11/04 決戦前夜Ⅰ・Ⅱを統合。
プロローグ・決戦前夜
ブレイクデカール。GBN運営がその作成に関与しておらず、また正式に配布しているわけではない非公式ツール。現実のガンプラに取り付け、ログイン時にスキャンさせることでGBN内で様々な現象を引き起こすことが可能となる。
その力で最も顕著なのはガンプラの性能強化。他にも様々な効果を発揮することが元マスダイバーたちの証言で知られているが、やはり一番わかりやすいのはこの、使用時に機体の性能を大きく引き上げるという点だろう。もちろんGBNにも他のガンダムのゲームなどと同じく、機体性能を一時的に上昇させる時限強化と呼ばれる特殊なシステムは存在している。だがそれはあくまで効果時間の決められたものであり、その強化倍率自体もそこまで極端に高いものではない。
しかし、ブレイクデカールによる強化はそれらの時限強化とは全くの別物であると言える。こちらはガンプラのステータスデータを直接操作することで、その性能を格段に上昇させる。その強化範囲は機体本体だけに止まらず、携行している武器の火力をも著しく向上させる。例えばザクマシンガンはハイパーバズーカ並みの火力を持つ弾丸を、連射性そのままにばら撒けるし、ジムのビームスプレーガンはユニコーンガンダムの持つビームマグナムと同等かそれ以上にまで威力が強化される。
はっきり言って、これは異常だ。確かに時限強化にも、妖刀システムやトランザムと言った武器性能を強化するものは存在する。だがそれらは特定の作品に登場する武器のみが対象であったり、あるいは近接武器に限られるなど、その強化範囲は限定的である。だがブレイクデカールによる強化は違う。自身の使う武器であれば、それがなんであれその性能や性質を大きく変化させる。だからこその脅威。強化された装甲は生半可な攻撃を弾き返し、強化された機動力は相手の逃亡を許さず、そして強化された火力は防御偏重の機体だろうがなんであろうが一撃で破壊する。同じ土俵に立たないのであれば、それはゲームとして最早成立しえない。
故にこそ、GBN運営は非公式のチートツールであるブレイクデカールの存在を危険視していた。これが蔓延すれば、健全にゲームを楽しんでいるプレイヤーたちはGBNを去っていってしまうだろう。そうなればすべては終わりだ。多くの人の夢と希望によって形作られたこの世界は、あっけなく崩壊して消えてしまうだろう。
そうならないために、GBNを守るために、運営としてもただ手をこまねいていたわけではない。膨大なデータからブレイクデカールの痕跡を探し回り、それを使っていたと自供したものから聞き取り調査を行い、彼ら彼女らが持つ現実のガンプラを徹底的に調べ上げた……。
しかし、その結果は芳しくなかった。ブレイクデカールの痕跡はどこを探しても見つからない。ログデータをすべて洗い出しても、それが使用されたと思わしき映像記録を解析しても、現実のガンプラを調べても。まるで最初から存在などしないかのように、煙のように消えてしまう。いくつもの証言はあるのに、それを裏付ける証拠がない。あまりにも不可解で不気味すぎる。これではまるで……。
―――とある運営スタッフの日記より一部抜粋。
◆◆◆
◇◇◇
◆◆◆
「―――よし。こんなもんか」
GBN、第16格納庫。ダイバーたちが出撃前に自機のチェックを行ったり、あるいは仲間に自分の機体を見せびらかしたりするそこに、ザクムラの姿はあった。溶接マスクで顔を隠し、整備士の服を着ているダイバールックの彼は、この場においてもさほど違和感のないものだった。
そんな彼は今、メンテナンスベッドの中に直立している自身の相棒を見上げていた。
―――フルアーマーワークスザク。
普段使っている量産型ザク(TB版)を作業用として改造した『ワークスザク』に、いくつかの武装とMSほどの大きさをもつ巨大な盾『ガーディアン・シールド』と、アニメ『機動戦士ガンダムSEED』に登場する特殊装甲、
「何分時間がなくて突貫工事もいいところだったが……。まあ、味方の盾になって時間稼ぎするくらいはできるだろ……」
他にダイバーの姿のない格納庫で、ザクムラは一人そんな呟きを漏らす。
そのメールが来たのは数日前。久々のオフで、貯め込んでいたアニメを消化していたときだった。
有志連合への参加要請。
いまGBNで深刻な問題になっている、非公式ツール『ブレイクデカール』を配っている人物が潜伏しているサーバーを協力者の助力もあり発見、特定した。そこでチャンピオンが中心となって有志連合を結成する運びとなった。その目的は、ブレイクデカールをばら撒いている黒幕の捕獲。あるいはIDの特定。何か一つでもその身元に繋がるものがあれば、それを辿って身柄を確保し、ブレイクデカールの技術を聞き出すことができる。そうすればブレイクデカールを無効化する修正パッチを作成しアップデートできる。そうすれば、いまGBNで猛威を振るっているマスダイバーと呼ばれるものたちも力を失い自然に消滅するだろう。
……とまあ、そのメールの差出人であるゲームマスター……カツラギの、マジメで堅苦しい文面の内容を要約するとこんな感じである。他にも最近一般ダイバーにお熱なことに対するお小言やらいつぞやの掲示板の書き込みやら配信中の態度についてやらがびっしりと書き連ねられていた。
なんでオフの日まで、眉間に深くしわを刻んだカツラギの説教を(文面とはいえ)頂戴しなければならないのか……。そして、なぜ自分がその有志連合とやらに参加することになっているのか。コレガワカラナイ。大体、こういう場合の適任なら他にいるだろう。ハスター・0とかハスラー・0とかハスラー・0とか。え、彼は別件で手が離せない? なら仕方ないね(げっそり)。
……ともかく。やれと言われたからにはやらねばならない。
ロンメル隊が強化型ブレイクデカール……どうやら再生能力を有しているらしい。デビルガンダムのように周囲のものを取り込み、自己強化・自己進化しだすのも時間の問題だ……を使うマスダイバー相手に大敗を喫したという報せは聞き及んでいたため、火力に振っている重装型は効果が薄いと判断。せめて味方の盾くらいにはなればと思い、ジャンクパーツの山を崩してバッテリーパックと追加スラスターを内蔵したTPS仕様のフルアーマーオプションと、拠点防衛や艦隊護衛向けに開発されたジム・ガードカスタムの持つガーディアン・シールド(全5層構造再現! もう二度と作るかこんなもん!byザクムラ)を自作した。おかげでリアルのほうの作業部屋には、空になったエナドリの缶が何本も転がっている。
また再生能力を持つブレイクデカール対策に、相手の動きを阻害するためのトリモチ弾を装填したザクバズーカも用意してある。これらを用意するために貴重なオフが潰れたのだ。チャンピオンたちには是非とも作戦を成功させてもらわなくては……。
「……ぶっつけ本番とはいきたくないし、適当なミッションを受けて動作確認するか」
慣れたつ手つきでメニュー画面を呼び出し、エリア移動を選択して『エントランスロビー』をタップする。瞬間、ザクムラの体は光の粒子に変換されて格納庫から消えていった……。
◆◆◆
◇◇◇
◆◆◆
とあるディメンションの片隅にひっそりと存在する、落ち着いた雰囲気のバー。
そのカウンターに横並びで座っている二人のダイバー。一人はGBNの全ダイバーのトップに君臨し、フォース『
「……それで、首尾はどうだね。キョウヤ」
優雅にカクテルグラスを傾けながら隣にいるナンバーワンダイバーに聞いたのは、マスダイバーとの戦いに向けて結成した『有志連合』についてのことである。
「ああ。数多くのフォースやダイバーに協力を得られそうだよ。やはり皆、GBNを愛してくれている。そのことが僕は嬉しい」
「ふむ、そうか。相手戦力が未知数な以上、戦力は少しでもほしいところだ。キョウスケ殿も来られればよかったのだが……」
ダイバーネーム『キョウスケ』。個人ランク39位にいるトップランカーの一人で、猿山、チンパンの見本市、世紀末チンパン伝説、などなど様々なあだ名で呼ばれるハードコアディメンション・ヴァルガを拠点としている。
「どうしてもリアルで外せない用事があるらしいからね。どこまでいってもGBNはゲームだ。どちらか一つを優先するなら、それはリアルのほうだろう」
「確かにな。だが、彼の参戦が叶わないということは妹君もまた有志連合に参加する意志は見せないだろうな」
思い出されるのは、黒髪ロングの黒和装の少女。キョウスケの妹である彼女は、諸事情から兄が有志連合に合流できないのであれば自身も参加を断るだろう。
「その代わりと言っては何だけど、天地神明のテンコ様からは協力を打診されている。彼女がついてくれるならとても心強い」
「それはいいが、キョウヤ。なぜ様付けなんだ?」
「うん? 何となく、かな」
そっかー、何となくかー。思わず出かかった言葉はグラスを傾けることで一緒に飲み込む。
テンコ様はフォース『天地神明』のリーダーを務める小柄な人狐の少女である。確かに彼女は様付けしたくなる、不思議な雰囲気がある。それにしてもGBN最強の男に様付けで呼ばれているというのも、なんともすごい話なのだが。
「こちらも『量産機同盟』の協力を取り付けたよ。それと『GHC』も参加するとのことだ。頼もしい限りだな」
「GHC! ここ最近はバグの影響がひどくて、大戦争イベントがなくて残念に思っていたんだ。そうか、彼らが来てくれるのか」
「キョウヤ、今回の作戦が上手くいって大戦争イベントが再開されてもほどほどにな……」
唇の端が上がっているのを見て取って、ロンメルはそう釘を刺す。といってもこの男がほどほどに済ませるとも思えないのだが……。かくいう自分も、GHC主催の大戦争イベントがあれば全力楽しむだろう。
「……多くの人たちが有志連合に集まってくれた。このGBNを、マスダイバーから……ブレイクデカールの脅威から守るために」
「ああ。必ず成功させなくてはいけないな」
「頼りにしているよ、ロンメル大佐」
「ふっ、それはこちらの台詞だとも」
必ずやブレイクデカールの脅威を排除し、GBNに平和と平穏を取り戻す。その決意を胸に、二人は固く握手をかわすのだった。
◆◆◆
◇◇◇
◆◆◆
ザリ、ザリ、ザリ、ザリ……。
デスクライトが手元を照らす部屋の中で、少女はプラスチック製のパーツに熱心にやすりがけをしていた。短く切り揃えられた黒髪に、赤い縁のメガネを掛けた少女である。
彼女が作業している机には使いこまれたカッティングマットが広げられており、その上には他にも何かのパーツや紙やすり、ニッパーなどが乱雑に置かれている。彼女の名前はタカハタ・イオリ……世界的に人気のあるオンラインゲーム、GBN内の動画配信サービス『G-TUBE』でダイバーネーム『イオリ』としてガンプラバトル配信などを行っている。
配信ではリスナーからおもに『委員長』または『イオリん』の名で親しまれている彼女はいま、自身の使うガンプラ『ガンダム・トリスタンサファイア』の完成度を高めるべく作業を行っていた。
「……よし、こんなものかな。あとは塗装して、組み込めばオッケー……と」
作業がひと段落し、やすりがけの終わったパーツを『塗装待ち』とラベリングされた小箱に入れると、イオリは椅子の上でうんと腕を伸ばした。長時間同じ姿勢で作業をしていたせいか、ポキポキと小さく音が鳴る。
「……有志連合かあ」
体を伸ばし切ってだらーんと腕を下ろしたイオリは、天井に顔を向けた姿勢でぽつりと呟きをこぼす。
その『お誘い』が自分の端末に送られてきたのは数日前。内容は現在GBNで問題視されている非公式ツール『ブレイクデカール』と、それを使う『マスダイバー』と呼ばれるものたちに一大攻勢を仕掛けるためにフォース、ダイバーの垣根を越えた大連合『有志連合』に彼女も参加してくれないかというものだった。
ブレイクデカールとマスダイバー。それらの存在は、G-TUBEでG-TUBERとして活動しているイオリも知るところだった。といっても、彼女自身がそれらに遭遇したことがあるわけではなく、配信にやってきたリスナーたちが話題にしていたのを見たことがある、という程度のものだったが。他にも掲示板を探してみれば、それらしき発言もちらほらと見つかったし、最近ではフォースランク2位にいる『第七機甲師団』がマスダイバーの集団と戦い壊滅的な被害を被った、なんて話も聞く。
いわくブレイクデカールは使うとガンプラの性能を全体的に強化してくれるらしい。しかもその強化というのが、トランザムやEXAMといった時限強化系システムの比ではないほどで、素組のジェガンがワールドランキングに名前の載っているダイバーのガンプラを叩きのめした、なんて話もある。
もちろんそのような非公式ツールを使うことはGBNの規約に反する行為で、普通ならアカウント停止処置が取られるものなのだが、どうにもそのブレイクデカール、不正の証拠が残らないらしく運営も手を焼いているのだとか。それについては噂話特有の、尾ひれに背びれがついたようなものだとイオリは思っているが……。
何はともあれ、それの摘発と一掃のためにチャンピオンとロンメルのトップダイバー二人が中心となりその結成された有志連合にイオリも参加しないか? というお誘いがやって来た。雲の上の存在だと思っていた人たちから、自分宛てにそんなメールが送られてくれば、断るという選択肢などない。当然一も二もなく返事をした。未熟もいいところな自分が、対マスダイバーとの戦いでどこまで役に立てるかはわからない。それでも、少しでも戦えるようにできることはしておこう。そう思ったから、いまこうしてトリスタンサファイアに手を加えている。
「もうちょっと続けよう……」
体を起こして机に向かい作業の続きを再開する。デスクライトが照らす中、夜は静かに更けていった……。
◆◆◆
◇◇◇
◆◆◆
「おーい、言われた飯買ってきたぞー」
「ん」
カタカタとキーボードを叩く音だけが鳴る部屋に、首から社員証を掛けた男がコンビニの袋を片手にやってきた。
彼の名はザクムラ。GBNで運営公認Gチューバーとして活動しているダイバーの一人であり、運営スタッフとして働いている。なお本名は別にきちんとあるのだが、なぜか同僚や後輩からはダイバーネームのほうでしか呼ばれない。さらにはここ最近、上司からもダイバーネームのほうで呼ばれ始める始末。ここまでくると本人も半ば諦めており、訂正することもなくなってしまった。
室内は節電のためか片方の明かりが消えており、残った電灯に照らされたデスクでメガネを掛けた小柄な女性がパソコン画面とにらめっこをしていた。白髪混じりの長い茶髪を邪魔にならないよう、頭の後ろ側で二つ結びにして袖の余った白衣を着ているその女性の名は、ナルカミ・スズメ。ザクムラの同僚であり、彼と同じく運営公認Gチューバーとして『ナルミ』というダイバーネームで活動している。
ここ最近はブレイクデカール絡みの案件で連日会社に泊りがけをしているらしく、まともに手入れされていない髪はぼさぼさで、着ている白衣もよれよれのしわしわになってしまっている。
「おいナルカミ、飯買ってきたんだが」
「そこ置いといて」
「……いや、置いといてってなお前さんよ……」
ザクムラに適当な返事をしつつ、いまもパソコン画面に向かってキーボードを叩いているナルカミ。彼女のいう
というかこの女、放っておくと食べるものも食べず、寝る間も惜しんで仕事にのめり込む悪癖があるのだ。以前も『ネオ・ジオングのサイコ・シャードバグ検証耐久配信』で無事二日ほど徹夜した挙句に寝落ちをかまし、後輩……ガンイーグルのアバターを使う小生意気なやつ……が代役として引き継ぎ、無事検証配信を貫徹したという
ちなみにその時の配信で代役を引き受けたガンイーグル後輩はスレでちょっとした有名人になり、また
「おーい、ナルカミー」
「ちょっと待ってキリがいいところまでやるから」
「……」
いやお前の「キリがいいところ」は大方仕事終わりじゃねえかよ……という言葉は飲み込んで、コンビニの袋からお茶の入ったペットボトルを取り出す。そしておもむろにナルカミへと近づくと彼女の首筋にそれを押し当てた。
「―――うひゃあ!?」
作業に集中していたナルカミはその不意打ちに驚き、丸まって猫背になっていた背を伸ばして固まった。
「な、なにをするんだ君は!?」
「ん」
首筋を押さえながら振り向いたナルカミの眼前に、抗議は気受け付けないとばかりに中身の入ったコンビニの袋が付きだされる。「なにこれ……?」と袋の横から顔を出して上目遣いでザクムラを見上げるナルカミ。
「なにって、お前さんに頼まれてたやつだよ。おにぎりしか残ってなかったけどな。それ食べて、少し寝ろ。それじゃな」
最後にお茶の入ったペットボトルを押し付けるようにして渡すと、ザクムラは部屋を出ていった。
「……昆布と梅干におかか。定番も定番じゃないか、まったく」
デスクに並べられた三つのおにぎり。さてどれから食べようか、と順々に指を差すナルカミの頬は本人も知らず緩んでいた。
◆◆◆
◇◇◇
◆◆◆
ディメンション・シュヴァルツバルト。常闇に覆われ、永遠に朝日のやってこないそこは他のディメンションと同じくいくつかのエリアに分かれている。
例えば、世界各地の主要都市をモチーフとし、闇の中にあってネオンをギラギラと輝かせている決して眠ることないメガロポリス。その都市の隅々まで血液を送る大動脈たる巨大高速道路では、日々鳥頭に全身タイツのアバターを使うへんた……走り屋たちが、夜景をバックに命がけのレースを繰り返している。
例えば、MSをも覆い隠すほどに成長した木々が乱立する鬱蒼とした大森林。その片隅にひっそりと佇む廃城のような個人用フォースネストは、とあるトップランカー兄妹が仮想世界における仮の住まいとして使っている。
そして、もう一つ。凪いだ湖畔を見下ろすように聳える古城。仄かに淡く光る苔に縁取られたその城は、フォース『エターナル・ダークネス』の居城であった。
「~♪」
その古城の最奥。かつて栄華を極めていたこの城の主が、己に向かって跪く家臣たちを睥睨していたであろう玉座の間に、彼女はいた。長らく放置され古びて朽ちかけた玉座。すっかりと色褪せてしまったそれに座り、手元に開いた画面を見ながら、鼻歌交じりに作業をしているのは頭にヤギのような二本の角を生やし黒いロングドレスを着た少女。彼女こそは現在のこの城の主にして、一桁への『壁』として恐れられるトップランカー『クオン』その人だった。彼女がオペラ・グローブと呼ばれる、肘上から二の腕までを覆うほどに長い黒手袋に包まれた細く長い指をすーっと滑らせると、画面の中に一本の線が引かれていく。そこに描かれているのは、ある怪物の設計図……その
「お嬢様」
クオンが設計図の原案を描いていると、燕尾服に身を包んだ人狼の青年が部屋の中に姿を現した。
「何かしら、カトゥルス?」
「はい。お客様がお見えになりました」
「客……? 誰かしら」
カトゥルスと呼ばれた人狼の青年の言葉に、クオンは作業の手を止めて形のよい顎に指をやった。確か今日の予定に来客は入っていなかったと思うのだが。
「それは―――」
「僕だ」
どこぞの未来人のような台詞を口にしながら現れたのは、金髪の青年。彼こそはGBNナンバーワンフォース『
「……クジョウ・キョウヤ」
「ここで会うのは久しぶりだね、クオン」
「ええ、そうね。それで何の用かしら? 『原案』ならもう少し待ってくれるかしら」
「それについては催促するつもりはないよ。今日は別の要件出来たんだ」
「別の要件?」
ぴくり、とクオンの片眉が動く。アイコンタクトでカトゥルスを下がらせると、クオンは画面を閉じてキョウヤの話を聞く体勢になる。
「単刀直入にいおう。クオン、有志連合に参加してくれないか」
「有志連合……。いま、このGBNを騒がしているマスタイバー。そのマスタイバーが使うチートツール、ブレイクデカールの配布元を叩く……だったかしら?」
「ああ。概ねその理解で間違いはないよ。GBNに蔓延しているブレイクデカールの、ひいてはマスタイバー撲滅のために僕はロンメル大佐と協力して有志連合を結成した。君にも是非合流してほしい」
「……」
クオンはすぐにはその答えを返すことはなかった。じっと、黒味を帯びた赤い瞳と縦長の瞳孔を持つ明るい黄色の瞳……色の異なる双眸でキョウヤを見つめる。真剣な眼差しをこちらに向けているGBN最強の英雄の真意を確かめるように。
「……はあ、わかったわ。その申し出を受けましょう」
「! 本当かい!? ありがとう、クオン」
「お礼なんて言われるようなことでもないけど……というか、来るの遅すぎなのよ……」
「? 今何か言ったかい?」
「何も言ってない。何も言ってないわよ。まったく……」
きょとん、とした表情のキョウヤをこっそりと
……それなりに長い付き合いだ。彼の性格ならこうするだろう、と願望半分な目論見ではあったが見事に当たった。正直いえばすぐにでも参加する旨を伝えたかったが、そこはそれ。彼が自分のもとに直接頼みに来てくれるかも……という自分の
もちろん彼女とて、ブレイクデカールやマスタイバーに対して思うところはある。自分の愛する亡者たちも何人か被害を受けたと聞いている。今回は少し……ほんの少し、自分の願望を優先してしまったが、参加の申し出を受け入れたからには全力で戦おう。それがキョウヤの愛するGBNのためになるならば。
「……それでは、僕は戻るとしようかな」
「あら、もう帰るの?」
「名残惜しいけれど、まだまだやることが山積みでね……」
そういって肩をすくめて見せるキョウヤ。彼は最後に「決戦の日にまた会おう」とそれだけ言い残して玉座の間を後にした。
彼の姿が見えなくなると、気合を入れて作っていた表情が解けてへにゃへにゃになっていく。赤みの差す頬を両手で挟み込みながら、クオンは「えへへ……」と惚けた声を漏らした。
「テンコ様もかわいくて好きだけど、キョウヤもいい男よねえ……。はぁぁぁ……立つわあ……」
そんなことを言いながら、玉座で羽根をぱたつかせて体をくねらせる少女。これでも個人ランク20位圏内を維持している、一桁への壁である。もし普段の彼女を知るものがここにいれば目を丸くしていることだろう。
「お嬢様……」
そんな主の姿を扉の影からこっそりと覗いていた人狼の執事は、マリアナ海溝よりも深いため息を吐き出すのだった。
◆◆◆
◇◇◇
◆◆◆
バトローグ
-
GPD配信(キリシマホビーショップ)
-
クオンVSクーコ
-
クオンVS首無し
-
グランダイブチャレンジ(E・D)
-
ロータスチャレンジ(E・D)
-
激闘!SDガンダムタッグバトル!