ママ』と呼ばれているらしい。

 

「お母さん、か……」

 

 サイゴと一本角の女性……ママオロチとリスナーに呼ばれている。ダイバーネームはマガツ・ロー……のやり取りと、マガツの「オレはお前らのお母さんじゃない」という言葉に、零の胸の最奥で、いまも涙を流し続ける「レイ」が顔を上げた。暗く淀んだ蒼い双眸から、止めどなく赤い涙を流す幼き日のレイ。彼女はマガツに褒められ、頭を撫でられて嬉しそうに表情を緩めているサイゴを見て言葉をこぼす。

 

 ―――いいなあ。

 ―――あの子、ママに褒められてる。

 ―――褒められてナデナデされて。

 ―――私たちのママはそんなことしてくれなかったのに。

 

 錆び付いた記憶が、蓋をして奥底に閉じ込めていた記憶が、思い起こされる。流れていったコメントの中にあった『親子愛』というワードが呼び水となり、淀みの中からソレは浮かび上がる。

 

 ―――ママ。ママはどうして……。

 

 ママは、かつて零と久遠の二人の姉妹の母親だった女は、とてもではないがいい母親だとは言えなかった。

 零の記憶にある母の姿と言えば酒に溺れ、ヒステリックで、家のことはすべて娘である零にやらせて、何か気にくわないことがあればすぐに手を上げる……そんなものだ。父親もいたが、仕事を理由にして家には寄り付かず、たまに帰ってきても着替えを取りに来たとかそんなもので、自分の娘たちには関心を寄せず、むしろ避けるように慌ただしく家を出て行った。たまに母と何かしら話していても「仕事が忙しい」「育児はお前の担当だろ」との一点張りで、それがまた母を苛立たせた。「あの人が帰ってこないのはお前たちのせいだ」「お前たちなんかを生んでしまったから」と理不尽な理由で暴力を振るわれたのも一度や二度ではなかった。

 

 一応学校は通わせてもらっていたが、日本人離れした容姿と周囲と違う髪の色や瞳の色は零を孤独にさせた。学校にも家にも居場所などなかったが、零には妹の久遠がいた。病弱ではあったが、モノに宿る想いを感じ取れる不思議な感性を持っていた、自慢の妹。彼女がいたからどんなに辛くても苦しくても頑張れた。

 

 自分が妹の久遠を守らなければと。おねーちゃんだから。長女だから。心配させないようにと、彼女の、久遠の前では務めて明るく振る舞うように心掛けて。できるだけ母の機嫌を損ねないようにと顔色を窺い、いま何を求めているか察せられるようにして。

 

 そこに親子の愛情だとか、親への敬意だとか感謝だとか、そんなものはなかった。ただ痛みと苦しみと、恐怖と絶望があった。とはいえ、最初からそうだったわけではないのだろう。そうでなければ、零と久遠は物心がつく前に小さな命が潰えていたはずだから。

 

 だから、

 だから、どこかで何かが変わってしまったのだろう。

 

 その何かとは何なのか。それは零にはわからない。

 泥の中に沈み、錆び付いた記憶の中にいる母はいつだって苛立っていて、酒浸りで、気にくわないことがあれば手を上げる。しかも姉の零が妹の久遠を庇えば、さらに苛立ちを募らせる……。そんな(ヒト)だったから。

 

 ―――あの子はママに想われてる。

 ―――あの子はママに愛されてる。

 ―――あの子はママに褒められてる。

 

 零の中のレイが、羨むように妬むように言葉をこぼす。

 家族愛ってなんですか? 分からない。私には分からないのです。学校で『わたしのおかあさん』という作文を書き、クラスの皆の前で発表することになった時も。運動会で応援に来た家族と一緒になって、楽しそうに美味しそうにお昼ご飯を食べているクラスメイトを見た時も。

 

 わからない。

 わからない。

 

 かつてはあったかもしれない母の愛情の在りかなど。それが怒りと憎しみに変わってしまった理由など。

 

 いつの間にか父と別れて別の男と一緒になるのに邪魔だからと、身勝手に自分たちを捨てていった、かつて母だった女の想いなど。

 

「…………いいなあ…………」

 

 愛用のイスの上で膝を抱えた、いわゆる体育座りの姿勢になり、どんよりとした目で雑談からガンプラバトルの凸待ちに変わっていた配信を見つめていた零の口から、ぽつりと言葉が漏れた。

 親子だから機体を合わせているのか、共にヴェイガン系のガンプラでリスナーのガンプラとバトルを繰り広げているマガツとサイゴ。GBNを親子で遊ぶ。それだけでも、母と娘の仲がいいことを思わせる。

 

 私のママがこの人だったら。

 私たちのママがこの人みたいだったら。

 

 いまも赤い涙を止めどなく流し続けるレイは慟哭する。ママはどうして褒めてくれなかったの。ママはどうして頭を撫でてくれなかったの。ママは、ママは……。

 

 気がつけば、配信は終わっていた。後半はマガツとリスナーの一対一によるガンプラバトルをしていたような気がするが、よく覚えていない。

 

 それ以上G-TUBEを見る気にもなれず、零は簡易ログインしていたGBNからログアウトする。

 

 無性に何かを壊したい気分だった。思いっきり暴れて、大声を張り上げて、思い出してしまった母の記憶と、暗く淀んだ泥のような感情を振り払ってしまいたかった。愛用のイスからふらりと立ち上がり、壁に掛けていたジャケットを羽織り、髪をまとめてキャスケット帽に収め、色付きのサングラスを掛ける。

 

「……今日は、君に決めた」

 

 黒と赤に近い紫で彩られた、重装仕様のバルバトスルプスレクスをそっと手に取ってガンプラを持ち運ぶためのケースに入れる。そうして外出するための準備を終えた零は、行ってきますと小さく呟いて、自室を後にするのだった。

 

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バトローグ

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