【跡地】GBN総合掲示板   作:青いカンテラ

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アナザーテイルズが完結したので、その記念も込めて初投稿です。



01/29 バンデット・レース周りの文章を少し修正。グラン・サマー・フェスティバルについて加筆。


GBN断片:サイドダイバーズ/クオン編EX【流星、宇宙(ソラ)を切り裂いて】

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 フォースバトルトーナメントBブロック、第三試合。

 

 ワールドランキング13位に座するランカー『クオン』をリーダーとするフォース『エターナル・ダークネス』と、ここ数か月で驚異的な伸びを見せる新進気鋭のサムライガールたちが集うフォースとの戦いは、辛くもエターナル・ダークネスが勝利をその手に掴み取った。

 

 戦いが終わればグッドゲーム、いい試合でしたと握手を一つ。そして勝者は次の戦いへと駒を進め、敗者は舞台から降りて去っていくのだ。悔しさを滲ませながらも再戦を誓い去っていく、白い制服の背に「誠」の一字を掲げる少女たち。そんな彼女たちを見送って、クオンはロビーに戻ってきた。

 

「……ママ!」

「フュー」

 

 クオンを出迎えたのは、よく似た顔立ちをした幼い少女。片方が折れた大きな角が頭の両側から伸び、背中には被膜の無いコウモリの翼、そして腰からはトカゲのような細く長い尻尾が生えている。ヒトのような、竜のようなその少女は、ELダイバーと呼ばれる存在で、またクオンにとって何物にも代えられない妹のような娘のような存在だった。

 

 とてとてと走り寄ってきた小さな体を受け止めて、クオンはフューの白い髪をそっと撫ぜる。

 

「おかえり……ママ……」

「ただいま、フュー」

「お帰りなさい、とバトルお疲れ様でしたクオンちゃん」

「ん……。あなたもね、ササミ」

 

 クオンに声を掛けたのは、アニメ『機動戦士ガンダムAGE』に登場する地球連邦軍の女性士官用制服を着た黒髪ロングの少女。ダイバーネーム『ササミ』。エターナル・ダークネスのメンバーの一人であり、一部でササミネキの愛称で呼ばれ親しまれている。そんな彼女はにこにことした笑顔で鼻を押さえていた。

 

「……何してるのあなた」

「いやね、クオンちゃんとフューちゃんのてぇてぇが鼻から出そうだったので」

 

 ササミのほうに向いて「てぇてぇ?」と小首を傾げるフュー。その仕草がツボにハマったらしく、ササミはぶはっ! と鼻血を出してその場に崩れ落ちた。しかしいつものことなのでクオンも周囲で見ていたダイバーもこれをスルー。フューだけが「だいじょうぶ?」とササミの頭をぽんぽんと叩いていた。

 

「……ササミ、あなたは先にフォースネストに帰っていなさい。あとで反省会するから」

「りょ、了解デス」

 

 ぐっ、とサムズアップしつつ仮想の躯体をほどけさせるササミ。0と1に分解されて遠く離れた別の場所へと転送されていくのだ。

 

 つい、とクオンはセントラルロビーの中央、ミッションカウンターの上部に備えられている大型ディスプレイへと目を向ける。そこでは普段ランダムな映像が流されているのだが、今日は様子が違っている。フォースバトルトーナメントの行われている期間中、そこに映るのは無数のミッションの映像ではなく……現在行われているガンプラバトルの中継映像なのだ。

 

 クオンにつられてフューもまた、そちらへと目を向ける。Aブロック第三試合の対戦カードは、GBNの掲示板などで何かと話題に上がる女性ダイバー4人組のフォース『リビルドガールズ』と、同じく女性ダイバー4人により結成されたこちらも話題性のあるフォース『アナザーテイルズ』だった。

 

 バトルフィールドとして選ばれたのは劇場アニメ『機動戦士ガンダムNT(ナラティブ)』にて、ゾルタン・アッカネンの駆る超巨大МA『(セカンド)ネオ・ジオング』が大暴れしたヘリウム3貯蔵タンク宙域。

 

 漆黒の宇宙に浮かぶ、いくつもの大型タンク。その合間を縫うように、あるいは遠く煌めく星々を繋いで星座を描くように、アナザーテイルズ、リビルドガールズの両フォースからそれぞれ一機ずつMSが先行する。

 

 片やG-セルフをベースにifsユニットや各種ファンネルを追加し、いわゆるガンダム顔に改められたν(ニュー)ガンダムカラーの『G-イデア』を駆るユユ。

 片やシナンジュをガンダムフェイスに改修し、ユニコーンガンダムのようなビーム・トンファーを両腕に備える『ミネルヴァガンダム』を駆るアキノ。

 

 奇しくも互いのフォースにおいて似た役割を持つ両者が相対し激突する。だが今回においてはアキノの、リビルドガールズの狙いは別にあった。

 ミネルヴァガンダムの象徴とも言える大型剣I・フィールドソード。『マナー違反にはアクシズ落とし! 抱け、心の南極条約!』のキメ台詞で知られるG-TUBER『キャプテン・ジオン』が愛機『ν(ニュー)-ジオンガンダム』のメインウェポンであるそれを参考に、アキノが製作したというその武器。二振りのそれはアキノとユユの二人を包み込むようにしてサイコ・フィールドを形成していた。

 

 それはすなわち、アナザーテイルズの最高戦力にしてフラッグ機とスナイパーを守る盾役であるユユを、他のメンバーと合流させるつもりはないということであり、また同時に他のメンバーからの横やり(援護)も遮断するということでもあった。

 

 ミネルヴァガンダムの必殺技『モード・ブリューナク』を発動し、その身を焼き焦がしながらもユユのG-イデアに猛攻を掛けるアキノ。その様子を見ながら、クオンはフォースバトルにおいて重要なファクターとなる情報戦を制したのは、リビルドガールズだろうとそう判断した。

 

 情報を制するものは戦場を制する。フォースランク2位に燦然と輝く『第七機甲師団』のリーダー、ロンメルが常々口にするその言葉は、しかしてGBNの環境では軽視されがちである。それというのも、偵察はとにかく地味になりがちというのがある。派手なガンプラバトルを求めるビギナーやエンジョイ勢の割合が多いGBNにおいて、地味な偵察を主とする機体やダイバーというのはとかく下に見られがちなのだ。

 

 では偵察や情報収集を得意とする機体やダイバーに居場所はないのか? 彼らは不要な少数派の存在なのか? ……その答えは否である。

 情報収集に長ける人員の重要性というものは、GBNトップ層に近づけば近づくほどに増してくる。例えばフォースランク1位に君臨しているフォース『AVALON(アヴァロン)』が、ジェガンD型の偵察機仕様である『EWACジェガン』を戦力として組み込んでいるように、先にも上げたロンメル率いる第七機甲師団が最も重要視しているのが偵察や情報収集であるように。戦況を自分たちに有利な状況へと持っていくためには、そしてガンプラバトルで勝利を手にするためには、情報というものは大きな力を秘めているのである。

 

 そういう意味では、元傭兵として様々な戦場を斥候役として渡り歩いてきた、ELダイバー『チィ』がいるリビルドガールズは、アナザーテイルズよりも上手であると言えるだろう。もちろんアナザーテイルズにもスナイパー兼偵察役として、チームの力になれるよう愛機をカスタマイズした『ミワ』がいる。だが、戦いとは始まる前から始まっていると言われるように、戦う前により多くの情報を手にできるものは、勝利をより確実なものとできるのだ。

 

 4人対4人。共に少数精鋭と言った風情のリビルドガールズとアナザーテイルズ。女性ダイバーだけで構成されたフォース同士の戦いは、リビルドガールズに大きく戦況が傾いていた。

 アナザーテイルズのメンバーの中で唯一、二桁台のランカーとして高い実力を誇るユユはアキノに疑似タイマンを強いられ、スナイパーであるミワはトランザムとファンネルを巧みに操るエリィに妨害され、狙撃を行うための位置取りができず、アタッカーであるカエデと愛機『ウイングゼロヌーベル』を、『モビルドールチハヤ』の姿になったチィが好きにはさせないよう立ち回っている。

 

 じわり、じわりと、アナザーテイルズは追いつめられている。それでもリビルドガールズの面々を相手にいまだに持ちこたえられているのは、アナザーテイルズもまた踏んできた場数と潜ってきた修羅場が多いということ。そうでなければ、打倒チャンピオンを掲げるフォース『ホロウ・ヴァイキング』や、一度は解散の危機に瀕しながらも、なんとか持ち直して数々の勝利を手にしてきたフォース『エーデルローゼ』を相手に勝ち進んではこれなかっただろう。

 

 それはひとえに、メンバー内でも突出した実力を持つユユだけでなく、彼女以外のメンバーであるカエデやミワや、そしていまも漆黒の宇宙(ソラ)を切り裂くような鋭いマニューバをもってして、リビルドガールズのリーダー『アイカ』とその愛機『フェアリライズガンダム』を相手に必死に食い下がっている少女……『アナザーテイルズのリリカ』もまたいくつもの戦いを経て成長してきたからに他ならないのだ。

 

「……あのガンプラ、たのしそう……」

「……そうね、フュー。私も、そう思うわ」

 

 クオンはモニターの中で白い流星となって妖精の女王と相対し、激突し、その心の臓へと刃を突き立てて勝利を掴まんと奮闘しているリリカを、彼女の愛機である『ガンダムAGE-FB(フルブランシュ)』の勇姿を、その左右色違いの瞳に焼き付けんとする。

 

 ―――強くなったね、梨々香(リリカ)

 

 ガンダムベース・シーサイド店の製作ブースで、偶然の出会いを果たした少女のことを想う。切っ掛けはAGE-1スパローに付属するシグルブレイドの刀身を、梨々香が……リアルでのリリカが、クリアパーツで作ろうと奮闘していた時だった。

 

 困ったように眉尻を下げて、手元のスマートフォンで再生していた製作動画……偶然にも自分が投稿していたものを参考にしているのが嬉しくて、自分としては珍しくアドバイスを送り、また別の日には、タイタスウェアをベースに光波推進システムを組み込む改造をしていたところに声を掛けたりして。

 

 GBN内で直接顔を合わせることこそなかったものの、彼女の活躍を目にすることは度々あった。

 

 ディメンション・シュヴァルツバルト……。ディメンション全体が常闇に包まれた世界にあって、眠らない街として知られるハイウィンド・エリア。

 そこで開催される何でもあり(バーリ・トゥード)なレース『バンデット・レース』において、当時まだまだ無名だったアナザーテイルズが、絶対王者『パロッツ・パーティー』相手に勝利を掴み取ったのを……。その瞬間を、クオンはセントラルロビーで流れていた映像でたまたま見ていた。

 

 グラン・サマー・フェスティバルに行われた、ガンプラ版ビーチバレーとも言える『灼熱バーニングフラッグ』。そこで並み居る強敵たちを引き離して見事優勝旗を掴み取ったのを、クオンは特設ステージのモニター越しに見ていた。

 

 瞬間的に加速する必殺技。その反動に耐えきれず崩壊していた白いAGE-1。だがいまは違う。白いAGE-1……ガンダムAGE-1ブランシュの魂と想いを受け継いだ、梨々香の、リリカの新しい機体『ガンダムAGE-FB(フルブランシュ)』は、必殺技発動に際して発生するエネルギーをうまくコントロールできている。

 

 彼女は強くなった。

 

 始めて会った時よりも、ずっとずっと。

 梨々香が、リリカがこの舞台に上がるまでに歩んできたその道程を、流してきた涙の数を、乗り越えてきた確執を、潜ってきた修羅場を、クオンは……(レイ)は知らない。

 

 けれども、知らなくとも分かることはある。梨々香は出会った頃よりも大きく成長しているのだと。一回り大きくなって逞しくなったのだと。

 

 漆黒の宇宙(ソラ)を切り裂く白い流星。星々の煌めきを繋いで新たな星座を描き出すように、妖精の女王と切り結んでいる。

 

 どこか頼りなさを感じていた後輩の少女の成長に、クオンは目を細めた。リリカとフルブランシュの放つ輝きが、とても眩しく見える。大丈夫、彼女なら、きっと―――

 

 クオンの口元には笑みが浮かんでいた。それは後輩を見守る先輩のような、あるいは妹の成長を嬉しく想う姉のような……そんな、優しい笑みだった。

 

『―――お願い、フルブランシュ!』

『っ、エリィちゃん! フェアリィ・ストライク・ブライドをお願い!」

『は、はい! リビルドパワーゲート、射出……!』

 

 ブランシュアクセルの最大加速を越えた、さらなる速度の極致……オーバーナイトロにより、もはや常人では目で追うことも困難な速度になったリリカとフルブランシュ。

 そんなリリカの心意気に、覚悟に応えるように、アイカとフェアリライズもまたエリィとリビルドウォートの形成したパワーゲートを潜り抜けて、神速の領域にまでその機体を加速させた。

 

 この戦いの決着は、もうすぐそこまで来ていた。

 

『―――はぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 GBNの、ダイバーを保護するための機構の限界ギリギリにまで……あるいは一時的にそれをも超過し、加速した二つの流星がぶつかり合う。膨大なエネルギーのぶつかり合いは閃光となり、そして強烈な衝撃波となり、周囲のオブジェクト諸共フルブランシュとフェアリライズの二機のガンダムをも破壊していった。

 

 

 

 ほんの少しの差で戦いを制したのは、アイカだった。フェアリライズガンダムのビルドボルグが、リリカのフルブランシュのコクピットを刺し貫いている。勝敗が決したことは誰の目にも明らかで、数秒遅れて電子音声がリビルドガールズが勝者となったことを告げる。

 

 リビルドガールズとアナザーテイルズ。同じく女性ダイバーだけで構成されたフォースのバトルは、大きな盛り上がりと共に幕を閉じた。セントラルロビーでもモニター越しに戦いの行く末を見守っていた者たちが歓声を上げ、リビルドガールズとアナザーテイルズの奮闘を称える。

 

 勝者には祝福を。

 敗者には栄光を。

 

 勝負である以上は、どうしても勝ち負けは避けられない。しかしそれでも、熱いガンプラバトルを、楽しいガンプラバトルをしたのなら、勝者も敗者も関係なく称えられるのだ。

 

 そんな喧騒から少し離れて、クオンはコンソールを開いてフォースネストへの移動ボタンへと指を伸ばす。その時、一緒にバトルを見ていたフューがクオンの手をわずかに引いた。

 

「どうしたの? フュー」

「ねえ、ママ」

「なに?」

「フューも、なれる……かな。あのおねーちゃんみたいに」

 

 眠たげな、しかし決意を秘めた色違いの瞳がクオンを見上げる。その予想外の言葉に驚いたように目を見開いて、そしてすぐに優しく微笑むとそっと頭を撫でる。

 

「もちろん。なれるわよ。……フューならきっと」

「えへへ。フュー、がんばる、ね」

 

 頷きで返して、フォースネストへの移動ボタンをタップする。クオンとフューの体は解けて、虚空へと消えていくのだった。

 

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―――かつて誰かに憧れた少女は綺羅星のように輝いて、また誰かの憧れとなる。

バトローグ

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