G-TUBE……GBNと連動している動画投稿サービスであり、ディメンション内だけでなく、PCやスマートフォンからの簡易ログインで編集した動画を投稿したり、あるいはGチューブに無数に存在する動画を視聴することができる。
そして、何も編集済みの動画を投稿したり視聴することだけが、G-TUBEのサービスではない。GBN内での生放送……配信用のカメラを使い、ライブ映像を配信することもできるのである。そのサービスを使ってディメンションの探訪やミッション攻略、凸待ちフリーバトル配信などを行っているダイバーたちは『G-TUBER』と呼ばれ、日々新たなG-TUBERが現れては消えていく。
……少女もまた、そんなG-TUBERの一人だった。チャンネルの登録者数こそ少ないものの、静かな人気がある彼女の配信内容は『G-TUBEにある動画や、GBN掲示板にのとあるスレッド:新人ダイバーを暖かい眼で見守るスレで話題に上がっているダイバーなどを、配信者の独断と偏見で選び紹介する』というもの。いわゆる『発掘系』と呼ばれるそれは時として、配信主の少女が『センパイ』と呼ぶリスナーたちからの情報提供も行われる。
中央に四角いテーブルと、二人掛けのベンチが置かれている質素な部屋。初期のフォースネストとして支給されるその部屋で、少女は三脚をつけたハロカメラへと余った袖に隠れた手を伸ばす。配信用にレンタルできるものの中でも一番グレードの低い、薄緑色のハロカメラ。最低グレードのものとはいっても、動画を配信・録画するための機能以外に余計な機能が付いていないというだけで、画質や音質といった部分に関してはグレードの差はあってないようなものだ。もちろんグレードが高くなればなるほどに、使用できる機能もまた増えていく。しかし、基本的には配信用に立ち上げた個人フォースの個室でだらだらと配信をしている彼女にとっては、配信機材であるハロカメラに求めるものは映像や音声を画面の前にいる
そんなわけで、彼女はもっぱらお安いレンタルハロカメラを借りているのだった。
閑話休題。
ハロカメラの上部にあるスイッチをカチリと押し込む。そうすればハロの目に配信中を示す赤い光が灯る。
「ハロハロー。あーあー、配信できてるかなー?」
ハロカメラの横に展開されているサブウインドウ。そこには小さな配信画面と、配信を見ているリスナーたちが書き込んだコメントが表示されるコメント欄がある。少女が手をどけると、コメント欄には『うぽつ』『待ってた』『おう、今日の配信も見に来たぞ』『新鮮な発掘の時間だー!』といった短い言葉たちが流れていく。
「うんうん、バッチリ配信できてるね! というわけで今日も始めてーいきまっしょい!」
『メンコちゃんかわいい』
『元気なお面っ子いいぞ』
『今日発掘される動画、あるいは新人ダイバーは誰かなー?』
『お前の発掘を待ってたんだよ!』
「センパイたち今日も元気だねー。あ、かわいいって言ってくれてアリガトね!」
そう言ってぶんぶんと余り袖を振るのは、狐のお面で顔を隠した薄い桃色の長い髪の少女。彼女はダイバーネーム・メンコ。この配信枠の配信者であり、新着動画や新人見守りスレから原石を発掘している。
そして、彼女が今日取り上げるのは……掲示板でちょっとした話題になっているとあるダイバー、というかフォース。
「ねーねーセンパイたち。フォース春夏秋冬って知ってる?」
『春夏秋冬? 四季がどうしたんだ?』
『なんかどっかで聞いたようなそうでもないような・・・』
『あー、なんか掲示板のスレで見た気がする』
『なんだっけ、女ダイバー四人組バカルテットとか呼ばれてるフォース?』
『そ れ だ』
『バカルテットは草。なにやったんだよ春夏秋冬』
メンコの口にした『春夏秋冬』のフォース名に、各々反応を示す
新着動画はおススメとしてトップページに表示されることもあるが、G-TUBEには日々膨大な量の動画が投稿されている。さらにはその内容も様々で玉石混交。積極的に新規開拓しようとする利用者もいるが、大半はお気に入り登録しているチャンネルの動画を見たり、検索で特定のジャンルのものを絞り込んで見ているものだ。
さらに掲示板に乱立しているスレッドで話題になっていると言っても、GBN全体のアクティブ数から見ればそもそも掲示板を利用しないユーザーの方が多い。ならばこそ彼ら彼女らがイマイチな反応を見せるのも仕方ないと言えるだろう。
だがそれは、メンコにとっては都合がいい。誰もが知っている動画やダイバーを紹介するのは発掘とは言わない。埋もれたものや、新しい出てきたはいいが先人たちに囲まれて埋もれようとしているものを取り上げてこそ『発掘系G-TUBER』なのだから。
「ふっふっふー、春夏秋冬を知らないなんてまだまだだねー、センパイは♪ 仕方がないからこのメンコちゃんが教えてあげよー!」
『メスガキ後輩・・・!』
『メンコちゃんのちょっとウザい後輩感すこ』
『あ゛あ゛~』
『狐のお面で表情わからないはずなのにムカつくドヤ顔が見える見える』
『身振り手振りと声の感じで表情が見えるんやろうな』
『リアルは役者だったりしない?』
「んふふ、ひ☆み★つ! 前置きはこれくらいにして、早速だけど春夏秋冬の動画流しちゃうね!」
『お』
『メンコちゃんが目を付けた動画やダイバーは大体当たりだから楽しみ』
『どんなキテレツな内容なのやら』
『バカルテットなんて呼ばれてるフォースの動画か・・・不安半分だな』
『動画ハジマタ』
メンコがちょちょいっと操作をして配信画面に貼り付けたのは、フォース・春夏秋冬がとあるディメンションで行った『ミッション攻略動画』だった。
アニメ『機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ』に登場する、小型の機動兵器……モビルワーカーを改造したものに乗り込み、女子ダイバー四人がとあるディメンションを横断するという内容は、それだけ見ればわざわざ配信で取り上げるようなものではないように思える。……そう、彼女たちが横断しようとしている件のディメンションと言うのが悪名高き『ハードコアディメンション・ヴァルガ』でなければ。
『なにこれ、なに・・・?』
『ファーwww』
『バカだ、バカがいる』
『バカは逝く!』
『草』
『いや草』
『折れない心だけは評価する』
『なぜモビルワーカーなんて動く棺桶でヴァルガ横断なんてしようと思ったのか・・・コレガワカラナイ』
『わからんのか!私もわからん』
『武器はwww途中でwww置いてきたwww』
『なにわろてんねん』
『リトライしすぎて途中からテンション振り切れてるやんけ』
爆発と轟音。悲鳴と怒号。揺れる車内、手振れ補正込みでも若干ブレる映像。グロッキーな表情でげっそりとしている少女。馬鹿笑いしている誰か。楽しそうなロリっ子。荒々しいハンドリングテクを見せる運転手。よりによって、GBNでも屈指の危険度を誇るディメンションを、非武装の改造モビルワーカーで横断するという頭のネジが十数本ぶっ飛んでいるとしか思えない企画を敢行し、数十回ものリトライの果てに無事ミッションを完了する四人組。どう見てもウケ狙いの一発ネタとしか思えない企画内容ではあるが、デスペナルティとダイバーポイントの減少を恐れぬその姿勢と、最後は作戦を立てて危険地帯を潜り抜けていく彼女らの姿には、確かに『将来性』のようなものは感じられる。最もそれが意味するところは、芸人的なものではあるが。
『・・・なんというか、すごかったな』
『企画を完走したのはすごいと思った(小並感)』
『最初はただのウケ狙いやろ、とか思ってたけど後半は氏に覚えゲーみたいになってたな』
『スナイパー抜けたと思ったらグレで吹っ飛ばされるとか運がいいのか悪いのか』
『中々にぶっ飛んだのが来たな。これからが楽しみだ』
「うんうん、センパイたちも気に入ってくれたようで何より何より! あ、そうそう途中にあったDIEジェストなんだけど、FOEさんとかジャバウォックとかもちらっと写り込んでたりするんだよねー」
「ほらここ」と拡大映像を張り付けるメンコ。そこには確かに、ダブルオークアンタをベースにしていると思われるガンダムタイプのカスタム機や、様々な機体がキメラ的に接合された白い魔竜の姿がばっちりとカメラに収められていた。
『助かる』
『DIEジェスト草』
『ジャバウォックのビームに撃ち抜かれて落ちてきたガンプラの爆発に巻き込まれるとか運がないねえ・・・』
『X1追いかけてるX2、キチーネロールの人じゃないか?』
『流れ弾に被弾して吹っ飛ばされたー!』
『近くにいた方が悪い』
『草』
『ほんとよくこんなところ横断しようと思ったな・・・』
「ねー、ほんとすごいよね春夏秋冬! 次はどんなあたおか企画してくれるんだろうっていうワクワクが止まらない!」
『(´・ω・)(・ω・`)ネー』
『あたおか企画wwwまあその通りだけど』
『草』
『ハッハー!ワクワクが止まらねえ!』
『目標に向かって諦めない姿勢は似てる』
『いいもん見つけてきたなー、メンコちゃん』
「えへへ、伊達や酔狂で発掘系G-TUBERしてないからね!」
『かわいい』
『すこ』
『メンコちゃんすこれる』
「アリガト、センパイ♪ ちなみにだけど、春夏秋冬のメンバーの一人、ガンスタに写真上げてるんだよね。それがまたいい写真だったから、センパイにも見せてあげよう!」
『ほぉ、ガンスタですか』
『あたおか企画をするようなダイバーの撮る写真か・・・』
『大丈夫? SAN値削れない?』
『どんだけヤバい写真やねん』
『ガンスタは健全だからヤバい写真は削除されるよ』
「あたおかなのは動画の企画なだけで、ガンスタに上げられてる写真は本当にいいものだからね?」
そう言いながら、メンコは春夏秋冬のメンバーの一人……ハルがガンスタグラムにアップした写真を配信画面に映す。それは、ハルがガンスタグラムのアカウントを取得した際に投稿した始まりの一枚。激しい戦闘があったと思しき草原に膝をついて項垂れる、アストレイとフリーダムをミキシングした青いMS……ブルースカイ。その視線の先には戦闘に巻き込まれたのだろう、一輪の小さな花だったものがある。
―――マモレナカッタ。
踏みにじられた花を見て、そんな声なき嘆きの声を上げている……。そんな錯覚を覚えるような見事な一枚だった。
『ほーん、ええやん』
『・・・すごいな』
『こんないい写真撮った子と、あたおか企画でげろ吐きそうになってた子が同一人物ってマジ?』
『巻き込まれただけかもしれんし・・・』
『えぇ~? 本当にござるか~?』
『フォース組んで行動してる時点で・・・』
『まあそれはそれとして写真、いいよね』
『うむ』
「ねー、いいよねこれ。わたしも待ち受けにしてるし!」
『草』
『はえぇーよ』
『まあ気持ちはわからんでもないよ』
『せやな』
「んっふふふ、そんなわけでね。時間もいい感じだしそろそろ枠終わりまーす」
『え』
『勝手に終わるな』
『もっとセンパイとのトークを楽しんでいけ』
『あっという間だったな』
『毎秒配信して』
「わたしももっとセンパイたちとダベりたいんだけどねー、りあるのつごーというものがあるのです。また次回、配信で会えたら嬉しいな! 待て次回! お疲れ様でしたー!」
『(`・ω・´)ゞ』
『乙』
『配信乙』
『お疲れー』
『乙カレ。次回も楽しみにしとるで』
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